■プロフィール

梅入

Author:梅入
トゥルー県在住な
漫画中毒者です
最近は自作小説作ってます

めぇる↓
うめいり1あっとgmail.com
「うめいり1あっと」を半角英数にして下さい。返信はコメントとかのが反応は早いです


ツイッターしてます

pixivはこちら




:::イベント:::


True my Family

文学フリマ

■↓将来欲しいメイド人数

■魔法少女リリカルなのは二次創作小説
■Baby Princess二次創作小説
■その他二次創作
■オリジナル創作小説

    準備中

■最近の記事
■カテゴリー
■Twitter,ネット情報関連
■日記、文章(敬称略)
■絵、漫画系(敬称略)

■創作(二次)小説系(敬称略)
■小説情報系(敬称略)
■社会情報
■食べ物屋メモ
■その他
■お知り合い
■ブログ内検索

■月別アーカイブ
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。


スポンサー広告 | --:--:--
Baby Princess(べびプリ)短編「触れ合う手指は春風駘蕩の温もり」
暑いですねこんにちわ。

と言う事で、08/06/29にストシス4で出したコピー本のSSを掲載します。

タイトルは
「触れ合う手指は春風駘蕩の温もり」

今回、四字熟語を選ぶのに丸一日掛かりました。
四字熟語辞典を延々見続けて、結局ストレートな感じのを選んじゃいましたけど。


内容はまたもや春風×ヒカルの百合です。
巷の噂ではまだ百合展開そんなに熱が上がってなさそうですけど盛り上がって欲しいなぁ。
中身でも少し絡ませたけど、あと蛍も加えて仲良し3人組でなんか話書きたいです。
それはそれとして、また別でちょっと時間かけて作りたいです。

あと今回は「健全な本」を目指してみよう、というコンセプトで作られてます。
少年漫画とか少女漫画とか、その辺でもいけるんじゃなかろうか・・・というのを目指して。

結果、内容成分としては
百合百合百合・微量のグロ
と言う事になってると思います。
少年誌じゃあ、無理かなぁ・・・、青年誌ならなんとか・・・ぐらいの内容になってるような気がします。
というか、なってて欲しいです。

微量でもグロは嫌ですぅ。百合はちょっとなぁ・・・。
という方は真に申し訳ありませんが、読まないほうがよろしいと思います。



いつもみたいな幸薄い子がキュンキュンしたりとか、そういう展開は無いですね。
何回かそうなりそうだったけど我慢してやらなかったし。

ヒカルちゃんがトゥルー俺に嫉妬している、という設定は今までの私の妄想通り活かしてます。


と言う事で、お時間頂けるようでしたら見てもらえればと。

「続きを読む」で全文表示です。




「触れ合う手指は春風駘蕩の温もり」


清々しい新緑の季節、柔らかな風と優しい陽光がとても心地良い。
緑の匂いが満たされた世界をみんなの足音が軽快なリズムを奏でながら先へ先へと進む。

私達はピクニックに出かけていた。
場所は家の裏山。山の奥まで行かなければそれほど急な傾斜も無く、簡単に登れるので山と言うよりは小高い丘というイメージで、近所の人達もちょっとした運動として良く利用しているようだった。
その裏山の石段で整備された山道を私達は元気に登っていた。
綿雪の身体の調子を見て、みんなのスケジュールを調整して、日曜日の休日を丸一日使ってのピクニック。新しく家族に加わったばかりのアイツもまだ裏山には入った事が無かったようなので立夏と一緒になって飛び回っている。男ってこういう時には妙に元気になるなぁ・・・。

「ヒカルちゃん、みんなで来られて良かったですね。春風ね・・・一生懸命頑張ってお弁当を作ったんですよ。きっと王子様も喜んでくれますよね?」
隣を歩く春風が朝からホタと一緒に作っていたお弁当の詰まった袋を指差しながら言う。ちなみにその大人数の弁当袋を半分持たされているのは私だ。残りは春風とホタで分けて運んでいる・・・いつもの役割分担。
「春風の作ったものだったらアイツは何でも喜んで食べるよ。ほら、学校でも春風のお弁当を美味しそうに食べてるの、毎日見てるだろ」
その情景を思い出したのか、春風はうっとりした表情を浮かべる。
「そうですね・・・きっと、喜んでくれますよね!あ、もちろんヒカルちゃんの分もちゃんと作ってありますからね!大好きなミニハンバーグもヒカルちゃんのお弁当には一杯入れてありますよ」
春風が幸せそうな笑顔を私に向けた。
私が小学生の頃の好きな食べ物をずっと覚えている春風は、私のお弁当には必ずハンバーグを入れてくれる―――嬉しい。
そのまま春風が学校でのアイツの事を楽しそうに話した。弾むような明るい声がとても幸せそうで、私もつられて微笑んでいた。

「はいはい、そこの過剰に仲の良いお二人さん。目的地に着いたからどんどん準備してね」
海晴姉がそんな事を言いながら大きなクーラーボックスを地響きと共にその場に下ろす。
到着したのは、山の中腹にある開けた場所。
生えているのは短い下草ばかりでなだらかな平地が広がっており、ピクニックをするにはうってつけの広場になっていた。この日は私達の他には誰も居ないので貸切状態のようだ。

この場所は私も覚えている。
まだ小学生だった頃、ここは私たちの遊び場だった。春風やホタと一緒になって走り回って遊んでいたのが昨日のように思い出せる。そしてこの遊び場は私達姉妹で受け継がれているようで、今は星花や夕凪達がここで遊んでいるらしい。

後についてきた妹達も山道を登りきって来た。息を切らせた麗の手を立夏が引いている―――あの二人は何だかんだで仲が良いんだよなぁ。
そして小さな子達の面倒を星花、夕凪、吹雪が見ている間に残りのみんなで一斉にブルーシートを引いたり、お弁当とお茶の用意を進める。
程なくして、ピクニック会場が完成。まぁお花見の時と同じようなものだけど、広い空の下でみんな揃って御飯を食べるのが主目的なんだから十分。

早速、みんなで靴を脱いでシートの上へ。
足裏に直に伝わる土の柔らかさや、草の感触が新鮮だった。
みんなが席に着いたのを確認してから、海晴姉の声が響く。
「それじゃあ、毎年恒例のピクニックを開始します!今年からは新たに男の子も加わり、これからもより一層家族の絆を強めていきたいなぁと思っていま―――あ、さくらちゃんまだ言い終わってないから食べちゃ駄目・・・ああ、もういいや。それじゃあ、いただきまーす!」
『いただきまーす!』
と、そんな締まらない開始の号令と共に今年も春の匂いを感じながら食事会が始まった。

お弁当に無数の箸が群がり、あっという間に中に入っていた料理が消えていく。
一人ずつに専用のお弁当があり、その他にみんなで食べるおかずの入った色とりどりの器が沢山並べられている。卵焼きなんかは真璃や虹子や青空がパクパク美味しそうに食べているが、白い御飯が減っていない。やっぱり子供はオカズが好きなんだなぁ。

私の右側では氷柱と綿雪が仲良く一緒に食べている。
「ユキ、美味しい?」
綿雪のために箸で一口大にした煮物を小皿に取ってあげながら氷柱が尋ねる。
「はい、とっても美味しいです。氷柱ちゃんも一杯食べて♪はい、あーん」
そう言うと、綿雪がフォークで刺したプチトマトを氷柱の口元に運ぶ。少し恥ずかしそうな顔をしてから、躊躇いがちに氷柱が口を開ける―――まるで餌を与えられる小鳥の姿。
氷柱がゆっくりと新鮮なトマトを咀嚼してから飲み込む。うっとりとした表情を浮かべる氷柱。トマトには綿雪の愛情と言う調味料が添えられているのだから、相当に美味いのだろう。
「ありがとう、ユキ。ほら、ユキも沢山食べて病気に負けないようにしよ」
そう言うと今度は氷柱が綿雪に「あーん」させている。
その後も口の周りについたソースを拭ってあげたり、あまつさえそれを舐めてあげたり。
二人とも今にも溶けて混ざり合ってしまいそうな程にくっ付き合っている。

見ているこっちが恥ずかしくて耳まで赤くなっちゃうような光景が広がっている。
いつもの事とは言え、相変わらずこの二人は仲が良い。
ちょっとだけ、羨ましい。


そして私の左側では春風が大好きな王子様相手に一生懸命アプローチしている。
「王子様、春風が一つずつ握ったおにぎり食べて下さいね。中に入ってる具も色々なんですよ」
必要以上に密着して、アイツの身体に触れながら春風が幾つも幾つも食べ切らないほどの料理を差し出している。まぁ、学校での昼ごはんの様子がそのままここでも展開されているような感じではあるけど、ここは高校ではない。
「お兄ちゃん、ホタ特製のサンドイッチだって凄く美味しいんですよ!おにぎりばっかりじゃお腹も直ぐに膨れちゃいますから、こっちも食べて下さいね」
もう一人、アイツに密着しているのはホタだった。
学校での昼休みには春風の行動を阻害する人物は居ないが、ここでは別。

どうも家族旅行でのボートの一件以来、ホタが妙に積極的にアイツと接触するようになっていた。何だか春風とホタがアイツを巡ってちょっとした取り合いが発生する機会が増えてきたような気がする。
アイツの眼前には大量のおにぎりとサンドイッチが並べられ視界を埋め尽くしていた。
ぎらつく瞳で春風とホタがアイツを凝視―――空気が固まる。

小さい妹達と違ってこの二人のアイツの取り合いは静かだけど、周囲の空気を凍りつかせる。お陰で他の妹達が近寄り難い雰囲気になっているが、当の本人達は既に意識の外・・・。二人とも夢中になると周りが見えなくなる所が凄く似てるんだよなぁ。

見かねた私が声を掛けてやる―――これもいつものパターン。
「ほら、春風は毎日学校で会えるんだから他の妹達に少し王子様を譲ってやれよ。春風は『みんなのお姉ちゃん』なんだろ?」
私がそう言うと、春風が一瞬惚けた表情を浮かべてから直ぐに笑顔に―――大切な事を思い出した爽やかさに満ち溢れていた。
「そう・・・だよね。私はお姉ちゃんだもん―――」
春風が先程までの強情さを微塵も感じさせる事無く身を引いた。

先程までのピリピリした雰囲気は霧散、アイツの周りには夕凪や虹子達元気な妹達が群がって口々に好きな事を話したり、自分の好きな食べ物を差し出していた。さっきよりもある種大変になったかもしれないけど、まぁ頑張ってほしい。

だって、オマエは一家のお兄ちゃんなんだから。
―――私の役目を奪ったんだから。


何時の間にか、春風が私の手を握っていた。柔らかく温かい、私のマメだらけの男っぽい手なんかとは違う、マシュマロで出来たかのような繊細で優しい感触―――大好きな女の子の手。
「ヒカルちゃん、ありがとう。私ったら、また我侭言っちゃってましたね。王子様はみんなのモノだもの・・・お姉ちゃんの私は我慢しなくちゃいけませんよね」
春風が私の耳元に唇を寄せて、私だけに聞こえるように小さな声で囁いてくる。
くすぐったい―――嬉しい―――私だけが春風の事を本当に分かってるんだ―――優越感。

―――「春風は『みんなのお姉ちゃん』なんだろ?」

昔からそう。私より一つ年上だけど、放っておけないお姉ちゃん。
我侭を言ってみんなを困らせた時には私がこの決まり文句を言うと、不思議と春風は大人しくなる。もう高校生になった今でも変わらない、私と春風の間でだけ通じる魔法の呪文。

「ヒカルちゃんも沢山食べて下さいね。今日のハンバーグは春風がしっかり手でこねて一つ一つ丁寧に作ったんですよ。ほら・・・あーん」
春風が私のお弁当入れからミニハンバーグを箸で摘んで私の口元に運んでくる。ああ、さっき見ていた氷柱と綿雪の姿が脳裏に浮ぶ。今の私と春風はきっとあんな状態なんだ。
恥ずかしい―――でも、凄く幸せ―――だって、今の春風は私だけを見てくれてるから。

口を大きく開いて、ハンバーグを一口でパクリと口に入れる。
ジューシーな肉汁とフルーツを混ぜたソースが相性良く私の舌に豊潤な旨みを伝える。
私が美味しそうに咀嚼している様子を微笑みながら見ていた春風が何かに気付いたように私の顔を覗き込んできた。
「あ、ヒカルちゃん・・・ほっぺにソースが付いちゃってますよ。ふふ、しょうがない娘」
そう言ってから、ごく自然な動作で私の頬を春風の舌が舐めた。
一瞬の事で反応する事も出来なかった。
体温が一気に上昇するのが分かった。鼓動が早鐘の如く全身を震わせる。
何も言えずに呆然としている私を尻目に春風が立ち上がる。
「美味しい―――じゃあ私は青空ちゃんやあさひちゃんの様子を見てきますね」
そのまま青空の傍まで歩いていく春風の背中に視線を釘付けにされた。
きっと今の私は蕩けそうに恍惚とした、だらしない表情になってる。
春風お姉ちゃん―――好き、好き・・・大好き。

「ヒカルちゃん、気持ち良さそうですね。何か良い事でもありました?」
「・・・ホタ。み、見てたのか?」
私の隣、さっきまで春風が居た場所にホタが座っていた。
「あれって、ほとんどキスですよね。相変わらず春風ちゃんとヒカルちゃんは仲良しですね」
恥ずかしい所を全部見られてた。私は全身が震えるぐらいに体温が上がったのを感じる。
幼い頃からずっと一緒だったこの妹は一家のお母さんみたいな立ち位置だけど、最近はアイツの登場で段々変わってきてる。所帯じみてた所が少しずつ減って、女の子らしくなってきたように思う。コスプレ以外にも可愛らしい洋服を買ってきたり、以前には無い行動が目立ってきた。
「べ、別にいつもあんな事してるわけじゃないんだからな!今日は春風もテンション上がってるから・・・特別、特別なの!」
苦しい言い訳、当然ホタはそんなのお見通しらしい。
「そうですよねぇ、春風ちゃんがあんなに積極的に接触するのってお兄ちゃんかヒカルちゃんだけだから、確かに特別ですよね。ホタとしては、是非とも春風ちゃんとヒカルちゃんはそのままもっと仲良くなってもらって、結婚とかして欲しいなぁ・・・。そうすればお兄ちゃんを巡るライバルが一人減りますからね♪」
嫌らしい笑みを浮かべて私に迫る、それこそ唇が重なりそうな程に・・・。
ホタがこんなに意地悪な表情を見せるのはたぶん私にだけ、昔からそう。
春風と私とホタはいつも一緒。いつも私が弄られる役。

「べ、別に私は春風のことを特別視してるわけじゃないよ!ホタだって―――あっ」
私が言い終わる前に、ホタが私の手を引っ張ってシートの外へ連れ出す。
「ちょ、ちょっと・・・どうしたんだよ」
慌てて靴を履く私をホタがぐいぐい引っ張る。
「思い出したの!ヒカルちゃん、来て!」
言われるがままに手を引かれてはらっぱを進むと、一本の大きく立派なクスノキが聳え立っていた。周囲には独特な清涼感のある香気が広がり、自然と気分が落ち着いてくる。
「ヒカルちゃん、ココ見て!」
ホタが太い幹の一箇所を指差す。何かで削り取ったような横線が・・・。
「あ!これって、私たちの背比べの跡か!?」
私の腰ぐらいの高さに何本もの横線が削って彫られていた。
「もしかして、って思ったんですけどまだ残ってるんですね。私たちが小さいときにここで遊んでた時はまだこの木もこんなに大きくなかったと思いますけど、懐かしいなぁ」
思い出した。私と春風とホタがここで遊んで帰るたびにこの木で背比べをしていったんだ。落っこちていた硬い石を使ってガリガリ削って・・・。

私が懐かしい背比べの跡を指でなぞっていると、ホタが後ろから声をかけてきた。
さっきまで私を弄んでいた時の悪戯っぽさを感じさせない真っ直ぐな声。
「あのね、お兄ちゃんが来てから私、変わってきてるんです。なんていうか、もっと素直になりたいって思うの。もっともっと頑張れる女の子になりたい・・・そう、春風ちゃんみたいに」
ホタの言葉は長い付き合いの私にとっては、とても理解できた。
昔からホタはどこか一歩引いた所に居たと思う。いつも誰かを優先して自分は下がってしまう部分が、今もまだまだあるけどそれが段々と変わってきてる。家族のために一生懸命頑張るホタも可愛いけど、やっぱり今の変わりつつあるホタも可愛いなぁと思う。
「だから・・・だからこそ春風お姉ちゃんには負けないよ。お兄ちゃんが好きなのは私だって一緒だもん」
この時のホタは凄く可愛かった。
アイツの登場でみんなが変わってきてる。たぶん、私も・・・。

「良いんじゃないか。恋は障害があるほど燃えるって言うし、なんせ相手は兄妹なんだから時間は幾らでもあるんだ、ゆっくりやっていけばその内アイツも落とせるかもな」
ホタが私の手をそっと握る。
「えへへ・・・ヒカルお姉ちゃん、大好き」
この時のホタは凄く可愛かった。不思議とまた私の顔が火照ってしまう。
ああ、もう私の周りはこんなのばっかり―――私の可愛い大好きな妹。

「ヒカル姉じゃ達、何をしておるんじゃ?」
何時の間にか私たちの傍に観月と虹子がやってきていた。
二人に背比べの話を聞かせてあげると「わたしたちもせいくらべ、やりたい!」と言って早速始めていた。青空やさくらも何時の間にか集まって来て、みんなで小石を使って背比べの跡を刻んでいた。
新しい跡が刻まれていくクスノキからは涼やかな匂いが溢れていた。


「ヒカルちゃん、ホタお姉ちゃん、ちょっと来てぇ!」
小さい子達の姿を郷愁と共に眺めていると、私たちを呼ぶ立夏の大声が聞こえた。
私とホタがシートに戻ってみると、なにやら立夏が大きな声でまくし立てていた。
「ヒカルちゃん!ねぇねぇ、ヒカルちゃんも聞いた事あるよね、お化けの話!」
何だかいきなりで、まったく話が掴めない。
「お化けって・・・何の話してるんだよ?」
「学校で噂になってるんだよ!この裏山で大きなお化けを見たっていう人が居るんだって!」
高校ではそんな話は聞いた事ないから、中学だけでの噂なのかもしれない。
立夏の話を聞いてホタが思い出したかのように手を打つ。
「あ、それなら私も聞いた事ある。夕方ここを散歩していた人が大きな四足歩行する怪物を見たって・・・。ただの噂なんだと思いますけど、結構流行ってるみたいですね」
どうも中学校で流行っている学校の七不思議みたいなものらしい。
私が卒業してから流行りだしたんだろう。

春風が先程からずーっと大人しく黙ったまま綿雪を抱きしめている氷柱に気付いて声をかける。
「氷柱ちゃんも聞いた事ありますか?」
そんな何気ない質問を投げかけられると、氷柱がビクッと震えてから答える。
「わ、わ、私のクラスは特別進学クラスだから、そんな子供っぽい話なんか聞きません。そ・・・それに、ゆ、幽霊とかお化けとかそんなの絶対認めないんだから!」
予想通りの反応。
氷柱はお化けとか幽霊が苦手。普段はあんなに気が強そうだけど、実は凄く怖がり。
黒い虫が出るたびに私に泣きついてくる―――まぁ、そこが可愛いんだけど。
「しかし、この裏山にそんな大型生物がいるという話は聞いた事がありませんし、もし本当に居るのなら今頃この裏山は立ち入り禁止になっているのではないでしょうか?」
家族の中でも飛びぬけて頭の良い吹雪の言う事は実に的を得ている。
「どうせ下らない噂でしょ。そんなの信じる方がどうかしてると思うけど」
麗が冷めた声で立夏に言う。相変わらず生意気な口調。

立夏が麗にそんな事を言われて、ブスッとしていると突然シートに座っていた私達に大きな振動が伝わってきた。座っていた腰が一瞬浮き上がるような衝撃。規則的に伝わってくる揺れは、まるでこちらに向かって歩いてきているようだった。

「も、もしかして、お化け!?お化け!?」
氷柱が正気を失って取り乱し、綿雪の身体をぎゅーっと抱きしめて縮こまる。
「氷柱ちゃん、心配しなくてもみんなが居るから大丈夫ですよ」
綿雪が氷柱の頭をそっと撫でて抱き返している・・・あれじゃあどっちがお姉さんなのか分かったもんじゃない。綿雪は案外と物怖じしない度胸の良さがあるからなぁ。
「ちょ、ちょっと・・・本当に居るの!?嫌だ!ウソでしょ!!」
さっきまでバカにしていたはずの立夏の太腿に麗がしがみついていた。
どうにも家族きっての美少女二人は一見気が強いが、実は怖がりという所がそっくりだ。

騒ぎを余所にして、今もパクパクとホタ特製のドラ焼きを頬張りながら、霙姉が珍しく喋りだす。
「みんな心配しなくても大丈夫、今日はヒカルが居るんだから。ほら、熊とか虎ぐらいなら何とでもなるだろ?」
「ならないよ!霙姉の中で私ってどんなキャラになってんの!?」
もう、まったく失礼極まりない。

でも、私の家族に手を出すんならどんな奴だろうがぶちのめしてやる。そのために強くなってみんなを守れるような・・・春風の王子様になったんだから。

―――でも、今はもうアイツが居るから私は王子様じゃないか・・・。

私がみんなを守るようにして怪しく揺れ動く茂みの前に立ち塞がると、隣に影が重なる。
「オマエ・・・。なんか格闘技とかしてたっけ?」
私が動揺しながら問いかけると、コイツはあっさりと首を横に振った。
「俺は『みんなのお兄ちゃん』だからな・・・ヒカルのことだって守ってやるぞ」
私とは違う、本物の王子様がそんな格好良い事を言っていた。
大好きな春風お姉ちゃんを私から奪った事はまだ許せないけど・・・そういう所は嫌いじゃないな。
でも、春風の視線がアイツに注がれているのを感じると、やっぱり、むかつく・・・。

そんな事を思っている間に重い足音がすぐ傍まで接近、より一層大きく茂みが揺れた―――飛び出してくる大きな影、大型犬よりも二回りは大きい姿が日の光の下に晒された。

野太い足、巨大な頭とずんぐりした胴体を兼ね備えている。
ピンク色の象だった。

「は?」

目の前に現れたファンシーかつショッキングな桃色の生物。人畜無害を絵に描いたような不思議生物の登場により、周囲の空気が乾いたように硬直した。

「あぁ!フレディ!!一緒にきてくれたのぉ?」
唖然としていた一同を前に背比べをして遊んでいた虹子が瑞々しい声をあげてこちらに駆け寄り、そのまま愛おしそうにピンク色の象に抱きついていた。
そうか・・・たまに庭に居たあのピンク色の象、見るたびに何かの錯覚だと思ってたけど、やっぱり本当に居たんだ・・・。

「ひょっとして、裏山のお化けってフレディの事だったんじゃないかしら?暗がりで見たら確かに吃驚しちゃいますしね。最近御飯もあげてないからどこに行ったのかなぁ、なんて思ってましたけど、裏山で生活してたんですねぇ」
ホタがお化けの正体見破ったり、という得意げな表情で言った。まぁ、暗がりだろうと今みたいな真昼間だろうとこんな不思議生物を見たら誰でも驚くとは思うけど。しかし今の話を聞くと、そもそもホタがちゃんと餌をあげてなかったのが原因なんじゃないのか?

「ぜ、絶対に信じないんだからね!ぴ、ぴんくの象なんて・・・居る訳ないじゃない!非科学的よ、こんなの。ウソ、ウソ、ウソなんだから!」
氷柱が先程よりも更に取り乱して今や、綿雪の膝枕に顔を埋めている始末。綿雪が「よしよし」と飼い猫を撫でるように氷柱の頭を撫でている光景が実に微笑ましい。

立夏にしがみついていた麗はどうも事態の進行についていけなくなったらしく思考停止。大口を開けたまま硬直してしまい、美少女の石像と化していた。
他の面々はもうおかしな事には慣れっこという具合であっさりと事態を認識。まぁこの家族に居れば自然とそういう能力も身に付いてくるし。氷柱と麗はやっぱり気が弱いなぁ。

背比べしていた小さな妹達も戻ってくると一斉にフレディに駆け寄って抱きつく。霊感を持っている観月も一緒になって抱きついてる・・・と言う事は化け物とか妖怪の類じゃないのか?
まぁ私の家族に危害を加えないのなら、構わないか・・・。みんな楽しそうにしてるし。

緊張していた空気も解け、再び楽しそうな雰囲気に戻りかけていたその時、今にも泣き出しそうな声が耳に届く。
「青空ちゃん・・・どこぉ?青空ちゃーん」
さくらが一人、喧騒から外れて涙ぐんだ表情で青空の名前を呼んでいた。


嫌な予感がする、さっきのフレディの時とは比べ物にならないぐらいに。
周囲を見渡すと、青空の姿は見当たらない・・。
「さくら・・・どうしたの?」
怖がらせないように優しく問いかけると、さくらの瞳から堰を切ったように涙がポロポロと溢れ出す。
「青空ちゃんが・・・いないのぉ。さくらと一緒に手をつないでたけど・・・さくらがフレディとあそぼうとしたら、いなくなっちゃったよぉ!」
そう言った後、さくらが顔をくしゃくしゃにしながら大きな声で泣きだし、緊急事態を知らせる報となった。


すぐさま捜索隊が編成される。
海晴姉、霙姉、アイツの組、私、春風、ホタの組、氷柱、立夏、小雨の組に分かれた。
残った小さな子達の世話を麗達に任せてから山の奥へと踏み入った。

森の中は降り注がれる陽光を遮り、思ったよりも暗く沈んだような静けさが広がっている。

どこ・・・どこ・・・。

ああ、背比べをさせている時に私があの場所に残るべきだった。
私のせいだ・・・。私が、私の・・・。胸が締め付けられる・・・怖い。

―――駄目、今は悔やむよりも青空を探す事に集中しないと。

私達三人は裏山の奥へと入り込んでいた。
山奥への入り口付近を海晴姉達が探索し、氷柱達は往路となる山道を探している。


葉緑が私の視界を遮る。先程まで気分の良かった新緑に彩られた世界が今は私に牙を向けているようだった。
「青空―!!」
喉を振り絞って大声で呼びかける・・・その声が何度も何度も虚しく暗い緑に飲み込まれる。
足が酷く重い・・・地面に膝まで埋まっているのではないかと思える。
口が渇いた、喉も痛い、鼓動が早鐘となって私の胸を内側から叩き続ける。
青空の姿がどこにも無い。もう探し始めてから三十分以上が経過していた。

―――どうしよう、どうしよう・・・嫌、嫌。
青空に何かあったら私のせいだ、私の・・・。

視界が少しぶれた。前が良く見えない。
ああ、私の両目から零れる涙だ・・・。

足が止まってしまった。鉛を埋め込まれたように、杭を打ち込まれたように、私はその場に縫い付けられてしまった。
怖くて怖くて、もう一歩も動けなくなっていた。

「ヒカルちゃん・・・」
私の様子に気がついた春風が青空を呼ぶ声を止めて、私のところに戻ってきてくれた。
春風の綺麗なドレスは木立ちに踏み入ったり、草木を掻き分けている内に所々破れたり、ほつれたりしていた。いつも王子様のために綺麗にしているのに・・・。
「ヒカルちゃん・・・しっかりして。青空ちゃんはきっとすぐに見付かるから、ね?」
春風がポケットから取り出したハンカチで私の涙を拭ってくれた。
こんな時、春風は凄くお姉ちゃんらしい。

でも私の胸には重い恐怖が尽きる事無く広がって・・・怖い、怖い、怖い。
春風の胸に顔を埋めながら、私の口から不安の塊がドロリと吐き出される。
「わ・・・私が、私がちゃんと青空を見てなかったから!私のせい!!私が悪いの!!どうしよう、どうしよう!!全然見付からない!!青空が・・・!!青空・・・。どうしよう、青空に何かあったら・・・私のせいだよ!!」
胸の淀みを吐き出した私の肩が押し返される。
濡れた視界に春風の姿が映った。その瞳は・・・凄く怒ってた。

鋭い破裂音が静かな森に響いた。
私の頬を春風が平手で叩いた音。
「ヒカルちゃんはいつからそんなに弱虫になっちゃったの!いつも、みんなを引っ張ってくれる強いお姉ちゃんはどこにいっちゃったの!?」
春風は本気で怒ってる。私は、悪い事したんだ・・・。
「青空ちゃんが居なくなったのは、みんなの責任。ヒカルちゃんが一人で抱える事じゃないんだよ。ね、家族の問題はみんなで解決しなくちゃ・・・。私達は家族で、誰よりも信じられる存在なの、私達が青空ちゃんの無事を信じていれば必ずそれは叶うの。だから、ヒカルちゃんも信じて・・・」
春風が私の手を力強く握ってくれた。
小さい頃――春雷の夜に繋いだ手が、またここに・・・。
俯いていた顔を上げると、春風が優しく微笑んでくれた。

私の大好きなお姉ちゃんは、少し夢見がちで早とちりで、ちょっと頼りないけど・・・私よりずっと強くて、素敵で―――私の憧れ。
不思議と足の震えが消えて、膝に力が入る。
「ありがとう、春風・・・お姉ちゃん」
赤く腫れた瞼を向けてお礼を言うと、春風が私の手を引いてくれた。
何時の間にか私の隣にはホタが居て、小さく笑いながら小声で「良かったね」と言ってくれた。

再び、三人で青空の名前を大声で叫ぼうとした時、ふいに聞こえる。
「おねぇちゃぁぁん!!」
青空の声。

つい先程まで縮こまっていた身体を私は奮い立たせて、一直線に声の方向へと突き進む。
春風とホタに「後からついて来て!」と伝える―――首肯する二人。

頬や太腿を薄く裂く枝葉も、全身にへばりつく蜘蛛の巣も意識の外に弾き出される。
「青空!!」
大声で叫びながら、緑を掻き分けて疾走。
緑の暗闇が少しずつ薄れる―――光が差し、森を抜けると崖の先端部のような場所に出た。

そこに、青空は居た。
服はボロボロで、履いていた靴も失くしたらしく裸足になっていた。
私の姿を見た青空は、喜びに満ち溢れた表情。
「ヒカルおねぇちゃん!!」
崖から転げ落ちそうな場所まで追い詰められた青空の下に私は駆け寄る。
「おねえちゃん、おねえちゃん!!ちょうちょ・・・おいかけてたら、おっきい犬がはしってきたのぉ!青空、こわかったよぉ!」
私の足にしがみつく青空の頭を優しく撫でる。
「大丈夫。もう大丈夫だよ・・・。青空を怖がらせる奴は私が、片付けてあげるから」

青空を背後に隠しながら、正面に鋭い眼光を向ける。
私と青空の目の前には、体長二mはありそうな巨大な異形の犬が居た。
片目が潰されているが、その強靭な足と獰猛な牙は健在らしく先程から汚らしい真っ黒な涎を零し続けている。暗黒色の体毛が日の光を飲み込み、四足の足元に生えている下草が生気を奪われたかのように枯れ果てていく。
明らかに普通の存在じゃない、裏山の化け物の正体は間違いなくこいつだ。たぶん、観月あたりに見せれば正体も分かるだろうけど、そんな事をしている暇は無い。

だって今からこいつは私がぶちのめすんだから。

こいつが青空を弄んだ・・・獲物を弱らせて、いたぶってから喰おうというつもりなんだ・・・。
許せない。
私の家族に手を出すなんて許せない。

闇色の巨体が大地を掻いて引き絞られる―――放たれる寸前の矢を連想。
私はその矢を素手で叩き潰すために構える。
人間以外を相手にするのは初めてだけど、そんな事はどうでも良い。
私の家族―――この世にそれ以上大切なものなど無い。そんな存在に手を出した奴にけじめをつけてやる。


睨み合っていた私と化け物の視線が重なった。
虎のような大きさの犬が砂塵を巻き上げながら飛び出し、一息に私の喉元目掛けて凶悪な牙を振るう。
すぐ後ろは崖、それに青空が居る。私には後退する選択肢など最初から無い。
だから、私は一歩前進した。
踏み込みと同時、左の正拳突きを飛び付いて来た犬の口内に叩き込んだ。
激音。
巨大な牙を砕き割って、犬の喉奥にまで拳が突き刺さり、片方しかない目が白目を剥き、化け犬の動きが止まる。
素早く腕を引き抜くと、私の左拳は牙を砕いた際に刻まれた幾筋かの痕にしたがい、肉を抉られていた。
しかし、痛みなど感じない。

時間が一瞬止まったかのように、巨大な犬が浮遊していた。
悲鳴を上げる暇すら与えてやろうとは思わない。

私は右拳を腰に付け、膝を曲げて左足に重心をかける。発射準備が整ったと同時に全身のバネを使い腰とつま先を回転させ、その力を全て連動させて腕を振り上げる。
渾身の力を込めて放ったアッパーが大型犬の顎部を突き上げ、爆裂音と共に巨体を空高く打ち上げた。
骨が砕ける嫌な感触と破砕音が私の五感を刺激する。

受身を取る事も出来ない大型犬が、頭から地面に落下―――ぴくりとも動かなくなった。
死体はうず高く積まれた肉と毛皮のような状態だったが、次第にその姿が黒い淀みとなって形を崩していった。一分もしない内に、黒い泥水のような物体となった死骸が周りの草花を腐敗させながら蒸発するように消滅した。
本当に化け物だったんだ・・・。後で観月にでも聞いてみよう。

「ヒカルおねえちゃん!ヒカルおねえちゃん!!」
青空が私の足に抱きつく―――服は破れてるけど、怪我は擦り傷ぐらいで大した事なさそうだ。良かった・・・本当に。

私がハンカチを取り出して、涙で汚れた顔を綺麗に拭いてあげていると背後の茂みが掻き分けられて春風とホタの姿が現れる。
「ヒカルちゃん、青空ちゃん!!・・・良かったぁ!!」
二人が私達の姿を見つけて駆け寄って来る。私も、春風の顔を見て凄く安心した。

だから、少し気が緩んでいたのかもしれない。

突然、視界が下にずれた。
崩壊音―――先程、化け物が落下した時の衝撃で崖の先端部が崩落し始めていた。
早く安全な所に移動するべきだった―――違う、今はそんな事考えてる暇は無い。

青空を抱えて走った。
足元が見る見るうちに斜めに傾く。後ろの足場は既に崩れ落ちている。

向こう側で春風とホタが走り寄ってきた―――ダメ、こっちに来たら巻き込まれる。

一際大きな崩落音――目の前で完全に足場が大地と割断された。
全身が落下の速度に絡め取られる。

嫌だ・・・折角、お姉ちゃんらしく青空を助けたのに・・・。
春風に褒めてもらいたいのに・・・。

「青空、目を瞑って口を塞いで!」
「・・・うん!」
私の言う事を青空はすぐに実行する・・・良い子だね。
抱えていた青空の背中を右手で持ち上げ、振りかぶる。
「春風!!」
突然大声で名前を呼ばれた春風がその場で立ち止まる―――良いよ、そのまま・・・。
加速する落下感を強引に無視、私は全身のバネを使って跳んだ。
そして残された力を全て振り絞って、青空を春風に放り投げた。

緩い放物線を描いて、飛んできた青空の身体を春風が全身を使って抱きとめる。
衝撃で尻餅をついたけど・・・青空は春風の胸に抱かれている。
春風の大きな胸だったら、クッションになるだろうから・・・きっと青空は大丈夫。

一瞬の浮遊感―――重力に引き摺り込まれるような加速感へ変貌。

もう、自分の足元には何も無い。何mくらいあるだろうか、かなり下に地面が見える。
幾らなんでも受身でどうこうできる高さじゃないなぁ。

不自由な加速を続ける私と、春風の視線が合った。
「ヒカルちゃん!!いやぁ!!」
悲愴な表情で叫ぶ春風が涙混じりに叫ぶ―――泣かせちゃった。ごめんね。
ホタが今にも私に飛びつきそうな春風の身体を掴んで抑えてる。ありがとう。

二人の姿が見えなくなっちゃう。

最後に、私の笑顔を見て・・・私を褒めて・・・。

大好きな家族を守ったよ。私、頑張ったよ。

春風お姉ちゃん・・・褒めて・・・。

大好きな春風お姉ちゃん。
好き。好き。

みんな大好き。


私の意識が真っ黒に塗り潰される、その時まで家族の姿が何度も蘇った。

幸せ。

衝撃――暗転――消失。



::::::::::::



「ヒカルちゃん!!」

聞こえる。

「―――ちゃん!!ヒカ――ゃん!!お願い!!目を覚まして!!」

春風が私の事を呼んでる。嗚咽交じりだ。早く、傍に居てあげなくちゃ・・・。


痛い。
頭が割れるように痛い。手も足も、全身の至る所から痛覚が発信されている。

でも、私の手の平からは痛さと一緒に優しい温かさが感じられた。
これは、春風の手だ・・・。

次第に大きくなる呼び声に答えるため、重たい瞼を開く。
私の頬にぽろぽろと水滴を零す春風の泣き顔が視界を覆っていた。
「春風・・・お姉ちゃん・・・」
「ヒカルちゃん!!」
春風が私の身体を抱きしめてくれる。お姉ちゃんの匂いだ・・・。
「良かった!良かった!!私・・・ヒカルちゃんが、心配で心配で・・・。良かった!」
春風が私の胸の中で声をあげて泣き続ける。
私はいつもそうしているように、春風の頭を優しく撫でてあげた。

生きて―――るんだ。自分でも信じられない。
でも・・・どうして、私は助かったんだろう?
周囲に視線を移すと、直ぐ真横に険しい断崖が映る。高さは、十メートル程はあるだろう。私の周りには崩落した岩盤や土砂が堆積して小山を作っていた。
「ヒカルちゃんはフレディに助けてもらったんですよ」
私の背後からホタの声が聞こえる。全身を蝕む痛苦のせいで振り向く事が出来ず、正面を向いたまま言葉を返す。
「・・・あのピンクの象が?どういう事?」
「きっとフレディも青空ちゃんを一緒に探してくれてたんだと思う。私達が居た崖の下に丁度フレディが居たらしくて、落ちてくるヒカルちゃんを背中で受けとめてくれたみたい」
確かに、幾らなんでもあの高さから冷たく硬い地面に叩きつけられてたら命は無かっただろう。以前触った時、フレディの身体は象なのに結構柔らかかったしクッションになってくれたのか・・・。
「お礼を言わなくちゃ・・・。フレディは?」
「私達が崖を降りてヒカルちゃんの所に辿り着いた時には居たんですけど、何時の間にかどこかに行っちゃったみたいで・・・。きっとにじちゃんの所に戻ったんだと思う」
そうか・・・。相変わらず不思議な生き物だけど、命の恩人にはお礼がしたい。今度から見かけた時には沢山御飯を食べさせてあげよう。

あ・・・。大切な事をまだ確認していなかった。
「そうだ、青空は!?青空は大丈夫なの?」
私が助かっても、青空が無事じゃなかったら意味がない。青空の顔が見たい。
ホタが私の視界の外に手招きをした。

怯えるような小さな足音。
「ヒカルおねえちゃん・・・ごめんなさい。ちょうちょ、おいかけてたから・・・ヒカルおねえちゃんが、いたいいたいで・・・ごめんなさい。ごめんなさい!」
私の前に涙と鼻水でクシャクシャになった表情の青空が居てくれた。
良かった・・・。

後ろでずっと、怯えて・・・怖くて何も言えずに居たんだ。
私が青空を探してる途中に感じた絶望を共有したような気分。
でも、私もちゃんとお姉ちゃんらしく妹を守れたんだ・・・。嬉しい。
感覚の無い左手ではなく、残った右手で青空の小さな手を握ってあげる。
「青空が元気で居てくれて、嬉しいよ。だから、もう泣かないで良いから。ね?」
小さく微笑んで伝えると、青空も少し明るい表情を取り戻してくれた。そのまま春風と一緒に私に抱きついてくれる。
―――それがとても嬉しい、嬉しい。

「ヒカルちゃんが気を失っていた時間はたぶん、数分間だと思う。頭を打ったのかもしれないと思って動かす訳にもいかないから、私が麓まで戻ってお医者さんを呼ぼうと思ってたところで丁度ヒカルちゃんが目を覚ましたの。ホタも凄く安心したけど、その左手だけは直ぐにお医者さんに診てもらわないと・・・」
ホタが少し表情を曇らせて言った。

私の左手は今、感覚が無い。指先がまるで動かない、くっ付いているのか千切れているのかすらも分からない状態だ。あの犬の口に突っ込んだ時に刻まれた傷の他に崖から落下している最中にもどこかにぶつけていたのかもしれない。
痛みを堪えて少し首を捻ると、左手が見えた。ハンカチと、春風のスカートの裾を引き裂いて作ったらしい包帯でグルグルに巻かれていたが、出血量が多すぎるのか既に赤黒く変色して含みきれない血液を布の端から滴らせていた。

「大丈夫、このぐらいなんてこと無いよ。早く、みんなの所に戻ろう」
そう言ってから私が立ち上がろうとする。春風と青空が心配そうに身を引いてから、私は足に力を込めて、右手で地面を押す・・・春風に肩を借りて何とか立ち上がることは出来たが、全身を侵食する虚脱感と痛苦が容赦なく襲い掛かってきた。出血し過ぎているのかもしれない・・・身体も妙に寒くなってきた、何だか視界もぼやけている。

急に膝から力が抜けて立っていることすら出来なくなった。

咄嗟に春風が私の身体を支えてくれた。
「やっぱり無理・・・。ホタ、すぐにお医者さんを呼んできますから、ここで待って―――」
ホタが言い終わる前に、私の身体が浮遊感に包まれる。
私の膝と背中に手を回した春風が見た目からは想像も出来ない力強さで私の身体を抱き上げてくれていた。
「は、春風・・・」
「ヒカルちゃん、すぐにお医者様の所へ連れて行ってあげるからね!」
そう言うと、私をお姫様のように抱えたまま春風が走り出す。
何時の間にか私を抱く春風の腕から伸びる手が、感覚の失せた私の左手を優しく握ってくれていた。消えていたはずの感覚が蘇る、優しい温もりと包み込むような柔らかさ。
「蛍ちゃん、青空ちゃんと一緒にみんなの所に戻って!私はヒカルちゃんを病院に連れて行くから!」
少しだけ振り向いて、春風が叫ぶ。
蛍の返事が届くよりも先に春風は走り去る。
流れ行く風景と共に映るホタの顔はいつもの呆れたような笑顔を浮かべていたみたいだった。

全力疾走で一直線に街の方向へ道無き道を駆け下りる。とても私を抱えたまま走っているとは思えない速度。
普段のおっとりとした春風の姿からは想像することも出来ない。

思わず心配になって声をかけてしまう。
「春風・・・私、大丈夫だから・・・。自分で歩けるから・・・そんなに無理したら、春風の方が倒れちゃうよ」
私の声を聞いて、前を向いたまま春風が答える。
「私はヒカルちゃんの『お姉ちゃん』なんだから、こんな時ぐらい妹のヒカルちゃんはいっぱい甘えて良いのよ」
一瞬、私の顔を覗き込んで微笑んでくれる。

まるで立場が逆じゃないか・・・。
これじゃあ私がお姫様で、春風が王子様みたい・・・。

こんな所で、憧れのお姫様になれるなんて思わなかった。それも、相手がいつも私のお姫様だったはずの春風だなんて・・・。
色々な事が起こりすぎて混濁する意識――でも今は、嬉しさが大半を占めている・・・。


ずっと森の中を走り通していたが、日の光が急に広がった。
少し開けた丘のような場所、眼下には街並みが広がり目的地の総合病院も目に映る。

「・・・もう少しだからね・・・ヒカルちゃん・・・」
ここまで休む事無く動き続けて来た春風の呼吸は、限界を告げるかのように乱れていた。
「春風、そんなに・・・無理しないで・・・」
私が心配そうに言うと春風は何かに気付いた様な表情を浮かべてから、近くにあった腰掛けるのには丁度良い高さの岩の上に私をそっと降ろした。
春風が座った私の前に膝立ちになる。
「包帯、取れちゃったね」
左手に巻きついていたはずの包帯が木立の中を走っているうちにどこかに飛んでいってしまったらしく、痛々しい傷が曝け出されていた。

春風が細い指先でゆっくりと私の左手を自分の口元に運ぶ。
「ちょっと染みるけど、我慢してね」
そう言うと、春風が舌先を伸ばして私の傷をゆっくり、優しく舐める。
「あ・・・ん、ひぁ!」
痛みが身体を引きつらせる―――快楽が肉体を刺激する。
突然生まれた未知の感覚に、自分の声とは思えない嬌声が零れてしまう。
春風が過敏な傷痕に舌を這わせる。どこか卑猥な音を立てながら時間をかけて少しずつ丁寧に・・・。頭から爪先まで、全身に奔る痛撃と痺れるような悦びが脳髄を犯す―――春風の舌が動くたびに私の体は弓なりに背筋を反らしてしまう。

「んぅ・・・あ、あ・・・、は、春風・・・もう良いよ・・・、これ以上したら・・・私・・・」
消え入りそうな声でなんとか伝えると、春風が顔を上げて私の顔を覗き込んでくる。
「うふふ、そうだね・・・。あんまりヒカルちゃんが可愛い声で鳴くから、つい夢中になっちゃった。続きは、お家に帰ってからにしましょうね」
少し淫らな匂いを漂わせながら春風が微笑むと、そのまま私と軽く唇を重ねる。
錆びた鉄の味ではなく、砂糖菓子のように甘い味がした。
それは今夜の秘め事を約束する時の・・・いつもの符合。

私が全身の熱に冒されたまま恍惚としている間に、春風が自身の服の袖を破いてまた包帯代わりにしてくれた。
でも、不思議と春風に消毒してもらってからは出血が治まっていた。

再び、春風が私を抱き上げる。
例によってお姫様抱っこだ―――ここは断固として譲れないらしい。

少し休めた事で、春風の呼吸も落ち着いていた。
再び疾風の如く山を駆け下りる。

なんだか体中の痛みも消えてきたせいか、楽しい気分になってきた。
こんな時なのに、春風とお喋りしたい―――普段なかなか聞けなかった事。

「ねぇ・・・春風は、アイツ―――王子様と、結婚とか・・・したいの?」
私の質問に疾走したまま答える春風。
「ふふ、したいなぁ結婚・・・。でも、私が待ち焦がれていた王子様は大事な家族で、可愛い弟だったの。だから・・・私も・・・どうすれば良いのかな?一生お嫁さんに行かなければ、ずっと家族で居られるかなぁ・・・」
困惑した感情を滲ませた返答。
春風の苦悩はずっと傍にいる私には手に取るように分かる。
ずっとずっと・・・待っていたのに・・・。
私じゃなくて、本当の王子様を。

「じゃあ・・・私も、ずっとお嫁さんに行かないよ」
―――そうすれば、ずっと春風と一緒に居られるし。

「そうだ・・・じゃあ、行くあてが無いんなら、私が春風をお嫁さんにもらってあげるよ!だって・・・私が最初の・・・春風の王子様だもん!」
我ながら、何を口走ってるんだろう。
私の普段からの妄想じゃないか。こんなの、春風に聞かれたら馬鹿にされちゃうかもしれない。
でも、春風はこんな私に笑顔を向けてくれる。
「あはは、良いよ。ヒカルちゃんとだったら・・・結婚して、ずっと一緒に居ようよ」

ああ、冗談でも良い。
嬉しい・・・嬉しいよ。春風と私はずっと一緒だよ。
大好きなんだよ。
愛してるんだよ、春風お姉ちゃん。

「春風お姉ちゃん、大好き」

「私も・・・大好きだよ、ヒカルちゃん」

私は春風の柔らかい胸に抱かれながら、幸福感に満たされて自然と笑い声が溢れた。
春風も一緒になって笑い出した。
二人の声が重なって静謐な山林に染み渡る。

ずっと一緒にいようね、春風お姉ちゃん。





翌日、月曜日。
普段どおりの日常に戻った。

結局、あの後病院に着いてから診察してもらったけど、その時には私の左手に深々と刻まれていたはずの醜い傷は子猫に引っ掻かれたようなものになっていた。必死な表情で診察してもらっていた私達も診ていた医者も拍子抜けしてしまった。消毒液を塗られただけで診察は終了、更に家に帰った時にはもう左手の傷は嘘のように消え去っていた。

「ヒカル姉じゃが倒したのは、野良犬などの亡霊が凝り集まった物の怪じゃろうな」
こういう事に詳しそうな観月に尋ねてみると、素早い返答が返ってきた。
「化け物が退治されたことで、その存在と発生した事象が全て消失、ヒカル姉じゃの怪我も全てが無かった事にされた、といった所じゃと思う」
なんだか良く分からないが、とりあえずあの化け物を退治したのは大正解だったらしい。。
どの道あんなもの放っておいたら遠からず誰か襲われていただろうし。

無事に家に帰ってきた私と春風を見て、家族みんなが安心した表情を浮かべていた。
青空はまた「ごめんなさい」と泣きついてくるので、心配しないように左手を見せてあげたらやっと安心してくれたみたいで笑顔を取り戻してくれた。

そして約束どおり夜は春風と・・・いつもより、沢山した・・・。

とりあえず、色々なことがあった日曜日のせいで今朝は少し寝不足だった。
春風は夜もずっと一緒だったはずなのに、今日もいつも通りホタと一緒に朝からお弁当を作ったりしていた・・・凄いなぁ、素直に感心してしまう。

「いってきまーす!」
立夏が大きな声で挨拶する。
続けて私達も玄関から続々と出て行く。なんだかまだ頭がぼーっとしている。
「ほら、ヒカルちゃん、しっかりして。リボンが曲がってるよ」
そう言うと私のリボンを春風が直してくれる。
甘い匂いが鼻腔をくすぐる。
「あ、ありがと、春風・・・」
何だか昨日の夜の事を思い出してしまって、赤くなってしまった。
「これじゃあ、夫婦みたい。でも、ヒカルちゃんが私の旦那様になってくれるから・・・良いのかな?」
春風が冗談めかした口調で言う。
私は・・・本気なんだけどなぁ・・・。

春風に手を引かれて玄関を出ると、霙姉やアイツが待っていた。
通い慣れた通学路を歩く。

道中、普段は王子様にベッタリの春風が今日は私の左手を握ってくれていた。
絡み合う指がほどけないようにしっかりと繋がれている。

春の日差しが眩い。
これから夏が来るのを告げるようで、今日は暑くなるのかもしれない。

今、四季の移り変わりを何度も共に迎えてきた愛しい姉が私の隣にいる。
それだけで嬉しかった。

なんだか抑えきれない衝動が私を突き動かす。
前を歩く霙姉とアイツに気付かれないように、そっと春風の頬にキスをした。
ちょっと驚いたような表情を浮かべる春風がとても可愛かった。
すごく、幸せ。
ずっと、一緒に居ようね。
私の大好きな春風お姉ちゃん。






08/06/29
珈琲みるく症候群
梅入
自作小説 | 11:05:30 | Comments(0)
コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。