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梅入

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Baby Princess(べびプリ)短編「灰かぶり姫は琴瑟相和の音色を望む」
春風お姉ちゃんとヒカルちゃんと結婚したいですこんにちわ。

という事で、べびプリ二次創作小説3作目が出来たのでうpします。

タイトルは、
「灰かぶり姫は琴瑟相和の音色を望む」

今までよりもちょっと長めです。
私としてはこのぐらいの長さ以上の方が書きやすいなぁと再認識させられました。


今のべびプリへの愛情をぶちまけました。
なるべく登場キャラも増やしました。流石に全員は無理でしたが、そこらへんはまた今度頑張ります。


方向性は・・・。
薄幸少女が一生懸命、メルヘン、家族愛、百合。

という具合です。いつもとあんまり変わってないような気もします。

あ、でもいつもより臓物臭が多めです、べびプリなのに。
そういうの苦手な方は気をつけてください。あと病んでる子も出てきますのでその辺も。

忙しくてリリカルなのはの小説書けなかった分、戦闘描写への欲求不満が爆発した気がします。



前置きはこんなところで。

「続きを読む」で全文表示です。





「灰かぶり姫は琴瑟相和の音色を望む」


昔々、とある町のお話。


薄幸少女、春風は意地悪な義母と性悪な姉妹3人に苛められながらも、いつかは王子様と結婚して幸せになれる事を信じて日々を暮らしていた。

今日は年に一度開かれる、舞踏会の開催日。
義母の海晴がリビングに集まった春風以外の娘達に檄を飛ばす。
「今日は待ちに待った舞踏会よ!あなた達もしっかりお化粧して、王子様の股間の剣を引っこ抜くぐらいの気合で舐めたり噛んだりしなくちゃ駄目よ!今までずっと誰にも姿を見せた事の無い王子様が初めてお目見えするんだから、絶対に王家に取り入ってみせるわ!そして気象庁を牛耳って、私以外の天然系ドジっ子キャスターを一人残らず解雇するの!そうすれば私の人気は不動のものになるのよ!」
海晴の目は欲望に濡れ、異常な熱気を孕んでいた。

そんな海晴を呆れた目で見ながら三女、吹雪は純白の綿毛で丁寧に編まれたフワフワのドレスに着替えながら解答する。
「海晴お母様・・・この世界観だと気象庁と言う国家機関は存在していません。それに男性器を口に含む等の行為は私のような小さな体では難しいのではないでしょうか。私の優位はせいぜい初潮が来ていないので妊娠を気にしなくても良いといった程度ですし、王子が特殊な性癖で私のような子供でも性欲の対象に見てくれるのを祈るのみです」

わが子ながら末恐ろしい―――海晴は自身に完璧なメイクを施しながら、露出の多いドレスに身を包む。所々がシースルー素材で作られた高価なドレスは海晴のヤル気を物語るに十分だった。
「そうね!どうせヤルなら今晩で王子様の子種の一つや二つ貰ってこなくちゃね!吹雪ちゃんは本当に頭が良いわね。ちなみに気象庁は無ければ作ればいいのよ、そういう時こその国家権力だしね♪・・・という事だから、そこで嫌々着替えてる子!しっかり頑張るのよ!」
海晴が力強く指差した先には、長女の麗がのろのろと着替えていた。
「あのねぇ、なんで私がこんな事に参加しなくちゃいけないのよ!男なんて大嫌い!何度も言ってるでしょ!私の初めては『E233系』の連結部分で貫いてもらうって決めてるんだから!」
文句を言いながら麗は鉄道会社の制服そのままのドレス?に着替える。
ちなみに異常な程に似合う。その手の人間であれば涎と共に精液も零れ出すことは間違いない。

その横で、次女の夕凪がせっせと着替える。桃色を基調としたフリルが沢山ついた可愛いドレスで、何故か付属用品として先端がくの字に折れた魔法のステッキもある。
しっかり着替え終わった夕凪は舞踏会に行くと言うよりも、化け物を倒してカードに封印したり、親友(百合的な意味で)をオーバーキルしたりするような魔法少女に見えた。
「麗お姉ちゃん、もしかしたら王子様も電車の事が好きな人かもしれないよ?そうしたら、国を挙げて鉄道事業に投資できるかもね♪」
夕凪の言葉に麗の心が動く。
「え・・・、じゃあ・・・もしかして蒸気機関車を復活させたりも出来るの!?いや、全国で貧困に喘ぐ地方路線を救済したり、廃線してしまった路線を復活させたりも出来るって事よね!?良いわ!素敵!!これからは自動車なんて排気ガスを吐き出す下種な乗り物は廃止よ!全て路面電車に切り替えるの!一家に一台路面電車を配給!ああ、素敵!素敵だわ!!」
麗がトゥルー世界に旅立った事を確認すると、夕凪が海晴に言う。
「海晴お母さん、麗ちゃんの扱い方はこうしないと駄目って言ったでしょ。姉妹で一番夢見がちな子なんだから。上手く夢を見させておいて騙してあげなくちゃ♪なんだかんだ言って王子様に処女膜ブチ破ってもらえば男嫌いも治るよ。だって麗ちゃん毎日電車の写真見ながらオナニーしてるし、きっと心の底では欲求不満で男を求めてるんだからさ♪」

子供らしい見た目からは想像もできない言葉を次々と吐き出す夕凪に海晴が顔を引きつらせる。
「そ、そうね。ああ、夕凪ちゃんも似合ってるわよ、そのお洋服。女の子っぽくて可愛いわよ」
海晴は夕凪の頭を撫でる。すると、手の平の下から元気な声が聞こえる。
「ありがとう、海晴お母さん。きっとこの格好なら王子様がペド趣味でオタだったら確実に釣れますよね。あ、もちろんニーソは装着してるけどパンツは履いてないんですよ、直ぐに行為を始められるように配慮しました。それと裏ルートで手に入れた排卵誘発剤も服用済みですから、今日は確実に孕んじゃうように準備万端です!」

あまりにも出来すぎた娘も困りものだ。
海晴は夕凪が王子様に取り入って何がしたいのかと聞いたときの事を思い出す。
「全国から魔法使いを集めて、一人ずつに魔法の使い方を教えてもらいたいなぁ。そうすれば夕凪、立派な恋の魔法使いになれるんだよ!で、使用済みの魔法使いの人は池に重石と一緒に沈めてみたり、焼き鏝を当ててみたり、血の色が青くなるまで出させてみたり、色んな事して遊んでみたいなぁ。何より・・・夕凪以外に魔法使いなんていらないもんね♪」
海晴の背筋に悪寒が走る。
我が子ながら頼りになるのか、なりすぎるのか判断に迷う。

「まぁ、何にせよ4人も行くんだから、一人ぐらいは王子様の目に留まるのよ!」
やっと着替え終わったらしい吹雪が海晴の声に答える。
「ですが、既婚者で子持ちの女性が王子様から寵愛を受けたという事例は存在しないので、海晴お母様が選ばれるという可能性は各種統計データから算出した結果1%以下となり、実質私達3人だけがまともな戦力です」

衝撃的事実。
海晴ががっくりとうなだれる。
「そう・・・。あはは、そうなんだ。良いわよ!別に!1%でも望みがあるんなら挑戦するわよ!子供には出来ないような濃厚かつディープなプレイで王子様のが枯れちゃうぐらい頑張るんだから!」
涙目で訴える海晴。
途端に気まずい空気が周囲を満たす。


重い沈黙―――それを破る声。

「あの、春風も王子様に会いに行っても良いですか?きっと王子様は私の事を待ってるんです」
ボロボロの服に身を包んだ、一家の下女である春風だった。
元々はこの家の住人だったが、昼ドラ的な一族での財産争いや愛憎劇を経て今は元自宅で奴隷同然の扱いを受けていた。

麗が高圧的な態度で春風の前に赴き、顔面に拳を叩き込む。
肉と骨が激突した打撃音が響き、春風はその場で倒れてしまう。
「何言ってるの!?あんた、また頭に春風が吹いちゃってるんじゃないでしょうね!この間二度と下らない事言えない様に鞭で散々引っぱたいてあげたのに、まだ分かんないのかしら」
春風が頬を押さえながら、上目遣いに他の姉妹に視線を送りながら言う。
「でも、王子様は私のモノなんです!絶対に!私だけのもの!きっと王子様は私に会えばその場で赤ちゃん生まれちゃうぐらい濃厚なキスをしてくれます!だから・・・だから私も連れて行って下さい!」

春風が言い終わると同時に鈍い金属音が室内の空気を叩いた。
夕凪が手に持った魔法のステッキというか「バールのようなもの」で春風の頭部を滅多打ちにしていた。
頭蓋骨を叩き割りかねない激音が機械的なリズムをもって打ち鳴らされる。
春風の頭部からおびただしい出血が溢れ、床板に染み込む。

その様子を見て、流石に引いた海晴と麗が夕凪を取り押さえる。
「夕凪ちゃん、もう良いから、ね?春風も分かったって言ってるから!」
夕凪が身体を押さえる二人の顔を見つめてからゆっくりと凶器を下げ、春風の頭に唾を吐きかける。その瞳は中心部分から赤く輝き、魔性の力に魅入られているかのようだった。
「春風ちゃんみたいに自分の立場が分かってない人が一番イライラするんだよね。だから、しっかりと躾けてあげなくちゃ。今日はこのぐらいにしてあげるけど、明日帰ってきたらちゃんとお仕置きしてあげるからね。あ、そうそう通販で頼んでおいた『ユダの揺り籠』セットが届いたから、それで犯してあげるね」

ちなみに夕凪は姉妹で「最も覚醒させてはいけない」とされている。
普段は夢見る魔法少女だが、一皮向けばとんでもないリアリストかつサディストなのだ。


その後、何やら変な空気になってしまったので、これ以上もめると厄介と判断した海晴は全員を外で待機させていた馬車に強引に乗せてお城へと出発していった。



家に残されたのは、頭部を割られて血だるまになった一人の幸薄い少女だけだった。
「王子様・・・会いたい、会いたいよぅ」
か細い声が、蝋燭の火も消されて闇に包まれた室内に霧散する。


「その願い、叶えてあげるわよ」

何処からともなく聞こえる声。突然室内が優しい明かりに照らされる。
光の中心部には、学校の制服に樫の木でできた杖を持った今時のラノベに登場していそうな姿の魔法使いヒカルが居た。
光の粒子を纏いながら魔法使いヒカルはそのまま春風の傍まで進み、杖を掲げて呪文を唱える。温かい光が春風の体を包み、怪我があっという間に回復。床に散らばった血液も綺麗に消えて、元通りの木目が現れる。

「大丈夫、春風?」
まだ意識がはっきりしないまま倒れている春風の頬を撫でながらヒカルが問いかける。

瞼が震えてから、パッと目を覚ます春風。

そしてキス。
春風がヒカルの唇を無理矢理こじ開け、舌を入れて口内を蹂躙する。
突然の事に抵抗する事もできなかったヒカルだったが、春風がスカートのチャックを下ろそうとした瞬間の隙を突いて身体を捻って窮地を脱する。

「はぁはぁ・・・な、何するのよ!」

春風が唇から垂れ落ちる涎を手で擦りながら起き上がる。
「永い眠りについていたお姫様は、目覚めてから初めて見た人の事を大好きになっちゃうんです。そしてそんなお姫様を助けるのは王子様って決まってるんです。そして今、私を目覚めさせてくれたあなたが私の王子様に決定です!」

一方的な婚約宣言。
ヒカルは「ああ、この娘には何を言っても無駄だな」と悟った。

それでも何とか仕事をこなそうと努める一生懸命なヒカル。
「ちょっと待って!私は王子様じゃなくて魔法使いのヒカル!眠ってるのを目覚めさせるのはまた別の話だから!」
声が届いているのか怪しい春風はヒカルにすり寄って柔らかい胸に抱きついた。
「ヒカルちゃんは王子様じゃないの?」
まるで年齢が一桁台に下がったかのような少女めいたそぶりで春風が問う。
「そうだよ、私は魔法使い。春風が舞踏会に行けるようにドレスや馬車を用意しにきたの。ちなみに魔法使いの試験みたいなものの一環でこの案件を上手く片付けると私は晴れて一人前の魔法使いになれるんだよ」
春風が話している間もずっと肌が重なりそうな距離に顔を近づけてくるものだから、ヒカルは顔を真っ赤にしながらも説明を続けた。
「だから、ちょっと台所から南瓜を持ってきて、あと鼠とかも欲しいんだけど・・・。って、ちょっと首筋舐めないでよ!あっ・・・そんなトコに指、入れちゃ・・・だめぇ!!」
初めて体験する快感に膝を着いてしまうヒカル。その姿を見てねっとりとした粘着質の笑顔を浮かべながら濡れた指先を舐める春風。
「南瓜と鼠を持ってくればいいの?ヒカルちゃん、変わったプレイが好きなんだね」
明らかに勘違いしている春風が台所から南瓜を取り出し、鼠を捕まえてくるまでの間にヒカルは幾度と無く絶頂に堕とされた。



その後、ヒカルが春風の甘い匂いで満たされながらも何とか南瓜の馬車と鼠の御者を用意できた。
春風は純白のシルクに彩られたドレス・・・というかウェディングドレスに身を包んでいた。本人たっての希望である。
「えーと、ドレスも馬車も夜の十二時になったら全部消えちゃうから、それまでに家に戻るんだよ。舞踏会の最中も時計はしっかり見るようにね」
馬車の窓から少し顔を出しながら春風が笑顔で答える。
「分かったよヒカルちゃん。頑張って王子様を私のモノにしてくるね!それで、帰ってきたらエッチの続きもしようね♪」
ヒカルの顔が再び真っ赤に染まる。
「あー、もう出発!早く行かないと舞踏会終わっちゃうでしょ!」
馬車が動き出し、春風が夢の世界へと踏み込んでいく。
ヒカルは馬車が見えなくなるまで手を振って送り出した。

少しだけ、唇に残る春風との余韻が恋しくなった。



:::::


舞踏会の会場は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。

王子様の肉棒と子種を求める女達の熾烈な争い。
剣戟の嵐がダンスホールを蹂躙していた。
ある者は背後から忍び寄りレイピアの一突きでライバルを葬り、ある者は遠距離から対物狙撃銃でライバルの頭部を一撃で粉砕・・・。


海晴達も入場時に一つずつ渡された水晶のペンダント。
老獪な執事が輝く首飾りを手渡しながら告げた。
「ペンダントを舞踏会の最後に最も多く持っていた者が王子と結ばれる。今宵はそういった趣旨でございます。心行くまで存分に踊ってくださるようお願い致します」
そう言って恭しく頭を垂れる。

そして入場口や舞踏会の壁面、床に至るまでそこかしこに転がる武器の数々。
参加者全員が武器を取り、首飾りを奪い合う。
舞踏会に集まった乙女達が修羅となり羅刹となった。
一国の王子と婚姻できるとなれば、女は魔物に化ける。

敵を潰し、星を得る。シンプルなルールがこの小さな地獄を支配していた。



「これは・・・想定以上に退廃的な雰囲気ですね。舞踏会と言うよりも古代ローマのコロシアムのようなものでしょうか」
周囲の死臭を吸い込みながら吹雪が感想を告げる。
「ちょっと、こんなの聞いてないわよ!王子様がどうこうよりも生きて帰れるの!?」
麗が頭部目掛けて放たれた毒矢を膝を落としてかわす―――ほぼ同時にベレー帽が弾き飛ばれる。
「まぁ、こういう事もあるかなぁ・・・って思ってたけどねぇ」
夕凪が魔法のステッキ=「バールのようなもの」で振り下ろされた剣を弾き、すれ違い様に相手の腹部を全力で叩く、上半身と下半身を分断された死体が臓物をぶち撒けながらテーブルの上に転がった。
「もう見渡す限り屍の山ねぇ。参加申込書に『舞踏会(武芸に自信のある方歓迎)』って書いてあったからこんな事だろうと思ってたけどね♪最前線で戦えるのは夕凪ちゃんぐらいかしら」
海晴は安全なテーブルの下に潜り込みながら言う。

吹雪と麗もテーブルの下に避難。
「「「頑張って!夕凪ちゃん!!」」」
3人同時に声を揃えて応援。唯一の戦力である夕凪に全てを託す。

夕凪が3人に向かって頷く。
そして同時に血肉が舞い散る会場ど真ん中に奔る!!

立ちはだかる無数の敵。
一人残らず夕凪は魔法のステッキ=「バールのようなもの」で殴殺。
甲冑に身を包み、大剣を横薙ぎに振るわれれば相手の頭上を跳び越す程に跳躍、兜ごと相手の頭部を凹ませる。
着地した瞬間、ガトリング砲の掃射を受ける。すぐさま手に持ったバール(魔法のステッキ)を素早く回転させて全ての弾丸を弾き飛ばす。そして一瞬の隙をついてテーブル上に置いてあったナイフを相手の喉元に投擲―――直撃。

夕凪は超人的な戦闘力をフルに発揮。戦闘開始から僅か数分でたすき掛けにしたポーチには零れ落ちる程に赤く汚れたペンダントが詰め込まれていた。

「夕凪は魔法使いになるんだよ。絶対に、絶対に・・・」
薄笑いを浮かべながら夕凪は死肉が飛び散る床からペンダントを拾い上げる。
その目は夢見る少女そのもの。



その頃、テーブルの下に隠れた三人。

「ちょ、ちょっとテーブルの下まで汚い血が入ってきてるじゃない!吹雪、ちょっとそっち詰めて頂戴」
麗が吹雪の身体に密着しながらテーブルの奥へと動く。

テーブルのシーツを少し捲って外の状況を確認する海晴。
「うーん、どうやら夕凪ちゃんがかなり頑張ってるみたいね。一度ああなった夕凪ちゃんを止められる人なんて滅多に居ないからきっとこのまま夕凪ちゃんが勝つわね。そうしたら明日からはこのお城で暮らせるわ!!」

「夕凪の戦闘能力なら、重火器を装備した程度の敵なんて問題になりません。あの異質な身体能力は狙撃されたライフル弾すらも素手で掴みますし。存在そのものが『魔法』じみています」
吹雪がテーブルの上からちゃっかり持ってきた一流パティシエが作った最高級のショートケーキを食べながら呟いた。


状況にあっさり順応した二人の姿を見て麗は一層興奮する。
「どうしてそんなに冷静でいられるの!?周りで殺し合いしてるのよ!?私たちだって見付かったら直ぐに狙われちゃうわよ!もう嫌!夕凪を連れ戻して一刻も早く帰る!」
麗がテーブルの下から飛び出す。
テーブルの下から残された二人の制止の声が聞こえたが無視。
麗は夕凪の姿を探して駆け出した。

人間のパーツや内容物があらゆる場所にぶち撒けられ、眼球にまで死臭が染み込んでくるのが分かるほどだった。
一歩踏み出すたびに靴底が赤く汚れ、足元から不快な感触が伝わる。
まるで引き千切られた赤い肉の絨毯を歩いているような最悪の気分。


「夕凪・・・どこ・・・」

妹の姿を探す麗。
突然、地震が起きた時のように視界がぶれた。

麗の肩を貫いた矢が、先端部分から血を滴らせていた。

衝撃で床に倒れる―――背後から放たれたボーガンの矢が麗の肩から生えていた。
「い・・・痛い・・・。嫌、もう嫌・・・」
穴の開いた肩から熱が広がり、異物感が全身に伝わる。
床に倒れこんだ麗に狙撃主が姿を見せる。
見たことも無い自分と齢の変わらなさそうな少女だった。
少女は戦いの最中に片目を鋭い刃で斬り潰されていた。そのハンデを補うための射撃武器が彼女の持つ狩猟用ボーガンだった。

暗い笑顔を顔面にこびり付かせながら少女が麗にトドメの一撃を至近距離から放つために照準を合わせる。
「いや、嫌!助けて!こんなの嫌!もっともっと大好きな電車にも乗りたいし、私の事分かってくれる男の人ともいつか会いたいのに!!」
両目に涙を浮かべる麗。
しかし生殺与奪の権利を握る狙撃主は歪んだ口元を少しだけ広げる。
「シンジャエ」
ボーガンの引き金にかかった指が絞られる。
恐怖のあまりに麗が目を瞑る。震える自身の身体を抱くように両手で肩を掴む。


空気を切り裂く音が響いた。
ほぼ同時に床を砕く衝撃。
少し遅れて何かが落ちる音が二回。

麗は固く閉じていた両目を開ける。

目前には先程まで自分の命を狙っていたはずの少女の頭が斜めに切り落とされ、うどん玉のような脳味噌が零れていた。
そして床に転がった眼球を踏み潰しながら少女の所持していたペンダントを拾う人物。


純潔を示すはずの白いウェディングドレスは返り血によって真っ赤に染まっていた。
スカートの裾からは含みきれない血液が常に垂れ落ちている。
ガラスで出来た靴は死肉と汚物に塗れて透明度を失っていた。
そして右手には長柄の戦斧―――まるで箒のように軽々と扱う。
美しい琥珀色の髪。灼熱色の瞳。見る者を夢幻の世界に引きずり込むような魅力。

春風だった。



麗は赤い貴人に見蕩れていた。
―――こんなに綺麗な人、私の町には居ないわよね・・・。それに何なの、この吸い込まれそうな感覚・・・。

いつものボロを身に纏い、髪も汚いまま、化粧もさせてもらえない春風の姿しか見ていない麗は煌びやかな女性に生まれ変わった春風に気付く事が出来なかった。

戦利品のペンダントを拾い終えた春風が麗に濁った瞳を向ける。
「麗ちゃんも・・・私の邪魔・・・するんですか?私の王子様・・・奪おうとしてるんですか?」
全身から沸き立つ果実の腐臭を思わせる甘い臭いを振り撒きながら春風が麗に問いかけた。
「し、しません!!お、お願いだから・・・助けて・・・。そ、そうだ・・・ほらコレもあげるから・・・お願い・・・!」
首にかけていたペンダントを春風に差し出す。
春風は麗からペンダントを受け取ると満足そうな笑顔を浮かべる。
「麗ちゃんは良い子だね・・・。ちょっと痛いけど、我慢してね」
春風が麗の肩に突き刺さったままの矢を掴み、一息で引き抜いた。
突然の痛みに、押し倒された麗の背筋が弓のようにしなる。
「良かったね、骨は砕けてなかったみたい・・・。でも黴菌が入るといけないから消毒してあげるね」
春風は麗の上着を剥ぎ取って傷口を確認すると、そこに舌を這わせる。
「うぁ、・・・や、やめて・・・い、いたい・・・」
穿たれた穴の中に舌先が侵入して肉を抉るように舐める。
春風の動きに合わせて麗の足先が跳ねる。
苦痛と熱と快感が麗の全身を冒す。浮遊感を伴う波が麗の意識を攫う。

しばらく続いた愛撫のような治療が終わった時には麗は口元から涎を垂らし絶頂していた。
満足そうな表情を浮かべた春風が麗の傷口に優しくハンカチをあてながら言う。
「それじゃあ、もうここは危ないからなるべく端の方に隠れててね。私は残った人達の相手をしにいくから・・・」
そう言うと、春風は振り返ることも無く再び血風舞い散る舞台に駆け戻っていった。


一人残された麗は虚ろな表情のままでその後姿に見蕩れていた。
「・・・そう言えば、なんであの人、私の名前・・・知ってたのかしら・・・?」
残された疑問に思いを馳せながらも一度海晴達の下に戻ろうと思い、来た道を振り返る。
そして視界に入ったのは入場口付近からダンスホールの中ほどまでの景色だった。

動く者は何一つ無い。
重火器を装備した者も肉厚な甲冑を身に纏った者も遠距離からライフルで狙撃していた者も皆一様に両断されていた。麗はもう嗅ぎなれたはずの死臭が呼吸と共に舌を痺れさせるのを感じた。

先程自分を助けた花嫁のウェディングドレスが赤く染め上げられていた理由を知った。
「あんな斧一本で・・・ここに居た何十人もの相手を殺してきたっていうの・・・?」
恐怖で膝が震える、しかし同時に胸に熱が籠もるのを感じた。

―――カッコイイ。

どんな相手も圧倒的な力でねじ伏せる。そんな純粋な力に麗は心を奪われていた。
「また、あの人に会える・・・かな?」





会場の半分に死が広がった時、最前線では夕凪が踊り続けていた。
手に持ったバール(魔法のステッキのようなもの)には血肉がこびり付き獲物を抉る喜びに震えている。

しかし快進撃を続ける夕凪の前に一人の少女が待ち構えていた。

ツインテール、つり目、気の強い猫を思い起こさせる容姿、騎士服を身に付けた細身の麗人。
隣国のお姫様である氷柱だった。
「べ、別にこんな貧乏国の王子様が好きでここに来たんじゃないんだからね!変な女と結婚でもされて私の国にまで迷惑掛かってきたら面倒だから守ってあげてるだけなんだから!」
見事なまでのツンデレぶりだった。通称「ツンデレプリンセス」たる所以である。


夕凪は氷柱のセリフなど一切耳にせず、バールを振り上げて突撃。
氷柱目掛けて振り下ろされた鉄の牙―――鋭い金属音が響く。

氷柱はその手に持ったスピアで凶悪な一撃を受けとめていた。
夕凪は一旦氷柱から離れて距離を取る。

「あなた、やるわね・・・。でも、まだ小さい子だから手加減はしてあげる」
氷柱が槍を構える。先端部分が自身の名を示すとおり氷柱状に鋭く尖った刺突専用槍。

夕凪が再度氷柱に向かって走り出す。しかし今度は途中で軌道を変える。近くにあった支柱に向かって跳躍/壁を蹴る―――変速軌道から氷柱の顔面目掛けてバールを叩きつけようとする。
しかし、その程度のフェイントは氷柱には通じない。バールの一撃を槍でいなし、すれ違い様に夕凪の首筋に当身をして気絶させようとした―――瞬間。氷柱の眼前が暗闇に包まれる。
夕凪は空中で身体を捻り、テーブルから拝借し左手で隠していた一掴み分もの胡椒の粉を氷柱の顔面にぶちまけていた。結果、氷柱は視力を潰され、喉を焼かれてむせ返る。

夕凪が再々度バールを構え、今度こそ氷柱の頭部を胴体から千切り飛ばすために跳躍しようとした。
しかし、夕凪は動けなかった。
足が地面に着いていない―――万力のような力で頭を掴まれていた。
誰に?

春風に。

夕凪が春風に頭を掴まれたまま濁音混じりの声を上げる。
「オマエ・・・誰だ・・・」
春風が笑顔を絶やさずに返す。
「夕凪ちゃんの大好きな、魔法使いさんに助けてもらったんですよ」
言い終わると同時に、春風は槍投げ競技のモーションから全力で夕凪を壁面に向かって投擲。
大理石で出来た壁が爆砕、夕凪が噴煙をあげる瓦礫の中で気を失った。


何時の間にか、周囲は静寂に包まれていた。
この舞踏会で立っている者は今や春風と氷柱だけであった。

「さぁ、あなたが最後ですよ。大人しく私にペンダントを下さい、そうすれば痛い事しないであげますよ」
既に何人もの人間を破壊した春風の戦斧は血脂で異質な光を纏い、刃こぼれした部分には餌食となった者の肉や髪がこびり付いていた。

視力の回復した氷柱は眼前に現れた新しい敵を見据える。
「助けてくれた・・・って訳じゃ無さそうね。来るなら来なさい!」

春風の瞳が赤く輝く―――王子様にもう少しで会えるという喜びで絶頂寸前。
目の前の少女を肉塊に変えれば王子様に会える。
春風の歓喜が歪な叫びとなって喉を振るわせる。
「王子様、王子様王子様王子様、私の、私の王子様!!好き!大好き!!!私だけの王子様!!今、会いに行きますね!!」
春風が手に持っていた大量のペンダントを床に広がった血溜まりに投げ捨てる。
鋼鉄製の戦斧を片手で担ぎ上げ、氷柱に向かって砲弾の如く突進開始。


氷柱は隙だらけで突っ込んでくる春風の額目掛けて槍を突き出す。
槍の先端が春風の眉間に突き刺さる―――寸前で停止。
春風は氷柱の槍刃を素手で掴んで握り潰していた。
か弱い破砕音と共にチタン製の刃がガラス片のように散らばり落ちる。
「嘘!?化け物!!」
春風は槍を砕いたその手で氷柱の腹部に拳を叩き込む。
鳩尾を打ち抜かれた氷柱は吐瀉物を撒き散らしながら高級ワインの並べられたテーブルに吹き飛ばされた。
酒瓶とテーブルが破砕音と共に砕け、氷柱の姿がテーブルの残骸に隠れる。

春風は床を擦る鉄塊を引き摺りながら氷柱の元へと歩を進める。
「さぁ、これで最後ですよ。早く王子様と会いたいなぁ。子供は何人作ろうかしら・・・?沢山沢山・・・19人ぐらいは欲しいですね♪」
戦斧を大上段に振り上げながら春風がもうすぐ訪れるであろう幸せに思いを馳せる。
そしてテーブルの残骸諸共氷柱を叩き潰そうと凶器を振り下ろす。
砕ける木片、飛び散るガラス片、大理石で出来た床を割断する衝撃が両手を痺れさせる。

ただ、肉を切り潰し、骨を叩き割る感触だけが無かった・・・。

春風の視界の外。
氷柱は柔軟な身体を活かして春風の一撃を受ける寸前に跳んでいた。
そしてテーブルの影に落ちていた誰かの遺品―――短機関銃を両手に持ってフルオートで春風へ向けて発射。950~1000発/分で放たれた二丁分の弾丸80発は轟音を伴い春風に飛来する。

確実に死を受け入れるタイミングだった。
しかし春風の体は死を拒否するために動く。

床に突き刺さったままの斧を手放し、足元に転がる死体を両手で掴み上げて肉の盾を作った。
弾丸が死肉を叩き潰し挽肉へと変える音が春風の耳元に届く。

氷柱の両手から響く爆裂音が収まる。
手の平に汗が滲んでいくのを感じる。

直撃弾―――零。

春風が壊れてしまった傘を投げ捨てるかのように穴だらけの骸を床に落とす。

「あんたみたいな化け物・・・生かしておけないわね・・・。私の大切なユキにとって害悪になるわ」
氷柱が弾切れの銃を投げ捨て、腰に手を伸ばし鞘に収められていた剣を引き抜く。

右手には細身で先端の鋭く尖った刺突用の片手剣―――レイピア。
左手にはパリーイング・ダガーと呼ばれる敵の攻撃を受け流す短剣―――マンゴーシュ。
十七世紀初頭に広まった決闘用の剣術。
春風を射抜くような鋭い視線で睨み、構える。


春風はそんな氷柱を見て、無表情のままに床に突き刺さった斧を引き抜き両手で力強く握り締める。
「なんで・・・そんなに邪魔するんですか?王子様は私に会いたいんですよ?早く・・・早く・・・会いたいのに!!」
春風が肉食獣の如く跳び出す―――全力をもって横薙ぎに振るわれる鉄塊。
氷柱が左手のダガーで斧刃の軌道を逸らす/激音と衝撃―――ダガーが跡形も無く砕け散り、氷柱の左手も骨肉の悲鳴と共に砕けた。

しかし、春風渾身の一撃を回避する事に成功。

右手に持った一撃必殺のレイピアで春風の心臓を穿つ―――いくら化け物でもこれで・・・。
「これで・・・終わりよ!!」
氷柱の刺突剣が空気を焼く。
寸分の狂いも無く春風の心臓を貫くために胸骨の隙間目掛けて音速を超えて放たれた一撃。

レイピアの先端部が一瞬で風穴を穿つ―――春風の手の平に。

春風は左手を翳し、直死の刺突を受けとめていた。
穴の開いた左手をそのまま握り締めてレイピアの動きを封じる。
残った右手で氷柱の顔面を圧搾。そして氷柱を片手で持ち上げたまま疾走。
「私の邪魔・・・しないで!!」
氷柱の体を壁面に全力で叩きつける。
爆発音を思わせる轟音が城全体を揺るがし、壁面を貫徹。瓦礫と共に氷柱の姿が地上50mの高さから叩き落されていった。
悲鳴一つあげられないまま氷柱の姿が夜闇に溶け消えた。


外気が会場に流れ込み、溜め込まれていた死臭が満点の夜空に排出される。
春風は左手に突き刺さったままのレイピアを引き抜き投げ捨てる。
自然と笑いがこみ上げる。
少女らしい可愛い声で笑う春風はとても幸せそうだった。




その頃、テーブル下で隠れ続けていた海晴、吹雪、麗が少しだけ顔を出して外の様子を窺っていた。
「どうやら終わったみたいね・・・。あのイカレタ花嫁が皆殺しにしたみたいだけど」
海晴は隙を見て会場内の所々にある高級な調度品を集めてきていた。今はそれらをテーブルクロスで作った風呂敷に一生懸命詰め込んでいる。
「何とかしてこの日のために用意したドレス代の元ぐらいは取らないとね。吹雪ちゃん、そっちはどう?」
テーブル下の反対側では吹雪が一生懸命に高級なフルーツを風呂敷に詰めていた。
「出来る限り高級なフルーツを選んだつもりです。このマスクメロン一つで一万円程度はすると思います・・・しかし四人分の元を取るにはこのメロンだけでも40個は持ち帰らないといけません」
海晴と吹雪が二人で頭を抱えて悩む。
その横で麗が顔を引きつらせながら言う。
「まったく・・・良くそんな余裕があるわよね。この馬鹿げた騒ぎが終わったんなら早く帰りたいわ。夕凪も連れて来なくちゃだし・・・」
痛む肩を押えながら麗がテーブルから頭を少し出す。
―――あの人・・・勝ったんだ。やっぱり、凄い。
「まぁ、夕凪ちゃんは多分大丈夫でしょ。殺したって死なないような子だしね。でもまぁ・・・確かにそろそろ潮時かしらね。得物と一緒に上手く裏口から脱出しなくちゃ」
海晴がテーブル下から音を立てないように静かに出てから、そっと得物の詰まった風呂敷を取り出す。
吹雪もメロンの詰まった風呂敷を背負って出る。結局、重くて持ちきれないので十個しか入れられなかった。
「夕凪は先程メロンを集めている時に崩壊した壁面で気絶しているのを見かけました。素早く回収して撤退しましょう。裏口、非常口など逃走ルートは今現在有効なものが二十件程ありますのでどこからでも逃げられます」
そう言ってから吹雪が皆の先頭になって進み始める。
「吹雪に逃走ルートを考えさせておくなんて・・・海晴お母様、最初からこんな泥棒じみた事も計画済みだったんですか?」
じと目で海晴を見つめながら麗が問いかける。
「もちろん。どんな状況にも柔軟に対応できるよう何重にも策を練っておくのは乙女の常識よ♪」
麗が大きくため息を吐き出す。

少しすると夕凪を発見。目を覚ます様子が無いため海晴がおぶって行く事になる。
その代わり大荷物の風呂敷は捨てていく事になったが海晴は一切の迷いなく夕凪を選んだ。
そんな海晴を麗は少しだけ尊敬した。
「大丈夫よ、ポケットにもそこら辺の死体から奪った宝石とか指輪を詰めておいたから♪」
前言撤回。

そんなこんなで四人の盗賊団となった一家が素早く静かに逃走開始をするのと、城全体を揺るがす獣の絶叫が響くのは同時だった。



「王子様!!私の王子様!!出てきてください!!迎えに来てください!!一生懸命頑張ったんですよ!!こんなに真っ赤に汚れながら・・・。あなたのお嫁さんになりたくて頑張ったんです!!私のこと、全部あげますから!!私の全部を王子様にあげます!!」

魂そのものを吐き出すかのような叫び。
死肉と返り血に塗れた花嫁が自らの純潔を捧げる儀式を成し遂げた褒美を要求する。
その姿は妖艶で見る者を幻惑に誘う淫魔のようだった。


そして、その叫びに答える声が上がった。

「貴様ら!生きている者は全員動くな!!大量殺戮の現行犯で逮捕する!!抵抗すれば容赦なくその場で叩き斬る!」
男の野太い怒号と同時に会場内に兵隊が雪崩れ込んできた。
全員が正規の軍隊、この城を守る兵士だった。
会場の出口は窓一つに至るまで兵士が塞ぎ、脱出経路が全て絶たれる。完全な包囲網。

「ど、どういう事!?殺し合いしろって言ったのはあいつらじゃないの!?」
麗が状況を飲み込めないまま混乱した叫び声をあげる。
「どうも、私の予測を超える事態になっちゃったみたいね・・・」
海晴が奥歯を噛み締めながら言う。
「脱出経路が全て塞がれました。想定していた逃走経路が全て使えません。いわゆる最悪の状況という事ですね」
吹雪が担いでいたメロンの風呂敷を下ろしながら呟く。表情は冷静だが額から汗が一粒落ちていた。


そしてもう一方の生存者、春風は周囲を兵隊に囲まれていた。
四人とは違い、厳重に取り囲まれている。春風の常人離れした戦闘力を見ていたのだろう。

春風の目は混濁した色を浮かべていた。
「王子様・・・王子様は、どこ?どうして私の所に来てくれないんですか?」
深い悲しみを帯びた声が小さく零れる。
兵士の中から隊長と思われる男が春風に近づく。
「貴様は特に危険な存在らしいからな、この場で死んでもらう事になった。槍で串刺しになる前に何か言いたい事があれば聞いてやる」
俯いたまま、春風が問う。
「王子様は・・・どうして、来てくれなかったんですか?」

隊長がその質問に答える。
「死に逝く者への最後の情けに教えてやろう。この国には王子は最初から居ない。この舞踏会は毎年開かれている由緒ある催しである事は事実だが、今年は少々事情があってな。それにしても、このような出会いをしなければ、お前のような強者には我が国の騎士団に入ってほし―――」

隊長の首がシャンパンの栓の如く飛んだ。

続いて乾いた布を叩いたような音が連続で響いた。
春風の周囲を囲んでいた兵士の首が隊長と同様に弾き飛ばされる。

噴水のように噴き上がる流血のシャワー。
春風は隊長の腰に収まっていた長剣を奪い、1秒にも満たない時間でそれらの行動を成し遂げた。
「折角王子様と会えると思ってたのに・・・、残念です。また最初から探さなくちゃ・・・。きっと他の国に行けば本当の王子様が居ますよね。行かなくちゃ・・・王子様の居る所へ!」
春風には絶望を享受するような暇は無い。
王子様に会うまではそんな事をしている時間など無いのだから。
一刻も早く王子様に会う。
それが春風の人生における至上命題。
こんな瑣末な失敗など、数日もすれば忘れてしまうだろう。
夢見る乙女は強いのだから。


春風はそのまま周囲の兵士を次々と切り伏せる。
相手が甲冑に身を包んでいようが関係ない。鋼鉄の鎧ごと次々に切り倒していく。
悲鳴とも怒声とも聞こえる叫びが春風の周囲に撒き散らされる。
進む方向は正面出入り口―――春風は真っ直ぐに突き進む。


その姿を見た海晴がポケットから素早く何かを取り出し、麗と吹雪に渡し、背中の夕凪に被せてあげていた。
顔全体を覆い隠す目出し帽だった。
「早くそれ被って!まだそんなに見られてないはずだから、今の内よ!」
そう言って自分自身も素早く被る。
それに倣って麗と吹雪も装着。ますます泥棒のような姿になった。
「みんな準備できたわね。それじゃあ脱出するわよ!」
背中におぶった夕凪をしっかりと掴み、海晴が言う。
「ど、どうやって逃げるって言うんですか!?窓から飛び降りる事も出来ないような状況なんですよ!」
麗が困惑した声をあげるが、海晴が素早く回答する。
「あの狂戦士じみた花嫁の後に続くのよ!もうそれしかないわ!吹雪ちゃん、用意してたもの出して!」
吹雪が海晴の声に答えてスカートの裾から箱型の何かを取り出す。黄色と黒で縁取られた箱には赤いボタンが一つあるだけ・・・明らかに危険な香り。
「それでは、私がボタンを押した瞬間、耳を塞ぎ口を大きく開けていてくださいね」
そう言ってから事態を飲み込めないままの麗を置き去りにして、躊躇無く吹雪がボタンを押し込んだ。

―――瞬間
巨大な爆音と火炎が舞踏会の会場を一瞬で飲み込んだ。

会場内のテーブルに吹雪がメロンを回収しながら仕込んでいった大量の遠隔操作式爆弾が全て同時に作動。周囲にいた兵隊が焼け焦げた肉片と化していた。
ただでさえ死臭の漂っていた会場内には肉の焦げる異臭が新たな瘴気として加わった。

仲間が焼き砕かれて混乱する兵士を尻目に海晴が走り出す。
「行くわよ!正面玄関から脱出、近くに止めてある馬車を奪って逃げるのよ!!」
吹雪が再びメロンの風呂敷を背負って海晴の後を追う。
「麗お姉ちゃんも早く行きましょう。これで生存率が飛躍的に上がりましたから」
余りの事態に呆然としていた麗の手を吹雪が掴み、一緒に走り始める。
「ちょ・・・これじゃあ、私達本当に犯罪者じゃない!!もう、滅茶苦茶よ!!」
麗は涙目になりながら駆け出す。
吹雪とお互い、手を放さないようにしっかりと握り合いながら。



その頃、春風は正面玄関まで歩を進めていた。
春風の辿った道筋には兵士の死体が山積みになり、その惨状を物語っていた。

春風の刃が振り下ろされ間を置かずV字に跳ね上げられると、重厚な甲冑に身を包んだ大男が五体を引き千切られて肉の海へと沈み込んだ。
同時に外への道が開けた。
そこへ海晴達がタイミング良く駆け込んできた。
「ご苦労様!!あなたのおかげで助かったわ!!いつかお返ししてあげるからね!!」
海晴に続いて吹雪も正面玄関から外へと脱出する。一瞬だけ春風と目が合い、何かを言おうとするが、喉に押し込みそのまま何も言わずに走り去っていった。
そして最後にやってきた麗が春風の前に立ち止まる。
「あ、あの・・・いつか、また・・・会えますか?」
少し熱を帯びた声・・・麗は頬を染めて春風に声を掛けた。
「ええ、すぐに会えますよ」
そんな麗に春風は小さく微笑んで答える。
麗はその表情を見て満足げに頷くと、美晴達を追って走り去った。


そして春風も脱出するために正面玄関から外へと繋がる大階段を駆け下りる。
刀身に亀裂の入った長剣を投げ捨て全力で走った。

階段の中ほどまで降りる途中、片方のガラスの靴が脱げてしまった。
そして、ヒカルの魔法で作られたウェディングドレスも少しずつ消えかかっていた。
時刻は既に十一時五十五分、約束の五分前だった。
段上を見上げると無数の兵士が春風を追いかけてきていた。
春風は仕方なく靴を拾う間も惜しんで階段を駆け下りて行った。


その後、海晴、麗、夕凪、吹雪は奪った馬車で逃走。
春風も別ルートで無事逃げおおせる事が出来た。

参加総数125名の舞踏会生存者は僅か5人という結果となった。
ただ、主催者の人数はそこに数えられていないが・・・。


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海晴達と春風が全員逃走した頃、静けさを取り戻した舞踏会の会場に一人の姿。

氷柱だった。
春風に砕かれた左手は治療を受けて包帯で固定、全身に無数に刻まれた傷も手当てを受けていた。
「はぁ・・・とんでもない化け物が入り込んでたわねぇ。叩き落された下に池が無かったら死んでた所だったわ。あんな奴がユキと同じ国に居るなんて分かっただけでも安心して眠れないわ。何としてもあの化け物だけは見つけ出して始末しないと・・・」

嘆息を漏らす氷柱。
その右手には赤い塊が握られていた。

まだ温もりの残る柔らかい心臓。

氷柱は転がっている少女の遺体の一つから抉り出した心臓を片手に舞踏会の会場から城内へと続く通路を歩く。
滴り落ちる血液で点々と赤い斑点を床に残しながら氷柱は足早に進む。その姿を見てメイドが腰を抜かすが、そんな光景は氷柱の視界には入らない。


舞踏会の主催者は氷柱。
目的は乙女の心臓を手に入れる事。

会場内には無臭無色の香が焚かれていた―――興奮と催眠効果をもたらす麻薬の一種。
狙い通りに会場は地獄と化した。
自らも戦場に躍り出て、場を盛り上げる。
まぁそんな事をしなくても最初から常軌を逸脱していた化け物も多数居たが・・・。

しかし結果的には上々だった。
無数の少女の死体から得られる心臓は氷柱の願いを叶えてくれるはずなのだから。


氷柱は城内の調理場に到着。
痛む左手を使わずに右手だけで器用に持ってきた心臓を使って料理を作る。
簡単な血抜きをしてから、焼いたフライパンにオリーブオイルを挽き、一口大に切った心臓の肉を焼き上げる。味付けは塩と胡椒で簡単に、キノコとキャベツも一緒に炒める。あっという間に食欲をそそる香りが調理場を支配する。
お皿に盛り付けをして、綺麗に並べられた心臓肉はとても美味そうだった。
氷柱は改心の出来に少し微笑んでから、トレイに載せた料理を持って再び移動を開始。


城の最奥部にして最上階―――隔離されたかのような尖塔の一部屋。
そこは使用人すらも仕事が無い限りは近づかない領域。

氷柱以外の足音はしない・・・人気も無い、明かりすらも無い。
月光だけが闇を切り裂く光源だった。

それがこの城のお姫様である綿雪の住まう小さな世界だった。

産まれた時から不治の難病に冒された綿雪は城の尖塔最上部に備えられたこの部屋から今まで一歩も外に出たことはない。
医者からあと一年の命と宣告された少女は今日も大きな窓から満月を眺めていた。

施錠されていた扉が重い音を響かせて開いた。
「ユキ!待たせてごめんなさい!!」
塔の階段を駆け上がってきた氷柱が室内に駆け込んでくる。
手に持っていた料理をテーブルに置き、ベッドから半身を起こした綿雪を抱きしめキスをした。
慈愛に満ちた優しい口付けを交わす。
綿雪も氷柱を受け入れてお互いの呼吸が混ざり合う。
毎日会うたびに行われる二人の行為は今日も変わらない。


綿雪がそっと唇を放すと氷柱の包帯だらけの左手を撫でる。
「氷柱お姉ちゃん・・・怪我しちゃったの?大丈夫?」
氷柱は綿雪がなぞる部分から熱が発生するのを感じる。ただ、それは苦痛ではなく快楽によるものだった。
「大丈夫よ、心配しないで・・・。こんなのカスリ傷なんだから。それより見て!ユキが元気になれる料理を作ってきたの!食べてみて!」
氷柱が満面の笑みを浮かべて先程作った自慢の料理を綿雪に差し出し、一口大に切り分けた肉の一欠けをフォークを使って綿雪の口に運んであげる。

綿雪がそっと口を開けて温かい肉を舌に乗せてから咀嚼する。
塩と胡椒で味付けされた肉はまるで重たい砂を噛むような食感をもたらした。

「どう?美味しい?」
氷柱が期待混じりの笑顔で綿雪の顔を覗き込む。
「うん、美味しいよ。こんなに美味しいお肉、初めて!」
綿雪が答えると氷柱は明るい笑顔を浮かべた。
「良かったぁ!!あのね、ちょっと前に偶然魔法使いに会ったの。それで綿雪の事を話したらどんな病も治るっていう料理の事を教えてくれたの!!それで早速材料を用意して作ったのよ!他にもシチューにしたり、パスタに混ぜたり色々作ってあげるね!材料は沢山用意したんだから!」

氷柱は心の底から嬉しかった。
死臭の籠もった料理が必ずや綿雪を救ってくれると信じる。
罪も無い少女達の未来を奪ったという罪悪感で破裂しそうな氷柱の精神は、綿雪の笑顔によってのみ支えられる。
本来、心優しい氷柱は人殺しを好まない。しかし、綿雪への愛情が全てを超越させた。


そして、聡い綿雪は気付いていた。
氷柱の髪に付着した返り血、氷柱の衣服にこびり付いた汚物、氷柱の全身から発せられる怨嗟の臭い。
今、自分が食べているこの肉の正体が何なのかも想像できた。
それでも・・・綿雪は美味しそうに食べる。

この料理には氷柱の狂おしい程の愛情が詰まっているのだから。
綿雪は氷柱が聞いたと言う魔法使いの話は信じられないが、氷柱の直向な愛情が真実である事だけは強く信じられた。
きっとその愛情こそが自分の病を治してくれると信じて、綿雪は一口も残さず人間の心臓を飲み込んだ。


氷柱は幼い頃から綿雪とは本当の姉妹のように仲が良かった。
未知の病を恐れて使用人も寄り付かない綿雪の部屋に氷柱だけは毎日訪れて絵本を読んで聞かせたり、外の世界の話をしてあげていた。
綿雪は病に冒されながらも一時も笑顔を絶やさない、そんな強さに氷柱は魅了されていた。

ある日、綿雪があと一年持たないと知らされて絶望に沈んでいた氷柱の前に一人の魔法使いが現れた。
全身を暗黒色に包んだ魔法使いは言う。
「あらゆる病を打ち砕くのは乙女の心臓。しかし彼の者を救うには一つや二つでは足りない。百・・・千は必要だろう。お前の精神が無数の命を奪ってまで一人の人間を救うという行為に耐えられるならば、挑戦してみると良い」


氷柱の決断は一瞬だった。
幾千人の命と綿雪の命など、比べるまでも無い。
綿雪こそが氷柱にとって全てなのだから。


狂気の提案を綿雪の父親であるこの国の王は受け入れた。
王は綿雪の事が気にかかり、世継ぎの事も考えずそれ以上子供を作れないでいた。

「あらゆる名医にも治せなかった愛しい一人娘である綿雪の命を救えるならば・・・」



そして開かれたのが今晩の舞踏会。
居もしない王子様を巡って踊り狂う少女達―――。



氷柱が綿雪の小さな手を優しく両手で包みながら言う。
「ユキ・・・絶対に助けてあげるからね。どんな事をしても、何を犠牲にしても助けてあげる。絶対に絶対に・・・。だから、ずっと私と一緒に居て・・・」
氷柱の瞳からは涙が零れる。
正気との決別、罪悪感の結露、綿雪への狂愛。
掻き混ぜられた感情が水滴となってポロポロと頬を伝って零れ落ちた。

綿雪は氷柱の体を抱き寄せて小さな胸で氷柱の体を包み込む。
「氷柱お姉ちゃんが一生懸命頑張ってくれるから、綿雪はきっと元気になります。氷柱お姉ちゃんの優しさだけが私にとって唯一の真実・・・。大好きです・・・お姉ちゃん」

そう言って綿雪が氷柱の涙を舌で舐め取る。
綿雪にとってはそれこそが病を打ち破る特効薬に思えた。

「ユキ・・・私も、大好き。好き、好き・・・好き。好き―――大好き」

衣擦れの音、肌の重なる音。
二人の嬌声が冷たく暗い牢獄に染み渡るように広がっていった。

どこまでも深く沈み込んでいくかのように行われる愛情行為。
底の無い闇に二人の姿が飲み込まれていった。







空に浮ぶ満月が妖光を放っていた。
血液のように粘りつく赤みを帯びた満月―――そこに重なる影が一つ。
闇色のローブにその身を包んだ魔女。箒も使わずに空に浮ぶ姿は死霊のようだった。

氷柱に綿雪を救う方法を教えた「終末渇望」の二つ名で呼ばれる魔法使い、霙だった。
「終末の始まり・・・これでまた一つ、世界の終焉に近づけた・・・」

霙は世界を愛していた。どこまでも果てしなくなく。
そして霙は嫉妬深く、独占欲の塊だった。
自分の死後も世界が存続する事を許せなかった。
だから愛した世界がそのままの形で変わらない内に、一緒に心中してもらう事にした。
究極の無理心中。
魔法使いの中でも突出した奇人として有名な霙は毎日世界の終焉を促進させる。
それが愛の証明。


何時の間にか、月光に浮ぶ黒い影は闇と交わり消えていた。






::::::


夢のような舞台で少女達の肉体が食い破られる深夜の宴が終わり、朝日が昇る。
全ては日常に戻った。

再びボロを身に付けた春風はいつも通り、井戸の水を汲み上げ台所に運んでいた。
左手には氷柱のレイピアで貫かれた傷痕が残っているが、今は包帯で巻かれていた。
そこから広がる痛みと熱だけが昨日の晩を春風に思い起こさせてくれる。
夢のような世界は夢で終わった。

―――王子様はこの国には居ない・・・
あの場では次の王子様を探せば良いと考えていたが、一日経ってみると春風は落胆の気持ちが隠しきれなかった。自然とため息が漏れる。
「どこに居るのかしら・・・私の王子様・・・」



落ち込んでいる春風を余所に海晴が大声を上げる。
「美味しい!!やっぱり一万円のメロンは違うわね!!お口の中で溶けちゃうみたい!!」
昨晩、会場から奪ってきた戦利品である高級マスクメロンをモリモリ食べる海晴はとても幸せそうだった。
その横では吹雪がナイフとフォークで切り分けたメロンを少しずつ小さな口に運ぶ。
「私の見立てが良かったのだと思います。特に美味しそうなメロンだけを選んで持ってきましたから。ただ、メロン十個ではお腹は膨れても財布が膨らみませんね」
吹雪がしょんぼりとしているのを見て、海晴が頭を優しく撫でてあげた。
「大丈夫よ!心配しないで!私がポケットに詰め込んできた指輪やら宝石やらで元は取れるんだから!さっさと換金して、今日は豪華なお食事でも食べに行きましょう!」
海晴の励ます声に吹雪が小さく頷く。
その手が自然と海晴の手を握る―――海晴もそっと握り返すと、吹雪が子供らしい笑顔を見せる。

「夕凪もお食事行きたいよぉ!」
頭に包帯を巻いた夕凪が階段を駆け下りてきて現れる。
昨晩の戦闘で受けたダメージは思ったよりも軽かった。
全身に打撲はあるものの、数日間静かに寝ていれば治るようなものだった。
春風から受けた攻撃は見た目が派手だったが・・・それだけだった。
「はいはい、夕凪ちゃんも頑張ったから一緒に行きましょうね」
海晴が夕凪の頭を吹雪と同じく撫でてあげると、夕凪が照れ笑いを浮かべる。
「でも、残念だったなぁ・・・。王子様はしょうがないとしても、お城に行けば一人ぐらいは魔法使いが居るのかなぁって期待してたのに・・・」
落ち込む夕凪に吹雪が楊枝に刺したメロンを差し出しながら言う。
「夕凪ならきっといつか会えますよ・・・」
夕凪は差し出されたメロンを「アーン」と口を開けてから一口で美味しそうに食べて頬張る。しっかり咀嚼してから吹雪に笑顔を向ける。
「ありがと、吹雪ちゃん。私が魔法使いになったら恋の魔法で吹雪ちゃんに素敵な男の子を紹介してあげるからね!」
食卓に笑い声が響く。そんないつもの光景が食卓に広がっていた。


そんな中、麗は窓辺で一人、外を眺めていた。
視線は風に揺れる草花に注がれていたが、まったく意識には入っていない。

「あの人と、また会えるかしら」
網膜に焼き付いて離れない血染めの花嫁。
圧倒的な暴力で自身の道を切り開いていく姿は麗の心を焦がしていた。

―――カッコイイ。

言語化できない思いはその言葉に集約される。自らも制御できない気持ちに麗は心地よい戸惑いを感じていた。


「麗ちゃん、メロン食べないと無くなっちゃうわよ」
物思いに耽る麗を海晴の声が現実に引き戻す。
「はーい」
食卓の方へと向き直る時、台所で皿洗いをしている春風の姿が目に映る。
なぜか、既視感が芽生えた。

毎日見ているはずなのに、今日の春風には何かを感じた。
―――胸が高鳴る。

麗は自分の分として取り分けられていたメロンの小皿を持って台所へと向かう。

小さな足音が近づくのを春風が気付いた。
「あら、どうしたんですか麗ちゃん?」
麗が真っ赤になった顔を見られないように俯きながら言葉を発する。
「き、昨日は殴ったりして・・・悪かったわ。ごめんなさい。こ、これ・・・食べる?」
麗が小皿にのったメロンを差し出すと、春風が爪楊枝を摘んで一つ食べる。
「美味しい・・・。嬉しいです、麗ちゃんありがとう」
屈託なく笑顔を見せる春風。

―――いつもそう、春風ちゃんは私がどんな酷い事をしても笑ってくれる。どうして?

「そうだ、麗ちゃん、肩の傷は大丈夫ですか?あんなに大きな穴が開いちゃったんだから今日は午前中、病院に行かなくちゃ・・・。直ぐに近くの外科を調べますね」
そう言って春風が近くにおいてあった電話帳を手に取る。

肩の傷が思い出したかのように疼きだす。
その痛みが思考を回転させる潤滑油となった。
―――違和感。
「どうして・・・。私、春風ちゃんに肩の傷痕見せてないよ!?なんで知ってるの?私の肩に穴が開いてる事・・・。なんで!?」
麗が春風の細い手首を掴む。
左手に巻かれた包帯―――逃げ出す時に見たあの人も左手に怪我をしてた・・・。
「も・・・もしかして、昨日のあの人・・・春風ちゃん―――」



麗の声が遮られる。

野蛮なノックで玄関扉がぶち破られた。
室内に兵士が流れ込んでくる。昨日、城内に居た兵士とまったく同じ格好―――正規の軍隊である事を示す軍服。
「全員外に出ろ!」
有無を言わせない勢いで兵士達が海晴と吹雪を連れ去る。
反撃を試みる夕凪だが、すぐさま海晴の視線に気付く―――「ここは大人しくして様子を見ましょう」

台所に居た麗も続いて連行される。
「いや!やめてよ!触らないで!―――春風ちゃん・・・!!助けて、春風お姉ちゃん!!」
兵士の一人が春風も連れ去ろうとするが、その身なりを見ると背を向ける。
「こんな薄汚い下女までは連れて行かなくても良いか・・・とても昨日の舞踏会に来てるとは思えんしな」
兵士が大きな足音を立てて蹴破られた玄関から出て行く。

一人残された春風は立ち尽くしていた。
肩が震える。しかしそれは恐怖によるものでも恥辱によるものでもない。

歓喜。

「麗ちゃんが・・・私の事、『お姉ちゃん』って呼んでくれた・・・。嬉しい。嬉しい」
複雑な家庭環境の下、春風だけが酷い仕打ちを受けるような歪んだ家族関係になってしまっていたが、春風はそれでも家族全員を愛していた。
その愛情は偏執的な「王子様」への執着心を凌ぐ。

今の家族で血縁関係に当たるのは腹違いの妹である麗だけだった。
「麗ちゃん・・・私の可愛い妹・・・。私は、お姉ちゃん・・・」
春風の両眼に真紅の光が妖しく灯る。
一匹の魔獣が再び目覚める。

十二時を過ぎても、春風の舞踏会は終わらない。




外に連れ出された海晴達は町の中心部にある広場に集められた。
そこには海晴達以外にも町中の娘が顔を揃えており、年端も行かぬ童女から成人女性までと徹底したものだった。

噴水広場に急ピッチで作られたであろう設備が異質な空気を醸し出す。
処刑台のような舞台―――そこに置かれているのはガラスの靴。
呼び出された娘が一人ずつその靴に足を入れていく。
半分以上の者が何も無かったかのように帰される。しかし、残り半分の者達は処刑台の後ろに用意された巨大な馬車の上に植え付けられた牢獄に叩き込まれていった。牢獄はそのまま城に運び込まれ、少女達は料理の材料にされる運命にある。

そして処刑台の正面には玉座が用意されていた。
座っているのは左手を三角巾で吊るした氷柱だった。


「あの靴で何かを確かめているようね・・・。それに、あそこに座ってるのは舞踏会であの花嫁の化け物と戦ってた娘だし、確か隣国のお姫様だったかしら?」
海晴が列に並びながら処刑台を見上げて言う。
「確か隣国のお姫様ですね。この国とは比べ物にならない程の財力、軍事力を保持する大国だったと思います。そもそもなぜ昨日の晩、あんな場所に居たのでしょうか?何か政治的なアクションでもあったとか・・・。ただ、誰を探しているのかは一目瞭然ですね」
吹雪が夕凪と手を繋ぎながら言葉を発する。
「でも、昨日逃げる時には私達全員マスクしてたんでしょ?身元はばれてないよね。もし、ばれてたら今頃問答無用であそこの牢獄に入れられちゃってると思うな。あの化け物を探してるんだったら私達には関係無いから心配ないよ」
夕凪が少し震えている吹雪の手をしっかりと握り返してあげながら言う。

そして麗は三人の後ろに並びながら散らばった思考を再構築しようとしていた。
―――あのガラスの靴は昨日あの人が履いてた物。あそこに偉そうに座ってるお姫様はきっとあの人を探している。
あの人は・・・春風ちゃん?
でも、春風ちゃんは昨日舞踏会には来てないはず。あんなボロボロの服じゃ、いくらなんでもあそこには入れないし。でも、何で春風ちゃんは私の傷のことを知っていて、あの人と同じ左手を怪我してたの?聞きたい、会いたい・・・春風ちゃんに会いたい。


そうこうする内に順番が訪れる。
海晴―――足が大きくて入らない。
夕凪―――ぶかぶかで履けない。
吹雪―――ぶかぶかで履けない。
麗―――少しサイズは余るが、履けてしまう。

執行官の男が嫌らしい顔付きで麗を睨むと声を上げる。
「連行しろ!」
近くに居た兵士が麗の両脇を抱え上げて無理矢理牢獄の方向へと引き摺る。
男の太い指が肩の傷にめり込み、全身に痛みを伝える。
「痛い!やめて!!お願い!誰か・・・助けて!!」
麗の悲痛な叫びを聞きつけ、既に離れた場所で待っていた夕凪が飛び出そうとするが、すぐさま周囲を兵士に取り囲まれる。海晴は麗が連れ去られるのを下唇を噛みながら見ていることしかできなかった。


処刑台の上から麗の悲鳴が広場に木霊する。
その声に答える者は―――

高速落下。

広場の横にある三階建ての建物の屋根から、盛大な衝撃音と共に麗の眼前に現れた人影が落下と同時に麗を引き摺っていた二人の兵士を脳天から股間まで両断―――付近一帯に鮮血の雨が降り注ぐ。
「は・・・春風ちゃん・・・」
両側に崩れ落ちる死体には目もくれず、麗は春風の姿に心を奪われた。

両手に持った肉厚の鉈―――使い慣れた薪割り用の物。
春風はそれを持ったまま麗に微笑みかける。いつもの優しい笑顔。
「麗ちゃん・・・絶対に助けてあげるからね」
そう言って麗を庇うように兵士達に向き直る春風。


ここまで黙って玉座に座ったままだった氷柱がその様子を見て立ち上がる。
「出たわね!!化け物!!間違いないわ!あの異常な馬鹿力・・・、それに左手に包帯・・・私のレイピアで貫いた傷痕!!
ふふ・・・あんたみたいな危険な異常性質者を炙り出すためにも昨日の舞踏会は開かれたのよ。だって、私の大切なユキの国にお前みたいな化け物が居るという事実は由々しき事態だものね。あんたをぶち殺して、心臓を手土産に持って帰る。きっとユキがまた喜んでくれるわ・・・」
氷柱が恍惚とした表情を浮かべる。
昨晩の情事を思い浮かべるだけで股下に露が漏れた。



「春風ちゃん・・・。やっぱり、昨日私を助けてくれたのは春風ちゃんなの!?」
麗が背中に問いかけると、春風が目の前にあるガラスの靴へ足を滑り込ませた―――寸分の狂い無く、オーダーメイド品の如くぴたりと合う。
「優しいヒカルちゃんっていう魔法使いさんが私を舞踏会に行かせてくれたんです。まぁ結果は散々でしたけどね。また新しい王子様を探さなくちゃ・・・」
春風はガラスの靴を脱ぎ捨て、いつも通りの裸足に戻った。
そして大鉈の一本を腰帯に吊るし、麗の手を握ってから駆け出す。
「とりあえず、ここから逃げましょうね」
戸惑う麗の手を引いて処刑台を走り降り、麗と共に海晴達の下へと進む。

進行方向に兵士が数名―――全員が分厚い甲冑を身に纏った装甲兵。
手に持っていたハルバードを春風の体に叩きつけるかの如く振り下ろす。
体を捻って重厚な一撃をかわす/そのまま春風は右手の鉈を装甲兵の腹部に全力で横薙ぎに振るう。接触部分から飛び散る火花、零れだす臓物―――春風の膂力の前では鋼鉄の鎧などバターと変わらない。
返す刀が中空に赤い円弧を引きながら奔る―――斬り飛ばされる首、首、首。

普段は子供達の笑い声が耐えない広場に死の臭いが満たされていく。
麗は足元に落とされていく生首で転ばないように春風の後を走る―――繋がった手は決して放さないように強く握り合いながら。



海晴達は自分達に近づいてくる嵐に気付く。
「春風ちゃんが・・・助けてくれたの?」
海晴が呆然としていた。
普段から酷い仕打ちしかしていない春風が家族の窮地で最も活躍している―――信じられなかった。
「昨日、舞踏会で暴れていた花嫁も春風お姉様のようですね。にわかには信じられませんが・・・」
吹雪が左足首に付けていたアンクレットを取り外しながら言う。
「なるほどね・・・夕凪をぶん投げてくれた時に、『ちょっと痛いけど、ごめんね』って言ってたけど・・・。春風ちゃんだったんだ・・・」
夕凪が背中に隠し持っていた魔法のステッキ(どう見てもバール)を引きずり出す。

「私達・・・間違ってたのかもしれないわね。腹違いだとか、血縁が無いとか・・・そんなの関係ないわよね。同じ家で暮らしていたらみんな家族なんだから・・・。春風ちゃんはずっとそれを分かってて私達がどんなに酷い事をしても逃げ出さないで居てくれたんだわ・・・」
海晴は長い間行われてきた春風に対する数々の愚行を思うと自然と涙が零れた。
頬を伝う涙を袖で拭う。

―――春風は家族。

だから万里万象あらゆる物事よりも優先される。

たったそれだけのシンプルな思考―――極限まで研ぎ澄まされた純粋。
あらゆる狂気を内包する愛情。
それが家族愛。



「夕凪、吹雪!春風と麗を助けるわ、準備できてる!?」
海晴がスカートの下に隠し持っていた長大な鉄塊を取り出す―――舞踏会で拾ってきたガトリングガンが蛇のようにのたくる弾帯と共に現れる。
「「もちろん!」」
夕凪と吹雪の声が重なる。

海晴達を取り囲んで居た兵士達が突然目の前に現れた凶器に驚きの声を上げ、距離を取るように下がる。
吹雪が取り外した円形のアンクレットを捻り、空洞になっていた中身に収められていた豆粒のような物体を取り出すと背中を向けている兵士の群に放り投げる。

閃光と爆炎―――撒き散らされる人間の手足。
吹雪のアンクレットに仕込まれているのは豆粒程の大きさの高性能小型爆弾。
節分の豆撒きの如く次々に周囲に投げる―――轟音―――振動―――悲鳴―――人間の体が空中に吹き飛ばされ、地上には引き裂かれた肉片が降り注ぐ。

ばら撒かれる狂気の結晶は広場に残っている多数の無関係な娘達も巻き込む。
しかし、そんな事には一瞥もしない。

家族以外がどうなろうと知った事ではないのだから。
家族を守るという最優先目的の前では他人の命など路傍の石も同然。

進行方向に立ちはだかる兵士に夕凪のバールが牙を剥く。
鋭く尖ったバールの先端部が兵士の顔面を砕く。即死できずに倒れこんだ兵士の首を夕凪が踏み砕くと血泡を吹きながら息絶えた。
夕凪は休む事無く特攻兵となって道を切り開く。
大きな身長差を埋める跳躍、物理法則を無視した運動能力、重力など無いかのように跳ね回る小さな弾丸。
しかし着地の隙を狙われた。
三本の槍が同時に夕凪を串刺しにするために突き出される。

だが、夕凪に刃が届くよりも先に炸裂音の連弾が空気を引き裂いた。
夕凪に槍を向けていた兵士全員が上半身全てをミキサーにかけられたような原形を留めない姿に変貌させられる。
海晴のガトリングガンが支援砲火と言う領域を遥かに超えた火力で次々と肉塊を作り上げていく。


打ち合わせなど無くとも完全に統制された動きを持って三位一体の生物となり、敵兵の海を突き進む。
家族のために。


夕凪がバールを跳ね上げて眼前の兵士の股間から右脇腹までの肉を抉り取ったのと、春風がとどめに袈裟斬りにしたのは同時だった。

互いの視線に家族の姿が映る。

「春風ちゃん!!麗ちゃん!!」
夕凪が歓喜の声を上げ、春風に抱きつく。
続いて今にも泣き出しそうな声。
「ごめんなさい!ごめんなさい!!春風ちゃんに酷い事してごめんなさい!!」
春風が一瞬戸惑った表情を浮かべるがすぐにお姉さんらしい笑顔に変わる。
「良いんですよ・・・夕凪ちゃん。ずっとずっと探してる魔法使いさんが見付からなくて気になってたんでしょう?私も王子様が見付からないとそんな気持ちになりますから・・・お互い様って事にしましょう。それに昨日、私魔法使いさんに会いましたから、今度見かけたときはすぐに夕凪ちゃんを呼んであげますね」
春風の諭すような声を聞いて、夕凪が子供らしい泣き声をあげる。

「春風ちゃん・・・今までごめんなさい。私達、間違えていたわ。どんな事情であっても同じ家で暮らしているなら、みんな家族だよね。今更、許して欲しいなんて身勝手だけど・・・。明日からは本当に家族になって・・・欲しいな」
海晴が春風の両目をしっかりと正面から見つめたまま言う。
その声は少し震えていて、後悔の念に満ちていた。

「・・・嬉しいです。私もずっとずっとこうなる事を夢見てました。これからも・・・ずっと家族で居てください」
春風がポロポロと涙を零しながら喜んだ。長年の辛い思いが溶け消えていく。
「私も、ごめんなさい・・・。ずっと、ずっと見てみぬフリをしていました。悪いことだと分かっていたのに・・・。ごめんなさい」
吹雪が夕凪と一緒に春風の腰に手を回して抱きつく。
春風は感涙で声が出せなくなっていたが、吹雪の頭を優しく撫でてあげる。

そしてずっと握った手を放さないままの麗が喉を震わせながら言う。
「春風ちゃ・・・ううん、春風お姉様!私も・・・今まで、酷い事して・・・ごめんなさい!!本当は姉妹なのに私、酷い事してばっかり・・・。こんな馬鹿な妹でも、お姉ちゃんになってくれる?」
上目遣いで春風に問いかける麗。
春風は迷う事無く大きな声で宣言する。
「当然です!!だって、私達は家族だから!!」
その場に居た全ての人間の背筋を震わせるような大音響で放たれた言葉。春風はそのまま麗の頬に軽くキスをする。
「麗ちゃんみたいな可愛い妹は、大切過ぎて誰にも渡しません」
麗は自身の顔が真っ赤に染まるのを早鐘のように鳴り響く鼓動と共に感じ取る。


そんな家族の団欒を引き裂く声が轟く。
「その安っぽい芝居もそろそろ止めてもらおうかしら!」
処刑台の上に三角巾を取り外した氷柱が眼下を見下ろしながら現れる。
「あんた達の事情はどうでも良いわ。とにかく、正規軍の兵士や民間人をそれだけ大量に殺したんだから、この場で処刑されても文句は言わないわよね♪しっかり用意してきたわよ、あんた達みたいな化け物をぶっ殺す武器をね!」
氷柱が右手を空に翳す。
同時に空に現れる複数の黒い影。空気を叩くローター音、周囲に吹き荒れる豪風。
攻撃ヘリ。
数十機もの対地攻撃兵器を搭載した空飛ぶ火薬庫が青空を埋め尽くさんばかりに現れた。
「心臓を手に入れられないのは残念だけど、塵一つ残らないように粉微塵にしてあげるわ!」

攻撃ヘリから一斉に放たれるチェーンガンが、弾丸の豪雨となって春風達に襲い掛かる。
危険を察知して一足早く、全員が動いていた。広場に設置されている大きな石柱の影に隠れる。ほぼ同時に周囲一体が蜂の巣状になり、弾丸の豪雨が吹き荒れる。


「夕凪ちゃん!!」
春風が右手に持っていた鉈を放し、名残惜しそうに麗とも手を放す。

夕凪が春風の手に両足を乗せると―――カタパルトの如く射出。

上空に浮ぶ攻撃ヘリに一瞬で到達、手に持ったバールでコクピットの強化ガラスをブチ破り、パイロットの頭部を撃砕。棺桶と化したヘリが―――落下―――爆破。
夕凪は猫のような身のこなしで着地、見事に春風の下へと戻る。
「駄目・・・春風お姉ちゃん、数が多すぎるよ。一機や二機なら何とでもなるけど、この方法じゃキリが無い。もしロケット弾でも撃たれたら・・・」
夕凪の言葉を待っていたかのように、聞こえる発射音。
無数のロケット弾が石柱ごと目標物を爆砕するために火を吹き上げて放たれていた。


春風と海晴が妹達を庇うように自分の体で覆う。
絶体絶命の窮地においても何とかして小さな妹達だけでも守ろうとする。



数瞬後、届くはずの火炎と衝撃は訪れなかった。
代わりに聞こえたのは、ポップコーンが弾けるような軽い破裂音。
目を瞑っていた春風が石柱から少し顔を出して様子を窺うと、広場には数え切れないほどの人参が落ちていた。

そして空から聞こえる声。
「もう、どうしてこんな事になってるの!?春風がガラスの靴を履いたら、王子様と結ばれるとかそういう展開になるって予定だったのに!!」
箒に乗った女子高生ルックの魔法使いヒカルだった。
「ヒカルちゃん!!助けに来てくれたの!?」
春風がヒカルを見上げながら喜びの声を上げる。
ヒカルが箒を操り、地上に降りると春風の元へと進む。
「何でこんな事になっちゃってるの?王子様はどうしたの!?うぅ・・・春風に幸せになってもらわないと私の試験、合格できないんだからね」
頭を抱えて苦悶の表情を浮かべるヒカル。

その腰に手を回して、春風が全身を使って強く抱きしめる。

「あなたが私の王子様に決定です!」

唖然とするヒカル。
その唇を春風が塞ぐ。焼けた鉄のように熱い舌がヒカルの口内に絡みつく。
ヒカルの蜜を舌で舐め取り、飲み込む。
甘い匂いが鼻腔をくすぐり、春風は満足そうに瞳を輝かせる。
しばらくの間、周囲の視線も気にせず交わっていた二人がゆっくりと離れる。
突然事に呆然としたまま立ち尽くすヒカル。


多幸感に包まれた春風が蕩けた声を吐き出す。
「やっぱり、ヒカルちゃんは私の王子様です!眠りから覚ましてくれたのも、ピンチを救ってくれたのもヒカルちゃん!こんなに可愛い王子様が現れてくれて、春風はとっても幸せです!」
春風がそのまま今度はヒカルの耳を甘く齧り始めた。刺激と快楽を受けてヒカルが全身を震わせる。
「ちょ・・・やめ、て・・・。私、女の子なんだよ!王子様じゃないよ!」
そんな抗議の声は春風の耳には届かない。
今やヒカルは春風にとって王子様にしか見えない。


衆人環視の前で徐々に犯されるヒカルを見ながら夕凪が感嘆の声をあげる。
「ま、魔法使い!!本物!!本物の魔法使い!!居たんだ!!やっぱり本当に魔法使いは居たんだ!」
夕凪の長年に渡る歪んだ心が矯正される。
魔法使いは居る。
どんなに言葉にしても、実在する魔法使いを見るまでは信じられなかった。そして、生涯そんな機会は訪れないと思っていた。
夕凪の絶望色の夢が奇跡的に叶った。



そんな幸せそうな光景を見て、氷柱が犬歯を剥き出しにして怒声をあげる。
「あー!!もう、何なのよ!幸せそうにしちゃって!私だって早くユキの病気を治して二人で好きなだけ赤ちゃん産みたいって言うのに!!ほら、何してんの!?どんどん、ロケット弾でも何でもぶち込んであいつら吹き飛ばして!!」
氷柱の号令と共に、再びロケット弾が降り注ぐ。

ヒカルが発射音に気付き、空に向かって右手を翳す。
「ちょっと、春風!どいて!!」
右手を中心に空中に魔方陣が広がり、術式が発動。
放たれたロケット弾が全て人参に変えられ、更には空に浮んでいた攻撃ヘリが全て巨大な大根となって落下する。

「何よソレ!?反則でしょ!!」
氷柱が圧倒的な戦力差に抗議の声をあげる。
「反則はそっちでしょ!人間相手に攻撃ヘリなんて頭おかしいわよ!」
海晴が氷柱の抗議に反論。

二人の視線が絡まり合って凶悪な眼光で睨み合う。
しかし氷柱が不敵な笑みを浮かべる。
「だったら・・・人海戦術よ!」
その声に応じるのは広場を、町を取り囲む数万人の軍隊全員から上げられた咆哮。
大地を揺さぶる激震となって春風達に伝わる。
更に聞こえるのはキャタピラ音―――石畳を履帯で踏み砕きながら戦車が現れる。

広場どころか町一つ、国全体が敵一色に染められる。
「これだけの数だったら幾ら魔法使いが居たって関係ないわ!仲間の死体を踏み越えてでも敵を倒すのよ!あっはははは!!」

勝ち誇った笑い声をあげる氷柱を見つめながらヒカルが溜め息をつく。
「はぁ・・・これじゃあもうこの国には居られないわね。それどころか隣国全てにも指名手配されちゃいそうだし。困ったなぁ・・・、何で魔法実技の試験に『ランダムで選ばれた女の子を幸せにする』なんてあるのよ。どう見ても私だけ難易度高すぎるでしょ!」
その声を聞いて春風が夢を見ているかのように答える。
「私は今とっても幸せですよ。こうして可愛い王子様と巡り会えたんですもの♪」
そう言って春風はヒカルの鎖骨の窪みに舌を這わせる。
「ひぁ・・・ちょ、そこ、止めて・・・!」
春風の頭を必死に両手で押し放す。
「ああん、もうこうなったらこのまま春風を連れて学校に行っちゃえ!今から行けばまだ期限ギリギリで間に合う!本人が幸せって言ってるんだから何とか合格できるはず!」

ヒカルが再び箒を手に取り、空に浮ぶ。
「春風、来て!今から魔法の国に一緒に連れて行くから!どうせこの国に居たって毎日殺し屋に狙われるような人生になっちゃうだろうし、魔法の国に来ればそういう事も無くなるよ」
箒の上から差し出されたヒカルの手を春風が握る。
「はい、王子様のお願いだったら何でも聞きます!だって春風は王子様のモノなんだから!でもお姫様のお願いを、一つだけ聞いて下さい」
春風のもう片方の手には麗の手が繋がっている。
「私の家族も全員連れて行ってください。お願いします♪」
そう言うが早いか、春風が箒に跨り、続いて麗も乗り込む。
更に海晴、夕凪、吹雪が箒に掴まると、一気に浮力がダウンして地面すれすれで滞空する。
「ちょっと!明らかに定員オーバーだよ!」
必死で魔力を搾り出して姿勢制御するヒカルが困った顔で叫ぶ。
「大丈夫ですよ、ヒカルちゃんなら頑張れます。それに、家族みんなで逃げないと、春風は幸せになれませんよ」
痛い所を突かれた。
「あー、もう分かったよ!!」
ヒカルが魔力の全てを箒に注ぎ込むと、浮力が回復。少しずつ空に浮かび上がる。

その様を見て氷柱が大声を上げて指令を飛ばす。
「ぼーっと見てないで早くあいつらを撃ち落しなさいよ!!」
広場を取り囲んで居た戦車が砲身を傾け照準を合わせようとする。

吹雪が地上の戦車を見下ろす。
「余ったので、全て差し上げます」
両手に持っていた、豆粒大の高性能爆弾。その数、50個―――その全てを空中からばら撒いた。
まるで絨毯爆撃を受けたかのように地上に爆裂の嵐が巻き起こる。
一瞬で地上戦力、その中でも砲撃能力を持つ戦車が全て破壊された。
「計算通りです」


その頃、ヒカルは何とか定員オーバーの箒を操るコツを覚え始めた。
「何とか大丈夫みたい・・・。それじゃあ魔法の国に行くよ!一度行ったら多分もうこの世界には帰って来れないけど、みんな覚悟は良い?」
後ろに乗っている全員が一斉に頷く。
春風が全員の言葉を代表して告げる。
「私たちはどこに居たって、家族が居れば幸せです!」
ヒカルが振り返ると全員とても幸せそうだった。
・・・ちょっとだけ羨ましかった。

そして箒は速度を上げて、空の彼方へと消えていった。
遠い遠い、魔法の国へと。



その後、
春風とヒカルは結婚(魔法の国では女性同士の結婚はアリ)
更に翌年、春風は麗とも結婚(魔法の国では女性同士の重婚はアリ)
三人は淫靡に満ち溢れた生活を送りながら、女性同士で子供を作れるようになる魔法を研究中。

海晴は魔法の国で念願の気象予報士になり、人気タレントと付き合ったりと大人気。

夕凪は魔法学校に通い、魔術を学ぶ。先天的才能から、あっという間に学校始まって以来の天才と呼ばれる程の実力を身に付けるが、血の気の多い性格からか軍隊に転身。機動六課という部署で活躍している。

吹雪は天才的な頭脳を活かし、魔法と科学の融合という国家レベルの研究開発に携わり数々の発明を生み出す毎日を送る。


みんなそれぞれの夢を叶え、家族全員が末永く幸せに暮らしました。

めでたし、めでたし。









::::::

「さぁ、どうだった?立夏のお話、面白かったかな?」

リビングに集まった幼年組の妹達に感想を問いかける立夏。
「「「「面白かったぁ!!」」」」
みんなが声を揃えて笑顔で答える。
ただ、真璃だけは苦笑いを浮かべていた。
「り、立夏姉様は・・・病んでますわ・・・」

立夏が読み聞かせたのは学校の行事で行うクラスの演劇、そのシナリオだった。
公正なくじ引きの結果、シナリオ作成担当を立夏が受け持つ事になっていた。
一応「童話を元に何かオリジナル要素を加えた内容」という先生からある程度の方向性は付けてもらっていたが、立夏のシナリオは残念ながら相当逸脱していると言えた。

しかし当の本人は幼い妹達が喜ぶのを見て、「これはいける」と確信していた。
「やっぱりお芝居はバイオレンスとラブ!!これに限るよね♪明日学校に持っていったらきっとみんな飛び跳ねるぐらい喜んじゃうよ!」


自信満々に手書きのシナリオが書かれたノートを片手で持ち上げる。
そして、背後からそのノートを掴まれた。

「立夏ちゃん・・・あんまり調子にのっちゃいけませんよ」

全身から怒りのオーラを噴出する春風だった。
「あ・・・あれ?お姉ちゃん達はみんな今日出かけていて、まだ帰ってこないはず・・・」
全身に一瞬で冷や汗が沸き立つ。

立夏の頭部に凄まじい圧力が掛かる。
「何で私があんな頭のネジが外れたようなキャラクターになってる訳?しかもユキにあんな役までやらせてぇ・・!」
立夏は頭蓋骨が歪む程の握力で氷柱に頭を握り締められていた。
「うぅ・・・酷いです。立夏お姉ちゃん・・・私の事、そんな風に見てたんですか・・・?」
綿雪がポロポロ泣きながら立夏のスカートの裾を摘んでいた。
立夏の心に罪悪感という傷を刻み付ける。
「あ、あ、ああ違う、違うよ!ユキちゃん!あれはあくまでフィクションだから!」
必死で言い訳する立夏の眼前に夕凪が現れる。
「なんで夕凪がバール振り回してるのかな?私の魔法・・・立夏ちゃんは信じてくれてないの?」
夕凪が倉庫から持ってきたバールで立夏の頬を突きながら問いかける。
「持ってるよ!!今、夕凪ちゃん持ってるよ!!普段持ち歩いて無いのに何で今持ってるの!?」

少し離れた場所で買い物袋を下ろしながらヒカルが言う。
「今日は家に小さい子と立夏しか留守番で残ってないから、早く帰ってきたんだよ。玄関を開けたらリビングから楽しそうに声をあげてるお前の声が聞こえたの。ちなみに、私は春風と結婚なんてしないぞ」
その言葉を聞いて春風が素早く反応する。
「それとこれとは別でしょ、ヒカルちゃん。結婚は後々考えるとしても、ヒカルちゃんは私の可愛い王子様である事は否定し難い事実じゃない」
春風がヒカルの背中に張り付いて首元にキスする。
「あ、駄目だよ、春風・・・ほら、小さい子も見てる!!」
毎日の事なので家族全員が慣れているが、やはり二人の情事はいつ見ても目を釘付けにされる。

「まぁ、とにかく・・・今日は立夏ちゃんはお仕置きね。夕御飯も抜き!」
場をまとめるべく海晴が審判を告げる。
「えー!!お仕置きって・・・もしかして地下室!?いつも麗ちゃんが怒られてる所!?」
立夏がゲンナリした顔で麗に視線を移すと、それに気付いた麗が刺々しい態度で答える。
「自業自得でしょ。立夏ちゃんがあんな滅茶苦茶なお話考えるのが悪いのよ!そもそもなんで私が春風ちゃんとあんな異常な程仲良いのよ!私まで頭に春風吹いてるみたいじゃない!」
言い切った後、麗の肩が万力のような力で握り締められる―――春風が濁った瞳で麗を舐め回すように見つめる。
「麗ちゃんも・・・一緒にお仕置きですね。今日はいつもより痛くて気持ち良い事してあげますよ♪」
「ひぃ!!いやぁ、やだぁ!お願い、許して、ごめんなさい、ごめんなさい春風お姉様!!」
必死の懇願も虚しく麗が春風に引き摺られるようにして、愛用のお仕置き部屋へ連れて行かれる。
「さぁ、あんたも来るのよ!」
氷柱が立夏にフェイスクラッシャーをしたまま片手で持ち上げ、そのままお仕置き部屋へ連れ去る。くぐもった悲鳴が聞こえたが、地下室への扉が閉まる音で掻き消される。
続いて海晴も地下室へ降りようとすると、後ろから一家のお母さん役である蛍の声が聞こえる。
「海晴お姉ちゃん、もうすぐ夕飯が出来るから早く上がってきて下さいね。今日はホタ特性のオムライスですよ」
夕飯の献立を聞きつけて、小さな妹達が「やったー!」と万歳する。
「分かりました、蛍お母さん。早めに切り上げて戻るから、私の分も残しておいてね」
そう言って海晴が扉の中へと消えていった。

少し静かになったリビング。
床に落とされていた立夏のノートを霙が拾い上げてパラパラとめくる。
「私は・・・結構良い話だったと思うけど・・・。氷柱と綿雪の歪んだ愛に満ちた破滅ぶりとか。でも、何より最後は家族が仲良く暮らせるというのが・・・良い」
ソファに座りノートをめくって流し読みする霙に、蛍が料理の下ごしらえをしながら答える。
「私が登場してなかったのが少し残念ですけどね。でも、最後は家族みんなで幸せに暮らしましたっていうのは私も良いと思います。シンデレラのお話も最後まで義理とは言え、家族とは仲良くなれませんからね。きっと立夏ちゃんなりの優しさが表現されてるんじゃないかなぁ・・・」
蛍の意見を聞き、霙が納得したように頷く。
「立夏には、後でドラ焼きを一つあげよう」



蛍はリズムにのって包丁を動かす。
いつもの光景。
みんなが楽しく暮らしているこの家が蛍にとっては何より大切な宝物。
それは家族全員が抱く共通認識。


―――今日も家族みんな、とっても幸せです。



::::::::::

2008年3月30日 作成
珈琲みるく症候群


テーマ:日記 - ジャンル:アニメ・コミック

自作小説 | 14:23:55 | Comments(0)
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