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梅入

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「魔法少女リリカルなのは」二次創作小説 『胡蝶の夢は是非曲直に沈む』 ③
これが最後の3章目です。
全部読んで頂かれた方はお疲れ様です。そしてありがとうございます。

「魔法少女リリカルなのは」二次創作小説 『胡蝶の夢は是非曲直に沈む』 ①

「魔法少女リリカルなのは」二次創作小説 『胡蝶の夢は是非曲直に沈む』 ②


これの続きになっております!
順番通り読んでいただければと想います。今回、かなり長いので3つに分けてみました。
お手数ですが、何回かクリックをお願いいたします。




それで、更にこの話の外伝と言うか、時間軸を戻した話も作ってあります。
「魔法少女リリカルなのは」二次創作小説「狂気の源泉は初恋と共に」

これが最終話への前フリになってますので、またよろしければ。
思いっきりオリキャラを作ってしまいました。爺ですけど。




一応読んでおいてもらえるともう少し面白くなるかな、というのが以下、別の過去作品です。

・「魔法少女リリカルなのは」二次創作小説 『夢幻泡影の姉妹』前編

・「魔法少女リリカルなのは」二次創作小説 『夢幻泡影の姉妹』後編

・「魔法少女リリカルなのは」二次創作小説 『幽愁闇恨を孕みし約束』




という事で、以下恒例の注意書き。

私の芸風なので、相変わらず幸薄かったり、エログロだったり、百合ってます。
キャラクターの性格など著しく変えていたりもします。
あとリリカルなのはの公式設定と、色々齟齬があるかと思いますが、そこはこう何と言うか、ごめんなさい。

そういうのでも、いけるぜ!!と言う方は是非お読み頂ければと。


それでは、本編は「続きを読む」で始まります。



市街地を越えて、工業地帯に入る。
無人の工場は稼動していた時のまま時間を凍結させられたかのようだった。

八神はやてが共に飛ぶヴィータへ声を掛ける。
「ヴィータ、これ付けておいて。御守りみたいなもんだけど、なのはちゃんの一番ヤバイ魔法を防げるから」
八神はやてが懐から髪飾りを取り出し、ヴィータに手渡す。
菫、百合、楓、桜―――四つの花をあしらった金色の髪飾り。八神はやて自身も身に付けている、対高町なのは専用AMF発生装置。
ヴィータは髪飾りを受け取り、前髪をまとめるようにして身に付ける。
「はやてとお揃いだね・・・あの子達もきっと力を貸してくれるよ」
小さく笑ったヴィータの表情を見て、八神はやても微笑を返す。

眼下に広がる無人の工場地帯、大型タンクやそこから延びる巨大なパイプが毛細血管のように這い伸びており、そんな灰色の光景が広大な敷地に広がっていた。視線を先に伸ばすと鉱山が見える。この工業地帯は採掘された魔力鉱石を精製するためのプラント群だった。今はもう動く事の無い、この星ごと捨てられた夢の跡。
斑模様に錆色が広がる光景を見て、高町なのはがなぜこの星を自らの隠れ家として、フェイトとの蜜月を過ごすための場所として選んだのか・・・何となく理解する事が出来た。

灰色と錆色で構成されていた工場群が視界から消え、代わりに岩肌を晒す鉱山の土色が広がった。
その先に―――高町なのはの強大な魔力。
「はやて、行くよ。大丈夫?」
「うん、全力でやるよ。なのはちゃんを止める!」
八神はやてが十字杖を構える。ヴィータが鉄鎚に力を込める。
そして・・・見えた―――純白のバリアジャケットに赤い染みを幾つも散らせた、高町なのは。
その小さな口が大きく縦に引き裂かれる。
「アクセルシューター!ファランクスシフト!!」
地の底から伝わる律動が天蓋を鳴動させた。
遠雷のような地響き―――直後に噴火する業火の柱。
高町なのはの背後、地殻を割り砕いた大穴から真紅の輝きが噴き上がる。
噴煙と共に焼けた岩や土が巻き上げられ、周辺一体に降り注ぐ。背後に見える工業地帯に巨大な噴火岩が突き刺さるのが見えた。
溶岩よりも鮮やかな赤色の噴火は止まる事無く地底から放出され続け、全天に広がる。空一面を埋め尽くす焼熱が積乱雲のように巨大な影となった時、高町なのはの咆号が轟く。
「喰らい尽くせ!!」
ぞわ―――そんな、羽虫の群体が蠢くような唸りが一瞬聞こえ、宙空に広がる紅雲が八神はやてとヴィータに向かって動き出した。

「あれ・・・もしかして、全部魔力弾なのかよ・・・」
愕然とした表情のヴィータに八神はやてが続けて言う。
「鉱山の底から溢れ出してる。たぶん地底に眠っていた魔力鉱石を精製して魔力に変換したんや。普段から大気中に散った敵の魔力すら自分のモノにしてるぐらいだからね・・・なのはちゃんにしか出来ない魔力供給方法やわ。きっと、この星の地脈に眠る魔力が失われない限り、あの魔力弾の雲海は吐き出され続ける」

この凶悪無比な広域攻撃魔法は、明らかに多対一を想定している。これは高町なのはがこの星を外敵から守るために予め用意しておいたものだろう。フェイトとの永遠の楽園を何者にも邪魔されないように・・・それこそ、管理局の艦隊を相手にたった一人でも全て撃滅させられるように準備した局地戦兵装。
こんな数の魔力弾を操作するとなれば身体・・・特に脳への負担は計り知れず、手段をまったく選ばないという執念を感じ取れる。
だが、その必死さこそが視野狭窄を招き、結果として道を誤った。
自分も間違えていた、しかし最愛の家族であるヴィータが居てくれたから、目を覚ます事が出来た。だが、高町なのはは未だ誰からも助けてもらっていない。全てをかなぐり捨てて、フェイトだけを求めている。自分もフェイトも、触れる者全てに災厄を撒き散らそうと構う事無く、ただ只管に渇望する。
もはやその目に映るのは今を生きるフェイトでは無い・・・過去の優しい記憶だけ。もう戻る事など出来ない夢想。その事を自覚していても、高町なのはは止まる事が出来なくなっている。
今、ここで止めなければならない。このままでは高町なのはは愛するフェイトすらもその牙でもって食い破るだろう。
友人を狂わせてしまった自分に出来るせめてもの罪滅ぼしだ。高町なのはと二人でずたぼろになった身と心を晒してフェイトに謝りに行こう。

八神はやてが十字杖に魔力を込めながら、遠くに見える高町なのはを睨む。
「でも、なのはちゃんを狂わせた責任、取らなくちゃ・・・。ヴィータ、手伝ってくれる?」
危機的な状況をものともしない強固な意志を感じさせる言葉に、ヴィータが満足そうな笑顔を見せる。
「もちろん!あいつをぶん殴って、正気に戻してやるんだ。はやて、見せてやろうよ。あいつがどんなに強くても、独りじゃ勝てないって教えてやるんだ」

真紅の積乱雲が迫る―――その正体は拳大の魔力弾が織り成す大海嘯。
「私は魔力弾を引き付けてる。ヴィータはなのはちゃんを叩いて!」
八神はやての周囲に再び生まれる不定形の魔方陣―――禍々しい揺らめきが、四つの光球を生成する。
普段とはまったく違う異質な力を用いる八神はやての姿を見て、何かを言おうとしたヴィータが喉にこみ上げていた言葉を飲み込む。
「はやて・・・背中、任せるよ」
ヴィータが、前方へ向けて疾走する。
その背中に慈しむ視線を重ねてから、八神はやての十字杖が振り下ろされる―――四つの光球が瞬間的に体積を膨らませ、赤い雲海へと放たれる。
着弾―――光―――音塊―――焦熱
空を焼き尽くす火焔の華が咲き乱れた。
誘爆した魔力弾が次々に連鎖して花弁を散らす中、ヴィータが滅火檄炎の中を疾走。
八神はやての砲弾で開いた風穴に飛び込み、直走る―――その進路を再び魔力弾の群れが巨大な壁となって阻む。
「邪魔だぁ!」
白銀の鉄槌を振りかぶる―――全身の回転運動と捻りを加えて分厚い魔力弾の塊に叩き込む。
爆砕―――衝撃が細い腕から全身に伝わる。炸裂した魔力刃と塵灰を浴びて、もはやバリアジャケットは原型を留めていない、しかしヴィータ本人へのダメージは軽度なものだった。
―――いける!まとめて喰らわなければ大した事は無い。規模に惑わされるな。
突如ヴィータの視界が影に覆われる―――高空から押し潰すようにして高密度の魔力弾が回避の隙間無く落とされた。
カートリッヂが炸音を響かせて発動―――鉄槌に黄金の牙とロケット噴射口が生まれ、ロケット推進剤がぶちまけられる。その身を勢いに乗せ、赤の雲海に鉄鎚をぶち込んだ。
飛び散る魔力弾の砕片が粒子となって地上に降り注ぐ。
ヴィータは深紅の光が毀れる霜天を駆け昇る―――魔力弾の支配域から脱して眼下に広がるのは、大空を侵食する魔力弾。赤い細菌が繁殖するかのように普天に満ち返っていた。
そして、赤い海流の波間に一瞬見えた―――こちらを見ている、高町なのはの嘲笑。
「なのはぁ!」
ヴィータが愛器に火を入れた―――加速した鉄鎚は風を破る。
進路を妨害するように魔力弾が巨大な槍を象り、突きこまれる―――鉄槌でもって撃砕。ヴィータが体勢を戻すよりも先に、鞭のような形状を取った魔力弾が無数の軌道で円弧を描き、ヴィータに叩きつけられる―――金色の牙が全て薙ぎ払う。息つく間もなく、今度はビルのように長大なブロックと化した魔力弾の圧縮体がまとめて三つ飛び込んで来る―――砕く、打ち割る、両断する―――真っ二つに割れた長方形が断面を爆裂の色に染めながら分解していく。
紫煙の尾を引いたまま、高速で垂直下降するヴィータの視界が開けた。朽ちた土色が見える―――その中に居た白い影が狙いすまして―――魔力増幅環を展開―――砲撃準備完了。
ヴィータの表情が一瞬歪む・・・しかし、止まらない。数少ないチャンスを逃すわけにはいかなかった。完全な回避は出来なくとも、手足の一本を犠牲にする覚悟で突き進む。
「良い度胸だよ!!ヴィータちゃん!!私の熱で蕩かしてあげる!!」
灼熱を纏った桜色が吐き出される。空気を焼き切り、天を衝き上げる灼爛の炎がヴィータを飲み込む―――その寸前、横合いから飛び込んできた銀槍に火柱が貫かれる―――砲撃そのものが石化。弾幕の隙間を縫って放たれた八神はやての援護射撃。
巨大な灰色の尖塔となった砲撃が超重量を伴い落下―――噴煙を撒き散らしながら大地に突き刺さる。押し潰される形となった高町なのはが、巻き上がる粉塵の中から飛び出す。
「なのはぁ!!」
業火を棚引かせる鉄鎚がカートリッヂを噛み砕き、更に加速。
真正面から、高町なのはの顔面目掛けて金色の牙が叩きつけられる。
シールドに着撃、衝撃波で土煙が円状に吹き散らされ鉄鎚から削熱の火花が舞う。
「なのは!!ぶん殴ってやるから、目ぇ覚ませ!!」
ヴィータが細い腕により力を込めて、桜色の防壁に牙を突き立てる―――拮抗する攻防。
鋭い眼光で、白い狂獣を睨むヴィータ。その姿を恍惚とした表情で見つめる高町なのは。
「ヴィータちゃん・・・本当は、体中痛いんでしょ?全身の肉を引き裂くなんて無理矢理な方法で私の特別な魔法を解除してるんだもん。きっと脱いだら、ピンク色のお肉が見えちゃってるよね・・・。それじゃあ、今度は消えないように、体の内側・・・臓器にも書き込んであげる。そしたら、もうこんな事出来なくなるもんね。はやてちゃんもお揃いにしてあげるよ」
血液そのものであるかのように赤い舌が唇を舐める。同様に赤灼を宿した高町なのはの瞳は、現実と夢想の境界線に揺れていた。
「私とはやてにした事は許してやる!お互い様だからな!!でも・・・フェイトに!!フェイトに謝れ!!お前は取り返しつかない事したんだぞ!!フェイトがどれだけ悲しんだのか!お前だって見てただろう!!一番近くで、ずっと見ていたんだろうがぁ!!お前がフェイトにした事だけは・・・許せない!」
ヴィータが鉄鎚の持ち手を変えて上半身を捻る―――下段から振り上げるようにしてバックハンドで鉄鎚を跳ね上げ、防盾の隙間目掛けて叩きつけた。
シールドを再び生成させる時間は無い―――高町なのはが右足を蹴り上げるようにして後転―――鉄牙が太股をかすめ、皮肉が薄く剥がされた。回避運動により後方一回転した姿勢を整えようとする高町なのはにヴィータが肉薄する。近接戦闘の間合いを決死の覚悟で維持させねば、今のヴィータに勝機は薄い。一度崩した高町なのはの機を立て直させないために、息をも付かせぬ連続攻撃を行う事がヴィータの狙いだった。
―――互いに消耗している、至近距離を維持すれば近接戦闘のプロフェッショナルである自分が最後は粘り勝ちするはずだ。
追撃。
横薙ぎに奔る銀光―――シールドに阻まれる。怯む事無くヴィータは動き続けた。全体重を乗せた左足で、高町なのはの顔面目掛けて浴びせ蹴りを打つ。鉄甲を仕込んであるブーツと共に放たれた重厚な蹴りを、高町なのはが空いている右腕を折り畳んで受ける―――鈍い打撃音を引きながら体ごと吹き飛ばされる。鉱山に隣接していた工場区画、そのうら寂しく静かだった廃工場の壁面を砕いて高町なのはが転がされた―――折角得られた肉弾戦闘の距離が開いてしまう。
ヴィータは小さな舌打ちを一つ、すぐさま追撃。僅かな距離すらも取られる訳にはいかなかった。
落下点から構造材のコンクリ片や鉄骨が宙にぶち上げられる―――視界遮断。
噴煙の奥に魔力光―――土煙を穿って放たれた速射砲の嵐。
ヴィータは止まらない。最低限の回避運動に留め、速度を殺さずに弾幕へ突っ込む。
全身・前進・進撃。
回避し切れない砲撃を鉄槌で打ち払う―――その影に重ねて放たれていた砲撃―――首を捻ってかわす―――肩口を掠めた砲撃が鮮血を散らして肉を剥いだ。それでも、ヴィータは止まらない。
肉眼で捕らえた。
驚愕とも喜悦とも思える、高町なのはの表情。

ヴィータが全身を弓なりに反らせる―――激越たる咆哮。
大上段から振り下ろされる、打ち下ろしの一撃。
高町なのはがカートリッジを打ち込んだRHを構え、最大出力のシールドで受け止める―――烈震と共に床を砕いて足首までがコンクリ埋まった。鳴動する廃工場―――暗闇を眩く照らす魔力光が放射状に飛散する。
先程と同じ状況、互いの力が拮抗する。
「何時までも・・・こんなもん、打ち抜いてやる!!」
ヴィータは叫び、力を求める。鉄槌に残されていたカートリッジの弾丸三発分が全て炸裂、排薬莢が高い音を立てて床に落とされた。
間をおかずに生まれるのは、強烈な掘削音。
高町なのはのシールドに噛み付いていた金色の衝角が高速回転を開始。削り取られたシールドの魔力が渦状になって吹き散らされる。ロケット噴射口からは、烈火が吐き出され埃だらけの天井を焦がす―――炎がさして広くも無い建物全体にあっという間に広がった。
ヴィータの激昂が高町なのはの耳朶を振るわせる。
戦艦からの砲撃をも防ぎ、管理局でも最高の防御力を持つと知らしめている自慢の防盾が今や眼前で甲高い音を立てて亀裂に冒されていた。局所一点に絞ったヴィータの狙いは確実に高町なのはの防御力を上回った。高町なのはの背筋に冷や汗が垂れ落ちる―――そして、内股を流れ落ちる熱い雫。
「ヴィータちゃん・・・やっぱり可愛いよ!ヴィータちゃん!!ヴィータちゃん!!一生懸命なんだね!はやてちゃんのために、尽くしてるんだね!捧げているんだね!!一途だよ!可愛いよ!」
自らの危機などまるで意に介さない、調子狂いの嬌声。
「違う!!私がここに居るのは、私自身の意思だよ!お前が!お前・・・本当は正気なんだろ!?戻りたいんだろ!?昔みたいに、みんなで一緒に居たいんだろろうが!!だったら、こんな間違った方法は止めろ!フェイトにも謝れ!!」
フェイトの名を聞いて、高町なのはのにやついた表情がそのまま静止した。
「でも、お前は馬鹿だから言っても、分からないんだろ?それなら、打っ叩いて分からせてやるよ!それがお前の仲間として、友達として私がしてやれる事だから―――助けてやる!私が助けてやるから!もう、止めろ!」
高町なのはの中に残された僅かに残っている正気と孤独の感情に届けと願い、ヴィータは叫ぶ。
「なのは、戻って来い!私が助けてやるから!どうしようもない泥沼に嵌っているなら引き上げてやる!私はお前にそうやって助けられたんだ!今度は私がどんな事からもお前を助けてやる!だから、私を信じろ!!」
本心だった。
己の主人である八神はやてに対する絶対的なモノとは別種の愛情を高町なのはに抱いていた。それは友情なのか母性愛なのか恋情なのか、それら全てを綯い交ぜにしたもののようにも思えた。
ヴィータにとって高町なのはは、初めて出来た友人だった。大切な仲間でその真っ直ぐな姿勢に憧れすら抱いた。
助けたい―――こんな感情は魔法生命体であり、八神はやての守護騎士である自分が他人に抱くこと等無いと思っていた。しかし、目の前で狂心に歪む高町なのはに対する思いは、ただ一心のみ。

ヴィータの声を聞いた高町なのはが、呆然とした表情を浮かべていた。
その瞳がうっすらと滲む。
「ヴィータちゃん・・・ありがとう。でも、もう遅いよ。無理・・・無理なの。フェイトちゃんにあんなに沢山酷い事しちゃったし・・・私はもう、戻れない。嬉しいよ、ヴィータちゃん・・・。私も、ヴィータちゃんと・・・これからも一緒に居たかったよ」
高町なのはの瞳から一筋の雫が零れた。それが、最後の理性を捨て去る儀式となる。
再び、歪んだ煌きが高町なのはの両眼を支配した。
「なのは!!もう止めろ!!」
高町なのはを包む魔力光が怪しく輝くのを見たヴィータが声をあげた。
しかし、高町なのはにはもう聞こえない。
「来い!!」
高町なのはが腹の奥底から大音声を振り絞った。燃え盛る天井―――その先に見えるはずの天に向かって放った声が轟く。
瞬間的に鉄槌を押し込むヴィータの腕が軽くなった―――先程まで展開していた強固な防壁が、ガラスの破砕音を思わせる響きと共に砕け散っていた。絶好の勝機を得たヴィータは高町なのはの胸部付近に狙いを変えた。何事かをされる前に、一撃必殺の打撃を叩き込む―――高町なのはの捩れた心を穿つべく、鉄槌が振るう。
鉄槌から伸びる牙が、高町なのはの胸に突き刺さる―――その寸前。
焼けた天井が爆裂・崩落―――現れるのは天から降臨した、紺色の輝き―――落下軌道にあった鉄槌を弾き飛ばし、コンクリの床に突き刺さった長槍。それは高町なのはが八神はやてとの戦いで取り出した、二本目の蒼いRHだった。
そういえば、高町なのはは先程までずっとRHを一本しか持っていなかった。その事実を失念していた事を悔やむ―――そんな時間は無い。一度着地したヴィータが態勢を整え、砲弾の如く突進する。
高町なのはが引き抜いた青のRHを右手に持つ。両手に掴んだ二本のRHから魔力刃が生まれた。
「ヴィータちゃん・・・嬉しかったよ。ありがとう・・・。だから、せめて私の前にもう出てこられないように・・・その手足を、切り落としてあげる!」
高町なのはが正面に跳躍する。
「やってやるよ!高町なのは!!お前が目覚ますまで、何度でもぶん殴ってやる!」
交錯する、槍刃と鉄槌。
激震―――建造物が中身をぶち撒けて内側から吹き飛んだ。


****

足下に広がる大地からの震動が八神はやての肌に伝わる。
横長い建造物―――恐らくは採掘した鉱石を運び出しながら仕分けを行うラインだったであろう工場。放置されたままだった機械装置や構築物を周囲にばら撒きながら激烈な光を吐き出していた。
「ヴィータ・・・」
八神はやては己の全方位、目標を圧搾せんと群がる魔力弾を強固な結界陣で防ぎ続ける―――爆裂音は途切れる事無く続いていた。
しかし絶え間なく届く地上からの撃音を決して聞き逃さない。

術式で強化した聴力でヴィータと高町なのはの呼吸すらも耳に入れ、何が起こっているのかをつぶさに感じ取る。
ヴィータの決死の攻撃が峻烈な破壊力を持って振るわれる、それに対抗する高町なのはが病的な激声と共に全身を振り回すように戦う。
互いに一歩も引かない真正面からぶつかり合う肉弾戦。

八神はやては意識を地上の爆音に傾けたまま、視線を正面に移す。
先程まで地底から噴出していた魔力弾の勢いが失われた。無限に続くかと思われたが、穴底から飛び出した強大な魔力の塊、青い輝きを宿したRHが地脈に眠る魔力鉱石を活性化させる鍵となっていたのだろう。高町なのはがRHを手元に戻した事で魔力弾の生成は停止したと判断できた。
それでもなお、群雲となって雲居を埋め尽くす魔力弾の夥しい数は脅威であり、その全てを用いて八神はやてを拘束する高町なのはの戦術は十分な効果をもたらしている。当初の予定では二人の同時攻撃で短期決戦とするはずだったが、思惑を大きく外された形である。

ヴィータは高町なのはを友として助けようとしている。
八神はやてもまた、友を助けたかった。図々しい、身勝手な気持ちだ。騙して、利用して、傷つけて・・・最低な自分。そんな卑小な自分を全てが終わったら高町なのはとフェイトはもう一度、友達として受け入れてくれるだろうか。
もし、許してくれるならもう一度、始めたい―――本当の意味で共に歩める仲間として。

八神はやてが虚空に両腕を伸ばす。
「ちょっと、貸して貰うな・・・」
周囲に浮いていた闇色の魔術文字が腕の先で凝縮を始め、形を成す。
鋭く肉厚な刀身、機械仕掛けのグリップ部分から排気される白煙―――守護騎士シグナムの愛刀レヴァンティン×二本。
八神はやてが魔剣を両手に握り込むと同時にカートリッジが炸裂。
刀身に刻まれた刃節が緩み、八神はやてが両の腕を振るう―――瞬時に複製延長された無数の刃が織り成す鞭となり、手先から500m先まで伸長。軋音と共に翻り、八神はやてを中心点としてS字を描くようにして振り払われる。
太虚を彩る鮮烈なる猛火―――たった一振りで空一面に広がる魔力弾の雲を大きく削り取った。
「ヴィータ・・・直ぐに行くからな・・・」
八神はやてが己を守るための障壁を解除―――移動開始、ヴィータの下へ急ぐ。
携えた二本の魔剣が大蛇の如く鎌首をもたげ、再び振るわれる―――凄烈な光が洪水となり、全身に降り注いだ。
疾風怒濤、刃風を巻き起こし、八神はやてが火焔の尾を引き連れたまま地上を目指す。高町なのはの歪みそのものを体現した、分厚い弾幕の壁に鞭撃が叩き込まれる度に少しずつ、少しずつ・・・戦火の源へ・・・・。

****

天穹を染める万灯火のような火焔の下、無人の工業区画―――二つの影が疾走する。
「はやて・・・」
ヴィータが高町なのはと地上スレスレを這うように並走したまま、頭上の様子を窺う。
「はやてちゃん、頑張ってるみたいだね。でも、あの包囲網からは簡単に抜けられない。それまでは・・・私とヴィータちゃん、二人っきりなんだよ!あはは!はやてちゃんが来るまでには、すっごく可愛くおめかししてあげるからね!」
高町なのはが魔力塊を生成―――発射。
近距離から放たれた光弾の数は五つ―――ヴィータが鉄鎚を振り上げ、撃砕―――迫り来る全ての魔力弾を迎撃。そのまま、焦熱に染まった牙を高町なのはに叩き落す。
轟音。
目標を外した鉄鎚の一撃で舗装路を包むアスファルトが削岩され、土砂混じりの瓦礫が飛沫を上げる。
「うぉぉおおぁああ!!」
激声と共に力を込めた鉄鎚がゴルフスイングの要領で振り上げられる―――地中に埋まっていた巨大なコンクリート塊を鉄鎚が抉り出した。凶悪かつ絶大な砲弾と化した岩塊を飛翔する高町なのはに向かって高速で投擲。
背後から届く圧迫感に気付いた高町なのはが振り向く―――視界を埋め尽くす灰色。しかし一切の動揺を感じさせない無機質な表情で光翼の推力を調整、右足を支点にして振り返り様に両手の光槍を振るう。
紙細工のように切り刻まれる超重量体から硬音の悲鳴。
鮮烈なる斬撃の軌跡が揺らぐ朧を残し―――寸断されたコンクリート片が地上に落下して砕け散る。
高町なのはが両手に握った魔槍の動きを止め、身構えた。投擲物の攻撃は牽制であるのは間違いない、続けてくるであろう渾身の一撃に備える。

来た。
未だ落下を続ける瓦礫の間を縫うようにして飛来する鉄球。その数、二十。追尾魔法を付加されているであろう鉄塊が赤熱を帯びて、標的である高町なのはを襲う。
複雑な軌道でそれぞれの弾丸が迫る。左斜め下から胸元に飛び込んできた初弾を高町なのはは鋭い斬撃で真っ二つに切り裂く―――爆裂。光熱が広範囲を包み込み、視界を奪った。
鉄片混じりの炎を貫き、四つの鉄球が上下左右から現れる。全身をトンボのように跳ね動かす―――魔力刃が妖光で虚空に軌跡を刻み、四つの金属塊が無音のまま切断され、華炎が咲く。爆風により、煙が吹き散らされ高町なのはの視界が広がり、残った鉄球の行方を探る―――右。
シールドを展開―――着弾・衝撃・立て続けに炸裂する光輪が高町なのはの足を止めた。視界の隅に銀弧が流れる―――頭上、曲線軌道で撃ち込まれた鉄球。
「甘い!!」
左手に握ったRH先端部が左右に開き、一八〇度展開―――裂光―――掃撃。
圧縮された魔力が散弾化、広範囲にぶち撒けられ―――鉄球が爆破する事も無く粉微塵にされた。
右手のシールドから伝わる衝撃が収まる―――訪れる刹那の沈黙。

おかしい。この程度で、終わるはずがない。
そう思った高町なのはの背後に、圧力を伴った気配。
振り向く―――黒と錆―――直撃。
高町なのはが叩き落された。墓石の如く突き刺さるのは著大な鉄塊―――三両分連結されたままの貨物列車そのもの。
地上―――資材運搬に用いられた鉄道車両の基地。地平線の果てまで伸びる線路上にヴィータが居た。
意識を鉄球に向けさせ、その爆裂音で聴覚を奪い、魔力をまったく用いない質量攻撃を敢行。結果として不意打ちは決まったがあの程度で仕留められる相手では無い。
ヴィータが華奢な腕で、再び連結されたままの鉄道車両を引き摺るようにして持ち上げ、跳んだ。
「ぶっ・・・つぶれろぉお!!」
気勢を大喝に変えたヴィータが、掴んだ車輪部分を軸にして獰猛な鋼鉄の鞭と化した車両五つを一本背負いの要領で、先に投擲した車両が大地に屹立する横―――ふらつきながら、立ち上がろうとしている高町なのはにぶち込んだ。
赤色一閃―――高町なのはに迫っていた膨大な鋼鉄が熔解、天辺を衝く砲撃が虚空を焼いた。連結を断たれた車両が大地を跳ね、迸る溶鉄を撒き散らしながら転がった。
肺が痙攣する。腹の底から音が漏れる―――けたたましい狂喚。
「うふ、ふは・・・ははあ!!もっと!!もっと!!ヴィータちゃん!!来てよ!!」
高町なのはが頭部からの出血で顔面を赤く染めながら奇声をあげる。
砕けてひしゃげた車両の影からヴィータが飛び出す―――砲撃姿勢のままでいた高町なのはの反応が僅かに遅れる。その小さな頭部に向けて、先程の返答代わりにヴィータが上半身を捻り右腕を振りぬいた。防壁を展開させる時間を与える間も無く衝角が着撃するタイミング。
しかし、高町なのはが嗤った。
突然、肉を裂いた音がヴィータの耳元に届く。
続くのは、冷気と異物の感触―――崩落する平衡感覚。
頬を染める鮮血が己の物だと気付くのに時間は掛からなかった。
地中から突如生えた魔力刃がヴィータの右腕を肩口から切断。高町なのはが右手に持った青いRHの刃を地中に突き刺しているのが見えた―――刃だけを地中で伸長させ、罠を仕掛けていた事に気付かされる。
遅れてきた痛撃で喉が震え、声にならないまま呼気が吐き出される。
それでも、駆けた。
力強く、一歩を踏み出す―――手負いの赤色獣が驚愕する白い悪魔に飛び掛る。
予想だにしなかったヴィータの反応に、高町なのはの動きが止まった。
ヴィータの意志はまったく折れていない。震驚の叫びを上げようとした高町なのはの喉が小さな五指に掴まれる。
傷だらけのヴィータの左腕が真っ直ぐに伸び、高町なのはの首根っこを掴み―――飛び出した勢いをそのままに頭突きをぶちかます。
痛烈な壊音が互いの脳髄を揺さぶり、意識が真っ黒に塗り潰される。呻き声をあげようにも、締め付けられた喉からはひゅーひゅー、という乾いた息しか吐き出せない。
左手に握っていた赤のRHが甲高い音を立てて落ちる。
少し離れた所で鈍い音―――斬り飛ばされたヴィータの右腕が鉄鎚を握ったまま、砕けた列車の歪んだ鋼板にぶつかり、血痕を残して地面に力なく落ちた。
どうにか、意識が消失するのを必死で堪えた高町なのはに、ヴィータの決死の凶相が再び肉薄する、
酷烈な激震―――高町なのはの脳天から爪先までの感覚が失われる。
立て続けに更なる一撃。
お互いの額が割れた―――血飛沫が舞う。
衝撃でヴィータの三つ編みが解け、高町なのはのリボンが片方外れる。
赤熱に燃える灼髪、傷に蝕まれた枯葉色の髪。

ヴィータは失血と共に広がっていく喪失感に苛まれながらも、意識だけははっきりとしていた。
武器も片腕も失った今、もはやこのまま仕留めるしか無い。もう一度距離を離されたら、勝ち目が無くなる。
―――なのはが落ちるまで、ぶち込んでやる。
ヴィータが背筋を反らす。
歪む視界の中、高町なのはの頭部に狙いを定めようとした時―――壊音。
息が詰まる―――鼻骨が砕けたのだと、喉奥に流し込まれた血反吐の臭いで気付かされる。
―――先に・・・叩き込まれた!?
つい先程まで白目を剥き出しにしていたような状態だったのに―――
「ぐぎぃぁあがぁぁああ!!」
高町なのはが粘りつく赤色で汚れた口を大きく引き裂き、獣声を発する。
頭突き。
追撃―――互いの眼球が出血を伴い、押し潰される。
連撃―――ヴィータの顔面が次々と殴打を浴び、ひしゃげて潰される。

左手の力が緩み、あっさり払われる。
腹部に熱―――臍下を貫く光刃―――肉の焦げる異臭―――刺突が伸びる―――ヴィータが射出された魔槍と共に投げ飛ばされ―――崩落した瓦礫、その中のコンクリート塊に体ごと縫いとめられた。
腹部から込み上げてきた吐瀉物が、濁った血色と共に吐き出される。思い出したように、白と赤に彩られる骨肉を覗かせた肩口からも、凄惨な出血が壊れた蛇口のように噴出していた。
動くのを止めた今になって、全身の傷口が疼き始めた。
右腕は欠損、全身を刻んだ裂傷、大小含めた骨折箇所など数える気すら失せる。当面の問題としては失血が酷すぎる事だろう。このままでは先に意識を失ってしまう。

―――そうなったら・・・お前を、助けてやれないだろうが・・・。

「は・・・はぁ・・・ヴィータちゃん、凄いね。もう少しで、危なかったよ・・・」
割れた額から溢れ出す赤色に染まった高町なのは―――自分も同様だろうと、ヴィータは霞む視界越しに白と赤で構成された影を見上げる。
「ヴィータちゃん、こんなになって頑張るんだもん。可愛いね、可愛いね・・・」
口内を汚した出血と唾液が混じりドロドロとした粘液を、高町なのはが舌に乗せ、片手に握っていた物を持ち上げ、口元に運ぶといやらしく舐めあげる。
切断されたヴィータの腕、その先端部である繊細な小指を「くちょくちょ」と下品な音を立てながら、飴を舐めるようにして長い舌を巻きつけ、口に含み、熱をまとわりつかせる。
「あふ・・・うぁ、可愛い可愛い可愛いよぉ・・・」
力無く垂れ下がるヴィータの五指全てを湿らせると、高町なのはは切断された腕を己の薄い胸に当てる。破れたバリアジャケットから露出する下着に包まれた乳房を、ヴィータの手の平を使って弄り始める。
「ヴィータちゃん・・・私の事・・・好き?ねぇ、好き?好きだよね?ねぇ・・・」
高町なのはがスカートを捲り、玩具と化したヴィータの指先を使い己の秘穴に銜え込むと、膣内をかき回し始める。
「だって、ヴィータちゃんは・・・私の事を見てくれるもの。本当ははやてちゃんが一番大切な・・・はずなのに。あ・・・ふぅ・・それでも・・・私の事、助けてくれようと・・・・してくれるんだもん」
高町なのはの肉体から媚香が漏れ―――甘い匂いが広がる。
小さな穴から、湿った音を立てて引き抜かれたヴィータの指先が水飴のような糸を引いて再び高町なのはの唇に触れる。
「でもね、無理だよ・・・私、こんなに汚れちゃったもん。もう戻れないよ」
高町なのはが口を開き、鋭い犬歯がヴィータの小指、その付け根に突き立てられる。牙が皮膚を破り、肉を、筋をブチブチと嫌な音を立てて引き千切っていく。そして、小指中手骨が決定的な壊音を響かせて砕かれた。銜えた小指を強く噛み、筋繊維や神経、血管、皮膚を引き千切り捥ぎ取った。真紅の弧線を描いてヴィータの右腕が投げ捨てられ、高町なのはの口内には毟り取られた可愛らしい小指が転がっていた。
数回咀嚼してから舌上に乗せたヴィータの小指を喉奥に放り込み、一息で飲み込む。
食道を通り、腹の底に落ちると快感が波紋となって胎内にまで伝わった。

高町なのはが胸を張り、一息吐く。
しかし狂的な行為とは裏腹に、ヴィータを見下ろすその両眼は不安の感情を覗かせた。
「見た?私・・・こんなになっちゃったんだよ?毎日毎日、どれだけ手を洗っても血の匂いは落ちないし。眠れないのに、夢だけは見るの。真っ暗な影の中からアリシアちゃんや今まで利用してきた人達が私の事を見て、嗤ってるの!もう、ヴィータちゃんがどれだけ手を伸ばしてくれても無理。私自身、もう止められないんだから・・・」
高町なのはが今にも分解しそうな胸中の不安を吐き出す。
言葉も身体も感情も、どれ一つとして一致するものがない。
心は停止を望み、肉体は情愛を求め、感情はその全てを肯定していた。
涙すら枯れ、ひび割れたように血走った高町なのはの瞳。
「なのは・・・助けてやる。絶対に助けてやるから・・・戻って来い。フェイトだって、お前を待ってる。どんな事があっても諦めない、みんなをまっ直ぐ引っ張ってくれるお前の事を―――」
ヴィータの喉がきつく絞られる。
高町なのはがヴィータを縫い止めているRHを掴み、掻き回すようにして乱暴に動かしていた。
腹を貫いていた槍が臓腑を捻切り、胸骨を砕き、体内で暴れまわる刃がヴィータの悲鳴を奏でるスイッチ代わりとなり、ひび割れた濁音塗れの悲鳴が連鎖する。
ヴィータの腹を掻き回しながら、高町なのはが苦悶と悦楽に口元を歪め、崩れた声を発する。
「駄目、駄目!駄目!!もうそんなに優しい事、言わないで!!決めたの!どんな事でもするって!フェイトちゃんを私だけのものにして、邪魔するものは何もかも薙ぎ払う!そのためだったら何でもするんだよ!」
ヴィータの肉を抉りながら、RHに魔力を注ぎ込む―――砲撃準備。
高町なのはの表情が躁状態の狂気に染まる。
「このまま、お腹の中で出してあげる!きっと体が上下で半分こになっちゃうよ!でも・・・ヴィータちゃんならそのぐらいなら生きてられるよね?一昨日辺りはそういう遊びもしたし・・・。そこまですれば、いくらヴィータちゃんでも、もう動けないでしょ。そうしたら、後は満身創痍のはやてちゃんだけだもん。すぐに片付けられるよ」
高町なのはがRHを握る腕に力を込めてから、一瞬だけ朗らかな笑顔を作る。
「ヴィータちゃん、ありがとう。凄く、嬉しかったよ」
砲口から膨れ上がる光。ヴィータとの接合部分が焼け爛れ、人肉を焦がす異臭が鼻をつく。
光が放たれる―――その寸前。
爆裂の衝撃が天に奔った―――遅れて、苛烈な光と壮絶な烈音―――黒煙が天辺まで渦巻いていた。
高町なのはが上空を睨む。
余燼の中、はっきりと見えたのは格子状に広がる白銀の色彩。その全てが魔力刃で編まれているようだった。魔力鉱石を使って生成した魔力弾の数は数十億にも及んでいた。それら全てを用いて八神はやての足止めをしていたが、中空に浮ぶ魔力弾は今まさに片っ端から火片に変えられていた。空に残っているのはどこまでも続く碁盤目状の模様を描く光の群。
粉塵が風に流れると、全容が見え始めた。
縦横無尽。地平線と並行に奔った銀線は天穹の果てまで続き、大地に垂直に突き刺さる光線は等間隔に並ぶ。
光の檻に挟まれた全ての魔力弾が消滅―――今や空一面を覆いつくすのは連鎖する銀十字の模様だけだった。
その中心部に何かが見えそうになった時、握っていたRHから重量感が消失。
―――穂先を跳ね上げられた!?
焦った高町なのはが手元に視線を戻す―――視界を埋めたのは鼻先にまで迫る刃。反射的に顎を引き、RHを突き出して防ぐが途方も無い力を殺しきれず、その場から突き飛ばされる。乾いた大地に受身も取れず肩口から落とされた瞬間、逆さまになった世界で自らに叩きつけられた物を見た。
銀色のとぐろを巻いた連結刃―――高町なのはの天敵ともいえる接近戦の達人、剣術師シグナムの愛剣だった。
土煙をあげ、コンクリや土を削りながら停止した高町なのはが、抑えた呻きを零しながら立ち上がる。
「く―――ぁ・・・なんで・・・はやてちゃん?」
新手の増援が来たのかと警戒するが、そのような敵性魔力は感じられない。
血反吐を吐き出し、睨み上げるようにして眼球を動かすと、己を弾き飛ばした連結刃が蛇のように宙をうねる様が目に映る。そしてその先に見えたのは八神はやてとヴィータの姿。
ぎしぎしと奥歯を噛み締める。
「なんで・・・邪魔ばっかり・・・。もう、私に構わないでよ・・・」

後ろから浴びせかけられる怒気を背にしながら、八神はやてがヴィータの容態を心配そうに窺う。
「ヴィータ、ヴィータ・・・・。ごめんな、もう少し早く抜け出せれば・・・」
「良いよ、大丈夫。まだ、動ける・・・・。こんなのかすり傷だから」
腹に開けられた大穴に手をあてながら立ち上がるヴィータに、八神はやてが手を貸す。出血どころか、崩れた内臓が零れかねない傷痕に八神はやてがそっと手を添える。
「少しじっとしてて・・・お腹と肩の傷口だけでも塞ぐから・・・せめてこのぐらいさせて・・・」
温かく、優しい紫光が傷口を包む―――内部の損傷はそのままだが、腹と肩口に皮と薄い肉が瞬間的に再生される。
「はやて、ありがと・・・」
礼を言いながら、近くに落とされていた鉄鎚を拾い上げる―――致命的な出血が収まったとは言え、激しい失血により唇は青褪めている。だが、瞳に宿る輝きは色褪せない。
八神はやてが十字杖を構えながらヴィータの表情を確認―――疲労の滲みを物ともしない勇壮な姿に見惚れてしまう。
「いけるよ。あいつももう限界だ。こっからはもう根性のある方が勝ち残る・・・はやて、覚悟してよね、私は腹に穴が開いても体を真っ二つにされても諦めないんだから」
「うん・・・ヴィータが諦めないんだもん、私だって絶対に諦めないよ」
はやての返答を満足げに聞きながら、ヴィータが右腕の引き千切れた袖を咥えてから縛り上げる。
「・・・来るよ!なのはももう後が無い、一気に二人で押し切る!!」
ヴィータ残った左腕で鉄鎚を掴む。
視線を前方に集中させる―――自身の血で赤く汚れた獣がゆらりと動き出していた。

高町なのはは足首が妙な方向に曲がっていたのを無理矢理捻じ曲げて正しい方向へ整える。
生木を折ったような、砕けた骨が肉を噛む音が聞こえた。まるで痛みなど感じていないように、両の足で立つ。
「―――レイジングハート!」
裂帛の気勢―――地面に転がっていた赤のRHが主人の左手に帰る。
両手に握った二機のRH、同時にカートリッジが射出される―――重い金属音が二度響く。
「もう少しだったのに・・・どうして、そんなに邪魔ばっかり・・・。やっぱりはやてちゃん、嫌いだよ」
二門の砲口が八神はやてとヴィータに向けられた。血に濡れた宝玉から、怒りの色が迸る。
「折角、ヴィータちゃんは可愛いから助けてあげようと思ってたのに・・・。もう二人共、一緒に死んじゃえ、死んじゃえ!いらない!フェイトちゃん以外、もう何もいらない!」
砲撃・砲撃・砲撃・砲撃・砲撃・砲撃・砲撃・砲撃。
次々に射出される魔力砲―――砲炎が瞬く間に劫火と変わり、射線上には万物を焼き尽くす火柱が上がる。
そして、火線の隙間を縫うようにして飛来するのは鉄球弾の返答。炎壁を貫き、弧線を描いて三発の鉄球がそれぞれの軌道で高町なのはの急所を狙い撃つが、迎撃―――魔力刃を生やしたRHの一振りで鉄球を全て切り払う―――爆裂。焼けた鉄片をシールドで防ぎながら高町なのはが後退する。

焔の向こうに見えた光景―――八神はやてが強固な防護壁を形成して先程の砲撃を全て防ぎきったという結果を確認した。
燃え盛る炎を注視したまま飛翔、出来る限り距離を取らなければという思いに駆られる。
先ほどの激昂とは裏腹に思考は冷静さを保ち続けていた。高町なのはは己の深刻な状況を客観的に分析しながら勝利を模索する。
本来ならば、八神はやてを魔力弾の集中砲火で足止め、その間にヴィータを近距離戦で撃滅。そして手負いの八神はやてを一気に大火力砲撃で殲滅―――それが先程までのシナリオだったが、それも瓦解した。再び地脈を操作して魔力弾を大量生成させようにも術式の準備に手間と時間が掛かる、とても二人の相手をしながらでは出来ない。そうなれば、ここからは本当に一対二での戦闘になる。最も面倒な展開だ―――二人とも手負いとはいえ、一度に襲い掛かられればいつまでも抑えきれない。
しかし、互いに共通にしているのは残された時間が少ない事だ。必ず、どこかで魔力消費が限界に到達―――そこが、最後の勝負になる。それまで、どうにか凌がなければならない。

―――来た。

「なのはぁ!」
隻腕のヴィータが空を翔る。左手に握った鉄槌からはロケットの蒼炎を吐き出し、その推力を先端部分の牙に乗せて狂猛な力を与える。
突撃するヴィータに向けて、小威力の砲撃を連射―――弾幕の暴雨。
しかし一向に怯む事無く速度を上げるヴィータ、その背中を超えて飛来してきたのは小型の黒色立方体―――弾幕と交差する瞬間、立方体が液状になり漆黒の流体が全ての砲撃を飲み込むと、くぐもった爆音が内部で炸裂、その威力を封殺した―――八神はやての援護。
ヴィータが吼えながら、鉄槌を一閃―――高町なのはが半身を引いてかわす。二の太刀を振ろうとするヴィータだが、片腕を失った今、追撃は常よりも遅い。
左手のRHで反撃を試みる高町なのは―――突然、暗がりに戻りこんだかのように影が差す。振り向くと、自分が巨大な化物の顎の中に居ることに気づかされる。ヴィータに刻むはずだった槍撃を乱杭歯の生えた頭上の顎に叩き込む―――左右に分断された先に空の色が見え、飛び出すようにして脱出。
「なのはちゃん、もう逃げられんよ」
八神はやての声―――周囲を見渡す。取り囲むようにして1m四方の黒い立方体が幾つも並んでいた。
そして円状に並んでいた結晶体が崩れるようにして形を変えていく―――木の葉のような薄い形から羽が生え、はらはらと浮かぶ黒揚羽蝶が産まれた。高町なのはの周囲に数え切れない蝶が舞う。
高町なのはが薙ぎ払う様にして蝶の群れに槍を振り回すが―――霧散―――光塵が飛散―――高町なのはの皮膚に付着した。
鼻を突く硫黄の悪臭、手の甲が爛れて皮膚が見る見るうちに焼け爛れた。霧粒の一つ一つが強力な溶解液であり、既に取り囲むようにして舞い踊っていた全ての蝶がその身を怪しく輝く黒い霧に変えていた。
高町なのはの冷静な部分が脳裏に『後退するべきだ』と警告―――無視。
今は―――攻め続ける。先に守った方が墜とされる。
球体状の防護壁で全身を包み、飛ぶ。
前方に右手のRHを傘のように突き出し、シールドを追加―――幾らも進まない内に黒霧に接触し点々と侵蝕される。しかし怯まずに進撃―――左手のRHから砲撃。火線が一直線に八神はやてへ伸びる―――両者の間に三角形の防壁が差し込まれ砲撃が防がれる。
「あれは強化防壁か―――固い」
砲撃自体を防がれはしたが、射線上の霧が消滅し僅かな間だけ安全なトンネルが作られた。一気に駆け抜ける。
砲撃の余燼を抜け、八神はやてに反撃しようとした矢先、真横から猛スピードで迫る―――膨大な鉄鎚。
攻撃用の魔力をシールドに無理矢理変換―――激突―――睫の先端まで届いた鉄の牙。衝撃を殺しきれずに弾き飛ばされる―――宙返りで体勢を整え、反撃。魔力弾数十発が虚空に出現、発射。
フルスイングした姿勢のままでいたヴィータに全ての弾丸が飛来―――再び現れる八神はやてが操作する黒水晶の防壁―――着弾。ヴィータには一切の衝撃も届かない。だが、爆裂音に混じって硬質な壊音が聞こえる。
「うぉあああ!!」
闇の書に記録されていた複数種の防護魔法を連結させて作られている障壁に、高町なのはが逆手に持った二本の槍を突き立てる―――ガラスを掻き毟るような不協和音、何度も何度もがむしゃらに刃をぶち込む。その度に破片を撒き散らしながら障壁が抉り取られていった。
驚嘆するべき光景―――城塞都市を包む防護結界すら上回る防御力が、たった二本の槍で穿孔され―――穴の開いた部分を中心に、防壁が亀裂を走らせて崩壊。
高町なのはが、身長を上回る立方体に刃を振るう―――音も無く細切れにされた、魔力結晶が爆裂四散。飛び散る破片が高町なのはの太股と腹に突き刺さるが、痛痒も感じない、進撃。驚愕の表情を浮かべるヴィータの右脇腹に強烈な横蹴りを放つ。右腕を失ったヴィータが防ぐ事も出来ず、アバラ骨が叩き折られる音と共に吹き飛ばされる。
高町なのはが蹴りの勢いで一回転―――再び、ロケット弾の如く飛ぶ。目標は八神はやて。
「いけぇ!」
再度、高町なのはの周囲に鬼炎―――軌道が複雑に絡み合い、幾何学模様を描いて獲物へと迫る。
八神はやてが両手に握った魔剣に力を込める―――カートリッジの裂音が響き、複製、増殖した刃が織り成す獣尾が蠢く。無数に連なる連結刃による鞭打で次々に飛来する魔力弾を叩き潰す。そんな中、桜色の魔弾が白刃を数枚爆砕――残った三発の弾丸が迎撃を回避し、標的に襲い掛かる。八神はやてが口元を歪めながら十字杖を振るい、残り少ない魔力を用いたシールドを形成。
乾坤の魔力弾が着弾一歩手前で弾けた―――標的を根こそぎ抉る散弾と化す。放射状に広がった六百三十もの散弾が防壁を一斉に殴打―――ガラス細工の如く砕け散る。
煌びやかに飛散する欠片の中、高町なのはが肉薄―――その手に持った二本のRHからは憤怒の刃が生えている。
凶刃がW字に振るわれる―――八神はやての頬をかすめ、黒い翼の一枚を切り刻んだ。
―――近接戦闘・・・やってやる!
足場の無い空中で踏ん張る―――反転。八神はやてが魔剣を投げ捨て、高町なのはの懐に真正面から飛び込む。容赦ない斬撃が見舞われるが、その全てを紙一重で回避―――バリアジャケットの破片が千切れ飛び、浅く裂かれた皮肉から鮮血が散った。顔面に突きこまれる槍の宝玉部分に鉄拳を叩き込んで弾くと、すかさずもう一つの槍が右足を根元から斬り落とすために横薙ぎに払わる。
高町なのはの腕に鈍い感触―――肉を裂いた時の繊維が断裂する時のものとは違う。視界の端では魔力刃が硬質ゴムのような衝撃吸収材にめり込み、捕縛されていた――八神はやてが即席で魔力を変質させて作った対刃防御策。
「くっらぇえ!!」
がら空きになった高町なのはの胸に八神はやてが全力で正拳を捻じ込む―――胸骨が砕け、拳が肉体にめり込む手ごたえ。高町なのはの口が開き、声にならない叫びが漏れ―――
八神はやての側頭部に重撃。
高町なのはが左手の槍、その先にまとわりつく異物諸共振り上げ、八神はやての頭部に叩きつけていた。
腹の底から駆け上がってきた血塊を吐き出した高町なのはが、穂先に付いた粘体内部で砲撃―――内部から膨れ上がるようにして破裂。
刹那の間、意識を失い膝から崩れ落ちる八神はやてにトドメの一撃を刺しこもうと狙いを定める高町なのは。その視界に赤い影、ヴィータが主人を守るように立ち塞がる。
嫉妬、憤怒、羨望―――夢。
ヴィータが八神はやてに肩を貸し、支えていた。
高町なのはの記憶―――フェイトと自分が初めて互いの全力を出し切った後、自分が抱き上げてもらった時の温もりを想起。
煮え滾る情念―――沸騰した感情が次々に噛み砕かれるカートリッジと共に排出、炸裂―――二本のRH、それぞれから莫大な魔力反応。
「スターライト・・・ブレイカー!!」
二重の咆哮―――殺意が暴力となって吐き出される。
タイミング的に回避できる距離ではない、高町なのはは直撃を確信した。
「これで・・・終り!!終りだよ!!」
絶望的な光景の中、ヴィータは逃げる素振りも見せず迫り来る光の奔流を睨み、叫ぶ。
「今だ!!」
こめかみからの裂傷で耳と首筋を鮮血に染めた八神はやてが、朦朧とする意識の中、ヴィータの声を聞いて指先を動かす。
虚空から現れる、漆黒の水晶―――変形―――薄く広がり、新円を作る。その表面は黒曜石の如く麗しい輝き。桜色の光が黒色の壁に触れる―――落雷を思わせる光と衝撃。凹型になった黒の水晶―――砕かれる思った刹那―――跳ね返す―――必滅の砲撃を―――反転。
八神はやてが魔術書に貯蔵されていた全ての防御術式と転移術式を組み上げて作った、反射鏡。
狙い済ました一撃だった。
桜色の暴虐が変色、漆黒の妖炎となり流する。同時に耐久限界を超えた黒い鏡が砕け散る。

高町なのはが一言を発する間も無く、黒炎に飲み込まれる。
空高く伸びる漆黒の柱―――虚空に帯電した魔力が弾けては散る。
獄焔―――空虚な夕暮れが居座り続ける星を、地の底から生み出されたかのような赤黒い墨色が彩った。

焼き尽くされる大気―――その中から、吐き出されるようにして落ちる白の怪物。
バリアジャケットどころか下着も焼失、両肩どころか胸までが露出し、辛うじて残ったスカート部分も腰周り以外は消し炭のような状態だった。

自由落下の最中、高町なのはが呟く。
「でもさ・・・これで・・・もう、お互い限界だよね」
逆さまになった視界、両足の向こうに見える八神はやてとヴィータの姿。
「全力全開だよ・・・私は、一人でだって・・・負けない!」
高町なのはの瞳に諦念の色は皆無―――全て、計画通りだ。
こちらが最後まで隠しておいた切り札で、仕留める。

冷えたコンクリートに叩きつけられる寸前で、高町なのはが蜻蛉をきって着地。
工場地区のプラントから少し離れた、元々は従業員の駐車場だったであろう開けた空間だった。
高町なのはが既に空になった弾倉を両のRHから引き抜く。投げ捨てた弾倉が乾いた音を立てて転がった。
「ぶっつけ本番、試験無しになっちゃったけど、上手く行くよね。だって、私はフェイトちゃんを迎えに行くんだもん。邪魔するなら、はやてちゃんだってヴィータちゃんだって・・・許さない」
赤のRHをコンクリに突き刺す。
開いた左手で青のRHの柄尻を捻る―――螺子を回すと杖の下部が外れ、零れ出すカートリッジが一つ。通常のカートリッジよりも細く長いそれは、強固な意志を貫き通すライフル弾のようだった。切り札となる最終兵器を赤いRHの薬室に直接突っ込む。
「レイジングハート・バスターランチャー・・・起動開始!」
最後の弾丸が炸裂―――紫煙と共に空薬莢が吐き出された。
魔杖がその身を変形―――変貌―――主人が求める凶悪な姿へ。
青のRHが中空に浮かび、その周囲に浮き上がった幾つもの魔法陣から機殻が出現―――組み上げられる。
元のサイズからは想像もつかない程に肥大していき、大型ボルトが各部を締め上げ、その身を確固たるものにしていく。

組み立て時間は十秒にも満たない時間で終わり、完成したのは全長三十メートル、総重量九十トン、280ミリ口径という超弩級カノン砲。
高町なのはがその下部に備えられた接合部に赤のRHを差し込む―――がっちり噛合った機械音。そして砲身の最後部に備えられていたモーターが動き出す。ロック解除を知らせる警告―――そして決定的な重音―――魔力を極限まで圧縮して詰め込んだ核弾頭が装填される。
その威力―――理論値では地球と胴サイズの星ならば貫徹させられる暴力と推定されているが、高町なのは自身も試射を行っていないような未知の力でもある。
そんな不安定な最終兵器でも高町なのはには確信めいた、盲信とも言える自信があった。友達も仲間も裏切り、倫理も理性も放棄し、あらゆる全てをフェイトへ捧げる愛情に換えた今の自分にならどんな力でも使いこなせるのだと。
二重構造になっている砲身外郭部が時計回りに回転、内殻の砲身本体が逆回転を開始―――高速回転を始めた砲口の先に加速と強化の術式が円環となり幾重にも連結し、砲身を延長。目標となる中空に浮かぶ二つの影へ、ぴたりと向けられる。

「あれでもまだ墜とせないなんてね・・・」
両手に冷や汗を滲ませながら、呆れた表情で八神はやてが呟いた。
「はやて、あいつが今用意してるアレ、もう一回跳ね返せない?」
「無理かな・・・。さっきのだって紙一重だったぐらいだし。なのはちゃんの切り札ともなれば、防ぐのも避けるのも難しいだろうし・・・そうなればもう真正面からぶつかっていくしかないね・・・」
八神はやてが両腕を左右に伸ばし、五指を開く。
鉄琴のような高い音が響き、闇色の結晶が現れる。形はどれも不揃いではあるが、そのどれもが未だ戦闘続行の意思を発露させるかのように魔力を迸らせていた。
「小細工無しの真っ向勝負や。どっちの意思が相手を挫くのか、単純な力比べ。はは、最初からこうすればもっと分かり易かったかもしれんね」
手の平が握り締められる。
幾つも浮いていた結晶体が、八神はやての頭上で重なり合い、交じり合う。
強固な結晶が、渦を巻いた流体となり混合攪拌されていく。
「私は多分、これを成形するだけで力尽きるから・・・ヴィータ、あと任せて良い?」
八神はやての両腕が上がる―――肩に圧し掛かる凄まじい重圧で肘が軋む。
一つになった魔力塊が丸みを帯び、鼓動のような伸縮を繰り返しながら膨れ上がっていく。表面には太陽にまとわりつくプロミネンスの如く黒炎が跳ね回り、尾を揺らす。
ヴィータが鉄鎚に残っていたカートリッジの全てを発射、白煙を棚引かせ空薬莢が地上へと落とされていった。
鉄鎚の柄が急速に伸び、ハンマー部分が換装―――極大の鉄塊が装着され、超弩級攻城打撃兵器の完成。ヴィータが鉄鎚を握り、全身を反り上げて、天上高く構える。
「任せなよ、ぶっ叩くのは得意なんだから!」
濡れ色の砲弾が膨張を続ける。闇の書に内蔵されていた、防御以外のあらゆる全ての魔法を圧縮した超高密度の魔力弾。どんな威力と効果になるかは八神はやて本人にも予想できない―――直径が百メートルを超えた。
肉体を内側から抉られるような痛撃。激しい嘔吐感により全身の体液が震えた。
胎内に身篭った力が、外界を求めて入り口を力任せに引き裂く。
八神はやての艶を帯びた悲痛な叫びが木霊した。
その手に握った魔術書、全てのページが次々に捲られ、記載されていた文字が空中に舞い散る。
暗い珠の中では、召還魔法が暴走―――巨竜の頭部だけが無理矢理に異界から呼び出され、咆哮と共に劫火を撒き散らす。雷撃魔法が荒れ狂うように球体内部を駆け巡り、凍結魔法で作られた氷塊を砕き、回復魔法が砕かれた氷を快復させると何度も同じ工程を繰り返す。底部には大地が生まれ、そこから人間の四肢が生えては朽ちる。そして光と闇がパレットにぶち撒けた絵の具のように反発しあい、球体を斑な鈍色に染めていく。
滅茶苦茶だった。とてもまともに制御できるような代物ではない。
母体である八神はやての肉壁を割断し骨盤を歪ませる破壊音。
―――生まれる。
八神はやての命そのものを込めた砲弾が最後の鼓動を発する―――直径三百メートル超の黒い太陽。
「ヴィータ!!」
八神はやての号令―――巨大な撃鉄と化した鉄鎚が大上段から振り下ろされる。
「いけぇぇえ!!」
ヴィータの激声―――大気を破る豪裂―――暗黒色の太陽が撃ち出される。
鉄鎚が接触した部分から次々に熔解される―――それでも、ヴィータは力を緩めない―――厖大な質量に推力が与えられ、ゆっくりと進み始めた。


夜空そのものが落ちてきているような光景を、高町なのはは冷静に見上げていた。
こちらの準備も完了している。
長く伸びた砲身は、魔力増幅環等を含めれば五十メートルにも及ぶ。高町なのはは機構の心臓部としてカノン砲と一体化。全身の力で九十トンもの重量を支える。昆虫を想わせる多関節構造の対衝撃用の支柱も大地に深々と突き刺さっているが、高町なのはの小さく薄い肩に掛かる重量は魔法による身体強化を施していても背骨が砕けかねない程に凄まじいものだった。
右半身全体は巨大な砲身と融合。左手の先にあるグリップを握りこむ。人差し指の下にはトリガーの感触。左目の先にはパネル式の照準器が浮び、空から落とされた暗黒を捕捉。
この展開にまで持ってこれたのが奇跡だった。ここから先は、意地のぶつかり合いだ。単純明快にどっちが強いか比べっこする―――だったら、自分が負ける要素は無い。全てを捧げてフェイトの事を果てなく求める自分が負けるわけは無い―――負けられない。
「あんなに幸せそうな二人に、私が負けるわけが無い!私の方がずっとずっと苦しんで努力して、一生懸命フェイトちゃんを愛してるんだから!」
高町なのはが叫ぶ。心奥に残された理性と迷いを吐き尽すために、あらん限りの激声を発した。
砲身の回転が最終段階に入り、速度を上げる。ほの暗い砲口の底に真紅が灯った。本体後部に備えられた撃針が弾頭に当てられる。
「消えろ、消えろ消えろ消えろ!!全部、私の邪魔をするものはみんな消えちゃえ!」
トリガーが押し込まれ、撃鉄が弾き出された。
その刹那、憎悪と嫉妬で歪んだ閃光が乾いた風を穿つ。
熾烈―――音も大気も破滅の輝光に掻き消される。
砲口部分は照射開始と同時に橙色の飛沫を撒き散らして熔解。高町なのはの最大最高威力の収束魔法スターライトブレイカーが今までに無い超出力で放たれ、赤光の柱が暗黒の巨塊に突き刺さる。
高町なのはの足元では衝撃波が広がり、割れたコンクリートが噴き上げられ、剥き出しになった地表に亀裂が走った。
砲光の先端は暗黒を押し戻し、貫徹しようとその中心部を歪ませた―――しかし、抜けない。
圧倒的な質量が容易に光を通さない。
拮抗する力の衝突。
互いの魔力を削り合う―――中天に黒と赤の塵が雪花となって踊る。

限界を遥かに超えた魔力放出で、己の心臓が跳ね動く痛みに奥歯を噛み締めて堪えながら、高町なのはは以前ヴィータと戦った時を思い出していた。
魔力の暴走―――あの時から己の力を制御する術について徹底的に学んだ。そのお陰で、今こうして絶大な力を行使出来るようになっている。
ヴィータはいつも、自分の人生で大切な時に登場しては助けてくれているように・・・思う。
―――今も、そうなの?
迷想、思い惑う。
「違う・・・私は―――!」
フェイトの笑顔―――見える―――力が湧く。
出力を増した桜色の超砲が、黒い太陽の中ほどまで侵入―――パワーバランスが崩れる。


八神はやての眼下、全力を賭した魔力球内部に赤い光が滲むのが見えた。
「嘘やろ・・・どこにあんな力が」
八神はやての表情に焦りが生まれる―――その頬に小さく柔らかな温もりが与えられた。
横を向くと、ヴィータが小さな笑顔を向けていた。向日葵のように明るい、いつものヴィータ。
「はやて、大好きだよ」
「ヴィータ・・・?」
ヴィータが八神はやてから離れる。頬に残ったヴィータの熱が次第に冷めていく。
「大丈夫だよ。私ははやてが居れば何度でも蘇れるし・・・そうでなかったとしても、いつだってはやての傍に居てあげる。だから、なのはとフェイトの事、頼んだよ」
八神はやてはヴィータが何をしようとしているのか、理解した。理解してしまった。
「駄目・・・駄目だよ!ヴィータはもう・・・昔とは違う!人間の肉体とほとんど変わらないんだよ!死んじゃったら、もう一度蘇生させられる保証なんて無いんだよ!自分だって分かってるんでしょ!」
ヴィータが少しずつ離れていく―――全ての魔力を放出した八神はやては身動き一つ満足に取れない。追いかけて引き止める事すら出来ない自分が情けなかった。両足が麻痺していた頃、車椅子をヴィータに押してもらっていた記憶がふいに蘇る。
「大丈夫だよ。ずっとはやてと一緒に居るから・・・何があっても。このままだと私達2人とも、あの攻撃で消し炭も残らないぐらいに、一瞬で蒸発させられちゃうよ。だったらさ、しょうがないよ。それに、はやての魔法だもん、私が喰らったってそんなにダメージは無いはずだよ。なのはだってあの頑丈さだもん。手足の二、三本は吹っ飛ぶかもしれないけど生き残るさ」
「待って、違うの!あの魔法は違う!全然制御出来てないんだよ!炸裂した瞬間、何が起こるかなんて分からないし・・・いつもならヴィータには無効化させられるけど、あの魔法だけは違うんだよ!」
叫ぶ。悲鳴と嘆願。幼子のように泣き喚く。
ヴィータは少し困ったような微笑を浮かべてから、我侭な子供を諭すように口をそっと開く。
「今はさ・・・私の我侭聞いてよ。帰ったら、みんなで御飯食べよう。それでフェイトに謝りに行こう。約束するよ、なのはを連れて一緒にフェイトの所に・・・ね?だから、今は行くよ」
八神はやてに背を向けて、自由落下に身を任せて降下していった。
自分でも損な性格だな、とヴィータが苦笑いする。はやてもなのはも放っておけない。二人とも守ってあげたい、助けてあげたい。そのためならこの身がどうなっても良いとすら思う。小さな体だが、この肉体を盾にすればなのは一人ぐらいは助けられるだろう。横目に見える光の激流を手繰るようにして地上へ向かう。

「ヴィータ!!嫌ぁ!!駄目!だめ!!」
悲痛な叫び。
ヴィータがあっという間に小さな影となり、見えなくなる。
八神はやてが威力で押し切られ始めている黒球に停止信号を送る―――反応無し。制御不能、一直線に目標へ向かって突き進むのみ。
「ヴィータぁああ!」
八神はやてが緩慢な動きで、ヴィータの後を追おうとするがヴィータの背中はもう遥か彼方にあった。それでも遅々とした歩みで、動く。
両目から涙を落とし泣きすがる姿は、両親を失った時とまったく同じだった。


高町なのはは手応えを感じていた。
―――いける。このまま、黒い太陽の影にいる二人を焼く。
回避運動をされてもなんら問題ない。八神はやてが精根尽き果てて、身動きが取れないでいるはずだ。ヴィータが一人で逃げるとは考えられないので自然と動きが鈍くなる。そこに、直径五十メートルを超える砲撃の一斉照射をすれば良い。
勝利のイメージが見える―――何かとても苦しい喪失感と共に。
しかし止める者は居ない。高町なのはは錆び付いた心想を無理矢理動かして、更なる力を込めようとグリップを握り締めた。
そして出力を最大に上げようとした瞬間、
「高町・・・なのはぁあああ!」
激震と共に降り立ったヴィータが跳ぶ―――消耗し切った鉄鎚にはもう、ロケット噴射による加速能力は無かった。それでも金色の牙が身動き出来ない高町なのはを尻目に、巨大な砲身に全力で叩きつけられ、突き刺さった。元々、耐久限界ギリギリだったフレームに亀裂が広がり―――破裂。
鉄鎚が核となる宝玉を残し粉微塵に砕け散った。高町なのはの切り札である巨砲が砲撃エネルギーの放出を停止させ、大量の電熱の漏らしてから盛大な音を響かせてから爆破。歪んで熱された鋼鉄が爆散、ヴィータが焼けた鉄片の一つを腹に喰らいながら撃風で吹き飛ばされる。土埃を引いて転がったヴィータ、全身の傷口が堰を切ったように血液を吐き出し始めた。しかし、立ち上がる―――手中には赤い宝玉。「ご苦労様」と愛機に小さく呟くと、全身を引き摺るようにして進む。
ガラクタと化した大型兵器の残骸―――その向こうに見える高町なのはが、仰向けに倒れていた。
「なのは・・・まだ、動けるんだろ?」
ヴィータの右肩、破れた袖から―――破断面が曝け出される―――真っ白な骨と繊維質の肉、そして鮮血が滴り落ちていた。
高町なのはの指が動く。浅く上下していた胸が、一度大きく息を吸い込むと四肢が痙攣と共に蠢いた。
意識がぼやけたままであるにも関わらず、高町なのはがゆっくりと立ち上がる。
その様子を見て、ヴィータが震える足にあらん限りの力を込め、燃え盛る瓦礫を越えて、高町なのはに抱きつくように飛び込んだ。ヴィータの左手には銀色の輝き―――残存魔力の全てを費やして生成した鉄球弾を数珠のように連結させたチェーンマイン―――高町なのはの両腕を縛り付けるようにして投擲―――狙い通りに捕える。そして己自身も高町なのはの首に左腕を絡ませて羽交い絞めにする。
「はは、もうこれで動けないだろ・・・。このまま大人しく一緒に喰らおうぜ」
二人の頭上では支えを失い、再度降下を開始した混沌の魔力塊が大地諸共押し潰すようにして迫る。高町なのはが、半ば切れ掛かった意識の中で両腕の自由が奪われた事を確認していた。
「お前の異常な防御力だったら、まぁ何とかなるだろ・・・手足の二、三本は覚悟してもらわなくちゃだけどな。そんなのはフェイトへの報いだと思えよ」
「ヴィータちゃんはどうするの?一緒にあんな攻撃に巻き込まれたら、死んじゃうよ?私だって、あんなの喰らったら正直生き残る自信ないぐらいなのにさ」
高町なのはの視界が少しずつクリアになるが、眼孔に垂れてきた血液で視界が朱に染まる。
「ここでしっかりお前を仕留めくちゃ、この後お前は必ず不幸を撒き散らす。フェイトどころか、お前は今まで関わってきた人達全員を傷つける。だから、何としてもここで止めてやる。そのためだったら、お前と一緒にバラバラになるのだって覚悟の上だ。感謝しろよ、大好きなはやてじゃなくて、お前みたいな奴にこんなに尽くしてやってるんだからな」
ヴィータの覚悟が本物であると、声に込められた意志の強さから感じ取った高町なのは。その口が軋みながら開くと、沈んだ声が漏れる。
「そんなの・・・駄目だよ」
否定の言葉。
「私が、はやてちゃんとヴィータちゃんを倒そうと思って攻撃するのは当然だよ。でも、はやてちゃんがヴィータちゃんをその手にかけるなんて間違ってるよ。大好きな人をその手で命を奪うのなんて駄目だよ。そんなの・・・絶対駄目」
ヴィータには全てを理解しきれない。高町なのはが何か、残された理性を用いて何事かを伝えようとしているのは分かったが・・・全て、手遅れだ。今更この状況が覆る事は無い。既にヴィータの背中には暗黒の波動が届いている。
切削音―――原型を留めていない鉄屑の中から飛来するのは、赤い刃を跳ね動かすRH。高町なのはを捕縛していた鉄球の縛鎖を細切れに刻むと、主人の左手に納まる。赤い宝玉―――始まりの色、根源の輝き。
ヴィータが左腕を解く―――既に回避など出来ない距離にまで闇が迫っていた。
戒めを解かれた高町なのはが、振り向いてヴィータを見つめる。
「ヴィータちゃんは、はやてちゃんが好きなんでしょう。だったら、こんなの駄目だよ。ヴィータちゃんは段々普通の肉体になってるんだってはやてちゃんが言ってた。一度死んでしまえばもう、蘇生させられないって事でしょう。だったら、こんな最後は絶対に駄目だよ」
高町なのはがヴィータの頭を撫でる。
「こんなに愛してもらえて、はやてちゃんは本当に羨ましいよ。私もヴィータちゃんみたいになれば良かったのかな?それともフェイトちゃんにそうなって欲しいってお願いすれば良かったのかな?でも・・・もう、手遅れだよね」
高町なのはの手がヴィータの前髪まとめていた、花の髪飾りを外して握る。
「これ、餞別にもらうね。ヴィータちゃんは、はやてちゃんの所に戻って・・・。それから、もう二度と私の前に現れちゃ駄目。今度会ったら―――きっと、私はもう歯止めが利かないから。これが、私に出来る最後の優しさだよ」
「なのは・・・お前、何を・・・」
高町なのはがヴィータから一歩離れる。
RHの宝玉が輝く―――ヴィータを包む桜色の膜が風船のように生まれ、浮き上がる。
球体と共に浮遊するヴィータの視界が少しずつ上昇していく。
「ば、馬鹿野郎!なんでこんな事!なのは―――!」
少しずつ離れる高町なのはの悲しそうな笑顔に向かって叫ぶ。
「さようなら、ヴィータちゃん。大好きだよ、フェイトちゃんの次にね」
聞こえた言葉に言い返そうとするも急加速を開始した球体に運ばれる。
「なのはぁぁ!」
ヴィータが名前を呼んだ。同時に闇の塊が高町なのはを潰す様にして大地に落撃。
巨大隕石が落下したかのような光景だが、爆発は起きない。大地を刳り貫いて黒い球体は深く沈み、その内部に宿したマイクロブラックホールに星の命を吸引していく。孔の奥深くに沈む闇が光をも吸収し、刳り貫かれた巨大な穴は周辺にその闇を撒き散らしながら地の底へ沈下した。
そして遅れに遅れ、やってくる衝撃。
星のコアが貫徹された事による断末魔の叫び。
途端に、大地が割れた。
底無しの地割れが何処までも続き、マグマが噴出する。そんな終末的光景が見渡す限りに広がっていった。
ヴィータが安全な位置から、文字通りの地獄絵図と変貌した地上を見下ろしていると、
「ヴィータ!!」
八神はやての声。
「はやて!」
主人の下へ赴こうとすると、高町なのはの施した魔法が役目を終えて霧散した。
八神はやてがヴィータの体を抱きしめる。
「良かった・・・良かった!!」
ぽろぽろと涙を流して安堵の声を漏らす八神はやて。
「でも・・・なのはが・・・!なのはを助けられなかった・・・」
巨大な穴の先はもう暗闇しか存在していなかった。高町なのははあの光すら喰われるような闇の底に居るのだろうか。
だが、高町なのはの生存確認をする余裕は無かった。
既にこの星は砕けかかっているが、満身創痍の二人にはまともに動く力も残されていない。
想像を遥かに絶する破壊の力が星をも滅ぼし、己自身もその余波に巻き込まれてしまう状況。八神はやてが言葉も無く奥歯を噛み締める。全てが悪い方向へ転がっている。これも自分の行ってきた事への報いなのか。
「ヴィータ・・・ごめんな・・・私が・・・全部、私のせいだよ。何をやっても裏目になる。本当に馬鹿でマヌケで・・・ごめんね」
八神はやてがヴィータを抱きしめながら涙ながらに謝る―――何も言わずに、ヴィータが片腕だけで八神はやての背中を寄せるようにして抱いた。
「大丈夫・・・きっと、助かるよ・・・だって、ほら・・・私達には仲間が居るんだもん」
ヴィータの視線の先に見えるのは一隻の巡洋艦。そこから飛び出してきた金色の輝きがこちらに向かってきていた。
「フェイトちゃん?どうして・・・ここが」
「こんだけ派手に戦ってたら、どんなに離れてても管理局の監視に引っかかるんだろうね。まぁ、ちょっと手遅れだった所はあるけど」
フェイトの顔が見える距離まで近づいてきた。そこには複雑な表情が浮んでいる。高町なのはの姿が無いという状況に不安を隠しきれていないようだった。
「でも、なのはちゃんの事・・・なんて言ったら・・・」
八神はやての声は重い不安を孕んでいた。しかし、ヴィータは明るい声で返す。
「大丈夫・・・あいつ、最後に『もう二度と私の前に現れちゃ駄目』なんて言いやがった。必ず、生きてる。だから、もう一度・・・今度会ったらもう逃がさない。絶対に捕まえてやるんだ」
確信していた。ヴィータには分かる、高町なのはが生きている事。そして、これから間もなく戦いの続きが直ぐに始まるであろう事も。

フェイトの心配そうな声が聞こえる。
「はやて・・・なのはより先に、謝っておこう。先に全部フェイトに打ち明けるんだ。きっとなのはは直ぐに現れる。あいつの目は諦めてなかった―――必ずフェイトの所にやってくる。だからそれまでに、今までずっと当事者なのに除け者にしていたフェイトを舞台に上げてやるんだ」

ヴィータが八神はやての手を握り、小さく震える手指を優しく包んでやる。
「ヴィータ・・・ありがとう」
八神はやては落ちる涙で頬を濡らしながら感謝の言葉をどうにか紡ぐ。
今は、それが精一杯だった。


****

真っ暗。
その先に見知った顔が見えた。ここ数ヶ月間ずっと、自分を見つめ続けている影だ。
「アリシアちゃん・・・また、そんな所にいるの?」
高町なのはが問いかける。しかしアリシアが答える事は無い―――いつもの事。
下らない幻覚だ。高町なのははそう断じている。

あの薬を飲み始めてから、一切の睡眠が必要なくなった。
昼も夜も、夢も現実も、全てが同一化。
活動時間が大幅に伸びたお陰で他人よりも多くの時間を使えるようになり、その殆どをフェイトのためだけに費やしていた。
薬を飲んでから、始まったばかりだった生理も止まった。まさに成長を拒む薬だ。
副作用なのか、味覚が薄れ、視力は落ちて、時々色覚異常なのか目に映るもの全てが灰色になる事もあった。
しかし、肉体の成長は完全に小学生児童そのもののまま停止、維持し続けている。

だから、少しばかりの幻覚や幻聴など気にする必要は無い。
全てはフェイトと永遠の幸福を得るためだ。

ああ、今日もアリシアが嗤っている。
何が可笑しいのだろう。


****


「良く、生きてますよね・・・信じられませんよ」
狭い機内ではあったが、医療用ベッドが置ける程度の広さはあった。
男は目の前で意識を失ったままの少女が発する生体反応を確認しながら、驚きの声をあげる。
「リンカーコアだって滅茶苦茶になってる。こんな状態でどうやって魔力を制御してたのか・・・。肉体の損傷だって常軌を逸してます。こんなの普通は二、三回はショック死するような致命傷ばっかりで、右腕なんて・・・これ、もう接合しようにも欠損した肩から先は原子分解されて、どこか異次元に吹き飛ばされてるんでしょうし」
酸素マスクで呼吸する高町なのはの右肩より先には、本来あるべき腕が消失。奇しくも、ヴィータとまったく同じ部位を失っていた。
「それでも・・・あの状況から生還しただけでも奇跡よ。ヴィータちゃんからあのAMFを搭載した髪飾りを受け取っていたけど・・・。
たぶん事前にヴィータちゃんの指をお腹に入れておいて、AMFに所有者はヴィータちゃんだって誤認させたのよ。はやてちゃんの魔力は家族を傷つけまいと威力を減衰―――最後の力を振り絞って自分の身一つ分だけとはいえ、あの魔力塊の軌道を逸らして、どうにか脱出。あんな状況を右腕の欠損だけで済ませるなんて・・・とても人間技じゃないわ。」
操縦席から、女性の声が発された。
慎重な操舵。惑星が砕ける余波で磁場が乱れている。何かの拍子に光学迷彩が解除されてしまえば、八神はやてとヴィータを回収した巡洋艦に見付かってしまう。
「このまま、トンボ先生の所に戻りましょう。怪我の治療を最優先にしないと・・・。応急処置で出血は止めておいたけど一次凌ぎにしかならないでしょうし、早くしないと命に関わるわ」
「あぁ、その方が良いね。きっと先生なら専門だから、この怪我も何とかなるだろうし・・・右腕も治せるかもしれない。しかし一部始終見ていたけど、信じられないな。こんな可愛い子がどうしてあんなとんでもない魔法やら残虐な行為が出来るんだろう。フェイトちゃんのために・・・って、それだけの―――」
男の言葉が途中で止まる―――止められた。
愛しき想い人の名前を聞いた鬼が、覚醒。
先程まで、目を閉じていたはずの高町なのはが凄まじい狂気を歪んだ瞳に宿して上半身を起き上がらせる。その小さな左腕が男の喉を握り潰しかねない力で絞っていた。
「あなた達・・・確か、トンボ先生の助手・・・。どうしてこんな所に居るの?」
有無を言わせない雰囲気。
操縦席の女性が背後の異常に気付き、振り向く。
「なのはちゃん!お、落ち着いて!私達は博士に頼まれてあなたを迎えに来たのよ!幾らなんでも、闇の書の主とその守護騎士を相手に一人で戦うような状況になってたんだもの、博士も心配だったのよ。でも、お陰でこうして助かったんだし・・・ね?だから・・・少し落ち着いて。怪我だって酷いんだから、あんまり動いたら・・・」
女の声を聞いてから、高町なのはが男を一瞥する。
ゴミを投げ捨てるかのように、無造作に男の体を放り投げる。

「フェイトちゃんを迎えに行くの」
高町なのはが誰にとも無く呟く。
「フェイトちゃん・・・今、行くからね・・・。直ぐに行くから」
虚ろな瞳からは色彩感覚が失われていた。
見えるモノ全てが灰色になる。
「フェイトちゃん、待っててね。私が行くまで、待っててね」
小さな笑い声が高町なのはの口から漏れる。
もう取り返しがつかない壊れ方をした笑い。
女性は、もう振り向く事も無く操縦桿を握り直した。男もその隣に静かに座る。
ただ、高町なのはの歪な笑い声が機内に満ちていく。

ステルス艦の背後では、役目を終えた星が最後の輝きを見せた。
エメラルドの煌めきが冷たい宇宙に広がる。
それはどこか、美しくも寂しい色だった。


(完)




この話の外伝的な話が下記作品になります。よろしれば。
「魔法少女リリカルなのは」二次創作小説「狂気の源泉は初恋と共に」
自作小説 | 18:49:50
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