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梅入

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「魔法少女リリカルなのは」二次創作小説 『夢幻泡影の姉妹』後編
「魔法少女リリカルなのは」二次創作小説 『夢幻泡影の姉妹』前編

の続きである後編です。

前編をお読みでない方は、先に上記or右記リンク先の前編を読んで頂ければと思います。



物語も佳境。
高町なのはさんという狂獣がどんな事しちゃうのか、
薄幸姉妹に幸福が訪れるのか・・・。

あと、前編の所にも書きましたが、
最後に入ってる「余話」を読むと後味が悪いエンディングが味わえます。
そういうの好きな方は楽しんで頂ければ幸いです。


では「続きを読む」で全文表示です。




(注)ここにあるのは、物語の後編です
前編はこちらになります。




「魔法少女リリカルなのは」二次創作小説 『夢幻泡影の姉妹』後編


高町なのはがアリシアを爆撃した地点に戻った時、既に爆煙は風に消え去りアリシアの姿だけがそこに残っていた。
「やっと、来たね。なのはちゃん。ずっと待ってたよ、必ず来るってわかってたから」
アリシアの瞳には深遠な闇が宿っていた。先程垣間見えた正気の光は見る影も無い。
「お母さんを殺して、私を殺して、フェイトちゃんを奪った。
絶対に許さない。全ての元凶、お前さえ居なければみんな幸せになってたはずなのに!」
アリシアの憎悪と殺意を煮詰めて産み出した狂気の視線を受けても、高町なのはは微動だにしない。
「なのはちゃんを殺さないと、フェイトちゃんもこの偽物の世界を忘れられない。だからなのはちゃんは絶対に殺すよ。フェイトちゃんの目の前で引き裂いて壊して解体した破片を見せてあげるんだよ。そうすればきっとフェイトちゃんは私の、お姉ちゃんの言う事聞いてくれるんだから!」

それまで黙って管理局からの秘匿回線を聞いていた高町なのはが口を開く。
無機質な声が氷のように怜悧な響きを持って放たれる。
「今、管理局から指令が来たよ、私だけに。フェイトちゃんは知らないけどね。
『アリシア・テスタロッサの行為を妨害し殲滅しろ』って。珍しいんだよ、管理局がいきなりそんな極端な態度を取るなんて・・・それだけアリシアちゃんが危険て事なんだけど。
大人しくしていれば、綺麗に消してあげる。フェイトちゃんにも最後のお別れさせてあげるよ、どう?」

「死ね!」
アリシアの返答。
地上に広がる湖面から無数の触手が湧き出る。全てが樹齢千年の巨木のような太さと大きさ、先端部が引き裂かれ、獣歯を生やした顎が現れる。フェイトに放っていた触手とは段違いの凶悪さ。異形の顎が獣の咆哮を上げて、高町なのはに襲い掛かる。
高町なのはは愛機レイジングハート・エクセリオン(RHE)を構え、魔術を発動。
周囲一帯にショッキングピンクの魔力弾が生み出される。
襲い来る異形生物を魔力弾が自動誘導で迎撃する。大空に広がる数え切れない爆烈の華が煌いた。
しかし数では触手が圧倒的に上回っていた。
爆圧の中から次々と触手が躍り出て、怒涛の勢いで高町なのはを追回す。砲撃による迎撃と回避を繰り返しながら高町なのはは動き続ける。
螺旋を描いた軌道で回避する高町なのはの頭上にアリシアが現れる。両手の五指に力を込めて振り下ろし、X字に放たれた死線が高町なのはに迫る。
高町なのははシールドでワイヤーによる切断×十本を受け止める。
しかしその隙に前後左右から迫る触手の顎。迎撃する魔力弾も間に合わない。咄嗟に展開した全方位のバリアに無数の触手が絡まり合う様に噛み付いた。巨獣の乱杭歯が高町なのはのバリアに牙を立てる。たちまち内部の高町なのはが見えなくなる程に異形の牙が殺到する。

瞬間的に鮮烈な光が空を駆けた。
障壁に噛み付いていた異形生物が全て斬り飛ばれる。
光の発生源から現れた高町なのはは一本の槍を手にしていた。
「虐殺の紅槍」と言われ畏怖される高町なのはの近接戦闘スタイル。
RHEの全リミッターを解除した状態で放つ強力な砲撃エネルギーを圧縮成型した魔力刃。RHEの先端部から生えた刃渡り80cmの光刃はあらゆる物体を容易に切断する。
恐怖を感じる事のない触手の群が高町なのはに向かって突進する。
魔槍が妖しい赤色光で輝き、光の尾を伴い振るわれると異形の生物が細切れに刻まれる。

約2年前のヴィータとの死闘後、高町なのはは魔力制御を徹底的に学び、習得し、我が物とした。
驕る事無く来る日も来る日も魔力制御を鍛錬する日々、それは今も続いている。
2年前とは比べようもない魔力制御技術を身に付けた高町なのはの魔槍は洗練され、主兵装の一つとなっていた。槍と魔力弾の同時操作も可能となっており、高町なのはの努力と天賦の才があってこそ初めて可能となった奇跡的な戦闘能力。

十分な距離を保ち、アリシアは目前の白い魔獣を見据える。
「ふーん、それが2年前にヴィータちゃんを犯した槍だよね。怖いなぁ。
それに噂以上に硬い防御力、無尽蔵に吐き出される魔力弾、一撃必殺の砲撃。『管理局の白い悪魔』は伊達じゃないんだね」
そして何時の間にか手にしていたモノを掲げる。
それはフェイトが取り落とした愛機、バルディッシュだった。
「フェイトちゃんに使えるんだから、私にだって使えるよね」
アリシアはバルディッシュの核である金色の宝玉に自身の黒い血液を落とし、穢す。やがて宝玉は黄金の輝きを失い、黒曜石を思わせる深い闇色に染まった。まるで所有者の移転を表すかのように。
「いくよ!バルディッシュ!」
バルディッシュがアリシアの声に答えるかのように主人の望む形へと変貌を遂げる。
アリシアの莫大な魔力はカートリッヂを使用せずにバルディッシュをより強力な形態へと変形させる。
魔力刃を発生させる三角形の起部が直角に持ち上がる。そこから蝶の片羽根を模したような妖しく美しい魔力刃が光を吸い込む深遠な黒色を纏って現出する。
アリシア専用バルディシュ。
アリシア自身の体躯よりも大きな両手斧、その出力は高町なのはのシールドですら防ぎきれないと見ただけで分かる程に圧倒的な存在感を放っていた。

しかし高町なのはは敵の脅威を見て、狂喜していた。
「面白い、面白いよ!最近、みんな弱くてがっかりしてたの。
私を楽しませてくれるような敵が来ないかなーって待ち遠しかったけど・・・。流石フェイトちゃんのお姉ちゃん、姉妹で私を楽しませてくれるんだから♪
いいよ、ここからは私も本気で犯してあげる。
泣いても、叫んでも、駄目。私が満足して飽きるまで弄って苛めて優しく壊してあげる。
アリシアちゃんの鳴き声、聞かせて!」

高町なのはの身中に棲む獣の意識が覚醒し、『白い悪魔』がここに顕現する。


アリシアは戦斧を振り上げ高町なのはに突撃する。
高町なのははRHEのカートリッヂを発動、破裂音を伴い薬莢が排出される。圧縮魔力を用いてシールドを形成、通常よりも強固で堅牢な障壁が現れる。
アリシアは高町なのはを構える盾もろとも砕くために全力で巨斧を叩きつける。
鈍い破裂音が轟く。
シールドを支える右手の衝撃で高町なのはは筋肉が軋む音を聞く。
緑黒と桜色の火花が夏の花火の如く飛び散る。互いの力は拮抗していた。
「凄いよ、私の膜が破られそうだよ!
私のシールドと同等の出力なんてヴィータちゃん以来だよ!」
アリシアは高町なのはを睨みつけながら叫ぶ。
「それじゃあ、ヴィータちゃんじゃあ出来ないような事もしてあげる!」
その叫びに呼応するように地上から飛来するのは鯨をも貫く巨大な銛。
対空ミサイルの如く地上の血溜まりから次々に射出される。
「串刺しになっちゃえ!」
アリシアは握る斧に更に力を加える。
「・・・ちっ」
高町なのはは舌打ちすると左手の槍を握り締める。
右手の障壁を解除―――高町なのはを脳天から叩き割るために漆黒の刃が振り下ろされる。
しかし障壁を解除すると同時に高町なのはは全身を捻るようにして槍を斧に叩きつけた。軌道を逸らされてあらぬ方向へと振るわれる斧。高町なのははそのまま反転、地上から射出された銛に向けて魔力砲を放つ。轟音を伴い放たれる砲撃が全ての銛を灰も残さず焼き尽くす。
アリシアは攻撃の手を休めない。
砲撃後の硬直時間の間に高町なのはの周囲には獣歯から涎を垂らす触手の群が現れていた。
高町なのはは瞬時に魔力弾を形成する。周囲に千を超える数の光球が妖しく煌き獲物に目掛けて放たれる。
自動追尾弾と触手の群が織り成す爆裂の祭典が咲き乱れる。
空中を飛び散る異形の肉片が地上に次々と落下する、悪夢のような光景。

アリシアは手にする戦斧に魔力を注ぎこみながら言う。
「なのはちゃん、絶対に殺すよ。
なのはちゃんさえ居なくなればフェイトちゃんも目を覚ますよ。きっと本当の家族になるために、この偽物の世界を捨てて私の胸に飛び込んでくるんだよ!
お母さんも殺して、フェイトちゃんも奪ったお前はゆっくり時間をかけて殺してあげる。フェイトちゃんの目の前で肉の塊になっていく様を見せてあげるんだから」

高町なのははアリシアの憎悪を真正面から受け止め、平然とした顔で言い放つ。
「そう。言いたい事はそれだけかな?
私もね、怒ってるんだよ。フェイトちゃんから私以外の匂いがしたの。アリシアちゃんの甘ったるい匂いだよね。
駄目なんだよ、私以外の匂いをつけられたフェイトちゃんなんて駄目なの。今日は帰ったらフェイトちゃんの全身を綺麗に舐めてあげるの、外からも中からも私の匂いで包んであげなくちゃ」

決して相容れない両者の思い。和解の道など始めから存在しない。
「アリシアちゃんの鳴き声、聞かせてよ!」
桜色の砲撃がアリシアに放たれる。
一撃必殺の威力を誇る悪魔の光をアリシアは斧の一振りで弾き飛ばす。
「なのはちゃんこそ、豚みたいな悲鳴がきっと似合うよ、聞かせて欲しいなぁ」
そう言うアリシアの足元に巨大な魔法陣が生み出される。
それに伴い、地獄の釜が開くような重い地響きが広がる。
次の瞬間、地上に広がる血液の湖面から巨大な腕が無数に生える。フェイトとの戦闘でも使用した異形の腕。しかし、今回は腕だけに止まらない。
異常に筋肉質の腕は地面に手の平を乗せ、這い上がる。山が起き上がったのかと思うような動きで目も鼻も無い真っ黒い人型の巨人が姿を現す。大きさは大小様々で20m~50m程度のバラつきがあった、手に持つ金棒も身長に比例して凶悪な大きさとなっていた。
そして何よりもその数が問題だった。地上を埋め尽くすかのように存在する黒い影。
高町なのはの周囲は既に巨人と触手に取り囲まれていた。

「いくらなのはちゃんでも、これだけの攻撃は捌ききれないよね。
たっぷり犯してあげる。
そうだ、フェイトちゃんの目の前でこの蟲達で犯してあげるよ。触手の精液だとどうなっちゃうのかな?変な卵でも孕んじゃうかもね・・・。ちゃんと帝王切開して取り出してあげるよ。まぁその頃にはなのはちゃんも人の形じゃなくなってるから、きっとお似合いだよ」
その言葉に高町なのはは、三日月のように引き裂かれた口を開き答える。
「じゃあ、私もアリシアちゃんの事犯してあげるよ。
フェイトちゃんには出来ない、本当に死んじゃうぐらい痛くて気持ちいい事してあげる。
実はね、さっきからずっとアリシアちゃんを見てるとね、昔のフェイトちゃんを見てるみたいで可愛かったんだよ。お臍の奥が、凄く熱くて疼くの・・・」
高町なのはがRHEを構える。
高町なのはの周囲に無数の光球。迎撃と攻撃を司る高町なのはの唯一の戦闘スタイルにして必勝の形。

しかし、その魔力弾はアリシアの脅威から身を守るには明らかに足りない。
「意地っ張り」
アリシアの声と共に全ての巨人が一歩踏み出し、触手の群が包囲網を縮めた。

「私ってツンデレなの」
次の瞬間、高町なのはの杖が込められた魔力を吐き出す。
砲撃が一直線にアリシアに向けて突き進み、射線上に居た異形生物を全て焼き払う。アリシアは魔力砲を戦斧で真っ二つに切り裂く。
砲手である高町なのはは暴虐の嵐に取り囲まれていた。
小さな身体を一撃で血肉の華に変貌させる金棒が一度に三本以上襲い掛かる。その全てを乱暴な空中機動で回避、同時に素早い反撃。三体の巨人の上半身が魔力砲で消失する。
触手の群が隙あらば高町なのはの柔肌を食い破ろうと迫るが次々に魔力弾が迎撃する。しかし数的優位で圧倒する触手がしつこく迫る。高町なのははRHEの先端に魔力刃を生成し槍を手にする。目にも留まらぬ速度で槍をS字に振るう。桃色の残像が残る空間に触手の細切れが飛び散った。
息つく間もなく高町なのはの足元から振り上げれる金棒、飛び退いて回避。もはやRHEを使う間も惜しみ手の平から魔力砲を発射。地上の巨人が二体同時に爆裂に飲み込まれる。

高町なのはの唯一にして絶対の戦術、「敵の攻撃に耐え、敵の足を潰し、一撃必殺の超砲で撃ち滅ぼす」が通じない。空間支配能力においてアリシアは高町なのはを大きく上回っていた、足を潰されるのは高町なのはであり、攻撃を防ぐ事で手一杯になる。いずれ魔力が尽きればその時が最後になる。


高町なのはは砲撃と魔力弾で弾幕を張りながら高空へと飛び上がり、アリシアの支配する空間から脱出する。
やがて攻撃の届かない高度まで達し、大型魔力砲の発射準備に取り掛かる。
カートリッヂをロード・ロード・ロード。焼けた薬莢が跳ね跳び、高町なのはに魔力を供給。
魔力陣が足元に広がり、RHEの発射口を起点として幾重にも魔力増幅リングが展開、巨大な砲身を形作る。
地上に広がるアリシアの血液諸共、大地を焦土と化す程の威力で放たれようとしている魔力砲。
十分な魔力を充填して放たれようとした瞬間、高町なのはの頭上にある雲が割れる。
アリシアが大上段に構えた戦斧を振り下ろしながら急降下、高町なのはの動きを読んだ奇襲攻撃。砲撃体制に入った高町なのははRHEを防御に使う事が出来ない。
高町なのはは咄嗟に左手を翳し、シールドを展開。
「ぬるい!」
アリシアは構わず全身のバネを駆使し、全力で斧を叩きつける。
漆黒の魔力刃がシールドに着撃、瞬く間にシールドがガラスの破砕音を思わせる音と共に砕かれる。防ぎきれなかった衝撃を受け高町なのはが撃墜される、落下軌道にあった雑居ビルに激突。
直下型地震を受けたかのようにビルが垂直に崩落、高町なのはは粉塵を舞い上げる瓦礫に埋没する。

アリシアは降下し、高町なのはの落下地点を見下ろす。あの程度でどうこうなる相手でない事は明白。
突然、体中に広がる嫌な汗を感じると同時にアリシアの予想は的中する。
未だに粉塵が巻きあがる瓦礫の山から瞬間的に光が漏れたかと思うと、刹那の間をもって巨大な魔力砲が周囲の鉄筋や岩塊を爆裂四散させてアリシアに向けて放たれる。射線上の巨人も触手も飴細工のように溶解する。直径30m超の極太の魔力砲は回避不能の速度でアリシアに向かう。
アリシアは右手を突き出し、最大出力でシールドを展開。間をおかず砲撃が着弾。
高町なのはが用いる上位砲撃魔法、エクセリオンバスター。真正面からの直撃を受けて生き残れる術は皆無に等しい。高町なのはの一撃必殺戦術における必勝形である。
僅かな油断が死を招く。
瓦礫が払われた跡に生まれたクレーターの中心で高町なのはは額の出血も無視して暴力的な魔力の放射を続ける。その口は勝利を確信した喜びからか、歪んだを形をもって笑みを湛える。

アリシアのシールドが凹レンズのように変形、既に砲撃に穿たれる寸前。障壁全体が軋む。
左手に持ったバルディシュを握り締める。
「カートリッヂ、ロード!」
アリシアの指令が即実行に移される。バルディッシュに内蔵されたモーターが起動、回転弾倉が擦過音と火花を撒き散らしながら全てのカートリッヂを連発、発動させる。硝煙を棚引かせながらアリシアは左手を振り上げる、膨大な魔力が注ぎ込まれたバルディッシュに巨大な半円の刃が生まれる。アリシアはシールドを解除すると同時に頭上に広がる半月の刃を魔力砲に叩きつけた。
空気を焦がす奔流が生まれ、魔力砲が二つに引き裂かれる。アリシアの左右に引き裂かれた魔力が力を失って虚空に消え行く。切り裂く盾となった斧を両手で押さえ、砲撃に耐える。
数秒後、砲撃が突然止む。
安堵の吐息を付く間もなく、アリシアは地上の高町なのはを見下ろす。
居ない。
「どこにっ・・・!」

アリシアが言い終わる前に高町なのはが死角から飛び込んでいた。
桜色の魔槍が鋭く振り下ろされる。
強運、バルディッシュの斧刃はカートリッジの魔力を消費して元の大きさに戻っていたがそれでもアリシアの身体を覆い隠すには十分だった。
辛うじて斬撃を防ぐが、槍の先端部がアリシアの腹部をかすめ、臍下を薄く切り裂く。
高町なのはは攻撃を休めない、振り下ろした刃が蜻蛉が跳ね上がるように打ち上げられV字の軌道を描いて振り抜かれる。アリシアの華奢な右肩に斜線が刻まれ、真っ黒な鮮血が飛び散る。
高町なのはは全身をバネのように跳ね回しながら槍を操った。腕の延長という感覚を持って振るわれる槍はアリシアを貫く喜びを求めて踊り狂う。
高町なのははこの歳で実家の槍術を皆伝、魔術戦に応用すべく練磨していた。

壁のような密度で繰り出される刺突がアリシアの身体を少しずつ犯す。
つま先に穴が開き、脇腹を斬られ、二の腕が抉られる。
爛れた喜びに満ちた笑顔で高町なのはは執拗に槍を振るう。
「ほら、油断してると一杯穴が開いちゃうよ!」
「調子に乗るな!」
アリシアの言葉に応じるかのように周囲に巨大な影が聳え立った。
巨人の金棒が高町なのはを蝿を叩き潰すかのように振り下ろされる。
高町なのはの槍が円弧を描き、金属の塊がハムのように輪切りにされる。

その隙にアリシアは最大加速で距離を取る。

後方に退避したアリシアは巨斧を振りかぶり全力で振り払う、巨大な刃が回転鋸のようにして高町なのはに向かって円弧を描いて突き進む。
高町なのはは魔力弾数発を生成し、飛来する巨大な刃を迎撃。
数発の爆裂音が響き、黒刃の姿は立ち上る火焔に消えた。

爆音が静まると、高町なのはの周囲に羽音が振動していた。
自動車のエンジン駆動音にも似たその音は共鳴し、高町なのはを全方位から囲んでいた。
先程放たれた巨斧の刃が無数の蜂に変貌し周囲一帯を埋め尽くし、高町なのはを獲物として狙い定めていた。
「お返しだよ!なのはちゃんの体、蜂の巣にしてあげる!」
一斉に高町なのはに向かって轟音の波を伴い蜂の群が殺到する。
高町なのはは反射的に全方位型の障壁を展開する。
一匹の大きさは2cm程度だが、その数は100万匹を超えていた。殆どの蜂は高町なのはの障壁に触れた瞬間蒸発して消えるが、その屍を超えて絶える事無く光の壁に針を突き刺し続ける。全ての蜂が情欲に溺れた雌のように尻を振り一心不乱にピストン運動を繰り返す。
やがて、障壁に僅かな綻びが生まれ、そこから一匹の蜂が障壁内に侵入する。すかさず高町なのはの首筋に粘液の滴る針を突き刺し、先端部から体液をぶちまける。
高町なのはの体内に熱湯を注ぎ込まれたかのような感触が走る、同時に広がるのは意識を失いかねない程の激痛の波。刺された箇所を中心に全身の肉が悲鳴をあげる、体内に無数の剃刀を混入されたかのような痛み。
「ぐぅあぁああ!」
高町なのはは咆哮と共に開いている右手で首筋の蜂を掴み、握り潰す。
『グチャ』と不快な音が響き、手中からは黒い粘液が糸を引きながら零れ落ちた。

槍の一振りで薙ぎ払うにも魔力弾で撃墜するにも数が多すぎる、高町なのはは痛みを堪えながら目を閉じ状況打開策を模索する。

「あっははは!刺されちゃったみたいだね!なのはちゃん、痛いでしょう?
別に刺されたからって致死性のある毒じゃないから心配しないで♪
ただ、気が狂うほどの痛みが広がるだけだから。
まぁ、なのはちゃんの場合はもう狂ってるからそんなに心配いらないかもね!」
アリシアは更に蜂を操作、高町なのはの障壁を突き崩す。次々と小さな穴が穿たれていく。
障壁全体に破砕音が迸った、崩壊の予兆。
アリシアが蜂の圧力を高めて最後の一押しをしようとした瞬間、高町なのはの障壁内部から赤い光が漏れる。
蜂の群を巻き込んで光が広がり、体の芯を震わせる音塊がアリシアに叩きつけられる。
50m程距離を置いていたアリシアも爆圧で吹き飛ばされた。

・・・自爆。
高町なのはは周囲の蜂を焼き払うために障壁そのものを爆裂させた。
バリアブレイクという敵攻撃へのカウンターとなる魔法の一種であるが、それを高町なのはは周囲の蜂全てを焼き払う威力で放った、正気とは思えない気狂いの所業。
アリシアは顔を引きつらせる
いくら防御力に自信があるとは言え正気の沙汰ではない。あれだけの爆破となると自分も巻き込まれるのは必定である。身体に巻きつけた爆薬の束に点火する事となんら変わりない。
残響が大気を震わせる中、爆煙が晴れていく。
そこから現れたのはバリアジャケットが破れ、煤だらけになった高町なのは。その目からは戦意が失せるどころか沸き立つような熱を帯びていた。しかし爆破による衝撃で視点はどこか虚ろなもので、意識を失いかけていた。
「この化け物!」
アリシアが左手の五指に力を込めて、黒いワイヤーカッターを放つ。流麗な弧線を描きながら高町なのはを袈裟斬りにする。回避も防御も出来ずに高町なのははまともに攻撃を受ける。
バリアジャケット前面部に爪痕のような裂傷が走り、引き裂かれる。高町なのはの成長途上の小さな胸が晒される。鎖骨から下腹部にかけては五つの平行線が赤い血潮を引いて刻み込まれていた。しかしその攻撃が気付けになったのか、高町なのはのぼやけていた視線が定まる。
アリシアは一気呵成に畳み掛ける。
触手の牙が未だ迎撃体制を整えきらない高町なのはに接近、そのままバリアジャケット諸共左足を噛み砕いた。
肉が千切れ、骨が砕かれる音が脳髄にまで届く。
触手の牙が高町なのはの柔らかい肉の感触を楽しむかのように獣歯を埋めたまま内側を掻き回す。
「んぅ・・・ああぁあ!」
高町なのはは常人であればショック死してもおかしくない痛みを堪えながら、RHEの衝角部分を触手の上顎部分に突き立てる、そのまま零距離砲撃。異形生物の顎が半分消失し、高町なのはの左足が解放される。大型ミキサーの中に足を突っ込んでしまったのかと思うような惨状、左足は砕けた骨が露出し、牙で掘削された赤黒い大穴からは血肉が溢れ出していた。

アリシアは勝利を確信した。あれだけのダメージを与えれば、いずれは失血死する。モーションのでかい隙だらけの砲撃さえ喰らわなければ決して自分が負けることは無い。
「ふ、はは、管理局最狂の魔導士もここで終わりだね。
後は残った手足も砕いて潰してあげる。それからフェイトちゃんの前でゆっくり時間をかけて犯しながら解体してあげるね!あっはははは」
アリシアの容姿に似合わない嘲笑が空を埋め尽くす。


その嗤い声を遮るように高町なのはが口を開く。
「もうそろそろ、いいかな」
高町なのはの呟くような小さな声が妙に透き通った響きでアリシアに届いた。
「もういい?ああ、覚悟が決まったって事?もっと抵抗するかと思ったけど意外だなぁ。
でもね、そういって油断した所を反撃するって言うのも良くある手だもんね。特になのはちゃんは諦め悪いはずだし・・・。
じゃあ、先にその悪さをしそうな手足を切り落としちゃおうか?きっと大人しくなるよね!」
そう言うとアリシアは斧を構えて高町なのはに突進する。
しかし、その突進は高町なのはの一言で止まる。
「アクセルシューター・マイクロスナイプ」

アリシアの身体がくの字に折れ曲がる。
突然体内に大量に発生した得体の知れない異物感、内腑を食い破られるような許容不可能の痛撃が脳髄を犯しながら全身に広がった。右手に持っていたバルディッシュが零れ落ち、地上に落下する。
絶叫、絶叫。
アリシアが幼い喉を引き裂かんばかりに悲鳴をあげる。無人の世界に広がる悲痛な叫び。
高町なのははその声を有名作曲家のクラシック音楽を聞くかのように楽しむ。
「ああ、良い声だよ。可愛いよぉ。
小さい頃のフェイトちゃんを思い出すよ。繊細で、儚くて、壊れやすい楽器みたい。
もっと鳴いて、もっと私に歌を聞かせて!」

アクセルシューター・マイクロスナイプ、高町なのはが試験的に運用を開始した魔術。
魔力弾を感知不能な程の極小サイズに圧縮生成、大気中に散布し敵対象に呼吸と共に魔力弾を吸い込ませる。そして体内に入り込んだ魔力弾は高町なのはの指令一つで活性化、敵を体内から犯し尽くす兵器となる。
高町なのはの類稀な天才性と桁外れの狂気が生み出した最小にして最悪の魔術。
戦闘開始からずっと高町なのはは通常の魔力弾を生成すると同時に、極小の魔力弾も散布し続けていた。
今や周囲一帯の大気には、高町なのはの霧よりも微細な輝く狂気が満遍なく混入させられていた。

高町なのはの指がうねる、それは情事の際の愛撫を思わせる艶かしい動き。その動作に合わせてアリシアの体内に侵入した微粒子程の魔力弾が動きを変え、その度にアリシアの全身が震える。その反応を見て高町なのはは新しい人形を与えられた少女のように微笑んだ。

腹の中に百足を流し込まれたのような感覚、体内を蠢く異物にアリシアは蹂躙され尽くす。
腹部が異常な盛り上がりを見せ、薄い皮膜を破ろうとする度にアリシアが全身を捻って涙を流し泣き声を上げる。
止まらない吐血、顔が黒い血液で汚れる。股下からは破瓜を迎えた少女のように血液が幾筋も垂れ落ちて線を引いていた。
壊れた楽器のように濁音混じりの絶叫が響き渡る。

アリシア自身には1分にも1時間にも永遠にも感じられる程の時を経て、体内を犯す蟲が消えた。
その顔は涙と血液と吐瀉物に塗れて、茫然自失とした表情。意識を保っているかどうかも怪しかった。

高町なのはは辛うじて空中に浮ぶアリシアの姿を昆虫を観察するような目で見つめる。
「この魔法、準備に時間が掛かるわりに発動してからの持続時間が短いのがネックかなぁ。
目標としては、内側からお腹を破っちゃうぐらいの威力にしたいんだけどね。
・・・ってアリシアちゃん、失神しちゃった?そんなに気持ちよかったんだ。
じゃあ、優しく起こしてあげるね」

そう言うと自然な動きで高町なのはは精密な砲撃を放つ。
アリシアの左足が膝下から全て光に飲まれ、消失する。色を失っていた目が苦痛と言う彩を持って光を取り戻す。
「い、いやぁぁああ!」
アリシアの膝から下は壊れた蛇口のように黒い血液を噴き出す。
アリシアの体は常人よりも回復力は高いが、再生能力は無い。失った四肢は取り戻せない。
耐えられない苦痛と喪失感がアリシアの胸を埋め尽くした。

それでもアリシアは傷口の断面から噴き出す血液を制御して出血を止めるように固定して塞ぐ。

それを見て高町なのはは沸騰する狂気を含んだ笑みを浮かべる。
「駄目だよ、もっと可愛い声聞かせてよ」
放たれる砲撃。
今度はアリシアの右腕が肩口から全て塵と消えた。

もはや高町なのはのお気に入りの楽器となったアリシアは痛々しい悲鳴をあげ続けた。
そんな嬌声を聞き、高町なのはは顎を震わせながら絶頂を迎えた痺れが全身に伝わるのを感じていた。


アリシアは理解した。今更もう手遅れだが自分が敵に回したのは正真正銘の悪魔だと。
涙混じりに悲鳴をあげていたアリシアは幼子のように助けを求める。
「助けて!フェイトちゃん!痛いよ、怖いよ!」

その声はますます高町なのはを喜ばせる。
「あはは!無駄だよ!フェイトちゃんは自分でボロボロにしちゃったんでしょ?
それに、フェイトちゃんの居る学校からも大分離れてるしね。
その可愛い泣き声は私にしか聞こえないよ」
高町なのはは嗜虐心をたっぷりと染み込ませた表情で、衝動の赴くままに次は右足を吹き飛ばそうとRHEを構える。
だが砲撃を放つ直前に、アリシアと高町なのはの間に疾風を伴い影が飛び込んできた。
全身傷だらけ、飛行魔術も不安定な状態のフェイトが両手を広げてアリシアを守るように高町なのはの前に立ち塞がる。
「もうやめて!アリシアももう戦えないよ、なのはの勝ちだから。これ以上酷い事しないで」
必死で声を上げるフェイトを見て、高町なのはは驚いた様子で言う。
「凄い、フェイトちゃんあんな状態でここまで来たの?感心しちゃうなぁ、本当に優しいんだね。
でもフェイトちゃんだって見たでしょう?管理局からの緊急通達。アリシアちゃんは塵も残さず殺さなくちゃ。
だから、そこを退いて」
最後の一言はいつもの高町なのはの声とまったく変わらないとても優しい響き。

だがフェイトは決して広げた両手を下げない。
「お願いだから、もう止めて」
フェイトの両目には強い意思の光が灯っていた。
アリシアは思っていたよりも広く感じるフェイトの背中を見上げる。
「フェイトちゃん、助けて・・・くれるの?」
振り向かずにフェイトは答える。
「お姉ちゃんは私が守る、もう寂しい思いはさせないから」

アリシアの両目から自然と涙が零れる。
「フェイトちゃん、私の事『お姉ちゃん』って呼んでくれるの?
あんなに酷い事したのに・・・」
嗚咽混じりに言葉を紡ぐアリシアにフェイトの優しい声が降り注がれる。
「もう、良いよ。私もお姉ちゃんと会えて嬉しいんだよ」
アリシアの目からは混濁した狂気の色が失われていた。そこには純粋に姉妹の再会を喜ぶ輝きだけが存在する。

「どいて」
だが姉妹の絆を確かめ合う僅かな時間は、憎悪が込められたほの暗い声に遮られる。
「どいて、フェイトちゃん」
高町なのはが右手の人差し指をフェイトに向けながら言う。指の先端には獣脂のような粘りつく輝きを放つ魔力光。
「なのは!もう止めて、きっと何か別の方法があるはずだから!お願い!アリシアを助けて!」
もう高町なのはの耳にフェイトの声は届かない。
「どいて」
小さな呟きと共に高町なのはの指先から剃刀の様に鋭い魔力砲が、一瞬の炸裂音を伴い放たれる。
空気を引き裂き一直線に突き進む光がフェイトの頬を薄く刻む。
「どいて」
放たれる光。フェイトの太腿に赤い筋が描かれる。
「どいて」
二つに結んだ髪の一房が中心部から断たれる。

高町なのはの井戸の底から聞こえるような低い声と共に次々と放たれる威嚇射撃がフェイトの体を少しずつ抉る。
だが、フェイトは一歩も下がらない。両手を広げたまま、決して折れる事のない強固な意思を持って高町なのはを真っ直ぐに見据える。
アリシアは震える声を上げる。
「フェイトちゃん!」
フェイトは短く答える。
「大丈夫、お姉ちゃんは私が守るから」


無限に続くかと思われた射撃が突然止んだ。
代わりに響くカートリッヂの炸裂音。高町なのはの手に持つ凶器から硝煙の糸を引いて薬莢が吐き出される。弾倉に残った全てのカートリッヂを高町なのはは発動させていた。
「心配しないでフェイトちゃん、どんなに醜い傷痕が残っても、手足が吹き飛んでも、私が愛してあげるから」
RHEの先端部に巨大な魔力が凝縮されていく。周辺の魔力も吸い込み、肥大化する。
正面に立つフェイトには眩い光で高町なのはの姿は視認できない。
フェイトはこの魔法を知っている。高町なのはの切り札「スターライトブレイカー」。
9歳の時、高町なのはとの決戦で最後の止めとして受けた超弩級魔力砲撃。
戦艦の主砲を上回る破壊力を生身の魔導士が放つという信じられない魔法。無論、数年の時を経てその威力、精度は当時よりも跳ね上がっている。

高町なのはが口を開く。そこから聞こえるのは普段どおりの穏やかな声。
「だから・・・どいて」
引き金が引かれ、号砲が音をも掻き消す。
RHEの先端部が発射熱で溶解、直径50mを超える魔力砲は高町なのは自身をも焦がす。
万象全てに虚無を与える光が大気を焼き尽くし、風を穿ち、一直線にフェイトに向かう。


フェイトは残された魔力をありったけ込めたシールドを展開、両手を前に突き出す。
アリシアは首を横に振りながら声を振り絞って叫ぶ。
「フェイトちゃん、逃げて!もういいよ、死んじゃうよ!」
その声にフェイトが少しだけ振り向いて優しい声で言う。
「大丈夫だよ、私が絶対に守ってあげるから」


フェイトが前方に向き直ると同時に、爆光がシールド諸共二人の姿を容赦なく飲み込んだ。


魔力砲の放射時間は5秒間。
射線上にあった雲は千切れ、大気中に余剰魔力が静電気のように迸っていた。

アリシアは固く瞑っていた目を開く。
超砲によるダメージは一切無かった。フェイトはアリシアを守りきっていた。
「フェイトちゃん!」
アリシアは目の前に佇む妹に後ろから声をかける―――返事は無い。
フェイトの顔を見るために前に回り込む。

フェイトはシールドを構えた姿勢のまま気絶していた。
魔力を全て使い切った事によるものなのか、両腕を焼き尽くした火傷が原因なのかは分からない。
美しい金色の髪は所々焦げ付き、突き出した両手の指先は炭化して黒く焼け爛れていた。
しかしその両目からは意思の光が失われていない、姉を守る強い意思だけが宿り続けていた。
「フェイトちゃん・・・、ああ・・・」
自分が高町なのはに蹂躙された時よりも悲痛な声が響く。


そこに悪魔の囁きが漏れ聞こえる。
「もう、フェイトちゃんたら強情なんだから・・・。
大人しく退いてくれればこんな事しなくて済んだのになぁ。でもしばらくは両手が使えなくなっちゃったみたいだから、私が介護してあげなくちゃ。
『あーん』って代わりに食べさせてあげるの。
きっとフェイトちゃんも喜ぶよ」

アリシアが高町なのはに怒りの籠もった眼光を向ける。
その瞳からは狂気を宿していた面影は消え、今は妹を傷つけた一匹の怪物に対する恐怖と怒りに満ちていた。
「なんで、こんな酷い事!
フェイトちゃんの事好きなんでしょ?どうしてこんな・・・」

高町なのはは不思議なものでも見るかのような視線をアリシアに向ける。
「もちろんだよ、フェイトちゃんの事、大好きだよ。
だからフェイトちゃんに私を刻み付ける時は凄く気持ち良いの。一生消えないように深く抉ってあげるんだよ。
後でフェイトちゃんに私の手も同じように焼いてもらわなくちゃ。私達はいつも一緒、お揃いじゃなくちゃ恋人同士じゃないもんね。
今日は両手に綺麗に私の色を付けてあげられたから結果としては良かったかも。
ありがとう、アリシアちゃん。
今から殺してあげるからね」
夢物語を語る少女のように浮ついた声が高町なのはの口から吐き出された。

アリシアは恐怖した。
どこまでも果てしなく狂っている。
高町なのはは狂気こそが愛の証明と信じている。何の脈絡も無く、他人の同意も必要としない自らの狂気を一心不乱に崇拝する狂信者。

アリシアは地上に広がる湖面から巨腕を一つ生成、フェイトの体をそっと包み込む。
途端に力が抜けたフェイトの体が崩れ落ちるように倒れこむ。
そのまま、直下に広がる運動公園の柔らかい緑の上に降ろした。

フェイトを地上に降ろした事を確認すると、アリシアは高町なのはを睨みつける。
「今度は私が守ってあげる」
震える体を奮い立たせ、アリシアは残された左腕を天に翳す。
地上に広がっていた血液が噴き上がり一点に集約される。
しだいに球形を象り始め、混濁した深く暗い色を帯びる。それは冥府に誘う門のよう。
アリシアの切断された手足の断面からも血液が放出され、球体に取り込まれる。
巨大な黒真珠は鼓動する。それはアリシアの心臓の代わりに植えつけられたデバイスの核と連動し、一つ脈を打つたびにはち切れんばかりに膨れ上がった。
それは空に浮ぶ黒い太陽に思えた。
その大きさはあっという間に直径1000mを超えていた。その影に覆われて周囲一帯が闇に包まれる。
アリシアの命そのものを削って紡がれる最大威力の魔術。炸裂すれば封鎖領域だけでなく現実世界をも巻き込んで崩壊の嵐を巻き起こす。生き残れるのは術者のアリシアと、同質の魔力防壁で包み込まれているフェイトだけ。

その様を黙って見ていた高町なのはは感嘆の気持ちを表す。
「うわぁ、凄い。私と同じかそれ以上の魔力だよ。
全力全開の最後の勝負・・・だよね。
いいよ、私もそういうの好きだから。相手をしてあげる。
私の全力全壊で!」

高町なのははバリアジャケットの裾に手を伸ばし、大きな物体を取り出した。
余りにも非常識な存在が高町なのはの右手に握られていた。
本来機銃に備え付けられるようなサイズのドラム弾倉。
その残弾表示は1200発。
高町なのはは既に空になった弾倉をRHEから取り外す。そして狂気の産物である円形の弾倉を装着させる、機械音と共に早速一発目が装填される。
高町なのは専用装備。
砲撃魔導士のカートリッヂ携行量増加を睨んで試験開発されていた装備品だが、高町なのははそれをガトリング砲の如く扱えるように改造させた。
「受けとめて!これが私の全力全壊だよ!思いっきり犯してあげる!」
ドラム弾倉が唸りを上げて、カートリッヂの一斉掃射を開始。
鼓膜を引き裂く暴力的な爆裂音が、吐き出される薬莢を伴い絶え間なく続く。
連続する炸裂音は一つの音となってどこまでも長く続き、大河の瀑布を思わせる。

高町なのははドラム弾倉から注ぎ込まれる常人であれば気が狂い、暴発させて血肉を撒き散らす他無い程の膨大な魔力を制御する。
高町なのはにとってもこれは初体験だった。
RHEの先端部に金属質の破砕音が響き亀裂が入る。高町なのはの両腕は裂傷が駆け巡り鮮血を撒き散らす。しかし高町なのはの瞳は力を一切失わない、確固たる自信が魔力制御を支える。
やがてドラム弾倉が最後の一発まで放出し空転する。
高町なのはは空になった弾倉を取り外し、投げ捨てた。
そして、アリシアと同じように天に向けてRHEを翳す。一瞬の静寂の後に放たれる砲撃、溜め込まれた1200発もの狂気が堰を切ったように吐き出される。桜色の光柱が雲を吹き散らし、大気を焦がし成層圏にまで到達した。
高町なのはがまだ、名前も付けていない魔法。実戦で使用すること自体が初めてだった。


そしてアリシアの暗黒色の魔力球も既に全景を捉えることが出来ない程の大きさに到達していた。
「くたばれ!高町なのは!!」
アリシアが左腕を振り下ろす。
同時に酷く緩慢な動きで球体が落下を開始した。
まるで彗星の落下、単純な質量兵器として考えても想像不可能な破壊をもたらす。
世界全体を揺るがす轟音と共に高町なのはへとアリシア渾身の一撃が突き進む。


高町なのはは大上段にRHEを構えていた。
先端部からは天を支える柱の如く魔力砲が放出され続けている。
直径50m射程距離15000m超という規格外の剛刀。
高町なのはは全身の筋肉が軋む音を聞きながら、空を断つ光の剣を振り下ろす。


天上の雲を引き裂いて現れた光り輝く粒子の束が漆黒の球体にめり込む。
僅かな拮抗後、一気に暗黒の球体が左右真っ二つ切り裂かれた。
勢い余って地上に叩きつけられた光の奔流が大地を割断する。全長を見渡す事すら出来ない巨大な剣が土砂を巻き上げ引き抜かれた後にはどこまでも続く断崖が刻まれていた。
高町なのはは凶刃を持ち上げ横一文字に振るう。加速された魔力の光が閃光となって煌めく。
続いて返す刀を高町なのははX字に振るう。
地上を覆い隠すほどに巨大だった魔力球が林檎のように八分割され、力を失った欠片は虚空へ霧散した。

あまりにも圧倒的、高町なのはの戦闘能力は既に管理局の一個艦隊に匹敵するものだった。


アリシアは魔力を殆ど使い果たし、身動き出来なかった。
仮に魔力に余裕があったとしても動けなかった。恐怖のあまり全身が硬直していた。
そこに高町なのはの狂声が届く。
「アリシアちゃん、これで終わり、これで終わりだよ!」
夢幻も現実も全て無に帰す虚無を孕んだ光がアリシアに振るわれる。
僅かに身体を退く事が限界だった。
アリシアの腰から下が光に飲まれて全て消失する。

もはや痛みなど感じない。
喪失感と絶望感に包まれた世界。
アリシアのバランスが崩れ、飛行魔術も途切れ、自然落下を開始する。

アリシアは地上に横たわるフェイトを見下ろす。
最後まで自分を信じてくれた。守ってくれた。たった一人の残された家族。

『お姉ちゃん』
フェイトの声がアリシアの心に響き渡った。

「私は・・・妹を守る!」
奇跡的な覚醒、アリシアの身体が抑えきれない衝動と共に力を取り戻す。
落下軌道を修正、高町なのはに向かって一直線に降下する。

「まだ、何かしようっていうの?
なんて健気なの!やっぱりフェイトちゃんのお姉ちゃんだね!可愛い!
それじゃあ私が可愛かったご褒美に止めを刺してあげる!」

高町なのはは光の剣を解除。
代わりにRHEの先端部に槍刃を生み出す。

アリシアは唯一残った左腕を振り上げて高町なのはに特攻する。
何も持たない、ただ単純に殴るかのように。

高町なのははタイミングを見計らい槍を突き出す。
鈍い衝撃と重量感が左腕に伝わる。
魔槍は寸分違わずアリシアの胸部中心を貫いていた。そこはアリシアの魔力を発生させるデバイスの核、当人にとって生命の源である心臓の代替物が収まっている場所。
串刺しにされたアリシアから噴き出る返り血で高町なのはの防護服が斑模様に染まる。
高町なのはは勝利の余韻に浸った表情を浮かべる。
「はい残念。それじゃあ念入りに殺してあげるね。うっかり殺し損なうと大変な事になっちゃうし」
そう言うと高町なのはは手首を捻りアリシアの胸を抉るように槍刃を捻じ込む。柔らかい肉と華奢な胸骨が不快な音を立てて滅茶苦茶に掻き乱される。
もはや悲鳴を上げる事すらできないアリシアの口から大量の血液が吐き出され、高町なのはの全身に浴びせられる。今や高町なのはの白いバリアジャケットは染み込んだ血液で漆黒に染め上げられていた。
もう視力を失い、何も見えないアリシアが高町なのはに向かって呪いの言葉を送り届ける。
「最後に・・・油断・・したね。
バ・・・ラバラに、なれ」
アリシアの左手が僅かに動き、最後の魔法を解き放つ。執念の一撃。
高町なのはに染み込んだ血液は超高濃度に圧縮した魔力の塊。バリアジャケット自体に染み込んだ爆薬はどんな重防御も意味を成さない。

アリシアの血液が黒い光を放ち、衝撃波が円環を形作り広がる。
閃光と火焔に包まれた高町なのはの姿が消失し、大空に雷鳴のような爆裂音が轟々と木霊した。

爆破の衝撃でアリシアの体が槍から引き抜かれ、流れ星のように落下を開始する。



地上に横たわっていたフェイトは頭上を埋め尽くす巨大な爆音で目が覚めた。
空を見上げると一面に広がる爆煙と落下してくる影が見えた。
「お姉ちゃん!」
フェイトは全身の痛みを堪えて走った。
地面に激突する寸前でアリシアを抱きとめる。受け止めた衝撃で膝が崩れてもつれるように転ぶ。
フェイトが必死で抱きとめたアリシアの体は余りにも軽かった。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!!」
フェイトの両目から涙が溢れ出して止まらなくなっていた。アリシアが空中で何をしていたのか肉体が欠損した無残な姿を見て全て理解した。
アリシアがフェイトの呼びかけに応え、目を開く。しかしその視力を失った両目にはフェイトの姿は映らない。
震える手でフェイトの頬を探り当ててアリシアはフェイトの涙を拭う。
「私、最後に少しだけお姉ちゃんらしい事できたかな?フェイトちゃんを苛める悪い奴、頑張ってやっつけたよ」
「うん、うん」
フェイトは一生懸命に頷く、その度にアリシアの顔に涙が零れ落ちる。
アリシアの身体は末端部分から徐々に黒い塵となって崩壊を始めていた。
「ごめんね、フェイトちゃん。私、酷い事しちゃったよね。
本当は会えて凄く嬉しかったんだよ。あんな事したくなかったのに、なんでだろ、ごめんね」
「いいよ、もう良いよ!お姉ちゃんは何も悪くない!」

アリシアの左手がフェイトの頭を寄せる。小さな身体がフェイトを抱きしめる。
「嬉しかったんだよ、永い眠りから覚めたらこんなに可愛い妹が居るんだから。
こっちの世界のみんなとも仲良くしてもらって、元気なフェイトちゃんを見てるだけでも嬉しかったよ」
「私も、私も嬉しいよ!だから行かないで!お姉ちゃん!」

アリシアが深く息を吸い込んだ。
「フェイトちゃん、幸せになってね」
双眸が静かに閉じられる。
「嫌、イヤ!お姉ちゃん!行かないで!!」
フェイトの悲痛な叫びが虚しく響く。フェイトの腕の中でアリシアの肉体は全て塵となって虚空に消えた。
二人の居る場所は公園の木の下だった。
そこは以前フェイトが夢の中でアリシアに謝罪と別れを告げた場所と良く似ていた。
フェイトが嗚咽混じりの泣き声を上げる。全身から搾り出される悲しみはどこまでも深い。
フェイトにとって奇跡的に残った最後の血縁が目の前で消え去った。
底の無い泥沼に嵌ったかのような無力感が心を苛む、慟哭は耐える事無くフェイトの魂を削りながら溢れ出た。




「最後のお別れは済んだかな?」
爆炎に飲まれたはずの高町なのはが空中に佇んでいた。
相対する者が絶望する頑健さ。
満身創痍、バリアジャケットは殆ど消失、傷にまみれた肢体を覗かせている。
しかし致命傷を受けた形跡はどこにも見当たらない。

フェイトは見上げる事もせず腕に残ったアリシアの温もりを感じたまま問いただす。
「なんで・・・止めてって、助けてって言ったのに!どうして!!」

高町なのはは答えない、無表情のままフェイトを見下ろす。
フェイトの手元にはいつの間にかバルディッシュがあった、アリシアが最後に本来の持ち主に返してくれたのかもしれない。
フェイトはバルディッシュを手に取る、黒曜石の輝きを放っていた宝玉が黄金の輝きを取り戻す。
魔力が注ぎ込まれ、大鎌の刃を形成。
「なのは!!なのは!!高町なのはぁ!!」
フェイトは自分自身、どこにこんな力が残されているのか分からなかったが持てる力の全てを使って高町なのはに弾丸となって突撃した。
先程まで全身を蝕んでいた痛苦は消えていた。真っ白な思考が広がる。

大鎌の刃が細く白い首筋目掛けて振るわれる。
高町なのはは身動き一つしないでその様子をただ見つめるのみ。



―――金色の刃は高町なのはの首を切り落とす寸前で止められていた。

「フェイトちゃんは優しいね」
姉と同じ台詞を高町なのはが言う。
「どうにか間に合ったよ。最後は少し冷や汗ものだったけど」
高町なのはは、自らの首に触れる刃を優しく下ろす。
そのままフェイトを包み込むように抱きしめる。
胸の中で声をあげて号泣するフェイトの頭をそっと撫でる姿は仲の良い姉妹のようだった。


アリシアの身体は爆弾だった。
二人には管理局からの緊急通信で『詳細』が伝えられていた。アリシアの身体が孕んでいたロストロギアは20年前にテロリストが使用した最後の姿を確認されて以来、初の再臨となった自爆兵器。
管理局の黎明期に凶悪犯罪者達が好んで用いていた災厄。
柔軟性の高い幼い子供の身体に埋め込んだ核を元に強大な魔力を溜め込み、子供自身にも高い魔術能力を与え現地で戦闘を行わせる。
爆弾を除去しようとする敵を排除する自衛型自爆兵器。
当然、人体改造を施された子供本人は自らが爆破することなど知らされない。
無理矢理大量の魔力を体内に貯蔵する事になった子供の大半は精神に異常を来たす。偽りの記憶と人格を歪めるための狂気を同時に植え付けられた子供達は調整された欲望のままに行動する。それを利用して都合の良い爆弾を作り上げる。
爆弾が発動してからの解除、除去は不可能。そもそもこの爆弾テロを防衛する事に成功した例は存在しなかった。魔術適正の無い子供をSSクラスの魔術師に作り変えてしまうだけでも、この兵器の脅威を物語るには十分だった。
次元振動をも引き起こす爆撃の被害を受けた都市は跡形も無く消え去り巨大なクレーターしか残らず、酷い例だと惑星もろとも死滅する程であった。
管理局兵器開発部の提示した唯一の望みは爆破する前に魔力の供給源である子供に植え付けられたデバイスの核を破壊することだった。
だが、それは同時に罪の無い子供の死を意味する残酷な希望。

フェイトは最後までアリシアを助ける方法を考え、探した。
だが爆破寸前のアリシアを救う術は何一つ見つけられなかった。


高町なのははフェイトを抱きしめたまま子供を宥める母親のように静かに語りかける。
「優しいフェイトちゃんには、こんな事させられないよ。
今回の件も私がいつものように、
『戦闘狂気質が出ちゃってアリシアちゃんを殺しちゃった』
『フェイトちゃんはお姉ちゃんを最後まで守ろうとした』
だからフェイトちゃんは何も悪くないよ。ほら、もう泣かないで」


高町なのははフェイトに「姉殺し」の罪を被せる事などさせられる訳が無かった。
自分の腕の中で涙を流し続ける姿を見て、ますますそう思った。

―――フェイトちゃんの二つ名に『優しい死神』なんて安っぽいものがあったけど、それは存外似合っているのかもしれないな。
声に出さず高町なのははそんな事を考えていた。



2人しか居なくなった世界に、止む事もなく泣き声が響き渡った。






事件から一週間の時が流れ、フェイトは時空管理局の捜査部を訪れていた。

両手の火傷はまだ完治しておらず、大量の包帯が巻き付けられている。全身の至る所に開けられた穴も先日塞がったばかりだった。それでも、魔法と最新の医療技術による治療を受けて傷の回復は順調に進んでいた。
そんな療養中のフェイトに事件の捜査を行っている部署から連絡が入った。
「アリシア・テスタロッサについてお渡ししたい物がある」
まだ痛む体と心を引き起こし、フェイトは一目散に向かっていた。

フェイトがアリシアを守ろうとした事は公式記録からは抹消されていた。
管理局への謀反と受け取られる行動は一切記述されていない―――高町なのはの証言を元に作られた公式記録。
事件はフェイトと高町なのはに対するテロ攻撃という事で落ち着いた。
捜査は続行中だが、アリシアを操った真犯人に特定する情報は見付からず難航していると見舞いに来た高町なのは(あれだけの攻撃を受けて翌日には快復)に聞いていた。
その捜査に何か進展があったのかと期待を胸に抱きながらフェイトは広大な管理局の敷地を進む。
巨大なオフィス棟の中から、目標のブロックを見つけ辿り着く。
受付に自分の名前を告げ、しばらく柔らかいソファに腰掛けていると一人の男が現れた。

皺だらけのスーツにだらしなく曲がったネクタイ、無精髭を生やした中年男性。
丸太のように逞しい体と短く刈り上げられた金髪。数多の戦いを潜り抜けてきた名刀のような印象を周囲に放っていた。
フェイトはすぐさまソファから立ち上がり、敬礼。
目の前の中年男性は酷く適当に右手を掲げた。

一息の間を置いて、男が口を開く。名乗るつもりもない。
「事件後、君のデバイスであるバルディッシュの中から異物が発見された。アリシア・テスタロッサが君から奪ったバルディッシュを使うために流し込んだ血液が僅かながら残っていたようだ。
こちらの科学班で血液を解析してみたが、何しろ本当に微量だったので断片的なテキストデータ以外は見付からなかった」
フェイトの返答を待つ事もせずに男は懐から茶封筒を取り出す。
「これは、君にしか渡せない。また、君以外に受け取る権利を持つ人間は居ない」
男はそう言うと、茶封筒をフェイトの胸に押し付けるようにして渡し、その場を立ち去ろうとする。
フェイトは戸惑う気持ちを隠せないまま、男の背中に問いかける。
「あ、あの・・・これは?」
男は振りまかないまま妙に通る声を上げる。
「データはそこに印刷したものを残し全て削除しておいた。アリシアの血液も無害化していたので君のバルディッシュの中に戻しておいた。後は好きにすると良い」
一方的に言い終え、そのまま男は立ち止まる事もなく片手を上げて別れを告げるかのように廊下の奥へと消えて行った。
フェイトは礼を言う間もなく去っていく男の背中に頭を下げ続けていた。



フェイトは足早に、管理局内にある自室に戻った。
窮屈な制服を脱ぐ事もせず、男から手渡された茶封筒を開く。
中から出てきたA4用紙にはタイトルも何も付されておらず、僅か数行の文字が印字されているだけだった。

「みんなと一緒になりたい」
「フェイトちゃんは優しくて可愛い私の妹」
「もう一度みんなと暮らしたい」
「お母さん、フェイトちゃん大好き」

そこに綴られたていたのはアリシアの儚い想い。
フェイトの頬を自然と涙が伝い、アリシアの遺書に零れ落ちる。
「お姉ちゃん、私のお姉ちゃん・・・」

滂沱の涙を堪えきれずにフェイトは真っ赤に目を腫らし泣き続けた。


―――落ち着きを取り戻す頃には辺りは暗くなっていた。
フェイトはベッドの脇に立てかけてある昔の写真を眺める。
一時は見るのも辛かった写真。そこには姉と母の微笑む姿が写っていた。


フェイトはその写真に決意する。
管理局の立派な執務官になり必ずアリシアをこんな目に合わせた犯人を見つけ出して捕まえる。
自分と同じような惨劇を一つでも多く防ぐために・・・。

フェイトは写真を手に取り、語り掛けるように言葉を届ける。

「―――ずっと一緒に居るからね」










余話「悪魔を養い狂気を遺す」


フェイトがアリシアの遺書を受け取った頃、高町なのはは同じ管理局の中でも別の建物に居た。
少人数用の会議スペース。盗聴、盗撮に対する完璧なシステムを施された四畳半程度の部屋は簡素なテーブルと椅子だけが置いてある白亜の密室。

そこに高町なのはと八神はやてが向かい合わせに座っていた。
テーブルに置かれた珈琲に砂糖とミルクを入れて掻き混ぜながら八神はやては言う。
「随分上手くいったみたいやね」
「はやてちゃんのおかげだよ。本当に都合が良かったの。
アリシアちゃんの死体が偶然見付かった事、丁度良く処分に困るロストロギアが見付かった事、全部がタイミング良く重なってくれた」
高町なのはは珈琲に何も加えずブラックのまま飲み込み、口中に広がる苦味を味わう。

「結構大変だったんだけどね。まぁちょっとした人脈を使えば異空間の狭間で見付かった行方不明扱いの少女の死体を無かったことにするぐらいには出来る。
ロストロギアの方は存在そのものは厄介だったんやけど利害が一致する人達も居ってね、すぐに進呈してくれたよ。『是非とも史上最悪の自爆兵器の能力を解析したい』ってね」
八神はやてが珈琲を口にする。クリームの甘い香りが鼻をつく。
「まぁ、おかげで私も管理局の兵器開発部の変態共と仲良くなれたから良かったよ。
私も含め、守護騎士達の強化、調整、メンテナンスには必要な連中だし、八神家の家長として家族の身をしっかり守る礎が出来たのは行幸やった」
八神はやてが小さく微笑む。

管理局で働く八神はやてと守護騎士達の状況はあまり良いものではなかった。局内でも未だに犯罪者扱いする人間も多く、様々な所で不遇な扱いを受けていた。特に複雑なデバイスを用いているためメンテナンス面でのバックアップをまともに受けられずに出動する事は死に直結する恐れもあった。八神はやてにとって万全な整備を受けられる環境を得る事が自らを含めた家族を守るための最優先事項だった。
そのためならば悪魔の誘いにも喜んで従う。
自分の家族を守るためならあらゆる手段を講じる強さ。14歳にして彼女はその親としての境地に達していた。

「私もフェイトちゃんを取り戻せて良かったよ。
あの日、身体中が痛かったけどフェイトちゃんを犯したの。いつもより濃厚に強く激しくね。
そしたら泣きながら感じちゃってるフェイトちゃんがすっごく可愛いの。
あんまり可愛いからいつもより痛い事してあげたけど、フェイトちゃんも喜んでたよ。
その時実感したんだ、やっとフェイトちゃんが私の元に帰ってきてくれたんだって」
高町なのはが情欲に溺れた表情を浮かべる。
脳裏に浮ぶフェイトの淫らな姿を思い浮かべるだけで全身に震えるような快感が奔る。
「最初は酷い事思いつくわぁ、って思ったんやけどあんなに上手くいくとは思わんかったわ。学校で苛められてるフェイトちゃんを見て見ぬふりするの、私は辛かったんよ」
八神はやてが他人事のように話す。
「ああ、そうだね。クラスで苛められちゃってるフェイトちゃんも凄く可愛かった。
あんなに悲しそうな表情するんだもの。それでいて苛められた日の夜には私に甘えるように抱かれるんだから・・・。私のおっぱいに吸い付くフェイトちゃんなんて赤ちゃんに戻ったみたいで本当に可愛いんだよ。
私だけのフェイトちゃん。誰にも渡さない、渡さないよ」

心の底から嬉しそうに言う高町なのはを見て呆れるように八神はやてが言う。
「フェイトちゃんも難儀な恋人を持ったもんやね。
おちおち友達も作れんし、家族までなのはちゃんに皆殺しにされてまうし」
八神はやては目の前に居る高町なのはに少なからず恐怖を感じていた。


高町なのはとフェイトは共依存の関係にある。
一見外から見ると大人しいフェイトが活発な高町なのはに依存しているだけのように思える、二人の出会いを知っている人間ならなおさらだ。
しかし真実は少し違う。
高町なのはもフェイトに対して依存していた。
幼少時の高町なのはは自分の気持ちを口に出せない子供だった。両親が忙しい家庭環境から聡い高町なのはは我侭を言うことを自らに禁じていた。本来の高町なのはは考え込み過ぎて動けなくなるような性格だった。嫌われるのを恐れて気持ちを抑える事に終始する、賢く悲しい性質。
しかしその性質も小学生になり家族が落ち着き、友達も出来るようになってから次第に改善されていった。
そんな折、高町なのははフェイトと初めて出会った。
気持ちを抑えたようなもの悲しい表情、小さく戸惑ったようなか細い声、それらは全て過去の自分だった。
高町なのはは必死の思いで彼女を説得して助けた、それは過去の自分を助ける事でもあった。
そして高町なのはの願いは叶い、フェイトを苦しみから解放させられた。

誰かに迷惑をかけることを恐れて孤独に陥っていた彼女=自分を救う事が出来た。

高町なのはが初めて心の底から願った事だった。

それは高町なのはに大きな達成感を与えた、過去の自分を救った事こそが自らの成長の証明。
フェイトが居る限り自分は成長を続けられる、一緒に、永遠に。
高町なのははフェイトを自分の身体の一部のように愛する、独占する。そしてフェイトにもそうして欲しかった。

だが、フェイトは優しかった。
影を払われたフェイトは本来の慈愛に満ちた優しさを取り戻す事ができた。
フェイトは管理局の仕事を通じて自らと同じ境遇の子供を助けて養子にしていた。フェイトにとっては過去の自分への贖罪でもあった。

しかし高町なのはにとってそれは許せない行為だった。
自分以外に愛を注ぐフェイトに怒りを覚え、養子の子供に殺意を抱く程に嫉妬した。

守るものを得たフェイトは母性を目覚めさせ、高町なのはへの依存が薄らいでいたのだ。

そんな時、保存ポッドに入ったままのアリシアの死体が偶然発見された事を知り、何か利用できないかと考えていた。そこに利害が一致する八神はやてが現れ、あとはトントン拍子に話が進んで行き、現在に至る。




「これできっとフェイトちゃんはまた私を見てくれるよ。私だけを。
またどこかを向いた時はしょうがないから、養子の子供達も・・・ね。
その時はまた協力してね、はやてちゃん」
心の底から楽しそうな笑みを浮かべる高町なのは。その目は混沌とした輝きに満ちていた。
八神はやてはその表情を見て心臓が高鳴るのを自覚し、取引した相手が狂った悪魔なのだと再認識させられる。
「・・・そうやね。お互い、協力し合おうな」
なんとか声を絞り出して言うのが精一杯だった。

冷めた珈琲を八神はやてが口にすると、先程まで甘かった味が妙に苦く感じられた。







***

今事件は公式記録によるとテロリストによる、高町なのは教導官とフェイト・テスタロッサ・ハラオウン執務官に対する自爆テロ攻撃事件として処理された。アリシア・テスタロッサに爆弾を取り付けたであろう犯人は懸命な捜索が行われるも手掛かりは一切なく捜査は難航した。

なお、管理局内では高町なのはと八神はやての間に事件に関する何らかの取引が行われたと言う噂が流れていたが事件との関連性があるかどうかは不明とされ、当人達も噂に対しては黙秘を続けた。
半年間の捜査を経て手掛かりは何も得られず、捜査本部は解体され迷宮入りの様相を呈した。

管理局に次々と舞い来る事件の波に飲まれ、この一件も他の難事件同様次第に取り立たされる事も無くなっていった。


ただ一人、現在もフェイトだけがこの事件の捜査を個人的に続けている。

この後、そう長くない時間をもって、フェイトは事件の真相に辿り着く事になる。
それは高町なのはとフェイトが出会った時以来の死闘を巻き起こし、二人の関係を新たな形にする別の事件の引き金でもあった。

(完)



2007/8/17脱稿
サイト名兼サークル名:珈琲みるく症候群
著者:梅入

自作小説 | 11:57:33 | Comments(8)
コメント
完成おめでとうございます。
面白かったです。

細かい感想とかは、またお会いした時にでも。
2007-08-19 日 02:27:45 | URL | なおあき [編集]
またにはこんなSSもいいですね。

時間が空いてれば続編をお願いします。
2007-08-19 日 11:34:09 | URL | るな [編集]
> なおあき様

今日(コミケ)で色々アレコレ感想聞いて「ぬふぅ」って思いました。
まぁぶっちゃけ私はこういう路線しか走れないんで、しょうがないよね。

製本する時、というか印刷所に持っていく原稿作る時に何か聞くかもしれんけど、その時はまた宜しくなの。


>るな様

早速の御感想頂きありがとうございます。

ヤンデレとか大好きです。

あんまりこういう方向のリリカルなのは小説らしきものを書いてる人を御見かけしないので(漫画は結構居るみたいですけど)、たまには良いかもしれません。

私の性癖が「薄幸大好き」なので、幸薄い展開とかだけでタマリマセン。
作品のテンション的には世界名作劇場の匂いを含んでいると思います。
幸薄い子が一生懸命頑張ってる姿が可愛くて仕方ありません。

そういった情動をそのままリリカルなのはのフェイトさんで吐き出したらこうなりました。


続編・・・も案はあるんですけど。
この作品の続きとか。滅多に怒らないフェイトさんを怒らせると大変だよ・・・みたいな。

ただ2連発でフェイトさんだとアレだから、他のキャラとかも。
理性のあるなのはさんメインとか。
2007-08-19 日 22:38:41 | URL | 入 [編集]
面白かったです。
余話の辺りとかが、理性的に狂っていて大好き。

最初はなのはがアリシアに化けているのかと思いました。
いや、二人とも狂いっぷりのベクトルが非常に似ていたので……ある意味生みの親と似たんでしょうか(笑

なのは好き兼ヤンデレ好きとしては非常に満足です。
前作読んだ後に、ブクマして追いかけたかいがありましたw

次回作はぜひ、フェイトさんで!
某ふたばで話題になった、過去のトラウマからエリキャロ虐待しちゃって、止めるなのはさんにも疑心暗鬼になってなのはさんをいさかいの末殺しちゃうんだけど、そこで正気に戻って、後悔しながら管理局から逃走。でも罪に耐え切れなくなって、なのはのクローンを作って娘としてかわいかるんだけど、なのは(小)が大きくなってきたところで管理局からの追っ手としてはやて達が現れて、なのは(小)を見て呆然としたあと怒りに震えるはやて達と、この人たち誰? お母さんをいじめるな! とフェイトをかばうなのは(小)さん。みたいな

……上の例は置いておいて、次回も素敵な作品を期待しています。
頑張ってください。
2007-08-20 月 00:45:42 | URL | めい☆おー [編集]
>めい☆おー様

感想ありがとうございます。
そればかりか前作からお待ち頂いていたようで、身に余る光栄です。
半年ぐらいもお待たせして申し訳ございませんでした。土日にちょこちょこ書くしか時間が取れなくて・・・。本当にお待たせしました。

余話の辺りは正直一緒に載せるか最後まで悩みました。
でもあんな後味の悪いモノもありかな、と思いああなっちゃいました。

理性的な狂気とは言い得て妙というか。
あんなんでもなのはさんの一生懸命の愛情表現なのです。可愛いですよね。
やっぱりヤンデレは可愛い。一生懸命頑張る姿が可愛い。それが結局双方にとって不幸をもたらすと心の底では分かってても止められなくなっちゃってるとかそんなん大好きです。


次回作、フェイトさんですか。
よく考えるとこの作品はフェイト・アリシア・なのはのトリプル主人公みたいですね。
そう思えば完全なフェイトさんメインのを書いてみたいかも・・・。
今回唯一全力全開で戦ってない娘だし。ちょっとネタ出ししながら考えます。


ふたば・・・しばらく見てないですねー。数年前は良く見てたんですが。
何やら素敵なネタが生まれてるようで良いですね。そんなん大好き。


個人的にはフェイトさんはなのはシリーズで
「薄幸プリンセス」
だと思ってます。
ひたすら幸薄くて一生懸命頑張る姿が可愛いんだけど、周りの人(主になのは)から捕われのお姫様のように助けられる。
というイメージがあって好き。好き。無印のフェイトさん大好き。


という事でまた何か書きます。stsが終わったら考えるかも。
またちょっと時間かかるかもしれませんが、来て頂ければ幸いです。

それでは御感想ありがとうございました。
2007-08-20 月 23:14:20 | URL | 入 [編集]
拍手返信
ウェブ拍手のメッセージに返信します。

>かどの試作号様

すいません、拍手のメッセージに気付かなくて返信遅れました。
滅多にメッセージ入らないのであんまりチェックしてなくて申し訳ないです。


メッセージに書いてあったとおり、狂人の愛です。
あれでもなのはさんは一生懸命なんです、可愛い。

私、なのはさんも好きです。好きすぎて書くとあんなんなっちゃいます。
本人は一生懸命なんだけど、傍から見ると転落を続けていずれは崩壊するようなタイプの狂気orヤンデレキャラが好きです。

前作のヴィータSSでは特に伏線的なものをさほど使ってないので、今回はちょっと練習がてら使ってみました。軽めなので途中で気付く方もいらっしゃるでしょうけど、ミステリーでもないのでそのぐらいで丁度いいのかなとも思いました。


フェイトさん小説の要望が多いっぽいですね。
本人としては今作品が半分フェイトさん小説だったんですが・・・とりあえず続きを書くのも面白そうなので前向きに検討します。
構想はそこそこあります。形にするにはまた時間が掛かってしまうと思うのですが。

という事で、御感想ありがとうございました。
また何かヤンデレっぽいの書くと思いますので、その時は宜しくお願いします。
2007-08-23 木 22:31:52 | URL | 入 [編集]
す・・凄いね、こんなお話考え付くなんて。なのはのフェイトに対する独占欲からあんな事までするとは思ってもみなかったし、最後にはやても引き入れてるとは・・・う~ん、それなりに面白かった。
で、ヤンデレって何?
2007-09-15 土 22:20:54 | URL | フェイト至上主義 [編集]
>フェイト至上主義様

御感想ありがとうございます。
ヤンデレってなに?という事なので参考に以下を見て頂ければ。

はてなダイアリー「ヤンデレ」http://d.hatena.ne.jp/keyword/%A5%E4%A5%F3%A5%C7%A5%EC

ヤンデレ論http://d.hatena.ne.jp/Kttosnjtn/20070728


ちなみに本作に出てくるなのはさんは、真っ直ぐな純愛に真っ黒な愛情を混ぜた具合になってるような気がします。でも本人は一生懸命なんですよ、可愛いですね。

本作はヤンデレというにはちょっとデレ要素(描写)が少なめで申し訳ないのですが。デレ的な場面を入れると思いっきりエロ18禁な内容になっちゃうし、何より書いてる私自身が「この作者ノリノリである」とか世界まる見え調に実況されるぐらい張り切ってしまうので(既に実践済み)


なのはのフェイトの関係性は本作に書いた通りかなーと思ってたりします。
超健気薄幸少女フェイトちゃんが元気で活発(あくまで表向には)ななのはさんに振り回される・・・けど実際はなのはさんの方がフェイトちゃんに深く依存している。
とかそんな脳内妄想です。


あとはやてちゃん。
はやてちゃんも超一流の薄幸少女なので何かネタを書きたいのは山々なのですが、一つ重大な問題がありましてそれゆえに出番が少ないです。

問題とは、
生粋の群馬県人である私には大阪弁を描写する事が出来ません!

語尾に「や」をつけるのは上州弁と同じですけど、用法がまったく違いますから!

という事で今後もはやてちゃんの出番は少ないかもしれません。
私が大阪にホームステイにでも行けば改善されるかもしれませんが。


という事で時期は開くかと思いますがまた何か書くのでそれなりに見守って下さい。
stsネタ・・・は本編終わったら考えます。
だって終盤間近の本編が酷い正念場ですがらね。
2007-09-16 日 01:29:09 | URL | 入 [編集]
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