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梅入

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C83ようべびプリ初稿。
春風お姫様、ヒカル王子様話




影森と呼ばれる国がありました。
世界の覇権を奪い合う醜い戦が行われる時代、暗い森に囲まれたお城を中心に広がる国がありました。国を囲むように広がる暗黒の森には恐ろしい魔物達が住み着いており、容易に超える事は出来ませんでした。そのため、大きな戦に巻き込まれることも無く国は慎ましやかにも平和なままでいられました。
影森の国には一人のお姫様が居ました。
名前は春風。
流れるような亜麻色の髪は見るものを魅了し、しなやかな手足が揺れる様は見るものを虜にする。まだ歳の数は一桁だと言うにも関わらず、その可憐さは地上のものとは思えない、まさしく天使と言えるものでした。
春風は一人娘と言う事もあり、箱入り娘としてとても可愛がられていました。しかし、一国の姫という立場もあり、中々同年代の子供達と友達を作ることが出来ず、それが不満だったのですが、先日からその悩みも解消されました。
「ヒカルちゃん、まだかしら・・・」
春風姫が庭園を散歩すると言って、お付のメイドも連れる事なく城壁の端まで着てから数刻過ぎました。待ちくたびれてドレスが汚れるのも構わずに芝生に座り込もうとした時、その小さなお尻にごつんと硬い物があたりました。春風が振り向くと、そこには古くなった城壁のブロックが外側から押し込まれていました。
「ヒカルちゃん、来てくれたのね?春風、ずっと待っていたわ、楽しみで楽しみで!」
春風が押し込まれてくるブロックに向けて話しかけていると、ようやく押し出された岩塊が地面にどすん、という重い音と共に落ちました。人間一人が抜けて通れるような穴がぽっかりと開き、その向こう側には土に汚れた両手で顔を拭う少女の姿がありました。
「約束は守るよ、私は春風の王子様だもん」
穴を通って、城内の庭園に入って来たのはボロ布のような衣服に身を包んだ、貧民街からやってきたヒカルという少女でした。


数日前、ヒカルは城壁の近くで日銭を稼ぐために靴磨きをしていたのですが、そこに突然暴れ馬に手綱を奪われた馬車が突っ込んできました。咄嗟に身を翻して難を逃れたヒカルは、馬車が突っ込んだ城壁を眺めてみると一つだけ石壁が窪んでいるのを見つけました。それから事故の片付けも終わり、周囲に人気が無くなった夜になって、窪んだ石壁を押し込んでみると、何とお城に通じる抜け穴が生まれたのです。このままでは一生涯お城の中になど入ることはできない。きっと天国のような世界が広がっているのだと思い、ヒカルは意を決して穴に飛び込んで、夜の城内に入っていきました。そこには見たことも無いような美しい花々が咲き乱れ、美しい弧線を幾つも描く噴水を備えた湖、どこまでも広がっている美しい庭園が広がっていたのです。そして、目線を上げればどこまでも天高く伸びるようなとてつもなく大きなお城があるのです。ヒカルは庭園の中をきょろきょろと見渡しながら歩いていると、向こう側から警備兵がやって来るのが見えました。見付かったら、それこそ自分のような貧民はその場で打ち首にされてしまうだろうと思ったヒカルは庭園の草陰に身を隠しました。がちゃりがちゃり、という警備兵の足音が遠くへ行くまで息を潜めていたヒカルがふと視線を横に動かすと、そこには美しいティアラで髪を飾り、煌びやかなドレスに身を包んだ少女=春風が涙を浮かべていたのです。見知らぬ人間に出会うことなど皆無の春風は怯えきって、少しの間我慢していた悲鳴を堪えきれなくなってしまいます。
「だ、だれか―――」
ヒカルは咄嗟に春風の口を手で塞ぎます。
「お願い。絶対にあなたを傷つけたり、悪い事はしないから、お願いだから静かにして・・・ね?」
ヒカルが優しく微笑みかけると、春風は段々と落ち着きを取り戻して零れていた涙も止まりました。春風は舞踏会で同い年の子供が居なくて、大人達に挨拶ばかりさせられてしまい、時折は何か嫌らしい目線で舐められているようなものを感じて、嫌になってこっそりとお城を抜け出して、庭園まで逃げてきたのだと話します。ヒカルは壁に開いた穴の話をしてから、自分はお城の外で両親を病で失ってから、貧しいながらもどうにか一人で暮らしているのだと話しました。春風は歳が一つ下のヒカルの話に聞き入ってしまいました。それはお城の中で暮らしているだけでは見聞きする事は出来ない世界のお話だったのです。何不自由なく暮らしてきた春風には綺麗な水を一杯飲むだけに、どれだけの労力とお金が必要になるのかなんて考えた事も無かったのです。ヒカルは仕事を得るために幼いながらも知恵を働かせて工夫してきました。ヒカルの話はただただお城の中で繰り返される一日を過ごしている空虚な暮らしとは違う、活き活きとした物語として春風には聞こえました。ヒカルもまた、毎日擦り切れる程に働き詰めの生活を送ってきた中で同世代の少女と話すのは貴重な経験だったのです。春風が話す王宮の暮らしは、夢物語を聞いているような気分になりました。ヒカルがどれだけ働いたとしても手に入らない世界。しかし、春風の口からはお姫様としての処世術や苦労も多く聞きました。そして何より春風は友達が欲しかったと何度も言うのです。彼女もまた、ヒカルと同じく心に孤独感を抱えていました。ヒカルは春風の笑顔をもっと見たいと思いました。
そして二人は時間も忘れて互いの事を話し続けます。
いつの間にか月は満ち、二人は月光に照らされる中、立ち上がりました。
「ねぇ、ヒカルちゃん・・・また、来てくれる?」
「春風が嫌じゃなければ、また来てもいいの?」
「もちろんよ。ヒカルちゃんと春風はお友達よ。きっとヒカルちゃんは寂しくて泣いていた私を助けに来てくれた、可愛い可愛い王子様なんだわ。」
「ふふ、嬉しいよ・・・。じゃあ、三日後の今日と同じくらいの時間にあの城壁から入ってくるよ」
「えぇ、待っているわ。私、ヒカルちゃんともっとお話したいわ」
春風が壁の穴までヒカルを見送ります。先に穴からブロックを向こう側に落としてから、ヒカルは穴をくぐります。
「春風、また三日後。今度はお土産を持ってくるよ」
「待っているわ。私もヒカルちゃんにプレゼントを用意しておくわ」
穴の隙間から互いに手を振ってお別れすると、ヒカルは穴に再びブロックを差し込んで元に戻してから、家に帰りました。その足取りは、一日の疲れなど吹き飛んだように軽いものでした。



そんな出会いから三日経ち、二人は再会したのです。
「ヒカルちゃんまた会えて嬉しいわ。また沢山お話を聞かせてちょうだい」
「私も嬉しいよ。うちに帰っても何時も一人でさ・・・春風に会えるこの日が楽しみで仕方なかったんだ」
二人は微笑みあってから、庭園の木陰に座りました。
「そうだわ、ヒカルちゃんにプレゼントがあるの。前にお話した時にお城のお菓子が食べてみたいと言っていたから持ってきたわ」
そう言うと、春風は持ってきた袋から一抱えもある缶を取り出しました。蓋を開けてみると、そこにはヒカルが見たこともないような美しいクッキー、光り輝く宝石のような飴が沢山詰まっていました。缶の中から漏れてくる蜂蜜の甘い香りに酔いしれてしまいます。
「本当にこんなにすごいもの、もらってもいいの?」
「良いのよ、ヒカルちゃんのためにこっそり残しておいたんだもの」
春風がクッキーを一枚取り出して、ヒカルの口元に運びます。ヒカルはそっと唇を開くと、そこにバターの優しい香りが漂ってきました。思い切ってクッキーをさくりと噛んでみると、途端に広がる濃厚な甘味と心地よい食感。「美味しい!美味しい!!」ヒカルはクッキーを一枚あっという間に平らげてしまいます。春風は缶の中から次々に色々な形、色々な味のクッキーを取り出すと、端から全てヒカルは食べてしまいました。缶の中からはあっという間にクッキーは無くなって、残ったのはきらきらと輝く彩り鮮やかな飴でした。二人は一緒に残った飴を口の中で転がして暫く、星空を眺めました。
「私も春風にプレゼントがあるんだ。こんなに凄いお菓子を貰ってからじゃ、なんだか申し訳ないんだけど・・・」
ヒカルはそう言うと、ポケットの中から一対のリボンを取り出しました。黒を貴重にして、白のラインが一本を入っているシンプルながらも可愛らしいものでした。
「母さんの形見なんだけど、私みたいな男っぽいのじゃ似合わなくてさ・・・きっと春風みたいな可愛い女の子なら似合うと思うんだ」
「でも、そんなお母様の大切な思い出の品なのでしょう?私なんかが貰っては申し訳ないわ」
春風が申し訳なさそうに言うと、ヒカルは首を振りました。
「ううん、良いんだよ。私にはもう、家族は居ないから・・・。だから、さ・・・春風と友達になりたい。もっと仲良くなって、家族みたいになりたい。もらって、くれる?」
恥かしくて真っ赤になったヒカルがリボンを差し出すのを、春風は胸の奥が熱くなるのを感じながら受け取りました。
「ヒカルちゃんは私とこれで家族ね・・・。私の可愛い可愛い妹。ううん、私に外の世界を教えてくれる物知りで格好良い王子様なんだわ」
春風はそう言うと、貰ったリボンで髪を結びました。二対のリボンは亜麻色の髪を引き立たせ、春風にとても似合っていました。
「私も一応、女の子なんだけど・・・でも、王子様って言う方がしっくり来るかな。私が本当に男の子だったら良かったなぁ、自分でも時々そう思うよ」
二人はお互いの顔を見て笑顔を浮かべながら、残った飴玉を口に入れながらお話を続けました。
「そうだわ、森を見に行って見たいわ」
会話の中で春風がそんな事を言いだしました。
「国を囲んでいる暗い森。太古の時代から影森と呼ばれ、この国の名前にもなっている森。沢山の魔物が住み着いていて、そこは魔物達の安住の地になっている。森に入った者は容赦なく魔物に食べられるけれども、決して森の魔物が人間の国を襲ってくる事は無い。一体どれだけ昔に結ばれた約束かは分からないけど、その決まりは今も続いている。森の中に一本、外の世界と通じている街道がある。月に三回、魔物の襲撃を受けながらも衛兵に厳重に守られながら貿易用の荷馬車を幾つも連ねたキャラバンが外国との交易を行っている。影森の国から取れる金銀ダイヤモンド、製鉄用の鉱石は外の世界でとても高額で取引されて、それが影森の国を支える収入になっている。そんな風に、お勉強の時間に教えてもらったの」
春風は好奇心に満ちた瞳をヒカルに向ける。
「一度で良いから、森を間近で見てみたい。中に入ったら、魔物に食べられてしまうのは分かっているわ。だから、森の手前までで良いの。私達の国を囲み、きっと外の世界から及ぼされる脅威を防いでくれている森を見てみたい。変な事を言ってるのは分かっているけれど、いつか見に行ってみたいわ。だって、時々、森の方から何か私に対して視線を感じるの・・・きっと、私に何かを伝えたいのかもしれないって・・・勝手な思い込みかもしれないけれど」
春風の言葉にヒカルは少し首を捻ってから口をこたえます。
「じゃあ、今度会うときは、春風をお城の外に連れて行ってあげるよ。丁度お祭が街であるんだ。沢山の人が来るからね、春風も私と同じような服を着てしまえば紛れ込めるはずだよ。ただ、お城の中はどう誤魔化したら―――」
ヒカルが最後まで言い終える前に春風がヒカルを抱きしめました。
「ヒカルちゃん大好き!!やっぱりヒカルちゃんは私の王子様よ!!捕われの私を助けてくれる王子様なの!!うふふ、お城の中のことは任せておいて。春風はすっかり寝ているって事にしておくから大丈夫よ。お部屋に鍵を閉めてしまえばばれたりしないわ」
こうして、次に会うときは春風と共にお祭に出かけて、その後に森を見に行くという約束を交わしてから、ヒカルは帰っていきました。


時は経ち、お祭の日がやってきました。
その日は早めに寝ると言って、お付のメイドに告げてからベッドに入って寝息をたてたふりしてから、すっかり部屋の周りから人が居なくなったのを確認した春風はこっそりとお城を抜け出しました。ヒカルが待つ庭園に走ります、木陰でヒカルがそっと手を振っているのを見つけると、春風は胸が躍るような気持ちになりました。それから、庭園の物影でヒカルが持ってきたお揃いのボロ服に着替えてから、二人で穴を潜ってお城を出ていきます。すっかり冒険気分の春風と一緒にヒカルは素早く城壁の穴を塞いでから、二人はお祭が行われている街の広場に向かいました。
広場には色々な屋台が軒を連ね、色々な食べ物が売られていました。
「すごいわ!ヒカルちゃん、あんなに沢山!春風が見たことのないものばかりよ!」
春風は嬉しくて仕方ありませんでした。街のお祭に連れてきてもらう事など、お城に居ては到底叶いません。それどころか、街に出て行くことすら春風には許されていません。両親は春風に対してあまりにも過保護すぎるのです。
春風が迷子にならないようにと、二人はずっと手を繋いでいます。ヒカルはあっちこっちに引っ張られながら色々な屋台は手品などをしている出し物を見ていきました。お祭の日は、遠くの国から交易を行ってきたキャラバンが帰ってくるので、外国の珍しい文化も一緒に楽しめるのです。
「ヒカルちゃん、この『たこやき』というのはどんな物なのかしら」
春風が小麦粉とソースが焼ける香ばしい匂いに釣られて屋台の前で言いました。
「たしか、海で取れるタコの足を小麦を溶かした生地で包んで焼いたものだって聞いた事があるけど、私も食べた事が無いから詳しいことは分からないな」
毎日の生活で精一杯のヒカルにとって、お祭の屋台で売られているものはどれもこれも手を出せる値段ではありませんでした。春風はその事を悟って、自分が失礼な事を言ったのだと気付きました。しかし、それを口に出せばヒカルをより一層落ち込ませる事になると思った春風はヒカルの手を少し強く握ってから、屋台の店主に向き直りました。
「おじ様、私はそのたこやきというものをヒカルちゃんと一緒に食べてみたいわ。でも、お金を持っていないの」
店主はみすぼらしい格好をした二人の少女を眺めると、「金が無いならさっさと離れろ」と言おうとしました。ですが、それを口にするよりも早く、春風が言葉を続けます。
「だから、このハンカチと交換してはもらえないかしら?きっとおじ様の役に立つと思うわ」
春風はポケットからシルクのハンカチを取り出して、店主に渡しました。怪訝な表情を浮かべながら店主がハンカチを掴むと、何か硬いものが挟んであると気付きました。綺麗に折り畳まれていたハンカチを開いてみると、中には親指大のダイヤモンドが入っていました。
「ねぇ、おじ様、どうかしら?そのハンカチ、それ程使っていないし・・・たこやきと一つ交換して下さらない?」
春風がにっこりと笑顔を浮かべながらお願いすると、店主は大急ぎでたこやきを作ってくれました。春風とヒカルに一つずつたこ焼きを渡してくれました。
「ありがとう・・・優しいおじ様」
春風が瞳の奥に強い光を灯しながら言いました。『この事は他言無用にね』店主は鶏のように何度も首を縦に振って答えました。
「たこやき屋に何を渡したの?あのハンカチ、そんなに価値があるの?」
ヒカルは春風がきっと何かしたのだと分かっては居ました。
「私はお金とか持たせてもらえないの。必要な物はみんなメイドさんが持ってくるものだから・・・。あのハンカチくらいしか持ち出せる物が無くて・・・きっとあのおじ様が良い人だったのよ。感謝して食べましょう」
春風は本当にお金を持たせてはもらえませんでした。なので、代わりに何かあった時にと、寝台に置いてある燭台からダイヤモンドを一つ外して持ってきていたのでした。
ヒカルは春風の言葉を聞いて、それ以上は聞かない事にしました。春風が身分など関係なく、自分の事を好きで居てくれて精一杯に気遣ってくれているのは十分に伝わってきたので、それだけでも嬉しかったのです。
広場から少し外れた土手に座って、二人は不思議な食べ物「たこやき」を食べました。香ばしい生地の奥に包まれているタコの食感、甘辛いソースと織り成す味の多重奏はほっぺたが落ちそうな程に美味しいものでした。
たこやきを食べ終えてから、二人は広場の中心地に行ってみました。すると、開けた空間の中で沢山の人達がギターやドラムの音楽に合わせて踊っていました。
「あら、ダンスパーティね。ヒカルちゃん、私達もまざりましょう」
春風に引っ張られてヒカルが沢山の人が輪になって囲むダンス会場に進んでいきます。
「で、でも私・・・ダンスなんてしたこと無いよ」
「大丈夫、私の動きに合わせてれば上手に踊れるわ。ヒカルちゃんは身体を動かすのが得意だし、きっと直ぐに覚えちゃうはずよ」
そういうと、ヒカルの両手を握って春風が踊り始めます。ヒカルはその動きを見よう見真似で真似したり、動きを合わせていきました。
「ほら、やっぱりヒカルちゃんは凄いわ。しっかり私に合わせて踊ってくれているわ。やっぱり、ヒカルちゃんは生まれ持っての王子様ね。私だけの可愛い王子様なんだわ」
「は、春風・・・早いよ、もっとゆっくり!」
身に付けている衣服はボロでしたが、春風の華麗なステップとそれに合わせて器用に踊るヒカルはすぐさま注目の的になりました。
「春風、あんまり目立つとまずくないか?お前の顔、知ってる人が居たら脱走してるのばれちゃうぞ」
「あら、そうね。ヒカルちゃんと踊るのが楽しくて、すっかりそんな事、忘れていたわ」
音楽に合わせて、春風とヒカルが最後のステップを踏んでから、周囲におじぎをすると、大喝采が起こりました。二人は互いに微笑み会いながら、逃げるようにしてその場を走り去っていきました。

お祭の喧騒から離れた森と街の狭間はとても静かでした。
春風とヒカルは街と森を仕切る、簡単な柵の前にいました。森はどこまでも続くような深さで、暗がりの向こう側は動物の鳴き声一つ聞こえない程に静かなのでした。
「私もこんなに近くまで来た事はあんまり無いけど、こんなに静かなんだな」
森と街の境目近くには住宅も何もありません。ただ、木製の柵があるだけです。魔物達が街には来ないという約束が決して破られないものだと信じている事と、どこかで薄らと不安を抱いている、そんな街の意思が感じられます。
春風は森の奥をじっと、見つめています。まるで何かに呼ばれているかのようでした。
「この先に沢山の魔物が居て、そのもっと先には沢山の国があるのね。大きな戦争で沢山の人達が命を失って・・・。私達はこの森があるからこそ、平和な毎日が過ごせる。それを忘れてはいけないのよね」
蕩けそうな表情を浮かべた春風は吸い込まれるようにして、森の闇に手を伸ばします。その手が森の枝葉に触れそうになるのを、ヒカルは止めようと右手を掴みました。
「だめだよ、森に触れたら魔物に食べられちゃう」
春風ははっと正気を取り戻しました。自分が何をしようとしていたのか、考えただけでぞっとしてヒカルの腕にすがりつくのでした。
「私、どうして・・・森を見ていたら、何だかぼぅっとしてしまって・・・」
ヒカルが震える春風の頭を撫でていると、森の奥から物音がしてきました。何か大きな物が草木を枝葉を、森の木々を押しのけてやってくる地響きがするのです。
ヒカルが春風を庇うようにしていると、森の奥からにゅるりと伸びてきたのは、長い鼻でした。
「そんなに怯えないで、僕は君達に危害を加えないよ」
桃色の長い鼻を揺らしながら、現れたのは大きな桃色の象でした。
「僕の名前はフレディ。この森に住んでいる魔物だよ。世界と運命の改変を生業としている神獣さ」
春風は図鑑で象という生物を見たことがありますが、目の前に居るピンクの象はそれとはまったく違っていて、まるでクレヨンで落書きしたかのような愛らしさに溢れていました。
春風が恐る恐る話しかけてみます。
「あ、あなたは森の魔物なのでしょう?森に近づいた私達を食べてしまうの?」
今にも泣き出しそうな声を聞いて、長い鼻がぶるんぶるんと左右に振られます。
「そんな事はしないよ。僕は君に会いたかったんだ、春風姫。森の中から美しい君が成長するのをずっと見てきた。あぁ、こうして間近で見る君は本当に綺麗だ」
フレディの鼻が春風にそっと伸びると、春風はそっと触れてみました。不思議と温かく、ふんわりと柔らかい、まるで焼きたてのパンを思わせる感触でした。
「春風姫、悲しいけれど君にはこれから先、辛い運命が待っているよ。とてもとても大変な目に会ってしまう。運命を司る僕には分かるのさ、君が泣き腫らしている姿がね。だから、こちらにおいで。森の中へおいで。僕は君を食べたりしないし、他の魔物にもそんな事はさせない。ずっとずっと君に幸せをあげるよ。まぁ、この森から別のずっと遠い場所に移動することにはなるけれど、君を悲惨な運命から救いたいんだ。それが出来るのはきっと僕だけだ」
フレディがつぶらな瞳を春風に向けながら告げました。
一気に色々な情報を与えられて、春風にはどうにも判断がつきませんでした。すると混乱して口を開けなくなっている春風に代わって、ヒカルが立ち上がりました。
「悲しい運命だとか、そんな未来の話をして春風を騙しているんじゃないのか。春風を森に連れ込んで、お前は食べてしまおうとしているんだろう。そんな事、させない!」
そう言うと、ヒカルは春風を抱き上げて森を背にして走り出します。
「ヒカルちゃん!まだフレディさんとの話が―――」
「あれは魔物だ!言う事なんか聞いて、春風を森の中に誘い込んでいるんだ。直ぐに逃げなくちゃ、食べられちゃうよ!」
ヒカルは春風を守るために必死で駆けました。やはり、森は危険な場所なのだと思いながら。大好きな春風を奪い去ってしまおうとする森に、ヒカルは恐怖と怒りを感じたのです。それは嫉妬と言うものなのかもしれません。
遠くへ走り去っていく二人の姿をフレディは木々の隙間から目で追いかけるのが精一杯でした。街の中には決して何があろうと入れないのです。
「あぁ、可愛そうな春風姫。君はこれから辛い運命に苛まれる。僕はただ、君を助けたいだけなのに。やはりヒカル、運命の王子様には敵わないか・・・。それでも僕は・・・春風、君を愛しているよ。君を助けるためなら世界も運命すらも、捻じ曲げてしまおう」
フレディは真珠のような瞳から大きな涙を零しながら森の中に戻っていきました。

それから、春風もヒカルも森に近づく事はありませんでした。



年月は流れ、春風は十六歳、ヒカルは十五歳になりました。
成長した春風は誰もが一目見ただけで見蕩れてしまう美しさと、その優しい性格から誰からも愛されるお姫様になりました。
成長したヒカルは天性の才能と努力を活かして、騎士団に入団していました。その剣は国の誰よりも速く鋭く、入団して一年で騎士団最強の座についてしまう程のものでした。
ヒカルがお城の中にも出入りできるようになった事で、二人はますます親密な関係になりました。仲睦まじい二人の美しい少女の姿に誰もが息を呑む程でした。ヒカルが男だったらと、王様は常々思っていましたが、当の二人にとっては性別など関係ありませんでした。春風はヒカルを『私の王子様』と呼んでいましたし、それに異を唱える者は誰一人居ませんでした。
二人にとって幸せな日々はいつまでも続くものと思われました。
しかし、悲劇は突然訪れたのです。


大空を裂いて、鉄の塊が現れました。
巨大な翼を広げた鋼鉄は、腹の中ら無数の爆弾を影森の国に降り注ぎました。魔物が住まう森も街も劫火に焼かれてしまいました。外界から国を守っていた森が焼かれてから、焼け野原を突き進んできたのは巨大な大砲を備えた戦車や、鉛玉を連射する鉄砲を構えた無数の兵士達でした。影森の騎士団は剣と弓で立ち向かいましたが到底敵うものではありませんでした。敵の兵士達は街に入ると蹂躙の限りを尽くしました。男はその場で殺され、女は犯されてから殺されました。子供はみんな奴隷として捕えられてしまいます。
ヒカルは何機もの戦車を剣で真っ二つにして孤軍奮闘しました。連射される鉛玉もヒカルの前では無力です。しかし、一人では戦争には勝てません。あっという間に王宮にまで戦火は及び、ヒカルは春風を守るためにお城へ戻りますが、その時にはもう王様もお妃様も首を落とされ、無惨に晒されていたのです。
王宮の中をヒカルは敵兵士を片っ端から切り裂いて春風の下へ向かいました。返り血で全身を真っ赤に染めたヒカルがようやく春風の居る部屋に入ると、何人もの男に組み敷かれた春風が乱暴されていました。激昂したヒカルはその場に居た男達を細切れにします。春風の声も聞こえない程に怒り狂ったヒカルは春風に血飛沫がかかるのも構わず、剣を振るいました。ヒカルの動きが止まった時には部屋は真っ赤に染まり、死臭に満たされていました。
「春風・・・」
ヒカルが春風の下へとふらふらと歩み寄ります。
春風は泣きながらヒカルを抱きしめます。
「やっぱり来てくれたのね、ヒカルちゃん。春風、ずっとずっと信じていたわ。ヒカルちゃんが助けに来てくれるまでの我慢だって、自分に言い聞かせて我慢したの・・・。我慢して。うぅ・・・怖かった、痛かったよぉ」
「春風、ごめんね、助けてあげられなくて、ごめんね」
ヒカルも春風の頭を胸に抱いて、お互いに泣きます。
つい昨日まで、何事も無かった幸せな日々だったのに何もかも、全てがほんの一瞬で全てが塗り替えられてしまったのです。
二人が抱き合っているほんの少しの間に、部屋の外から敵兵の足音が無数に聞こえてきました。
春風はヒカルから離れると、部屋の隅にある鏡台まで向かいました。「ヒカルちゃん!来て!」春風が滅多に出さない大声で呼びます。春風はヒカルに手伝ってもらって鏡台をどかすと、そこには地下への隠し通路が現れたのです。
「ヒカルちゃん、ここから逃げて」
春風が短く言いました。ヒカルは当然、春風も一緒に逃げようと言おうとしましたが、その口は春風の唇で塞がれてしまうのです。
「春風はずっとヒカルちゃんの事が大好きよ。本当はね、初めて会った時からヒカルちゃんに一目惚れしてしまったのよ。きっとこの方が私の王子様なんだって。私をきっと幸せにしてくれる人なんだって。だから、ね・・・私はヒカルちゃんが生きていてくれれば春風は何があっても生きていけるわ」
春風はぽろぽろと泣きながら言うのです。
ヒカルはこんな春風を置いて逃げるなど出来るわけがありませんでした。
「きっと敵は王族をみんな殺してしまうのだわ。でも、私だけは生き残らせて裏側からこの国を操るんだって。私さえ大人しくしていれば、これ以上は民衆を虐げる事はしないって・・・。だから、私はお姫様だもの。頑張らなくちゃ」
春風はお城の外で、もうあらゆる全ての国民が虐殺されるか奴隷にされるかしているのを知りませんでした。
「春風、もうこの国の人達はみんな・・・」
ヒカルが春風に伝えようと逡巡していると、部屋のすぐ近くまで敵兵の足音が迫ってきていました。春風は地下への梯子が伸びる暗い穴にヒカルを押し込めます。ヒカルは抵抗しますが、こんな時ばかりか春風の力に抗う事が出来ませんでした。
「春風!!駄目だ!こんなの!!一緒に逃げよう!!今度こそ、私が春風を守るから!」
ヒカルは喉が張り裂けんばかりに叫びます。
その声に春風は揺らぎましたが、そっとヒカルに言います。
「ありがとうヒカルちゃん。愛しているわ」
春風はそれだけ言うと地下室への蓋を閉めてしまいました。そして鏡台を元に戻して隠しました。
ヒカルは蓋を必死で叩きます。拳から血が飛び散り、肉が削れて骨まで見えてしまいますが、構う事無く叩き続けましたがびくともしませんでした。やがて部屋の中に沢山の足音が入ってくるのが聞こえ、気が狂いそうになったヒカルが叫ぼうとした瞬間、城に仕掛けられた大型爆弾が爆裂しました。その衝撃で、梯子から手を放してしまったヒカルは暗い地下への穴をどこまで落ちていってしまいました。
それきり、ヒカルは春風の名前を叫びながら深淵に消えてしまうのでした。



ふわりとそよいだ風から草木の匂いがしました。
日の光が天に灯り、木漏れ日が差し込んでいます。
頭の中に霧が掛かったような状態のヒカルが目を覚ますと、そこは森の中でした。全身に残る痛みが現実感を徐々に取り戻させてくれます。
「ここは、森?魔物達の森なのか?」
春風を助けられず、それどころか春風を見捨てて自分だけ逃げてしまった、そしてこうして生き延びてしまった、その事実がヒカルを苛みます。ここが森だと言うのなら、今すぐに自分を食い殺す魔物が現れて欲しい。もう、春風が居ない世界には何の未練も価値も無い。ヒカルは自暴自棄になって、見につけていた鎧を脱ぎ捨てました。
立ち上がると、目の前には小川と小さな泉がありました。ヒカルは服も全て脱ぎ捨てて泉に飛び込みます。
「さぁ、ここに人間がいるぞ!魔物よ、私を食い殺すが良い!」
森の木々に響く凛とした声、ですが反応はありません。
ヒカルは思い出しました。昨夜の襲撃で国を囲んでいた森も焼かれていたのです。だとすれば、魔物達ももう森には居なくなってしまったのかもしれない。ヒカルはもはやどうすれば良いのか分からず、泉の中で立ち尽くしてしまいます。その瞳から雫がぽろぽろと零れて止まりません。
「春風、春風・・・!」
ヒカルが絶望に沈んでいると、がさがさと草木を揺らす音が聞こえました。誰か、そう・・・魔物の生き残りが居るのなら、今すぐに自分を殺して欲しい。そんな風にヒカルが顔を上げると、そこには桃色の長い鼻があるのです。
「ようやく目が覚めたようだね。傷だけは治しておいたけれど、まだダメージそのものは残っているはずだからあまり動かない方が良いよ」
ピンクの象、フレディが鼻を揺らしながら言いました。
「あの時の魔物・・・お前が私を助けてくれたのか。でも、申し訳ないけれどもう私には生きていく気力が無い。私を食い殺してくれるなら、お願いしたい」
ヒカルは引き締まった身体をフレディに差し出すように両手を広げます。しかし、フレディは鼻を左右に振りながら言います。
「悪いけど遠慮するよ。僕は草食だしね。それに、君を食べてくれる魔物はもうこの森には居ないよ。みんなあの炎で焼かれたか、逃げ出してしまったからね」
フレディは鼻で泉の水を掬って飲んでから続けます。
「あれは外の世界の軍隊さ。影森の国が何百年も国交を絶っている間に外界の文明は圧倒的に飛躍したのさ。剣と弓の時代はずっと前に終ったよ。今の戦争は火薬に銃、それらを搭載した戦闘兵器が主役なのさ。影森の国は世界でも稀な、魔物が未だ生息する不思議な場所だったのさ。国を囲む森の中には人間達の文明進化で追い出された魔物や神も居場所を求めて移り住んできていたからね。長い間、外界の人間達も手を出すことが出来なかった。影森の国は外界からしてみれば魔物に守られている異世界のように見えていただろうね。そして昨日の襲撃。外界の人間達は魔物をも焼き尽くす兵器を携えて、ついに影森の国を侵略した。この国は三つの大きな国に囲まれていてね、丁度真ん中にあったのさ。長い戦争で傷つけあった三国は、影森の国に永世中立国を作り、戦争を終結させようとしている。まぁ見ての通り、実際はただの蹂躙だった。影森の国は名前だけを残して、全て作り変えられてしまう。世界は平和になるだろうね、この国の犠牲を影にしてね」
フレディの話を聞いたヒカルは愕然としてしまいました。
あれほど恐れていた魔物の存在が国を守っていた事、自分達はまるで御伽話に出てくるような、時代から取り残された存在だった事、驚くべきことばかりでした。
ですが、ヒカルは春風の事を思い出すとそんな世界の真実もどうでも良くなってしまいました。泉から出て、投げ捨てておいた剣を抜きます。昨晩の戦いでボロボロになっていましたが、ヒカルの柔肌を裂くには十分なように思えました。
「色々教えてくれてありがとう。でも、どのみち私にはもう関係ないさ。春風がいないんじゃ、生きていたって何も意味が・・・ない」
ヒカルは自分の喉元に刃を近づけます。それを見たフレディがそっと告げるのです。
「春風は生きているよ」
ヒカルが刃を止めます。
「ほ、本当か!!春風、あぁ・・・春風!!良かった!」
ヒカルは嬉しくて嬉しくて仕方ありませんでした。
「春風は新しく作られる永世中立国の女王にされるのさ。もう影森の国民はみんな居なくなってしまった国のね。傀儡として、ただのお人形にされるだけの女王様だ。きっと毎日昨晩のように男達の慰みものにされるだろう。そんなの、僕は許せない」
「春風を助けなくちゃ!私、一人でも助けてみせる。相手が何だろうが、私が!」
ヒカルはボロボロの剣と鎧を身に付けようとしますが、フレディが制します。
「待って、君一人じゃ無理だ。そんな壊れかけの武器や防具では敵の近代兵器を前にしたら何の意味も無いよ」
「で、でも・・・春風が、春風はきっと助けを待ってる!」
ヒカルは裸のまま、どうすれば良いのかとフレディに問います。
すると、フレディは鼻を泉に入れながら答えます。
「とりあえず、これらを身に付けて欲しい。森の魔物や神様からの贈り物さ。森を焼いた者達を倒す勇者に特別な武具を授けるってさ」
フレディが泉の底から取り出したのは、龍の牙を削って作った巨大な両手剣、光り輝くクリスタルで作られた二対の直剣、あらゆる災厄を打ち消す魔法の鎧、そしてそれらの重さを感じる事無く使えるようになる魔法の服、最後に疾風の如き素早さで動けるブーツ。
「森はほとんど焼けてしまって、この僅かに残った場所に居るのも僕が最後さ。他の魔物達は散り散りにどこかへ行ってしまったけれど、ヒカルの事を話したらこんなに立派な武具を残していってくれたよ。これを身に付ければ、いくら近代兵器は相手だろうと引けはとらないさ」
ヒカルは早速、それらを身に付けると全身に力が漲ってくるのが分かりました。身の丈を大きく上回るツヴァイヘンダー(両手持ち特大剣)を軽々と片手で持ち上げる事が出来ましたし、鎧の重さはまるで感じられませんでした。これがあればどんな敵だろうと恐れるものは無い、ヒカルはフレディに頭を下げてお礼を言います。
「ありがとう、これで春風を助けられるよ」
それだけ言うと、ヒカルはすぐに城へ向かおうとしますが、フレディはそれを止めます。
「君一人じゃ無理だよ。それらの武具は神格級の力を持っているけれど、それでもあの近代兵器を相手にたった一人で戦うとなれば無事じゃ済まないよ。良く思い出して欲しい、敵はそんな武具を作れる魔物が住んでいた森を焼き尽くしたんだ」
フレディの言葉にヒカルは足を止めました。
「そう・・・だね。でも、私は行くよ。春風を助けるんだ。それしか、私には無い」
揺らぐ事無き決意を胸にしたヒカルはとても神々しいものでした。
「君ならそう言ってくれると思っていたよ。だから、僕も連れて行って欲しい。僕の力があれば春風を必ず助け出せる最後の手段が使えるよ」
そう言うと、フレディの体が輝きだしました。すると大きな象の体が段々と小さくなっていき、掌に収まるワッペンになってヒカルの胸元へとふわりふわりと浮かんで来ました。
「森は殆ど焼けてしまったけれど、少しでも森が残っているのだから、未だに街との契約は残っているはず。僕一人では街に入れないけれど、ヒカルと一緒になら入っていけるはずだ」
ヒカルは小さくなったフレディを懐にしまいます。
「よし、最後の手段って言うのには期待してるよ。じゃあ行くぞ」
そしてヒカルがブーツが大地を蹴ると、その身体は疾風となり城へと向かって行きました。


城下街は死体がそこかしこに散らばり、昨日まで沢山の人達が暮らしていた街並みは爆撃で何もかも破壊され尽していました。
街と外界を結んでいた一本の街道。崩れかけた門を前に、ヒカルは担いでいた巨大な剣を構えます。
フレディがヒカルの胸に挟まった状態で声を掛けます。
「春風は今、城の一番高い塔に幽閉されているよ。最上階の部屋で鎖で手足を繋がれてる。どこかに抜け道とかあるのなら、そっちを通って行けると良いんだけど・・・」
「一番高い塔か・・・あそこは独立してる。抜け道も無いな・・・。真正面から突破するしかないな。どのみち春風を助ける頃には敵には気付かれるんだ、助けに行く途中でそれなりに数を減らしておくのも良いだろう」
そして、ヒカルは駆け出します。
一直線にお城に向かってとてつもない速度で突き進みます。道中に一機の戦車がありました。ヒカルは上段から龍の大剣を一気に振り下ろします。すろと、鋼鉄の塊は紙細工のようなもろさで真っ二つに切断されてしまいました。程なくして戦車が爆発すると、大勢の兵士が集まってきました。
「貴様、何者だ!」
大勢の兵士達が機関銃をヒカルに向けている中、ヒカルは答えるのです。
「影森の騎士団、ヒカルだ!春風を返してもらうぞ!」
兵士達が一斉に引き金を引きます。あらゆる角度から無数の破裂音と共に鉛玉が発射されました。しかし、その弾丸は一発もヒカルには届きませんでした。弾丸を超える速度で動いたヒカルはその場に居た半数の兵士を瞬時に両断していました。肉眼では追いきれない速度でヒカルは次々に敵を切り倒していきます。あっという間に三十人居た兵士が全員倒されてしまいました。返り血一つ浴びていないヒカルが再び城に向かって駆け出します。
すると、城の方から白煙を引きながら、無数のミサイルが発射されてきます。ヒカルは瓦礫を蹴って跳びます。飛来するミサイルを空中で次々に切断していきます。地に落ちたミサイルが火焔を撒き散らすのを見ながら、ヒカルはミサイルの回避と迎撃繰り返しながら前進していきました。
やがてミサイル雨が止む頃、ヒカルは城門に辿り着きました。しかしそこに待ち受けていたのは人型汎用兵器です。夥しい数の重火器を容赦なく、ヒカルに向けます。ガトリングガンから発射される弾丸がヒカルを追います。照準が追いつかないと悟ったロボットは肩に装着したロケットを乱射しました。流石のヒカルも周囲全体を焼き尽くす爆裂は避けきれませんでした。しかし、その炎はヒカル傷つける事は出来ませんでした。
「この程度の攻撃なら、魔法の鎧で防げるから大丈夫だ」
フレディが言うと、ヒカルは無言で頷きそのまま真っ直ぐにロボットへ接近していきます。近接戦闘、ロボットは右手に装着されたパイルパンカー(杭打ち機)をヒカルに振り下ろします。杭を打ち込むための炸薬が破裂するのと、ヒカルがロボットの右腕を下段切りで切り落とすのは同時でした。そのまま叩き付けるようにして大剣を振るうと、袈裟斬りにされたロボットが崩れ落ちていきました。
ロボットの残骸を踏み越えて、ヒカルは城内に入ります。しかし、そこには敵兵は一人も居ませんでした。
「誰も居ない・・・罠か!?」
「ヒカル、上だ!」
フレディの声を聞いたヒカルが天上に向けて、剣を構えるとその姿が一瞬で光に飲み込まれました。そして地表を大きく抉りとる爆発。城内の広場、ヒカルと春風が幼い頃に出会った庭園も含めて、全てが灰燼に消えました。巨大なすり鉢状のクレーター、その底でヒカルは膝を着いてどうにか立ち上がります。
「い、今のは何?雷が落ちてきたの?」
「衛星兵器だ。地上から一万キロ上空にあるレーザー兵器が狙っているんだよ。太陽光をエネルギー源にしているみたいで、流石にこれはまずいね。いくら魔法の鎧でも、もう一度食らったら僕達の身体は蒸発しちゃう」
ヒカルは立ち上がると、空を見上げます。ずっとずっと遠くにまで意識を伸ばしました。
「あれを、落とせば良いんだな」
ヒカルは大剣を槍投げのようにして構えました。レーザー兵器の第二射が放たれるのと、ヒカルが裂帛の気合を込めて、龍の力を秘めた剣を投げるのは同時でした。雲を割り、空中でレーザーと剣が交錯します。太陽の力を集めたレーザー光はヒカルの投擲した剣に、輝く粒子となって飛び散りました。そのまま剣は遥か上空の衛星兵器を貫き、木っ端微塵に吹き飛ばしてしまいました。
「行こう、塔までもう少しだ」
ヒカルは腰に差してあった二本の直剣を両手に握りながら言いました。
春風が監禁されている塔には城の中を通って行くしかありませんでした。城内に入ると、一斉に敵兵が現れます。ついに敵も人海戦術できたのです。ヒカルの二刀を振るうたび、クリスタルの輝きと共に敵兵の身体が切り飛ばされていきました。数え切れない程の敵兵を切り倒して、ヒカルはようやく玉座の間に辿り着きます。塔へは、玉座の間を越えていかねばなりません。しかし、そこに待ち受けていたのは一人の青年将校でした。
「よくもやってくれたな、化物の生き残りめ」
青年将校は三国連合軍の中でも最強の兵士でした。長い間続く大戦を終結させるために彼はこの非道な作戦にも理性を押し殺して参加しました。もう少しで全てが上手くいき戦争が終らせられる、そんな風に安心していた所にヒカルがやってきたのです。彼はヒカルを森の魔物の化身なのだと考えました。あらゆる憎しみが全てヒカルに向けられます。
「俺達は戦争を終らせるんだ。そのために魔物も殺し、古き民も殺した。何だってしてやる、平和を手に入れるためならな」
彼は三国の一つ、青の国では勇者と呼ばれていました。国では誰からも尊敬される勇者が、虐殺を含むような戦に手を参加してまで平和を手に入れようとしたのです。外の世界も困窮しているのです。
「見てくれが女でも容赦しない。お前は平和を乱す悪魔だ」
勇者が腰に差したビームサーベルを抜き放つと、そのままヒカルに襲い掛かります。
「ふざけるなよ、お前達が春風にした事を思えばどっちが悪魔だ!」
ヒカルも勇者に真正面から挑みます。
光の束とクリスタルが衝突。火花を散らしながら鍔迫り合いをする二人。そこにフレディの叫び声が飛びます。
「ヒカル、まずい!そのままじゃ剣が!それはさっきのレーザー兵器の力を圧縮成型してる剣だよ!」
ヒカルの視界、その隅でビームサーベルがクリスタル製の直剣を徐々に溶断していました。咄嗟に後ろに跳び、距離を取ります。片方の直剣からは焼煙が揺れていました。ヒカルは一度剣を合わせただけで、相手が自分と同等がそれ以上の剣力を備えている事が分かりました。そしてあの光の剣は魔法の鎧すら容易に貫くであろう事・・・。何より、これ以上時間を長引かせるのはまずいのです。今、影森の国に居る兵力だけでなく外界からの増援まで呼ばれてしまってはたまりません。いち早く、眼前の強敵を倒さなくてはいけないのです。
ヒカルは一度息を吸ってから気合を入れます。
「いくぞ!!」
勇者はヒカルの大音声に臆する事無く身構えます。
ヒカルは数歩前進してから、片方の直剣を勇者に向かって真っ直ぐに投擲しました。
「馬鹿め!こんな程度のものは奇策と呼べんぞ!」
勇者はビームサーベルを振るい、直剣に迎撃します。甲高い音を立てながら砕け散る刃―――その欠片を縫って、もう一本の直剣が飛来しました。
「な・・・に!?」
勇者は重心を移動させ、首を浅く切りながらもどうにか回避しました。勇者は安堵と共に、もはやヒカル武器を全て失った状態で居るのだと思い、視線を正面に向けると、そこにはもうヒカルの姿はありませんでした。横に回られたかと思い、その場で踏み込んで、方向転換するもヒカルの姿は見えませんでした。
「後ろ!」
ヒカルが凄まじい速度で跳び回れると失念していた事を悔いながらも、勇者は背後から感じる気配に向かって振り向き様に剣を振るいました。丸腰になったヒカルにはもうビームサーベルを防ぐ事も、ましては攻撃する事も出来ないはずだと勇者は思っていました。
しかし、振り向いた視界に映ったのは、直剣を大上段から振り下ろすヒカルの姿でした。
「自分で投げた剣を掴んだというのか!」
二本の剣閃が中空を走りました。
魔法の鎧が切り裂かれ、ヒカルの下腹から胸にかけて赤い線が描かれました。
勇者の首が切り飛ばされ、鈍い音と共に床へ落ちました。
「ゆ、勇者がやられたぞ!!」「化物が勇者を!!」「殺せ!!早くその化物を!」
玉座の間に動揺が広がりました。それまで決闘を見守っていた兵士達が一斉に銃を構えてヒカルを狙います。
フレディが慌ててヒカルに声をかけます。
「ヒカル!ヒカル!魔法の鎧は砕けた!もう敵の弾丸を弾く事も出来ないよ!」
「大丈夫、この位どうってことない!」
四方八方から放たれた弾丸を受けるよりも速く、ヒカルは動きました。肉眼で捉えきれない速度でヒカルは跳ねる様にして、柱や天井を蹴って弾丸をかわし続けます。そしてヒカルの剣が次々に兵士の命を断っていきます。玉座の間が真紅に染められた時、そこに立っているのはヒカルだけでした。
「これで、城内の敵はもう居ないかな。塔を守っている兵士もこの中に居ると助かるんだけど・・・」
ヒカルは胸の傷を押さえながら塔へ向かいます。

幸い、塔の周辺に敵の姿は無く、階段をすんなりと登っていく事ができました。春風が閉じ込められている部屋、その鉄扉をヒカルはバラバラに切り裂きました。
「春風!!」「ヒカルちゃん!」
牢獄には似つかわしくない、美しい儀礼用のドレスに身を包んだ春風が冷たい石畳の上に枷を嵌められていました。春風はヒカルの姿を見て両手を伸ばします。春風を拘束している鎖をヒカルが切断、解放された春風はヒカルの胸に飛び込みました。
「ヒカルちゃん!!無事だったのね!ずっと、ずっと心配していたのよ。胸の傷、血がこんなに・・・」
春風はドレスを破って、ヒカルの傷口を拭いながら言います。
「助けに来てくれたのは凄く嬉しかったけど、心配だったのよ。ヒカルちゃんにもしもの事があったらと思ったら・・・。きっと私はそんな事には耐えられないもの。でも、ヒカルちゃんはこうして私の所へ無事に来てくれた。私の王子様はやっぱり強いのね・・・」
「そうだよ、私は春風だけの王子様だ。だから、今度こそ何があっても春風を守ってみせる。春風が何処に行っても何があっても、ずっと離れないからな」
二人が強く抱き合うと、自然と互いの唇を合わせました。
いつまでもこのままで居たいと二人が思っている中、ヒカルの胸元から小さなフレディがふわふわと浮いて出てきました。
「まったく、見せ付けてくれるね。ヒカル、僕の助けたり、協力したからここまで来られたのも忘れないで欲しいね」
嫉妬心を滲ませた声が二人の時間を止めました。
春風は空中に浮いている小さなフレディを見て、すぐに思い出しました。
「あなたは・・・あの時の魔物のフレディさんね。ヒカルちゃんを助けてくれたの?ありがとう」
春風が微笑みながら、フレディの鼻先にキスをします。途端にフレディの体がピンク色から真っ赤に染まってしまいます。
「あぁ、春風!!春風!!僕も、嬉しいよ!!君を助ける事が出来た!あの時、君を森に誘ったのは、影森の国がこうなってしまうのが僕には分かっていたからなんだ。運命を司るルールのせいで君には直接教えられなかったけれど・・・。森を焼かれてしまったせいで力をほとんど失ってしまった僕も昨晩は君を助ける事が出来なかったんだ。本当に、ごめん」
「良いのよ。あなたも森を焼かれて、おうちを失ってしまったのよね。それなのにこうして私を助けに来てくれて、嬉しいわ」
春風はフレディの頭を撫でながら言いました。
そしてヒカルが鞘から再び剣を抜くと、春風の手を握ります。
「春風、行こう。ここから逃げて、どこか遠くで平和に暮らそう。春風はずっと私が守ってみせる」
「でも、私は影森の国の人達を見捨ててなんて出来ないわ」
「本当は、春風も分かってるんだろう?もう、みんな・・・」
ヒカルは辛い現実を春風に伝えました。春風はヒカルの言葉でようやく決心がつきました。
「そう・・・じゃあ、私はもう影森の国のお姫様じゃなくなっちゃったのね。ヒカルちゃんは、こんな私でも『私の王子様』になってくれる?」
春風が潤んだ瞳でヒカルに問いかけると、答えは直ぐに返ってきました。
「当たり前だろ。私は春風だけの王子様だよ、ずっとずっといつまでも」
「ヒカルちゃん・・・あぁ、私の王子様!!」
ヒカルが春風の頬に軽くキスをしてから、握っていた剣を振るいました。塔の最上階、その天井と壁が切り飛ばされると、陽光が差し込んできました。そして塔の周辺を取り囲む戦闘ヘリやロボットが放つ機械音が轟きます。
「さて、この状況だ。フレディ、最後の手段っていうのに期待しても良いのか?」
フレディがふわふわと二人の前に移動してきます。
「もちろんだよ、こうなる事も僕には分かっていた。でも、切り札を使う前に、二人に確認しておきたいんだ。僕の力でこれから、君達を別の世界、別の運命に連れて行くよ。君達は別世界の住人として生まれ変わり、今のこの世界の出来事は全て忘れてしまう。でも君達が幸せな関係で居られる世界に連れて行くことだけは保証するよ。このまま敵に殺されてしまうよりはずっとましだと思うけど、どうする?」
フレディの言葉を聞いて、春風とヒカルは視線を交差してから頷きあいました。
「どんな世界に行っても、ヒカルちゃんは私の王子様に違いないわ」
「そうだ、もう何があっても私は春風から離れない、ずっと一緒に居る。例え記憶を失って、別の世界に行こうとも、私は絶対に春風を幸せにしてみせる」
春風とヒカルが繋いだを手を強く握り合うのを見てから、フレディはその力を行使するために神々しい輝きを放ち始めました。
「きっとそう言うと、信じていたよ。それじゃあ世界と運命の改変を司る神獣、その最後の力を見せよう」
フレディの小さな身体がまるで間近に太陽があるかのような厖大な光を生み出し、春風とヒカルを飲み込みました。二人があまりの眩しさに目を閉じると、どこからかフレディの声が聞こえてきます。
「君達は向こうの世界で幸せな家族。でも、ね・・・僕は春風の事が大好きだ。だから、僕も幸せな家族に混ぜてもらう。ヒカル、王子様の座を僕にも分けてもらうよ。それが僕へのお礼だと思ってね。春風、愛しているよ」
フレディの言葉が春風とヒカルの胸に漣のように浸透していきます。
二人は互いの温かさだけを感じながら、意識を光に預けていきました。

************

「春風姉様、ヒカル姉様!!こんな所で寝てたら風邪引くわよ!」
氷柱の声。
ヒカルは何だかとても長い夢を見ていたような気分。まどろみが抜け切らないまま目を開くと、目前に制服姿の氷柱が顔を覗き込んでいた所だった。
「やっと起きた。もう、あんまり呼んでも起きないから心配したんだからね」
今日は土曜日、中学校の生徒会役員の行事に参加していた氷柱が夕方帰ってくるとリビングのソファーで並んでぐっすり眠っている春風とヒカルを見つけたのだ。いくら暖房が効いているとはいえ真冬だ、氷柱は二人を起こそうと暫くの間二人の肩を揺さぶったりしていたが、一向に起きる気配が無いものだから次第に何か病気なのではないかと不安になってきた所だった。
「あぁ、何だか長い夢を見ていたみたいだ。部活で少し疲れているのかな。起こしてくれてありがとう、氷柱」
「そう、良かった。もう夕方だし、春風姉様はお疲れみたいだから、今日は私が久しぶりに夕飯作ってみようかな。ユキの大好きなホワイトシチューを作っちゃお!」
そう言うと、氷柱は一旦自室に戻って着替えるためにリビングを出て行き、部屋に残ったのはヒカルと春風だけである。ヒカルはふと、春風の左手を握っている事に気がついた。更に、二人で一緒に何かを掴んでいるようだった。ヒカルが春風を起こさないように、そっと手を開くと、そこにはピンクの象を模したワッペンがあった。
「これは・・・虹子がいつも絵に描いている、フレディ・・・だっけ。蛍が作ったのかな?
何で、私と春風が握り合ってるんだろう」
ヒカルは何か、心のどこかに引っかかる物を感じていると玄関の方から「ただいまー!!」という大勢の声が聞こえてきた。
「そうだ、蛍と妹達、それにあいつ・・・みんなで買い物に行ったんだっけ。私と春風は部屋で掃除していて、疲れて寝ちゃったのか」
物音に気付いたのか、春風が目を覚まして目を擦ると隣にヒカルが居るのを確認。すぐさまヒカルの胸に甘えるように抱きついた。
「おはよう、ヒカルちゃん。私の可愛い王子様」
ヒカルは春風の頭を撫でながら答える。
「おはよう、春風。何だか二人で長い夢を見ていたみたいだ」
「ヒカルちゃんも?春風もね、何だかとてもとても長い夢を見ていたのよ。でも詳しい事は覚えていないの。それでもね、たった一つ覚えているのよ」
そう言うと春風がヒカルの頬を優しく両手で包んでから、そっとキスをしました。
「ヒカルちゃんだけが、私の王子様なの。何があっても私を助けに来てくれる私だけの可愛いくて、格好良い本当の王子様よ」
春風の満面の笑顔を見て、ヒカルも笑顔を浮かべました。
リビングに向かって家族がみんな押し寄せてくる足音が聞こえてきました。
春風とヒカルはみんなを出迎えようと、立ち上がります。
「「おかえりなさい!」」
元気良く開いた扉から現れた家族を二人は笑顔で迎える。

幸せな家族の物語はずっとずっとこれからも続く。








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