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梅入

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Baby Princess(べびプリ)短編「形影相伴う姉妹は愛惜に交わる」
Baby Princess(べびプリ)二次創作小説 短編

タイトルは
「形影相伴う姉妹は愛惜に交わる」

今回は海晴×麗の百合小説です。

09/1月の麗日記止めちゃう発言から、海晴姉も子供っぽく喧嘩しちゃってみたいな事件があったせいで我慢できずに書いた次第です。

だって仲良すぎるものこの二人。
そんでまぁ、ヒカルちゃんがまたカッコイイ事言い出すし。

ヒカル×麗のカプもいけるんじゃねぇのか?という具合になって解決を見たわけですが。

まぁ、何にせよ似た者同士の海晴×麗が書きたかったので書きました。
色々と試行錯誤して作りました。

あと途中で最近ずっと書いてなかった春風×ヒカルの百合カプが我慢しきれずに出てきます。
というか、私の脳内設定が適用されています。

*ヒカルちゃん→春風お姉ちゃんの事が大好き。長男に春風と「王子様の座」を奪われて嫉妬してる。

*春風さん→ヒカルちゃんが嫉妬してるのは分かってるけど、そんなヒカルちゃんが可愛くてわざと長男とイチャイチャしている。将来的には長男とヒカルちゃんと自分でハーレム状態になれば良いと思ってる。


というような具合にちょっと味付けされております。
あくまでの私の妄想設定なので、温い目で見守ってあげて頂ければと。
でも春風×ヒカルは最高の百合カプですよ。まじで。



今回は、わりかしギャグ多いと思います。珍しいです。
ギャグになってる・・・と思います。

ギャグ:3
百合:3
格闘:2
スゴロク:1.5
家族に手を出すと恐ろしい事に:0.5


この位の内容なんじゃないかなぁと自分では思ってますが。
最後の0.5の部分が私の性癖がちょっと混じってる感じです。



一応、注意書きしておきます。
百合表現とか病んでる描写とかエッチな描写がちょっとでも入ってたら嫌!
という方は、見ない方がよろしいと思いますので、申し訳ありませんが健全なSSサイトさんへ足をお運び下さる様お願いします。



という事で、
「続きを読む」で全文表示です。




「形影相伴う姉妹は愛惜に交わる」



「海晴お姉ちゃんがお見合いぃ!?」

宿雪も溶け始め、少しずつ春先の暖かい陽気が届けられる仲春。
毎年恒例の・・・それも昨年からはますます大規模なイベントとなったバレンタインデーも近く控えている日曜日。
国民的なお昼の番組・・・の総集編が終わった頃、居間に響いたのは驚きの声だった。

総身を驚きのポーズに固定させたままで棒立ちになっているのは、一家の野生児こと立夏。
皆がこたつに足を入れて温まっている中、一人だけ薄着のまま珍妙な格好で結わえた二つの尾髪を揺らしていた。そんな妹を半ば無視して一つ上の姉である氷柱が、努めて平静を装いながら口を開く。

「海晴お姉様・・・ほ、本当に・・・お見合いなんてするんですか?それも、急に明日だなんて・・・」

特注サイズの大きな長方形型のこたつ、二つあるお誕生日席の一つ―――指定席に座った海晴が答える。

「もう―――氷柱ちゃんまでぇ。だーかーらー、そんな大仰なものじゃないってば。ちょっと仕事の関係でお食事に誘われただけです。まったくもう・・・やっぱり言わなかった方が良かったかしら」

嘆息交じりに言う海晴が星花の入れてくれたお茶をずずーっと飲み込む。

「でもでも、大人の男女が夜の街で二人っきりだよ!きっと、すっごぉぉぉぉぉおおおく良い雰囲気になってぇ、くふふ・・・あっという間にハッピーラッキーハネムーン♪なんだよ!!あは、あははははは!!!」

完全に眼球がピンク色に塗り潰された夕凪が何か非常にまずい類の魔法に手を出してしまったのかと心配になる嬌声を上げ続けるが、もはや慣れきっているみんなは特に気にしない。

「でも、ちょっと急すぎるんじゃないのかなぁ。お互い初対面同士なのに、いきなり明日初めて会ってそのまま・・・その、デートだなんて・・・」

頬を少し染めながら蛍が発言すると、それに続いて千紫万紅に彩られた佳声が上がる。

「いぃえ!!蛍ちゃん、出会いというのは何時起こってもおかしくないんです!!突然、白馬の王子様が私の前に現れて、キスで目を覚ましてくれる・・・そんな出会いもありましたもんね!!王子様!!」

夕凪を遥かに上回る凄まじいテンションで脳内麻薬をガロン単位で「ぶっびゅーっ」と噴出させかねない、一家のお姫様であるところの春風が、隣に座っている長男の腕に意識を根こそぎ奪いかねない誘惑を孕んだ双丘をぐいぐいと押し当てながら叫んだ。
これもまたいつもの光景なので、それほど誰も騒ぎ立てたりはしない。

嫌がるフリをしながらも、男の本能からまったくもって、春風の柔い乳袋が放つ吸引力に逆らえない長男が半ば夢見心地で口を開く。
「で、でも海晴姉さん大丈夫なの?そんな、いきなり会った男と夜、二人だなんて・・・。ちょっと心配だよ。あ、ちょ・・・春風姉さん、チャック下ろさないで!!」

その声を聞いて、海晴の顔が楽しい玩具を見つけたようにちょっとサドっ気混じりの薄笑いを浮かべた。
席を立ち長男の傍で膝を着いて、頬に唇が触れそうな距離からゆっくりと嬌言で長男の煩悩を狙い撃つ。

「あらぁ~・・・心配してくれるのぉ?春風ちゃんのおっぱいに夢中になっちゃってる君を見てると、確かに気を付けなくっちゃなぁって思っちゃうかも。ほら見て・・・私の胸、春風ちゃんより大きいんだよ・・・」

海晴がシャツの胸元をくいくいと広げると、それに呼応するかのように長男の首が上下左右に動かされる。本能に忠実に生きる彼には抗いようも無い罠なのだからしょうがない。しょうがないのだ。

「もぅ!海晴ちゃんずるい!!私だってまだまだ大きくなるんだから!見て、王子様!友達にも『春風は大きいし形も良くて羨ましいなぁ』って言われたんですよ!こうして触ったら―――ね?分かりますよね。きゅん、きゅん、きゅぅぅぅううううん♪♪」

長男の手を掴んで自身の胸元に突っ込む春風―――長男は脊髄に電極を刺し込まれたかのように、凶悪無比な衝撃の余り鼻血を噴出。
「わぁ、お兄ちゃん噴水だぁ!」
幼稚園児組(マリー除く)が鼻血を消防車の如く吹き上げる長男の周りをくるくるパタパタと回りだす―――週に一度は行われる小さい子達が大喜びする定番のアトラクション。

「ホ・・・・ホタも、ホタも大きくなったんですよ!!そ、その、お尻ですけど・・・。お尻だったら、春風ちゃんにも負けないんだから!!」
「キャー!立夏も立夏も!!立夏だって成長期だから、すっごぉぉおい大きくなってるんだよ!!太股とか、お腹とか、ちょーYABAI!!」

中学生以上の姉妹が次々と脱ぎ始めるという奇祭が開催される中で、氷柱は隣に座っている綿雪と一緒にそ知らぬ顔でミカンを剥いて食べ始める。

「まったく、みんな馬鹿ねー。下僕みたいなエロ人間はなんでもかんでも大きいのが好みなのよ!私みたいなスレンダーで引き締まった肉体美を理解できない下僕が可哀想ね!」

「・・・・・・」

氷柱の正面でミカンを食べていた小雨、星花、夕凪、吹雪が全員揃って無言になる。
―――超重量無差別級の沈黙―――地球の重みすら感じられそうなプレッシャーは時間をも停止させる勢い。ただ、ミカンの皮を剥く音だけがピリピリっと空しく響いていた。

「誰かツッコミなさいよ!!」

氷柱の悲痛な叫びも通じることなく、ミカンを咀嚼する音だけがこたつの上で拡散する。
今年のミカンは本当に美味い。

救いを求めるような小動物の瞳を浮かべた氷柱に、隣から天佑の声が届く。

「じゃあ・・・ユキ、氷柱ちゃんがお兄ちゃんの事をその素敵な肉体美で弄んじゃってる所、見たいなぁ。きっとすっごく可愛いんだよね?うふふ、上手に出来たら、今夜はご褒美・・・あげるよ?」

綿雪が氷柱の瞼に溜まった雫を舌で掬い取り、蕩ける様な甘い熱を残して離れる。
氷柱の表情が瞬時に変貌―――情欲に溺れた雌の顔。

「任せて!!ユキ!!!あんな奴、あっという間に昇天させてみせるわ!!そしたら、そしたらご褒美に今日はユキの、ユキの・・・鎖骨!!あばら!!!窪みに!!!私の・・・私のを!!!」

意味不明な事を叫んでから、氷柱が居間を飛び出す。
・・・一分かからずに戻ってきた時には、いつかの仮想パーティーで身に付けたウサギちゃんルック。
そのまま酒池肉林状態の長男の下に飛び込む。
綿雪は用意しておいたデジカメを片手に、氷柱が無残な乳を海晴や春風と比べられて半泣き状態になりながらも、黒ストで包んだ美脚を使い長男の股間を蹴り上げる等の特殊プレイで必死に対抗する姿を楽しそうに撮影していた。

完全な乱戦状態となった戦地はもはや誰が勝者で敗者なのかも判別できない状態だったが、戦争というのはそう言うものなのかもしれない。・・・と、吹雪は煎餅を齧りながら脳内記憶容量へ今日の出来事をしっかりと保存。ファイル名は「兄さんの性癖は多彩」にしておこうと思った。


喧騒から離れた場所で、テレビとは別のモニターを前に鎮座している二人。
霙と麗はかなり旧式のカセット型ゲーム機のコントローラーを握っていた。

桃っぽい太郎が鬼退治もそっちのけで、電車に跨って全国を飛び回り億万長者を目指すというサクセスストーリーを複数人でプレイできる、うっかりダーティープレイをするとリアルな友人まで失いかねないという大人気パーティーゲームに興じていた。

「麗、お前は行かなくて良いのか?」
霙が大阪の店舗を金にあかして全部買い占めながら言った。
「べ、別に・・・私は海晴お姉様が誰と・・・その・・・お付き合いしたって、気にならないもん」
東北の物件をほぼ掌握している麗が南部侵攻を試みようと、サイコロの目に従い進む。カードの枡→借金踏み倒しカードを入手・・・まったく持って必要ない。
「ふふ・・・まだ先日の喧嘩が少しばかり後を引いてるのかな?」
霙が超光速特急カードを使用、一気にゴール地点まで接近。
「そ・・・そんなの、そんなことない!私は、別に・・・そういうのじゃないもん!」
麗のサイコロが転がる―――赤の鋲点。他に進む場所もなく、已む無く赤い枡へ・・・大損失。
「麗・・・もっと素直になれ・・・。この間、勉強しただろ?お前はやれば出来る子なんだから」
霙のサイコロが転がる―――四枡進む―――見事にゴール地点に到着。
大きなファンファーレが勝者を称え、豪華な賞品も与えられる。
そして、敗者である麗には貧相神が取り憑いた―――とても、憎たらしい顔。
「もう!霙姉様の意地悪!!」
麗がコントローラーから手を離して、居間を出て行く。

扉を閉める瞬間、長男ともつれ合っていたはずの海晴が麗の顔を見ていた。
視線が交わる。


麗は喉に詰まったものを堪えたまま、何も言わずにそっと扉を閉めた。



・・・その後。

部活から戻ってきたヒカルが見たのは姉妹と長男、みんなが半裸状態で絡まりあっているとんでもない艶姿だった。
色々なものを勘違いしたヒカルはとりあえず長男の顔面に愛刀「金獅子丸」を全力で叩き込んでおいた。
独楽のように回転して庭に叩き出される長男(ガラスが割れないように星花&夕凪が見事なタイミングでサッシを開ける)というハプニングが起きたものの、概ねいつも通りの平和な休日となった。


ただ一人、麗だけは家族の団欒から離れ、自室で時刻表を読みふけっていた。


・・・海晴は、とても心配だった(ほとんどトップレス状態という姿ではあるものの)

過保護と言われても構わない、麗が心配で仕方がないのだ。
何度拒否されても、何度喧嘩しても・・・それでも、麗が可愛くて、愛しくてしょうがない。

「麗ちゃん・・・」



*** 翌日 ***


「ただいま!!」

壮絶な勢いで玄関が開かれ、疾走する黒い影―――麗が息を切れ切れにしながら、帰宅してきた。

「あれ、おかえりなさい。今日は随分早いね、麗ちゃん」

皆と違う女子学校に通う麗が、自分と同程度の時間に帰宅する事を珍しく思いながら、
少し先に帰宅していた星花が出迎える。
しかし、返事もそこそこに麗は自室へ駆け込んでいってしまった。
「メモ、メモ・・・あと、お財布!」
机の引き出しから財布を取り出し、昨晩遅くまで調べた最も短時間かつ低料金で目的地に行ける経路をメモした紙片をポケットへ捻じ込む。
「よし・・・行くわよ」
大急ぎで玄関に戻る。

すると霙が居間から顔を覗かせてきた。
「おぉ、麗・・・どうしたんだ?ああ、ほら昨日は悪かったな・・・。実は麗がトイレに行ってる間に色々とカードを捨てたりとか工作してしまったんだ・・・反省している。今日はクリーンなプレイを心がけるから、な?もう一度やろう・・・」

「とりあえず霙姉様は学校をズル休みしないでちゃんと行ってください!」

ツッコミも手短に麗は小さな足首を揺らして靴を履く。

居間からもそもそと出てきた霙が、怪訝そうな顔を浮かべる。
「案ずるな、今日は早退だ。朝礼の時には居たからな。その後、数学の授業で終末の気配(留年的な意味で)を感じたから急いで帰宅してきたまでだ。あぁもう、そんな事はどうでも良い。どうしたんだ、そんなに慌てて・・・」

いつも無駄に威厳のある霙が、今は少しだけ小さくて優しく見えた。
・・・それでも、麗は止まるわけには行かなかった。

「心配しないで・・・その、ちょっとルナちゃんの所に遊びに行ってくるだけだから!」

麗がそれ以上、言葉を交わす間もなく玄関を飛び出していく。
霙が追いかける間もなく、麗は自転車に跨るとホイルスピンで土煙を噴き上げながら、あっという間に地平線の彼方へと消失してしまった。

「うーん・・・」

どうしたものか、と考え込む。
それはそれとして、饅頭を食べる手はまったく止まらなかったが。


*****


「はぁはぁ・・・間に合った・・・間に合ったよ」

乱れる呼吸をそのままに券売機へ千円札を押し込みながら、時計を見る。
「ああ、ギリギリ・・・・だけど・・・良かった」

この自宅の最寄り駅から行ける場所としてはほとんど最高額を示した切符が出てくると急いで掴み、そのまま上りホームへと駆け出す。改札機に切符を通し、ホームに辿り着いたと同時に目当ての快速電車が到着した。

「海晴姉様・・・今、行くからね」

麗が乗り込むと、電車の扉が一斉に閉まる。
いつもなら素敵な機械音に耳を傾けるはずだった。
何より、一人で電車に乗って・・・今迄行ったこともない様な遠くまで行くなんて胸の躍るような事は初体験だ。しかし、今の麗には趣味を楽しむだけの余裕は無かった。

胸が張り裂けそうなほどに心配で心配でたまらない。

海晴の事が気にかかって、とてもではないが電車の心地良い揺れに身を任せる事は出来なかった。


昨晩、霙が麗のキャラが持っていたカードを捨てたのだって分かっていた。
そんなことよりもトイレに行って、聞き耳立てていた海晴のデート相手と待ち合わせ時間をメモすることを優先させた。
「絶対に後で霙姉様には、思いっきりダーティープレイでやり返してやるんだから・・・」
電車の窓から流れる景色を見送りながら、小声で自分に言い聞かせるように呟く。
「海晴姉様を・・・変な男なんかに絶対に渡さないんだから。これは、別に海晴姉様が心配なわけじゃなくて・・・これ以上、家族に男なんて汚らわしい生き物が増えるのを防ぐためなんだから・・・絶対絶対、海晴姉様のことが好きとかじゃ・・・」

言ってる間に耳まで真っ赤になってきたのがガラスに映る自分の姿から察せられた。

「ああ、もう!」

麗は海晴の顔を思い浮かべながら、天井を見上げる。

優しい笑顔も怒った時の膨れっ面も―――両方見せてくれるのは私にだけ。
そんな事、ずっと分かっていた。
「海晴お姉様は私を凄く、良く見てくれてる―――私も・・・きっと、そう」

だから、私が・・・海晴姉様を助けなくちゃ!


*****


「居た・・・」

無事、海晴の勤め先である都内のテレビ局前まで辿り着いた麗は、メモしておいた二人の待ち合わせ場所に行くと、見慣れた海晴の姿が視界に映った。どんな雑踏に紛れ込もうと、海晴の姿だけはキラキラと輝いていた。

「女性を先に待たせるなんて・・・どんな糞野郎なのよ・・・!絶対そんな奴に海晴姉様は渡せないわ!」

歩道の垣根からそっと頭を出した麗は、怒りに震えながらポケットのメモを取り出す。
そこにはこれから現れるであろう男のプロフィールが書き込まれていた。

何でも大物芸能人の息子とかで、最近妙に噂になっている俳優らしい。海晴の勤めるテレビ局にも密接な関係をもってるとか何とか。これから人気がどんどん上がって、いずれは父親と同じ大物俳優になるのは間違いなし。女性人気も非常に高く、アイドル路線への転向も考えられ、今後ますます目が離せない存在・・・らしい。

麗には、まったくもって興味が無い情報だった。

昼休みに学校のパソコンを借りて少しばかりネットで検索をかけてみたらポンポン情報が出てきたのだが、余りにも下らない内容で、男の名前すら今は覚えてないほどだ。
元より、どんな奴が来たとしても海晴を渡すつもりなんてサラサラ無かったが・・・。

しかし、何も考えずに男が出てきた所で駆け込んでいって滅茶苦茶に大騒ぎをしてぶち壊す―――というのは却下。あくまで男が妙なことをしようとしたら飛び出す、いわば自分は保険でなくてはならない。
下手に騒ぎを大きくして、海晴の職場での立場を危ういものにしたくはなかった。


そうこうしている間に、海晴に近づいてくる男の姿が映った。
一目で分かるような「いかにも」といった風体の男だった。中高生辺りなら確実にはまるタイプの美男子だった・・・が、麗にしてみるとまったくもって心を揺らされることは無かった。

待ち合わせ場所で手を振って相手を呼び出す海晴の姿―――男が近づく。
幾つかの挨拶を交わしてから、二人が歩き出す。

男の角ばった手が、ごく自然を装って海晴の美手を握る。
一瞬、肩を震わせた海晴―――それでも、営業スマイルを全力で振り絞って我慢。


「よし、殺そう」

太い紐が千切れた音と共に、麗の目がどす黒く染まった。
―――何でも良い、とにかくアイツを海晴姉様の清廉潔白な肉体から引き剥がして、どこかヘドロだらけの海に沈めなくてはいけない・・・よし、とりあえずそこにあるベンチで思いっきり頭をかち割って・・・・・・・。

「あぁ、だめだめだめ!我慢、我慢よ!昨日、海晴姉様も言ってたじゃない、『相手の事務所は大きな所だから、うちの上司も断りきれなかったのよ・・・いつもお世話になってる部長のためだと思って、明日は一日我慢するわ』って!!!海晴姉様だって頑張ってるんだから、私だって頑張らなくちゃ!!」

ごどん。
と、片手で持ち上げていた三十キロ以上はある木製ベンチを下ろす。

二人の姿が雑踏に飲まれ始める―――麗も後を追って走った。
海晴の緩やかな波を生む琥珀色の髪が麗の道標となっている限り、決して見失う事など無いように思えた。


******

十八時五十分。
アクセサリーショップでキラキラと輝く指輪やネックレスに見入る海晴。
「海晴姉様・・・かわいい、可愛い。あんな、ちっちゃな女の子みたいな笑顔・・・」
麗は店舗の脇にあるゴミ箱の横で、ホットココアを飲みながら鑑賞・・・監視。

十九時三十分。
場所を移動、地下鉄に乗って三つ隣の駅へ。
地下鉄特有の芳しい香りで脳を焼かれそうな程に興奮するも、ギリギリ社会復帰可能なレベルで意識を保ちながら尾行。
どこに行くのかと思ったらなんと映画館だった。
「ああー!もう大人だったら他に行くところとか考えられないの!?やっぱりとんでもない糞野郎だわ!」
流石に予算の関係上、一緒に中に入ることができないため出口で待機。
映画館前の広場でホットココアを三本完飲。途中、トイレに行ってから更に一本ゴクゴクと飲み込むと流石に胸焼けがしてきた。

二十一時三十分。
上着を着てこなかった事を心底後悔しながら待っているとやっと二人が出てきた。
相変わらず海晴の手を握ったままの男。
「我慢、我慢、我慢・・・」
麗の手中ではココアの缶が悲鳴を上げ、中身をぶち撒けながら握り潰されていた。

二十一時四十分。
映画館から少し歩いた場所にある、入り口を見ただけでとても高級そうな西洋料理店に入る二人。
「海晴姉様の食いしんぼうな所を攻めようっていうの!?なんて姑息なのかしら!!最低の野郎だわ!!」
窓際に座った二人が見える場所―――すぐ横の公園にある滑り台の上から、猛禽類の眼光でもって監視。
右手にはあんぱん、左手には牛乳。
「霙姉様に以前教えてもらった、尾行の必須アイテムあんぱんと牛乳を飲んで耐えるわ、この空腹を!でも、牛乳はあったかいのが飲みたかったかも・・・」
一人で食べるあんぱんは思ったよりも苦くて、一人で飲む牛乳は酷く冷たいのだと、初めて知った。


凍える指先に吐息を吹きかける。
「海晴姉様、絶対に絶対に・・・私が、守ってあげるんだから」
じっと待ち続けた。
愛しい姉の姿が見えるまで、ひたすらに。



******

二十二時五十分―――二人の姿が現れた。


―――あはは、待ってぇ・・・そっちは高崎線よー。あなたが行きたいのは宇都宮線でしょ、そっちに行っちゃだめぇ~。


「はわ!?・・・海晴姉様!!」

気温が零度を下回る極寒に耐えうるべく対抗策として、涎を垂らしながらも『大宮駅で車掌さんとなって一生懸命、電車達を誘導してあげる』という、暖かい夢の国に飛んでいた麗の意識が海晴の姿を捉えて覚醒!

「あ、う・・・きゃあ!」
急いで立ち上がったせいで、バランスを崩して顔面を擦りながら滑り台をズルズルーっと滑落。

「い、いたぁい・・・」
真っ赤になった鼻先を押さえて再び立ち上がる。

「う~・・・み、海晴姉様・・・海晴姉様・・・」

ふらつきながら公園を出て行くと、海晴の後姿が視界に入る―――しかし、建物の影に入って見えなくなってしまう。見る間に距離が開いてしまい焦って走り出そうとしたが、先ほどまでずっと同じ格好で固まっていたせいで、両足が棒のようになってしまっていた。

「海晴姉様、待って・・・」

引き摺る様にして、凍えた足を動かす。全身が冷え切っているため、体がまったく思うように動いてくれない。
建物の壁に手を付きながら、何とか後を追う。
すると、真っ白な息を吐き出しながら進んでいた麗の耳に曲がり角の先から声が飛んできた。

「いやぁ!!やめて、やめて!!」

海晴の悲鳴。
正真正銘、間違えようもない。

「海晴姉様!!」

駆け出そうとしたが、意識ばかりが先に行ってしまい体が付いてこない。
「うぁああ!!」
両手で思いっきり自分の太ももをひっぱたく、ついでに頬も。

動け!

足が軽くなる。頬が熱くなる。
何より、愛してやまない姉の助けを求める声が麗の体に火を付けた。

一気に曲がり角まで駆け抜け、声のした方向を見やれば―――裏通り、人気の無い、あからさまに女性が一人で入ってはいけない、汚臭が漂う場所。そこに居るのは、海晴とさっきの俳優男、他に見たこともないような怪しい男が数人。地べたに組み伏せられている海晴を群がるようにして取り囲んでいた。

麗の頭の中が真っ赤に染まる。
体が動く―――声を上げるよりも先に足が動いた。

海晴の首を掴んで体を無理やり持ち上げようとしていた俳優男の背中に、後ろから思い切り体当たりを叩き込む―――俳優男がゴミ集積所に頭から突っ込み、汚物を撒き散らした。

呆気に取られた男達を他所に、麗が海晴を守るようにして両手を広げて立ち塞がる。

「海晴姉様から離れなさいよ!!糞男ども!!」

喉が張り裂けんばかりの怒声で叫ぶ―――荒んだ裏路地に夜気を切り裂いて麗の甲高い声が響く。

「う・・・麗ちゃん!?な・・・なんで、こんな所に・・・」

海晴もまた呆然と麗の背中を見上げる。
麗が前方に鋭い視線を向けたまま、答える。

「べ、別に・・・海晴姉様の事が心配で付いてきた訳じゃないんだからね!たまたま・・・今日は電車で遠くまで行きたい気分だったのよ!海晴姉様がいつまで経っても一緒にお出かけしてくれないから・・・」

麗の耳が真っ赤に染まる。ますます海晴の方を向けなくなってしまった。


「うんだよ、このガキ・・・。おい、話が違うんじゃねぇのか?何でこんなロリキャラが出てくるんだよぉ」
スキンヘッドの男が怒りで顔面を歪ませながら麗に近寄る。

「ひょっとして、海晴ちゃんの妹じゃねぇの?ほら、確かプロフィールにも十八人妹が居て、一人弟が居るとか書いてたし・・・」
身長2mを超えていそうな大男がスキンヘッドの後に続く。


自身の身長を大きく上回る二人の男が、目の前に迫った。
それでも麗は一歩も引かない―――それどころか睨み返す―――プライドの高い、気品のある野良猫を思わせる姿。

「あんた達、これ以上海晴姉様には指一本触れさせないんだから!とっととどっかに行ってオナニーでもしてなさいよ!!」

「麗ちゃん、だめ!早く逃げて!!」
海晴が背中から必死に声を上げているが耳を貸さない。

こうやって大きな声を上げて騒いでいればそのうちに警官が現れるはず・・・。
小学校でもおかしな人に襲われたら大きな声を上げれば良いって教えてもらったもの。海晴姉様は私が助けてみせるん―――

暗転。

首が引っこ抜けて、どこか遠くに飛んでいってしまったのかと思うほどの衝撃。
右頬がとても熱い。鼻腔に錆びた臭いが広がる。舌が痛い。口端から血が垂れ落ちた。
殴られた、と気づくまでに、少々の時間を要した。
膝から下の感覚が失せる―――何とか立っているのが精一杯だった。


「うぜぇなぁ」

スキンヘッドの男が拳を握ったまま麗を見下ろす。


「いやぁ!麗!!麗ちゃん・・・!やめて!!妹には手を出さないで!!」
海晴が這うようにして体を動かし、麗の腰に抱きつくようにして庇う。

「だったら、俺達の言うことちゃんと聞いてくれよ海晴ちゃんよぉ」
将来有望な俳優野郎が生ゴミでぐしゃぐしゃになった髪を手櫛で整えながら、再び海晴の前に立っていた。
「助けが来ると思ってるんなら諦めなよ。この裏通り、結構有名なんだよ『こういうこと』するのにはね。警官なんて絶対に来ないし通報して助けようなんて奴も来ない。まぁ、姦しに参加する奴がたまに来るぐらいだよ」
俳優男の手が伸びる―――海晴の顔に触れようとする。

―――乾いた破裂音。
全身が震えたままの麗が力を振り絞って男の手を叩き落していた。

「海晴姉様には触らせないって言ってるでしょ!!」
口を開くたびに激痛が走るが、それでも叫んだ。

衝撃―――惨烈極まりない激音が麗の鼓膜を揺さ振った。
踏ん張りがきかずに浮き上った体ごと吹き飛ばされる。

海晴の腕が離れていった麗を追うが、俳優男に髪を掴まれて動けなくなる。
「麗ちゃん!!麗ちゃん!!」
必死に手を伸ばすも、麗からはどんどん遠ざけられるように引きずられてしまう。
「はいはい、海晴ちゃんはエッチな撮影のお時間が待ってるからねー。こっちの車に乗ってスタジオに行こうね。三十人ぐらい用意してあるから、多分一晩で妊娠しちゃうよー」


―――視界がぐらぐら揺れて焦点が定まらない。
それでも、海晴の声を頼りに振り向く。
車に無理やり引きずり込まれそうになっている海晴の姿。

「駄目・・・駄目・・・私の、私の海晴お姉ちゃん、取らないでよ!!」

想いが激声となって溢れ出た。
世界で何よりも大切な家族が・・・我侭で意地っ張りな自分の事を、どんなに疎まれても絶対に目を離さずに何時でも何時までも見てくれている、無償の愛を惜しみなく注いでくれる海晴が・・・目前で奪われてしまう。
―――そんなの、絶対に嫌!!
両腕で上半身を持ち上げる―――立ち上がろうとするも、腰から下の感覚が消えていた。
―――だから、なんだってのよ!

「・・・海晴姉様から・・・離れなさいよ!!」
麗は口端から垂れ落ちる血液を地面に引き汚しながらも這い進んで吼えた。
アスファルトに爪を食い込ませながら必死で腕を振る。

―――何でも良い、とにかく海晴姉様を助けるためなら体なんてどうなっても良い・・・動け、動け!


大男がのそりと麗の前に立つ。男達は麗の姿を見て嘲笑っていた。

「よく見たら、この子も可愛いなぁ・・・。じゃあ、俺がもらっちゃおうかな。実はこういう気の強いロリっ子犯すの夢だったんだよねぇ・・・。ふふ、麗ちゃんだっけ?お兄ちゃんと一緒に行こっか?優しく優しく麗ちゃんの小さい穴、滅茶苦茶に裂いてあげるからねぇ」

大男が激痛で身動きの取れない麗の腰を掴むと、そのまま片腕で軽々と持ちあげる。
「いや・・・ちょ、離しなさいよ!!この変態!ロリコン!!ペド野郎!!」
吊り上げられたまま両手で男の腕を引っ掻いて抵抗する麗―――その下腹に大男の拳が突き刺さる。
「あっ・・・ぅ」
喉を焼く胃液が逆流―――瞬時に呼吸困難に陥る―――全身の力が抜けて完全に動けなくなる。

「麗ちゃん!!麗ちゃん―――やめて!!麗ちゃんだけはやめてよ!!」
海晴の嗚咽交じりの声が麗の耳にも届く。
麗はどうにかして体を動かそうとするも、指先一つ動かせなかった。

―――海晴姉様、海晴姉様。やだ、こんなの嫌だ・・・誰か、誰か助けて・・・。

麗の両目からも涙が零れる。
自分の無力さが情けなくて仕方がなかった。

大男の太い指が麗の上着にかかり、無理矢理に引き剥がす。
ボタンが飛び散り、麗の幼くも鮮麗な柔肌が冷たい夜気に晒される。

「い、いやぁ!!」

恐怖に怯えた麗の痛哭が耳に入り、大男の情欲がますます煽り立てられた。
蠢く巨手が麗の胸に触れようとする―――薄汚い唇が麗の顔に迫る。


「いや、やぁ・・・やだ!!・・・助けて、誰か助けて!!」

力の限りに喉を振るわせ、精一杯心の底から正直に願った。

そして、恐怖で目を閉じようとする―――その刹那。

何かが爆ぜる、激突音。
麗の眼前に迫っていたはずの男の顔が消失。代わりに映ったのは夜空に浮かんだ満月の輝き。
一瞬、月光を遮って視界に映ったのは―――希望の光。

縛めから放たれ、宙に浮く麗の体。
瞬間的な浮遊感―――地上に落ちる前に抱かれる―――包み込むような優しさ。


「大丈夫か?麗」

「ヒカル姉様!!」

普段と変わらない明るい笑顔を見せながら、ヒカルは麗を力強く抱き締めていた。
麗は拘束から開放されたことによる安心感を得るよりも先に、目の前の光景に驚く。

先程まで自分を掴んでいた、大男の体がヒカルの飛び蹴りで紙飛行機のように綺麗な放物線を描くように飛行―――程なくして壁面に顔面から激突―――コンクリート壁を貫徹しながら突き刺さった。
足首だけを痙攣したままに動かなくなった大男の事など見向きもせず、ヒカルが麗の頬をそっと撫でる。

「麗・・・良く頑張ったな、偉いぞ。後は私達に任せろ」

ヒカルは麗の体をゆっくりと下ろし、身に付けていた制服の上着を背中にかけた。麗はヒカルの匂いが残るブレザーの袖を握り締めながら、大声で叫ぶ。

「ヒカル姉様・・・海晴姉様が・・・お願い、助けて!!」

ぽろぽろと涙を零しながら言う麗の頭をヒカルが優しく撫でる。
「大丈夫だよ。全部、後はお姉ちゃんに任せろ。ふふ、それに・・・麗からこんなに素直なお願いされるのは初めてだからな・・・嬉しいよ」

力強く麗の肩を叩くと、ヒカルが男達の方へ向き直り、ゆっくりと進む。目線は海晴が捕らえられているワンボックスカーに注がれる。

「海晴姉、すぐに行くから・・・。ちょっと待っててね」

何も持たず、無造作に進むヒカル―――「くたばれ!」男の一人が鉄パイプを振り上げて襲い掛かる。
ヒカルの頭部目掛けて振り下ろされた鉄パイプから擦過音と火花が飛び、中程で切断―――宙を舞う鉄片が甲高い金属音を立てて落ちると同時に、男の顔面へヒカルの右足が槍のように鋭く突き刺さっていた。
トドメに、倒れた男の顔面を骨の砕ける不快な音を立てて踏み砕く。
鉄パイプをソーセージの如く切り裂いた右手の甲を摩りながら、なおも歩みを止めないヒカル。
「お前ら、私の家族に手を出して・・・五体満足で済むと思わない方が良いぞ。麗はな・・・家族の中でも凄く綺麗な・・・羨ましいぐらいに可愛い顔なのに、それをあんな風に汚すなんて・・・。絶対に許せない・・・」
ヒカルの全身から発する殺気が栗色の髪を逆立たせた。
その両眼は夜闇に浮かぶ血色に濡れ、怒気が溢れ出す。

瞬時に死の危険を悟った男達が一斉に逃げだした。
車内で海晴を捕らえている俳優男も、車も・・・全て投げ捨て、薄暗い路地を復讐鬼と化したヒカルの反対側へと駆け出した。


しかし、その足音はいくらも進まない内に止む。

「悪い子には・・・お仕置き・・・お仕置き・・・ですよね♪」

薄暗い、腐臭の漂う裏通りにまったくもって異質の存在が浮かび上がる。
全身を包む桃色のドレス、絵本から飛び出してきたような『お姫様』がそこに居た。

先頭を切って逃げ出していたスキンヘッドが半狂乱で叫ぶ。
「な・・・なんだてめぇは!?くそ、いいからそこを退けや!こっちは今にも殺されそうなんだよ!!」
冷や汗を垂らしながら必死の形相―――周囲の男達もまったく同様。

しかし、男の逼迫した声はまったく聞き入れられない。
そもそも男達の声は春風の耳に届いてすらいなかった。

「逃げちゃ駄目・・・ですよぉ。みぃんな・・・春風が・・・沢山、沢山お仕置きしてあげますね。泣いても駄目ですよ、麗ちゃんの方がずっと痛かったんですから。海晴お姉様だって、あんなに怯えてしまって・・・。だから、皆さんは春風が一生懸命、潰して千切って叩いて捻って折って砕いて壊してあげますね!」

いつの間にか甘い香りが男達の脳髄を焼き潰しそうな程に濃厚に漂っていた。
目の前の春風が少しずつ、距離を詰めてきていたのだ。
後ろから迫ってくる鬼のような形相のヒカルとはまったく異質の不気味な媚笑を浮かべる春風に男達はますます混乱に陥れられる。

それでも、金属を素手で切断するような怪物よりは、頭のいかれたお姫様の方が無害と判断―――スキンヘッドが駆け出すと堰を切ったように男達が春風に向かって突き進む。

春風は慌てふためく男達の様子など気にする風も無く、無造作に歩道に埋め込まれていた車道と歩道を区分けするための鉄柱を掴む。
「あらあら・・・そんなに慌てなくても、ちゃんと一人ずつゆっくり、時間をかけて犯ってあげるのにぃ・・・」
掴んでいた鉄柱をまるで傘を取るかのような軽い動作で、一息に引き抜く。
周囲の構造物が壊音と共に捲り上げられ、歩道のタイルを引き剥がしながら基礎部分であるコンクリート塊諸共引っこ抜かれた鉄柱。春風が物理法則を無視するかのような手軽さで、本来は歩行者を守るはずの鉄柱を人間の頭など一撃で粉砕せしめる凶器として持ち上げる―――あくまで、日傘を指すような優雅さでもって。

スキンヘッドが目前の信じ難い光景に目を奪われるが、走り出した勢いは急に止められない。

「じゃあ、一人目♪」

無造作に振られた超弩級の金棒―――スキンヘッドの顔面に着撃、血と肉の粉塵が舞い散る。

まるでピンボールのように跳ね飛ばされたスキンヘッドの体が置き去りにしてきた自動車のフロントガラスに叩きつけられ、蜘蛛の巣模様がガラスに刻み込まれた。
スキンヘッドが血糊を撒き散らしながら無残にも地面へ落ちる―――顔面は木っ端微塵に砕かれ、溢れ出る血液がアスファルトに赤い染みを広げていく。

「さぁ、他の方々も順番ですよ。春風が優しく丁寧に―――壊してあげます」

返り血が頬に付いた事も気にせず、春風が男達に詰め寄る。
その目は、ヒカルと同様に深紅の輝きを灯し、獲物を視界に収めていた。

男達が逃げ出してきた方向へ戻ろうとすると、ヒカルの拳が一人の顎を撃砕。骨の砕ける粉砕音が轟々と路地に広がり、意識を失った肉体が頭から地に落ちる。

そこから先は、一方的な展開だった。
春風に砕かれるか、ヒカルに砕かれるかの違いだけで、結果は皆同じ。
血風が舞い散る度、転がる肉の数が次々に増えていく。

「は、春風姉様・・・」

麗は普段のお嬢様然とした姿からは想像もつかない、戦鬼と化した春風の姿に見蕩れた。
「絶対に・・・絶対に、春風姉様だけは本気で怒らせないようにしよう」
思わず口に出してしまう。


「てめぇら、動くんじゃねぇ!」

麗に影がかかる―――車の中から海晴を盾にした俳優男が現れる。
その手に持ったナイフは海晴の首筋にあてられていた。

ちょうど最後の一人が血の海へ沈み込み、春風とヒカルが俳優男の方へ顔を向ける。

「少しでも動いたらこの女の首、掻っ切るからな!!分かったらとっとと俺の前から消え失せろ化け物ども!」
今にも恐怖で失禁しそうな男の声。


「うふふ・・・ヒカルちゃん・・・あの人、あんなに怖がってる・・・。可笑しいね・・・ヒカルちゃんはこんなに可愛いのに」
春風が見世物小屋の動物を眺めるような視線を俳優男に浴びせながら言った。

春風とヒカルが、互いに顔を見合わせる―――淫靡な微笑み。
「春風・・・顔、血だらけになってるよ・・・こんなに汚しちゃって・・・大事なドレスなんだろ?」
「ヒカルちゃんこそ、顔どころか手まで真っ赤になっちゃってるよ・・・綺麗にしてあげる」

春風がヒカルの手を取って指先を小さな舌で舐める。
指先から付け根までゆっくりと舌で撫で、優しく口内に含む―――いつもの愛撫。

「春風・・・もう、こんな所で・・・駄目だよ」
ヒカルが春風の顎をそっと持ち上げて指を引き抜く。間をおかず、春風がヒカルの頬に舌を這わせる。

「ヒカルちゃん、格好良かったよ。私にも何かあったら、助けてくれる?」
「あ・・・もう・・・当たり前だろ・・・絶対に助けるよ」
「ふふ・・・ヒカルちゃん大好き」
「私も・・・大好きだよ、春風」
二人の舌が宙で交わり、そのまま互いを飲み込む。


・・・・・・。

薄暗い路地に咲き乱れる淫らな百合の花が音を立てて交わり合う。


俳優男は余りにも余りな事態に閉口。
普段から見慣れているはずの海晴と麗も・・・あっけに取られてしばらく一言も発せられなくなっていた。

春風とヒカルの舌を吸う音が艶やかに響く中、俳優男が思い切って口を開く。

「お、お前ら・・・こいつがどうなっても良いのか!?本当に刺すぞ!」

交合を邪魔されたヒカルが春風から唇を離して鬱陶しそうに答える。
「ああ、やれるもんならやってみろよ・・・。それなりの覚悟があるんならな・・・」

ヒカルが俳優男へと進み始める。
一切揺らぎの無い足取りで、血溜まりの中を薄い水音を立てながらゆっくりと近付いていく。

「糞が!だったら顔に大きな切り傷でも作ってやるよ!!そうすりゃお前らのいかれた頭も冷めるだろ!」

男が腕に力を込める。
海晴の頬に、鈍光を散らす刃が押し込まれる―――寸前で停止。

俳優男はまるで何かに縛り付けられたように全身が固定されていた。
頭から爪先、指一本に至るまで、ぴくりとも動かせない。
ただ、五感だけは正常に働く―――理解不能な恐怖を助長。

俳優男の腕から解き放たれた海晴の下へ、麗が駆け寄る。
「海晴姉様・・・良かった・・・良かったぁ・・・」
「麗ちゃん・・・」
二人が強く抱き締めあっていると、小さな闇が月影に混じった。


「キュウビよ、まだ食うては駄目じゃぞ・・・。我慢じゃ」

麗の背後から音もなく、一本に縛った艶のある黒髪を揺らしながら幼い妹が姿を現す。
「観月・・・」
普段良く着ている大きめな巫女装束ではなく、動きやすく身軽な洋服姿だった。

「麗姉じゃ・・・無事で良かった・・・。皆、心配でな・・・一生懸命探しておったのじゃ。駅の反対側には霙姉じゃや蛍姉じゃと兄じゃも居るはずじゃが、どうやらこっちが当たりだったようじゃな」
丸みのある幼い指で挟んだ呪符を手に、観月が俳優男の前に赴く。

「そうそう、霙姉は『占いで見つける』って言ってたけど、やっぱり観月の霊感の方が頼りになるなぁ。観月・・・調度良いタイミングだったよ。そうだ・・・春風、ホタに連絡してこっちに来るように伝えておいてくれる?」
ヒカルも俳優男の傍へ立つ。春風もヒカルの背中に寄り添うように付き従っていた。
「うん、きっと蛍ちゃんも心配してるもんね・・・海晴ちゃんと麗ちゃんは無事だよって言わなくちゃ。あと・・・いけない事した人にお仕置きしてるから―――はやく、はやくって・・・メール、送っておくね♪」
春風がポケットに入れてあった携帯電話を取り出し、片手で操作―――もう片方の手はヒカルの手指と絡み合う。

ヒカルが男の頭よりも上・・・常人には何も見えない虚空を撫でる。
「お前もありがとうな・・・。後で美味しい油揚げでも買ってきてあげるよ」
感謝の言葉を微笑みと共に上方へ向ける。

俳優男は、ヒカルの奇怪な行動を見て、ますます恐慌状態へ―――『こいつらはやばい、やばい・・・殺される』―――それだけは確実に感じ取る事が出来た。

この場に居る、俳優男以外・・・家族には皆見えていた。
身の丈五m以上はある巨大な狐が銀色に輝く九本の尾で、俳優男の体を縛り付けている姿。

常時観月と共に居る可愛らしく幼い妖狐が、今や荒い息遣いで獲物を捕らえる正真正銘の妖怪といった風情。その主人である観月が赤々爛々と輝く瞳を向けて、口を開く。

「この路地一帯、呪符の力で少しばかり現世から割断させてみたからの・・・どんなに大きな声をあげても、わらわの眷属以外、本当の本当に・・・誰一人来られないのじゃ・・・。安心して・・・死に際に断末魔をあげて良いぞ。ふふ、とても、親切じゃろぉ?」
観月が幼子の浮かべてはいけないような艶笑を浮かべた。
釣られる様に、春風とヒカルが大きな口を広げて謔笑する。

三人の妖しくも美しい少女が笑み曲ぐ―――

『ふふふ・・・あはは・・・あはははははは!!』

三人の哂い声がそぞろに響き、冷たい空気に赤い絵の具を落としたかのように交じり合い、攪拌された。
俳優男は恐灈の余りに失禁。びしゃびしゃと情けない音を垂らしながら必死で命乞いする。

「た、助けて・・・・助けてくれ!!もうしない・・・もう二度とこんなまねしない!!だから・・・殺さないでくれよ!!」

涙と鼻水でぐしゃぐしゃに歪んだ顔面で叫ぶ恐慌状態の俳優男を見て、春風が抱きついているヒカルの肩口から、軽く顔を出し、濡れた瞳で麗を見つめた。

「麗ちゃん、どうします?この方、一生懸命謝ってますけど・・・。沢山酷い事されちゃった麗ちゃんにどうするか決めさせてあげる♪」


春風が、ヒカルが、観月が、優しい笑顔を浮かべて麗の返答を待つ。

麗の視線が海晴に移る。
大好きで大好きで、自分とそっくりな大きくて優しい姉。
その目元が赤く腫れていた、首筋に浮き上がるナイフで薄っすら切られた傷跡が血を滲ませていた。

「許せない・・・私の、私の海晴お姉ちゃんにこんな事した奴、絶対に許さない!!」

麗の力強い答え―――春風の表情が嬉々とした喜びに満ちる。

「決まり、決まり!!ヒカルちゃん、やっぱり麗ちゃんはとっても良い子!!良い子だよ!」
「当たり前だろ・・・麗は私達の可愛い妹なんだから」
両肩に手を乗せて、背中で飛び跳ねる春風にヒカルが答えると、その横で観月が羨ましそうに指を口に当てながら言う。

「春風姉じゃ・・・わしも、ヒカル姉じゃにおんぶしてもらいたいのぅ・・・そろそろ眠たくて仕方がないのじゃ」
「あら、ごめんね観月ちゃん。じゃあ交代!ヒカルちゃん、そろそろ冷えてきたし帰りましょう」
「そうだね、じゃあ観月・・・アレ、片付けて帰ろうか。そしたら、おんぶしてあげるよ」

ヒカルが指差す先には俳優男の絶望的表情―――観月がちらりと見てから、可愛い従者に告げる。

「キュウビよ、もう良いぞ。お前の姿も最後ぐらいは見せてやれ」
俳優男の視界が瞬時に粘つく暴大な顎で埋め尽くされる。
「ひ、ぃあう、うわぁあああ!!」
大型重機を思わせる顎が男の全身を一口で齧り切ってしまいそうな程に開口していた。観月が妖狐の尾を一つ手に取り、香りを確かめるように口元に寄せる。
「久しぶりの贄じゃからの・・・残さずに食べるんじゃぞ」
断頭台のように今にも降りてきそうな牙から涎が零れ落ち、俳優男の顔に掛かる。全身からあらゆる体液を漏らす男の体がますます汚臭に塗れていった。

妖狐の口が一旦限界まで開く。
一気に獣歯が骨肉を捻り潰す凶音が―――響く―――

「こらぁ!ちょっと、待って!駄目駄目!」

切れのある高い声が轟き、九尾の顎が男の頭部を噛み砕くギリギリで停止。
俳優男は白目を剥き、泡を吹いてくず折れるようにして失神し、それっきり動かなくなった。
助けなど来るはずも無い場所に奇跡が起きた。

「おぉ、蛍姉じゃ・・・霙姉じゃと兄じゃも、もう来たのかや、早いのぅ」
観月との眷属―――血脈を持つ者しか入ることができない空間に、三人分の足音。

「はぁはぁ・・・もう、やっぱりこっちの三人組に任せたら駄目ね・・・。血の気が多すぎるんだもん」
切れ切れの息遣いのまま、蛍が髪を揺らしながら言うとヒカルが春風と共に歩み寄る。
「随分早いじゃないか、その調子なら蛍も運動会で徒競走、一番になれるんじゃないか?」
ヒカルが蛍の背中を優しく撫でながら冗談交じりに言っていると、春風が目視不能な速度で獲物に取り付いていた。
「あのね、あのね・・・もう最後のお片付けをして帰ろうとしてた所なの。春風達、三人だけで頑張ったんですよ?うふふ・・・王子様、褒めて褒めて♪」
蛍の後ろについて来た長男に春風が抱きつく。甘えた声でおねだり、大きく実った胸の果実を長男に押し付ける。ぺっとりと密着した柔らかい感触で長男を全力全開で篭絡していた。
困った顔を浮かべる長男に、ヒカルの凄絶な嫉妬の眼光。
『私の春風に手を出したら、今すぐに殺す殺す殺す!今日は帰ったら覚悟しておけよ!』
―――長男が全身全霊、あらゆる理性を総動員して煩悩を制御することに専念。決して、腕に押し当てられている腕白極まりない柔肉の誘惑に負けないよう、仏壇に置いてあったお経の内容を思い出して必死に暗唱。

「もう・・・駄目でしょ。家族以外の人とはいえ簡単にアレしちゃいけないですよ・・・って、何回言えば分かるんですか?その度に余計な経費が掛かって、家計に影響するんだからね。こんなに沢山アレしちゃったら、それこそ今月は朝昼晩三食ぜぇんぶ、白米と梅干だけになっちゃうんだから!」

人差し指を立てながら、蛍がお説教を開始。
春風―――長男といちゃついていて、聞く気なし。
ヒカル―――わりと素直に聞いてくれているようだが、鋭い眼光は長男を貫かんばかりに注がれている。
観月―――唯一ちゃんと聞いてくれている。妖狐も『キュウビ』と呼称しても良いような普段の可愛らしい姿に戻って、観月の足元で残念そうな表情を浮かべていた。

「ふむ、しかし蛍よ。それではケジメが付かんな。こいつらにはそれ相応の報いを与えねばなるまい」
それまでずっと黙って、お徳用袋に入った甘納豆を齧り続けていた霙が砂糖だらけの口を開いた。
蛍が仕方なしに霙の唇をハンカチで拭ってあげながら答える。
「ふふーん、それならホタに妙案があります。何もアレするだけが償いって訳じゃないですからね」
蛍は得意げな顔を浮かべると、天に翳していた人差し指を薙ぎ払うようにして、とある場所を指し示した。

「ほら・・・近くにいい所がありますよ!」と蛍が叫ぶ(なぜか興奮気味)
現世と隔離された空間、その区切り部分から外界が見えた。
ちょうど路地の反対側、網膜に焼き付いてしまいそうなネオンの虹彩が乱舞する雑居ビル一階―――妙に逞しい男達がやたらと密着しながら歓談していた。黒光りするレザーを身に纏った男や下腹部にもっさりと生えた毛を見せ付けるような際どいホットパンツを履いた男。どいつもこいつもビール瓶の蓋を噛み千切って開けてしまいそうな、野性味に溢れた男達がまるで恋人同士のような距離感で密着していた。
つまり、そこは男同士が臀部の括約筋を開いたり締めたりするテーマパークというかなんというか、そういう場所だった。

「あそこで、格好良いお兄さん達と色々運動して発散すれば、この人達も二度と悪い事しようなんて思わないんじゃないかな?」
ニコニコと満面の笑みを浮かべる蛍。
今ひとつ意味が良く分かってないヒカルが不思議そうにしていたが、いい加減に長男が理性の限界に到達したらしく春風の胸に手を伸ばそうとしているので、とりあえず脳天に踵落しを捻じ込んでから答える。

「まぁホタがそう言うなら・・・そうするか。私だって三食全部が粗食じゃ部活で体が持たなくなっちゃうし」
ヒカルと蛍が男達の首根っこを引っ掴んで、引き摺る様にして全員まとめて結界の外へ連れ出して行った。

店の前で、蛍が少しばかり事情を説明―――野太い声で「そんな悪い子達はうちで更生させてあげるわ!」と店長と思しきレザーで全身を包んだ筋骨隆々の男から快諾の返事。
気絶していた男達が周囲のざわめきに目を覚ますが、悲鳴をあげる間も無くあっという間にお店の屈強な紳士達によって連行されていった。
蛍が「後学までに写真撮影を!」と叫んで、未だにこの店舗がどんな場所なのか良く分かっていないヒカルを連れて、地下にある彼らの居城へ降りて行った。

後に、俳優男らはこの日をきっかけに「そっちの業界」における一躍スターへと転進、変貌する事になるのだが・・・それはまた別の話である。

蛍とヒカルが店内に入ってから、程なくして春風にメール着信。
蛍:『ちょっとヒカルちゃんと一緒に、夏の新刊用に人体の神秘について実地見学させてもらうから先に帰ってて下さい』
春風が返信:『終電に乗り遅れないようにしてね。先に帰ってます』
携帯電話をポケットにしまうと、春風が両腕で長男の胸に飛びつく。

「ヒカルちゃんと蛍ちゃんは用事ができたみたいだから、先に帰って良いですって!行きましょう、王子様!」
気分は深夜デート、春風の脳内はキラキラと夢色に輝いていた。
二人でぴたりとくっついて駅の方へと歩いて行く。
途中、春風が「あ!王子様、お城みたいな所がありますよ!綺麗ですねぇ、ちょっと入ってみましょうか?」と凄まじい膂力で、極彩色に輝くホテルへ引き擦り込もうとするのを決死の覚悟で耐える長男―――という、日常的なハプニングもあったがそれもまぁ、良くある光景なのでこれといって特筆すべき事ではない。


霙が寝息を立てている観月を背中に抱えながら、海晴と麗の傍らに歩み寄る。
「そんな訳で、そろそろ帰ろうか?みんなも心配しているだろうからな」
男達に乱暴されている間に麗が落としてしまっていた帽子をそっと頭にのせてやりながら、霙が少し乱暴に頭を撫でる。
「海晴のこと、助けてくれてありがとう。麗はとっても良い子だな。私の自慢の妹だぞ」
小豆の甘い芳香を漂わせながら、霙がお礼を言うと観月を起こさないようにゆっくりと帰り道を歩き始めた。


「麗ちゃん・・・大丈夫?こんなに顔、腫れちゃってる・・・」
海晴が赤黒く腫れ上がってしまった麗の頬をそっと撫でる。
本来は引き攣れるような痛みが走るはずが、不思議と海晴の指先からは温かい愛情だけが伝わってきた。

「うん、大丈夫・・・海晴姉様こそ、血が出てる・・・」

麗が小さな舌を出して、姉達の真似事をするように海晴の首元に走る切り傷を舐める。
舌先からは痺れる様な甘美が伝わり、意識を失いかねない快びが全身を侵食する。

「麗ちゃん・・・嬉しかったよ。私のこと、大好きって・・・」
「大好き・・・海晴姉様の事が大好きなの・・・。だから、嫌だよ。私を置いて遠くに行かないで・・・」

溜め込まれていた感情が言葉になって溢れ出る。

「好き、好き・・・海晴姉様・・・。絶対に私以外の、それも男なんかに渡さない・・・。ずっとずっと私と一緒に居て。私をもって見て・・・。私の体も心も、みんな海晴姉様にあげるから・・・」
涙混じりに想いを告げる麗に海晴がそっと唇を合わせる。
突然、口を塞がれた麗が何も言えないまま海晴に全身を委ねるように抱きかかえられる。

体中に幸福感が満ちていくのが感じられた―――幸せ。

「麗ちゃん、私も大好き。いつもいつも、怒ってばっかりでごめんね。麗ちゃんは私なの・・・小さな頃の私。だから、幸せになって欲しいの。私が失ってしまった時間も落としてしまった幸福も、麗ちゃんには全部あげたい。私の我侭・・・だよね。でも、それでも麗ちゃんには私より幸せになって欲しいの」

海晴は小さく微笑み、麗を抱きしめる。
「ふふっ・・・こんな事にならないと、正直な気持ちが言えないなんて・・・私と麗ちゃんは本当にそっくりよね・・・。いいよ、もらってあげる。麗ちゃんの事、全部私がもらってあげる・・・ずっとずっと私がいつまでも一緒に居てあげる」

なすがままに麗の唇が塞がれ、少し乱暴に口内はおろか喉奥まで全て舌で愛撫される。

「麗ちゃんがいけないのよ。いつも・・・いつも、私は一線を越えないように我慢してたのに、『みんなをまとめる、しっかり者の長女』としてあり続けようと思って頑張ってきたのに・・・。麗ちゃんがそんな事言ってくれるから・・・もう、我慢できない。麗ちゃん、私とずっと一緒に居てくれる?私の事ももらってくれる?」

真っ白な思考が意識を埋めていたが、はっきりと麗は首肯する。
夢見心地の麗を海晴が全身で包み込む。

言葉を発する事も無く、姉妹はそのまましばらくの間、繫がっていた。

どんなに寒い夜だろうと、二人には関係の無いことだった。

不器用な二人、似た者同士の二人。
誰よりも不器用で、誰よりも愛情に飢えていて、誰よりも下手くそな愛情表現しか出来ない、どうしようもなく幼稚で恥かしがり屋な二人。

相手の熱を感じ合っている間だけは、二人が一つの生物であるかのように互いの気持ちを全て理解できた。

・・・・・・

「麗ちゃん、歩ける?」
海晴が先に立ち上がり、手を差し伸べる。
「大丈夫・・・あっ―――」
立ち上がった瞬間、眩暈で倒れこんできた麗を海晴が両腕で胸に抱き寄せる。
「やっぱり・・・無理しちゃ駄目よ。そうだ、観月ちゃんみたいに私がおんぶしてあげる」
そう言って身動きできない麗を海晴が背中に抱え上げる。
「ちょ・・・海晴姉様・・・は、恥ずかしいよ」
顔を真っ赤に紅潮させた麗が弱々しくも、感喜に満ちた声を上げる。
「麗ちゃん、ありがとう。麗ちゃんが助けに来てくれて本当に嬉しかった・・・。愛してるわよ、麗ちゃん。誰よりもずっと・・・。私だけには、素直な気持ちを見せて良いよ、甘えて良いよ。全部、受け止めてあげる」
麗が頭から蒸気が吹き上がりそうな程、ますます真っ赤になる。

「じゃあ帰りましょう。そうだ、今日は久しぶりに二人で一緒に寝ようか?」
頬を真っ赤に染めた麗が小さく頷くと、海晴が満面の笑みを浮かべた。
海晴の優しい髪の匂いと心地良い揺れが麗に安心感を与えた。

「麗ちゃん・・・大好き、私だけの大切な妹」

「海晴姉様・・・大好き、私だけの大切なお姉ちゃん」




*****



「海晴姉様の馬鹿馬鹿、馬鹿ぁ!!!!」

広大なお屋敷全体を激震させる麗の罵倒が、気だるい日曜昼の空気を叩いた。
あの夜から一週間ほどが経過、麗の頬も腫れが引いて瑞々しく愛嬌のある容顔を取り戻していた。緑の黒髪を振り乱しながら、眉間に皺を寄せて子犬のようにキャンキャン騒ぐ姿はいつも通り過ぎてどうにもならない。

「約束したじゃない!!海晴姉様を助けたご褒美に何でも好きなの一つ買ってくれるって言ったじゃない!!嘘つき!!」

麗が海晴のお腹をポコポコ叩きながら、瞼に涙を滲ませて必死の抗議。
対する海晴もまったく引く気は無し。

「確かに言ったけど、何よこの『悶絶超絶限定版 これさえあればあなたも関東制覇!めくるめく日本全土鉄道模型全種類詰めちゃったシリーズ 関東圏内PACK』って!!無駄に名前が長すぎるわよ!!しかもこれ、なに!?私の給料の何ヶ月分になっちゃってるのよ!!」

「これさえあれば関東に実存する全ての鉄道模型が一気に揃うっていうイベント限定の鉄魂を揺さぶる素晴らしい一品なのよ!両毛線から秩父鉄道まで幅広く全ての模型が職人の技巧を尽くして作られてるんだから!!買って!買って買って買ってよぉ!!!」
麗が海晴のスカートを引っ張って強硬なおねだり姿勢。海晴は腕を組んで、自分の通帳残高を思い出しながら困った顔を浮かべる。
今日は麗のご褒美と言うことで、どこぞで開かれるイベントに海晴と二人で出掛けるはずだったのだが既にこのような状況に陥っていた。


ミカンの皮を剥いて口に運ぶ吹雪が遠巻きにその様子を見守る。
「先日の一件で少しは仲良くなるのかと思いましたが・・・まったく変わっていませんね。あの二人」
続いて、小さな手にぴったりと収まるコントローラーを握る。
「あ!吹雪ちゃん、音速急行カードだ!良いなぁ・・・」
隣でコントローラーを握っている夕凪がチョコレートを食べながら羨ましそうにテレビ画面を見つめる。
「ふふ、あれで良いんだよ。海晴と麗はああじゃないとな」
霙がどら焼きにかぶり付きながら言う。
「ちょ、ちょっと霙お姉ちゃん、さり気なくリカに貧相神擦り付けるの止めてチャオ!!」
金色の髪をぴょんぴょん跳ねさせて立夏が抗議するものの、霙はどこ吹く風という憎たらしい表情。


「まったく五月蝿いわねぇ・・・もう少し静かに遊べないのかしら。ねぇ・・・ユキ?」
こたつで膝の上に綿雪を乗せながら二人で正月に残った餅を海苔で巻いて、食べ合いっこしていた氷柱が、綿雪のうなじに興奮絶頂状態なのを悟られないように努めて冷静に周囲の状況を評してみた。
すると、綿雪が氷柱の差し出した一口サイズのお餅を受け取ってから答える。
「ユキもやってみたいなぁ・・・。病院じゃ、ああいう大人数のゲーム、できなかったから・・・」
綿雪が俯き加減に小さな声で言った。
咄嗟に綿雪の事を抱きしめた氷柱が血涙を滝のように垂れ流しながら、自らの失言で痛嘆に顔を歪ませる。
「あぁ・・・ユキ・・・。そ、そうね!たまにはみんなで騒ぐのも良いかもね。立夏!私とユキも混ぜてぇ!」

・・・この後、氷柱が綿雪の計算され尽くした巧妙緻密な残虐プレイでぶっちぎりの最下位にさせられるのだが、ここでは割愛。


こたつに残ったのはヒカルと長男・・・にべったりとくっ付いた春風の三人。
春風を取られた苛立ちを隠し切れないヒカルが長男の足をこたつの中で思いっきり蹴り付けていると、テレビ番組が昼のニュースを流す。
先日、ボコボコにした連中のリーダーである俳優男が画面に映され、テロップには『衝撃!超有名芸能人の息子が起こした淫行事件!』と打たれていた。

ここ数日、芸能ニュースはこの事件で持ち切り状態だった。
海晴を連れ去ろうとした俳優男達は、今までにも同様の手段で多くの女性芸能人やらを誘拐して乱暴。その様子を動画にしてネットで極秘裏に販売、相当な荒稼ぎをしていたとか何とか。

画面に映った俳優男の顔を見て、ヒカルはうっかりあの夜・・・あの店での出来事を思い出して耳まで真っ赤にして赤面してしまう。
「くそぉ・・・ホタの奴、とんでもない所に連れ込んでくれたよなぁ・・・」
ヒカルの声に答えるように、台所からお茶を持ってきた蛍が現れる。
「あら、あの人達、捕まっちゃったんですねぇ・・・。でも店長さんが『心配するな、壁の向こうでもエージェントに依頼して、しっかり英才教育してやる!』って言ってくれてたから安心ですね♪」
蛍が長男、春風、ヒカルに湯飲みを差し出してからこたつに座る。
何がどう安心なのか聞きたくも無いヒカルが黙ってお茶を口にすると、テレビから聞きなれたお馴染みのオープニング曲が流れ、国民的なお昼の番組の総集編が始まる。そこには先週までレギュラーとして出演していたはずの、俳優男の父である大物芸能人の姿は影一つ見当たらなかった。
「これ・・・ママかなぁ・・・」
ヒカルがぽつりと呟くと、蛍がミカンの皮を剥きながら答える。
「たぶん・・・。ママにとっては大物芸能人だろうが何だろうが、その日の内に『居なかった事にする』ぐらい簡単だろうしね」
相変わらず、自分の母親ながら謎の存在だよなぁ、と思いながらヒカルも蛍の剥いてくれたミカンを口に入れる。
「まぁ、私達の大切な家族に手を出したんだから・・・当然だよな」
「もちろん。でもヒカルちゃん、これからはもう少し穏便な解決方法も考えるようにしてね」
さりげなく釘を刺す蛍にヒカルが「うーん、努力するよ」と返事をする―――まったく自信は無いが。

蛍とヒカルが湯のみに入っていたお茶をきゅーっと飲み干し、同時に立ち上がる。
二人の視線は、同じ方向を向いていた。
パンツ一丁にまでひん剥かれた長男と上着を脱いで、今にも行為に及びそうな勢いの春風。

「じゃあ、私が春風ちゃんを引っぺがすから、ヒカルちゃんはお兄ちゃんをお願いね」
「まったく・・・こいつは何回ぶん殴られたら覚えるのかな?それとも殴りすぎて忘れちゃうのか?まぁ、とりあえず・・・春風に手を出すなって言ってるだろうが、ボケェ!!!」
ヒカル渾身のローリングソバットが長男の顔面を正確無比に貫き、こたつからロケットが発射したかのように吹き飛ばされた。
足裏が突き刺さる寸前に「何でいつも俺だけ!!」と悲哀に満ちた声が聞こえた気もするが、ヒカルはいつものように無視。夕凪と星花がベストタイミングで開けたサッシを通り抜けて、庭の池に頭から突き刺さった長男が盛大な水飛沫をあげた。
両足だけを某映画のシーンの如く、水面に曝け出している惨めな長男の姿を見ながらヒカルが額を拭う。
ほとんど毎週繰り広げられる日常風景にヒカルが満足げに微笑む。
「今日も平和だな・・・」

春風とヒカルが長男を池から引っ張り出して居間へ戻ると、いつの間にか海晴と麗の騒ぎ声が消えていた。
玄関から声が飛んでくる。

「じゃあ、行ってくるわね!ちょっと遅くなるかもしれないけど心配しないで!」
「海晴姉様、絶対だからね!高崎線と上毛電鉄だけは買ってね!」

『いってらっしゃーい』
居間で遊んでいた皆が大きな声で返事をする。

麗の甘えた声は玄関の閉まる音がするまでずっと聞こえていた。

「まったく、世話の焼ける二人だ」

だから、たまらなく可愛いんだがな―――とは、付け足さずに霙が言った。

祝福のファンファーレがモニターから鳴り響いた。
ゲーム画面では霙が操作する、麗の作っていたキャラクターが初めて一位でゴールに到着―――満面の笑みを浮かべ、愛嬌のある眉を開いて躍り上がっている。

その表情は、海晴に抱きついて嬉しそうに出掛けていった麗の笑顔にそっくりだった。





**********

二〇〇九年二月十一日
珈琲みるく症候群

*この作品はフィクションです。
実在の人物、団体、事件などには一切関係ありません。

自作小説 | 22:31:02 | Comments(0)
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