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「魔法少女リリカルなのは」二次創作小説 『胡蝶の夢は是非曲直に沈む』 ①
やっとできました!お久しぶりになってしまったのですがどうにかできました。

前作の話から思いっきり続きになっていますので・・・

・「魔法少女リリカルなのは」二次創作小説 『夢幻泡影の姉妹』前編

・「魔法少女リリカルなのは」二次創作小説 『夢幻泡影の姉妹』後編

・「魔法少女リリカルなのは」二次創作小説 『幽愁闇恨を孕みし約束』

上記3作品を読んでない方がいらしたら、そちらを見てからだとより楽しめるかと思いますのでよろしければ。
リンクの上から順番に呼んでもらえると、しあわせ・しあわせ。




前作から2年かかってしまいました。
ずっとずっと考え考え・・・トゥルー家族の事もやりながら、ずっと考えてました。
最終話との構成まで、プロットを組み上げるのに1年かかりました。そして今作を書くのに半年。実は既に出来上がっている外伝的な短編もありますが、それは今作の後編を公開してからにしようと思います。

本当に今回は難産でした。最終話までのプロットを作るまで気がすまなくて・・・。
おかげ様でもうプロットは最後の最後まで考えられました。
あとはひたすら書くのみです。

というか、どうしてもなんというか今作において気になるのは、
はやてちゃんの大阪弁です。
私、思いっきり上州人なので大阪弁がちっとも分からなくて・・・。出来る限り努力はしたつもりですが、大阪弁として変な所があったら、どうか脳内変換して頂ければと。

そんなこんなで、今回は「なのヴィ」「はやヴィ」と・・・ヴィータさんが健気に頑張る姿だったり、はやてちゃんが苦悩したりやっぱり幸薄かったり・・・なのはさんがいよいよ痺れを切らして、動き始める最終話への導入となります。起承転結の「転」みたいな話です。

後編も今、最終段階の推敲をしています。可及的速やかに公開させて頂きたいです。
後編・・・というか、「中編」「後編」と3本に分けるかもしれませんが。総量が10万字超えてるかもなので。





という事で、一応・・・

私の芸風なので、相変わらず幸薄かったり、エログロだったり、百合ってます。
あとリリカルなのはの公式設定と、色々齟齬があるかと思いますが、そこはこう何と言うか、ごめんなさい。

そういうのでも、いけるぜ!!と言う方は是非お読み頂ければと。

それでは、本編は「続きを読む」で始まります。




「胡蝶の夢は是非曲直に沈む」


深海のように暗く冷たい部屋だった。
無音がもたらす、孤独という名の水圧に押し潰されながら、未だ見えぬ海底へと沈み続ける。冷えきった肺腑で呼吸をする度に、凍えるような重さを孕んだ真っ黒な海水で体内が満たされた。
いつまで、この中で呼吸を続けられるのだろうか。
ここは広大でどこまでも続く海とは違う。四方を囲む白亜の壁面が、否応無く牢獄を想起させた。独房のような閉塞的世界で高町なのははたった一人、薄い鼓動を鳴らす命熱を宿す存在。月明かりが一筋の光としてカーテンの隙間から僅かに差し込むが、どれ程手を伸ばそうとも届くようには思えなかった。

テーブルの上には手付かずの豪華な料理が並べられていた。

高町なのはが恋人であるフェイトのために一生懸命作った沢山の料理。普段はやらないような手間をかけて愛情を込めたものだった。
しかし、今は作りたての頃に沸き上っていた食欲をそそる湯気も香りも失せている。皿や器を包むラップには水滴がこびり付き、料理から熱が奪われた事を否応なく見せ付ける。
自分の分として用意しておいた、冷えて固まってしまった若鶏のソテーを一つ箸で摘む。口内で咀嚼する度に、死肉を食む感触が伝わる―――温かさ等微塵も感じられない。高町なのはにとって食事はただの作業でしかなかった。フェイトさえ居ればそれも楽しい時間に変わるはずだったが・・・。

その日は、久しぶりにフェイトと一夜を過ごす約束だった。
誰にも邪魔されないようにミッドチルダに用意した高町なのはのマンションで溜まった愛情を吐き出し、情欲を浴びせるつもりだった。
普段の学校生活と管理局の仕事、二重生活を行う高町なのはとフェイトは毎日が多忙だった。それでも、どんなに忙しくても小学校の頃は毎晩のように肌を重ねて求めあった。だが、中学生になりお互いの時間が増えてからは・・・昔のようにはいかなかった。
そんな中、久しぶりに二人きりで夜を過ごす機会が訪れ、高町なのはは喜び勇んで準備した、まるで新婚直後の新妻のように。
準備万端で待っていた高町なのはにフェイトからの電話があった。

「ごめんなさい、実は急用が入って行けなく・・・なっちゃった。ごめんね、本当にごめんね!前に、任務中に助けた子供が居たって話をしたよね、その子が熱を出しちゃって・・・心配だから付き添いたいの。だから、今日は・・・ごめんなさい。必ず、今度埋め合わせはするから・・・。それじゃあ、また明日会おうね。大好きだよ、なのは」

高町なのはは携帯端末に録音したフェイトの声を何度も繰り返して聞いていた。
自分の声はそこに殆ど混じっておらず、なんと答えたのかも覚えていない、ただ呆然と機械的に「うん、分かったよ」と伝えていただけだった気もする。
いつものように元気な素振りをして受け応えするだけの力も湧かなかった。
録音した愛しき人の佳音を延々と再生する。
海底を切り取って移した様に重く暗い室内には、フェイトの申し訳なさそうな声だけが虚しく響き続ける。

高町なのははテーブルに頭をのせたまま身動き一つしない。
虚ろな視線が灰色の壁を穴が開きそうな程に見つめ続ける。
「フェイトちゃん・・・どうして・・・」
全てが上手くいくと思っていた。
夏に起こした、アリシアとの一件でフェイトはとても落ち込んだ。恋人である高町なのはに再び依存する兆候も見られ、全て高町なのはの思い通りに事は進んでいたかのように見えた。

しかしフェイトは高町なのはが思っていたよりも強かった。
結局、元気を取り戻したフェイトは以前のように・・・どころか、今までよりも一層、懸命に管理局の仕事に取り組むようになった。前にも増して精力的に任務をこなし、助けてきた子供を可愛がるようになってしまったのだ。
二人きりで居られる時間も日を追うごとに少なくなった。
高町なのはの欲望は果たせず、鬱々とした日々を過ごしている。

「どうして、どうしてなんだろう・・・。あんなに頑張ったのに、フェイトちゃんはどうして私だけを見てくれないの・・・。ずっと、ずっと私と一緒に居て欲しいのに。私を置いて、どんどん先に行っちゃう・・・。嫌、嫌だよ・・・そんなの。もう背中を見せられるのは・・・嫌」

高町なのはは泣いていた。
普段は人前では涙を見せない。元気で一生懸命な事が取り得の少女。
しかし、自室で一人きりの時は、良く泣いていた。
「ずっと、私と一緒に居て欲しいのに。行かないでよ、フェイトちゃん・・・」

高町なのはが傍らに置いてある薬瓶を手に取る。蓋を外し、中身の錠剤を数粒取り出してそのまま口内に放り込む。砂利を踏み潰すような音を立てて噛み砕き、飲み下す。
味など無い、その代わりに全身を虚無感が包み込む。
数瞬の後、天地がひっくり返ったような感覚がもたらされる。光と影の逆転―――白と黒の反転。意識が追いつかない圧倒的な加速感と臓腑が捲り返るような躍動感―――それらが全て一斉に体内で暴れまわった。全身の肉と骨が軋み、体の芯が凄まじい熱量を放つ。心臓を通じて循環する血液は灼熱を伴い、頭の天辺から爪先までを焼いた。
高町なのはは開きかけた口を押さえ、喉奥から沸き上る絶叫を堪える。一度、悲鳴を上げてしまえばきっとこの痛みには二度と耐えられないだろうと確信しているからだった。
時計の短針が一周しても再生され続けるフェイトの声が、壁紙に浸透してしまうのではないかと思われる時間を持って高町なのはを襲った痛撃が収まった。五体を床に投げ出したような格好で倒れた高町なのはが、震える指先に力を入れて少しずつ立ち上がる。

自分自身が時間の流れから逸脱したことを確認するべく、部屋に設えられた全身が写りこむ鏡を見つめる。鏡面に映し出されたのは時の流れという不可逆にして絶対的な回廊を外れた姿。

小学生の頃から変わらない―――中学生と言うには幼すぎる少女の肉体。

まるで時間を止めてしまったかのように成長を阻む、不自然で歪な容姿。
しかし、この姿こそが高町なのはの理想。
全てが幸せだった、何も悩む必要の無かった輝かしい記憶の源泉。

「このままで・・・居られれば良かったのに・・・ずっと、ずっと・・・何もかもあのまま・・・一緒に・・・」

思考が光の中へ埋没する、高町なのはの心が少しずつ地を離れて、蒼穹の空に舞い上がるような高揚に包まれる=使命感に囚われる。
全てはフェイトと共に幸せな時間を永遠に過ごす為の努力。

「やっぱり・・・あの子達が原因なんだね。フェイトちゃんを私から奪ったのはあの子達。フェイトちゃんに助けられたあの子達。確か男の子と女の子だったよね。そうだ、そうだよ・・・あの子達が居なくなればきっとフェイトちゃんは私をまた見てくれる、私だけを見てくれる。ずっと私と一緒に居てくれる、どこにも行かないで一緒に居てくれる!」

長いトンネルから抜け出した時のような開放感。眩しい光が粘つくように瞳を犯す。
「私がもっともっと頑張れば良かったんだね。こんなに簡単なことだったのに気付いてあげられなくてごめんねフェイトちゃん。頑張るよ、頑張るよ・・・フェイトちゃんが幸せになって、私も幸せになるの。素敵でしょう。ふふ、あはは・・・」

高町なのはの歪んだ声が闇を浸食していく。
唇を切り裂いて笑う高町なのは。両目からは涙が零れている。
喜怒哀楽、どの感情に属する涙なのか、既に高町なのは自身にも判別できなかった。

テーブルの上には、料理以上に存在感を示す物があった。

高町なのはとフェイトが二人で写った写真、初めてお互いの事を名前で呼んだ頃の写真。
その傍らには一頭の蝶が全ての羽を毟り取られた無残な姿でもがき回り転がっていた。

「どこにも・・・いかないで」

季節は冬。
骨肉までをも凍てつかせる寒さが、とても身に滲みた。


*******



「ここから出て行って下さい!」
雲一つ無い青空にフェイトの大音声が響き渡る。
普段は優しい表情で一歩引いた場所に居るのが常であるフェイトが、今は誰よりも前に飛び出して、背後に居る大切な者達を守ろうと必死に抗議の声を上げて抵抗していた。
「フェイト執務官でしたかな?困りますね・・・我々の邪魔をするというのは、管理局に対する業務執行の妨害行為になるんですよ?」
フェイトの眼前に並び立った男達。
一様に真っ白な清潔感と消失感を感じさせる制服を纏い、フェイトに対して挑発的な視線を向けていた。
時空管理局、管理部門に属するバルト厚生本部長とその部下数名が居並ぶ。
その目はフェイトの後ろに見える老朽化も激しい、質素な家屋。最新の建築技術を惜しみなく用いて建造された管理局事務棟とは比べ物にならない、まるで戦後間もない日本の学舎を思わせるような施設の名は「管理局児童保護施設」と言った。
「良いですか、もうこの施設は取り壊しが決定しているんです。あなたたちがどれだけ施設維持に寄付していようが何だろうが、もう手遅れなんです。議会での決定は絶対ですよ、そのぐらいはあなた達にも分かるでしょう」
バルトが右手に持っている、管理局での統合役員会議で決議された決裁書の写しをフェイトの眼前に差し出しながら、無機質な口調で言い放った。

フェイトを含めて多くの人間からの寄付金により運営されてきた、管理局が関わった事件により保護された幼い子供を引き取ってきた施設。身寄りの無い子供が自立するまでの間の生活を守ってきた、大切な場所。
その児童保護施設を解体、廃止することが管理局から下された意思だった。

近年激しさを増す派閥闘争や、様々な思索が飛び交った結果だったのだろうが、フェイトにとってはそんな事はどうでも良かった。身寄りの無い子供達を積極的に保護してきたフェイト。それは一人でも多く、無慈悲な事件から過去の自分のような子供を助けたかったから。憧れと愛情を抱く、高町なのはのようになりたかったから・・・。
フェイトの後ろから声が飛ぶ。
「幾らなんでも急な話じゃないですか?子供達はこの後どうなるっていうんです?この子達にとってはここが帰ってくる場所なんですよ・・・」
八神はやてが子供達の心配そうな視線を受けながら、フェイトの背後から歩み出た。八神はやてもこの施設に多額の寄付金を投じている一人だった。これまでは実質、若き天才魔導士二人からの多くの出資があってこそ運営が続けられてきた、子供達の最後の砦が今取り壊されようとしているのだった。

「これはこれは、八神はやて特別捜査官ではないですか。管理局でも他の追随を許さない天才性とレアスキルを持つあなたのような方がなぜこんな場所に?」
バルトは空々しい作った声で言うと、八神はやてに近づいていった。
八神はやては蔑視の色を滲ませた瞳でバルトを睨みながら口を開く。
「お前らは、いつもそうや。弱者を甚振ることを平気でする・・・。三年前は『福祉活動』の名の元に、多くの子供達を地獄の釜に落として焼き尽くした。それを繰り返そうっていうんか?」
八神はやての脳裏に焼きつく四人の少女の笑顔。
『必ず迎えに行くからね』という言葉を信じて、災厄で煮詰められた泥沼の中、最後まで希望を捨てないまま待ち続けてくれていた。失ってしまった、家族になるはずだった少女達。
八神はやての拳が自然に硬く握り締められる。胸を刺し貫く痛みを伴って、底知れない後悔と無力感が蘇る。

フェイトが隣で心配そうに見つめる中、バルトが八神はやての眼前まで迫った。
「あの当時、私はまだ厚生部門に配属されておりませんでしたので、詳しくは知りませんが、あの自立支援計画は実に具合の悪い物のようでしたね。それと、あの計画に関わっていた管理部門の人間は全員、なぜかこの管理局から消え去り、未だに行方不明だそうです。まったくもって無責任な仕事をしてくれたものですよねぇ」
八神はやての顔面にバルトのタバコ臭い吐息がゆらゆらと浴びせられながら、言葉が続けられる。
「ですが、私は違います。責任をもって子供達の未来を約束します。今回、厚生本部が提案するのは富裕層への養子斡旋プログラムです。三年前の自立支援計画は余りにもずさん過ぎましたからね。魔法や特別な能力の無い子供でも、安心して暮らしていけるだけの余裕を持った富裕層の方々と養子縁組をする事で皆丸く収まります。誰もが幸せになる、完璧な計画ですよ」

八神はやての瞳が真っ黒に染まる。
目の前の男からは腐った汚泥の臭いがしたからだ。
管理局に入ってからずっと、八神はやては無数の悪意を向けられてきた。世界の平和を守る管理局・・・その腐敗した部分も数多く見てきた。だからこそ八神はやてには分かった。こいつは腐臭を漂わせる汚物なのだと。
「金持ちの変態共に子供達を売ろうっていう事か・・・下衆が」
「それは富裕層への偏見ですよ。れっきとした慈善事業の精神をご理解して頂ける方にのみお任せする事にしますし。そうそう、あなたも数年前までは御一人で生活していたそうですね。今は優しい家族と一緒で幸せそうじゃないですか。我々はその喜びをもっと沢山の恵まれない子供達に与えてあげたいと思っているのですよ」
八神はやての内腑に悔恨と憎悪が益々拡がっていく。全て、変わっていない。あの時と同じ、こいつらは哀れな子供達を玩具にしようとしている。
噛み付くかの如く激昂しようと大きく息を吸い込んだ八神はやてが口を開く寸前、絶好のタイミングでバルトが八神はやての耳元に小さな声で呟く。
「私の昇進を後押ししてくれたあなたには感謝しているんですよ、八神はやてさん。行方不明の方達は、どうなっていますか?」
八神はやてが口を開いたまま固まった。
バルトは八神はやてに聞こえるだけの声量でそのまま続ける。
「気持ちが良いぐらいに当時行われた『福祉活動』に関わる人間が消えていきましたからね。殆どの人間が関わるのを恐れて調査しなかったようですが、私は独自に調べてみました。僅かな証拠も残さない狡猾な犯人でしたが、あの忌まわしい刑務所を消滅させる時だけは、冷静さを失っていたんでしょうね。衛星からの監視カメラをセットしておいたお陰でばっちり映っていましたよ、あなたの姿がね」
八神はやてが奥歯を噛み締める。
アレを見られていた・・・?
身の内に溜め込まれていた、燃え盛る暗黒を全て吐き出した瞬間を?
ああ、こいつは消さなければ、可及的速やかに。
バルトが何時の間にか、八神はやての腰に手を回していた。
そのまま八神はやての柔らかい尻肉に牙を突き立てるようにして掴む。
「そういう訳で、お互いに仲良くしませんか?これを機に私達、もっと親密な関係になれると思うんですがねぇ」
バルトが空いた片手を八神はやての胸に伸ばそうとした瞬間、遮るかのようにして銀色の金属塊が視界を覆った。

「お前、それ以上はやてに妙な事するなら、その薄汚い脳味噌ぶち撒けて死ぬ事になるぞ」
先程まで、怯える子供達の面倒を見ていたはずのヴィータが一瞬で距離を詰めていた。愛機である鉄槌をバルトの顔面に着撃寸前で停止させている。もし、八神はやてが後ろから迫るヴィータの足音に気付いて、制するように右手を差し出していなければ、今頃バルトの頭は木っ端微塵に吹き飛んでいた。
バルトはヴィータの底冷えするような声音に怯え、一歩二歩と後退りする。

「ヴィータ、下がってて良いんよ。今、大事な話をしてる所や」
忠節を尽くす騎士の頭を優しく撫でながら、ヴィータの隣に立った八神はやてがバルトを睥睨しながら言い放つ。
「バルト本部長、その件に関しては後々ゆっくりお話しましょう。今は、この施設の取り壊しを中止して頂く様にお願いするばかりです」
八神はやては、怜悧な声で告げた。
その声を聞いた子供達が、いつもの『優しいはやてお姉ちゃん』ではない、何か異質の者を見てしまったかのように恐灈に包まれる。

有無を言わせない圧力を感じたバルトが、全身に冷や汗をかきながら口を開く。
「八神・・・はやて・・・そんな態度で、いつまでも居られると思うなよ。この犯罪者め、教会派の連中が幾ら貴様を庇い立てしようが関係ない。私はお前の決定的な機密情報を握っているんだからな!お前達のような偽善者が自己満足で運営している、こんなちんけな施設、絶対に叩き潰してやる!」
捨て台詞を吐き出して、バルトが踵を返すようにしてその場を後にしようとすると、振り向いた先に一人の少女が居た。

「私のお友達に、何してくれてるのかな?」

二つに編んだ栗色の髪を揺らし、小さな容顔に静かな怒気を滲ませているのは、管理局で知らない者等居ない『白い悪魔』こと、高町なのはだった。
「フェイトちゃんがあんなに困った顔してる。全部、おじさん達のせいだよね?私のフェイトちゃんにそんな事して、良いと思ってるの?」
自身よりも遥かに小さな体から発せられる明確な殺気を感じたバルトが、恐慌状態に陥りながら震えた声を上げる。
「い、いくら白い悪魔でも私に手を出したらただでは済まんぞ!わ、分かってるのか!?」
バルトの声を聞いた高町なのはが一瞬で得物を抜く。
赤熱する宝玉を宿したRHの鋭い先端部分をバルトの額に押し付けながら言う。
「そんな脅しが通じるかどうかなんて、私の噂を聞いてるなら分かるよね?大人しくどっか行ってくれれば、今回は特別に見逃してあげるよ。じゃあ、私がフェイトちゃんの所に行くまでに消えてね」
一方的に言い切った高町なのははRHをペンダントに戻し、愛しい恋人の下に歩み寄る。
高町なのはの小さな背中を恨めしげに睨み付けてから、バルトは羞恥と憤懣に顔色を真っ赤に染めたまま、部下を引き連れて何も言わずにその場を去っていった。


八神はやてとバルトの異様な雰囲気を前に、オロオロとするばかりで居たフェイトも、高町なのはがいつものように抱きついて来る頃には安心した表情を浮かべていた。
「なのは・・・ありがとう」
頭一つ分程、身長差の出来てしまった愛しい幼馴染に感謝の言葉を告げるとフェイトも高町なのはの背中に両腕を回して互いに強く抱きしめあった。
「フェイトちゃんのためだったら、相手が誰だって助けるよ。だから、今みたいに困ったら直ぐに呼んでね。我慢とか遠慮なんてしちゃ駄目だよ」

近くでいつものようにいちゃつき始めた高町なのはとフェイトを他所に、八神はやては黙考する。その様子を不安げに傍らでヴィータが見つめているが、八神はやてがそれに気付く事は無かった。
ヴィータは、ここ最近八神はやてがこんな表情を浮かべることが増えたように思い、それがたまらなく心配だった。


********


騒動のあった場所から少し離れた所にある広大な緑化公園。
木立に囲まれた林道を歩く二つの姿―――八神はやてとその従者ヴィータ。
フェイトはあの場に残り、事後処理をしてくれているはずだった。
八神はやては自分が居る事で余計な厄介事を増やさないためにも一足早く立ち去っていた。フェイトには申し訳ない気持ちで一杯だった・・・本当に・・・。
「はやて!何だよあいつは!私の・・・私達のはやてにあんな事するなんて、今度会ったらボッコボコにしてやる!!」
全ての事情を知らないヴィータはあの男が自分達が元犯罪者という事を元にゆすりをかけてきたのだと思っていた。実際、管理局に入ってからはそんな輩が後を絶たなかったので、そういった思いつきも自然なものだった。
「ヴィータ、そんな事言ったらあかんよ。私達が良い子で居れば必ず誰かが見ていてくれるはずなんや。いつかああいう奴らも居なくなる。だから、それまでは頑張ろう・・・な?」
八神はやては自分の口から出た言葉で溺れそうになる。
『誰かが見ていてくれる』――そんな事はありえない。
両親を亡くし、両足の自由を失っていた幼少期に誰も自分を見てくれなかった、助けてくれなかった。八神はやては理解している『誰かが見ている』なんて言うのは虚言であり、絶望への恭順なのだと。
孤独に押し潰されそうになった時に現れたのが、目の前に居る小さな騎士達。だからこそ自分を本当に見てくれる家族の存在を命よりも大切に扱い、守る。そのためには手段など問わない。

「うーん・・・はやてがそう言うなら・・・。でも、危なくなったらすぐに言って。何があってもどんな事でも助けるから」
真剣な眼差しのヴィータが小さな両手で八神はやての右手を強く握って言う。
嬉しい。八神はやては嬉しかった。
『誰か』ではなく、『家族』が見てくれる事の幸福。

「二人とも、相変わらず仲が良いみたいだね」
まるで今にもプロポーズでもしそうな状況の八神はやてとヴィータの前に、先ほどと同じ制服姿の高町なのはが現れる。
「なのはちゃん・・・」
八神はやてが名残惜しそうにヴィータと絡ませていた手指を解き、立ち上がる。
「直接会いに来るって事は・・・いつもの事かな?」
意図を察したらしい八神はやてに満足する高町なのは。
「そう・・・いつもの事だよ。ちょっと、打ち合わせが出来たらなぁって思ったんだけど」
二人の会話の趣旨が掴めないヴィータ。『いつもの事』という符号が何を意味するか分からず、二人の顔を見比べる。

八神はやてが寂しそうな、悲しそうな、何かを言いたそうな顔でヴィータに告げる。
「ヴィータ、ちょっと急用が入ったから先に帰って御飯食べててくれるか?私も、すぐに帰るから・・・ごめんな」
拒否は認められない雰囲気。
ヴィータは言いたい事を飲み込み、言葉を返す。
「・・・分かったよ。それじゃあ、先に戻ってるから早く帰ってきてね。みんなで待ってる。それと、なのは・・・はやてに変な事したら許さないからな」
高町なのはに睨みをきかせる。
「そんな事しないよぉ。私はフェイトちゃん一筋だって知ってるでしょ」
苦笑いしながら答える高町なのは。
ヴィータは怪しい者を見る目で高町なのはを一瞥してから、背を向けて去っていった。

「相変わらず、ヴィータちゃんは可愛いね。本当に可愛い。羨ましいぐらい」
高町なのはが熱い視線でヴィータの背中を舐め回すように視線を注ぐ。
「なのはちゃん、私の家族に手を出すのは無しって言うたやろ」
八神はやてが高町なのはの視界を遮るようにして眼前に立ち塞がり、低い声で忠告した。
「そうだったね・・・。ごめんごめん、ついヴィータちゃんが可愛くて。じゃあ、ちょっと行こうか」
高町なのはが公園の外へ歩き出し、八神はやてもそれに続く。
道中で交わされるのは他愛も無い会話、外見は仲良しの同級生にしか見えない。

しばらくすると、二人は人気の無い開発中の工事区画に到着。
そこはまだ監視カメラも盗聴装置も無い、完全に人目の無い場所――その日は工事も休みであり、人気も無い。完全な情報統制を敷いた管理局内では貴重な場所。

「一応、確認しようか」
高町なのはの右手を中心に円環状の魔方陣が甲高い羽音をたてながら水平に広がる。周囲一体を解析する探査魔法。高町なのはの用いる高等術式ともなれば、どんな透過防壁をも無にする程の精度を誇る――遠距離狙撃魔法使用者には必須である索敵能力。高町なのはの超人的な単機戦闘能力もこの索敵能力によって支えられている。
「―――うーん、大丈夫みたいだね。周りには誰も居ないよ」
にっこり微笑む高町なのはに八神はやてが問いかける。
「それで、今回はどんな『いつもの事』なのかな?」
既にどんな事を言われても受諾する心構えの八神はやて――退路の無くなった者特有の強靭な意志力。
「さっき、はやてちゃん達偉い人に苛められてたよね。あの人、殺しちゃおうよ」
高町なのはが簡単に言い放つ。
見ていたんだったら助けろよ、という思いが脳裏をよぎるが、最後の言葉の魅力に免じて許してあげる事にする。八神はやては無言の肯定で先を促す。
「はやてちゃんは知ってる?来週のクリスマスイブにね、児童福祉局が主催するコンサートがあるんだよ。管理局が助けて保護している子供達もそれに参加してみんなで合唱するんだって・・・素敵だよね」
児童保護施設に寄付をしている八神はやてにもそのパーティーの参加案内は届いていた。家族みんなで出かけていこうと思っていた。毎年催されるイベントで、施設の子供達を連れて参加するのが恒例行事である。特に今年は施設解体の件について、子供達の歌声を聞いた人達が反対してくれるようになってくれれば、という思いもあった。
「そこにあの厚生本部の偉い人も来るんだって。それと、私のフェイトちゃんを奪った男の子と女の子も・・・。二人とも普段は別々の場所で魔法の訓練を受けながら暮らしてるみたいなんだけど、フェイトちゃんは二人を合唱隊のメンバーとして招待したみたいなんだよ。
凄く、都合が良いの。ね、みんな壊しちゃおうよ。私達の幸せを邪魔する害虫は全部駆除しなくちゃ・・・」
何時の間にか高町なのはが八神はやてに密着して耳元に甘ったるい声で囁いていた。
「当日の警備は厳重だけど、それはあくまで会場周辺だけなんだよ。だから、私や、はやてちゃんみたいな超遠距離からの砲撃には関係ないの。それどころか、人員の殆どを要人警護に回す分、いつもより簡単かも・・・」
背中を冷えたコンクリート壁に押し付けられながら、八神はやてが狂気そのものである相手に負けないよう、虚勢の微笑みを浮かべる。
「確かに、なのはちゃんの遠距離狙撃なら目標を狙い撃てると思う。でも、そうしたら現場に残るなのはちゃんの魔力の痕跡で足がつく。その辺はどうするん?」
「そこではやてちゃんの魔法が大切になってくるんだよ。闇の書の中から、私の魔力を偽装する魔法を探して欲しいの。私が撃った事を誰にも知られないようにね」
銃器で言う所の発射痕、ライフリングを偽装する。
魔法で言うなら個人特有の魔力であり、それをあたかも他人の魔力で放たれたように偽装しろ、と高町なのはは言うのだ。
「簡単でしょ、はやてちゃんだったら・・・。今回は実質私だけが実行役だから、はやてちゃんは後方支援って事で。あ、管理局に送りつける適当に作ったテログループの犯行声明もお願いして良いかな?そういう細かい事は私、苦手だから」
確かに八神はやてにとっては、魔力を偽装するのは造作も無い事だった。闇の書に収められた星の数にも等しい魔法の中に該当するものがあるはず・・・。適当な犯行グループを作るのもどうにかなるだろう。その辺の手管はここ数年でしっかりと身についている。
「・・・ええやろ、必要な魔法はこれから直ぐに用意する。それほど時間も掛からずできるはずや。狙撃位置なんかはなのはちゃんに一任して良いかな?」
高町なのはが八神はやての言葉を聞いて満足そうな笑みを浮かべる。
「もちろん、任せておいて。はやてちゃんの邪魔をする害虫も、私のフェイトちゃんを奪った蛆虫も、まとめて潰してあげる。あのね、会場にはもちろんフェイトちゃんも来るんだよ。目の前で大事にしていた二人の頭が同時に吹き飛ぶ瞬間を見るんだよ!きっと大きな声で泣いちゃうよね!!そしたら、フェイトちゃんは私の所に戻ってくるよ!絶対に!もう、離さないの。誰にも余所見しないように、私しか見られないように、フェイトちゃんを私が可愛くしてあげるの!!」
常軌を逸した者特有の崩れた声を響かせる。

八神はやては沸き起こる不快感を押さえる――私はこいつと同類なんだ。
「じゃあ、その他細かい連絡はまた時間を作って会うって事でええかな?そろそろヴィータ達が待ってるんで帰らんといかん」
素早く踵を返す八神はやて、一刻も早く高町なのはから離れたい気分。
「じゃあ、また明日」
早く自宅に戻ってヴィータの笑顔を見たかった。
高町なのはに背を向けて、とっとと歩きだす。

「はやてちゃんは羨ましいなぁ、大切な人が待って居てくれて・・・。私も早くフェイトちゃんとそうなりたいよ」
振り返ることも無く去っていく八神はやて。その背中を見つめながら高町なのはが小さく呟いていた。
そしておもむろに振り返って、高町なのはは自身の背後に林立する樹木の影に語りかける。
「ねぇ、ヴィータちゃんもそう思うでしょ」
木陰に身を潜めていた者の心臓が跳ね上がったのを感じて高町なのはが嗜虐心に満ちた表情を浮かべながら続ける。
「出ておいでよ、ヴィータちゃん。もうはやてちゃんは居なくなったから、心配しないでも良いんだよ」

木陰に身を隠していたヴィータの耳へ確実に届く、高町なのはのいやらしい声。

「ずーっとそんな所でしゃがんでたら疲れたでしょ?もうはやてちゃんは居ないから安心して出てきて良いよ。ここにはもう、私とヴィータちゃんしか居ないんだから・・・」
高町なのはの声がヴィータへと一直線に放たれた―――ヴィータの隠れている木陰の方へと向き直って、まっすぐに視線を注ぐ。
しかしその足は一歩も動かない。まるで罠にかかったウサギが身悶えする様を楽しんでいるかのような嗤笑を高町なのはは浮かべていた。

一瞬の沈黙の後、覚悟を決めたヴィータがゆっくりと高町なのはの前に姿を現す。
「やっぱり、あの時わざと見逃したんだな、お前」
ヴィータが今も素肌に感触が残る、高町なのはの爪先から髪先までに絡みつき、粘つくような不快感をもたらした探査魔法を思い出しながら言った。
高町なのはは何も言わずに、残虐な微笑みをもって返答する。

そもそも、この白い悪魔と称される最悪の魔導師が放った探査魔法を、急場しのぎの探査回避魔法でどうにかできるはずが無かったのだ。高町なのはの反応に違和感を抱いていたヴィータは、こうなる事を半ば覚悟はしていた。「二人きりになるまで待っててね」と言ってるのが、言葉を交わさずとも分かっていた。
―――丁度良い。二人で話をつけてやる。

「さて、色々聞いちゃったと思うけど・・・ヴィータちゃんはどんな事から話して欲しいのかな?こうしてばれちゃったから、もう隠し事はしないよ。私の知ってる事はみんな話してあげる」
高町なのはがヴィータの傍らへと歩み寄る。
並んだ二人は、わずかに高町なのはの方が身長が高かった。しかし、それ以外二人の外見は五年前、初めて出会った時となんら変わりない、これもヴィータの感じている最近の高町なのはの異常性の一端である。成長期であるはずなのに、高町なのはだけは魔法生命体である自分のように、時間が止まっているかと思うほど変化を拒否し続けている。
しかし、今はその疑問よりも優先して聞くべきことがあった。

ヴィータが視線で貫くような鋭さで高町なのはを睨みながら言う。
「なのは、お前がはやてに変な事させてんのか?最近、はやてが隠し事するようになったのも、みんなに内緒でどこかに出かけるのも、お前がやらせてるのか?」
ヴィータの幼い体から発される声は静かな怒りに震えている。
―――返答次第では、今すぐに叩き潰してやる。

限りなく黒に近い灰色を前にしたヴィータは、それでも今まで五年間も付き合ってきた相手を信じたかった。過去には家族全員の命を助けてもらった事もある。その後も管理局の任務で背中を任せたことだって一度や二度ではない。高町なのはとはとても、相性が良かった。家族以外で初めて「馬が合う」と思える相棒だった。
だから、信じたかった。

ヴィータの複雑な感情をその瞳から察した高町なのはが静かに口を開く。
「うふふ・・・ちょっと違うかな。最初に誘ってきたのははやてちゃんなんだよ。私達がみんな幸せになれるように協力しようって、誘ってくれたの。ほら、そのおかげでヴィータちゃんも管理局で過ごしやすくなってきてるんじゃないかな・・・?お仕事の度にヴィータちゃんだけ支給装備がなかったり、補給を受けられなかったり、最近はそういう事なくなったでしょ?」

ここ一年足らずの間に、ヴィータの環境は確かに向上していた。
それまでは何かと八神はやてを敵対視していた派閥から、あらゆる方面から嫌がらせを受けていたが、めっきり減っていた。

「はやてちゃん、凄く一生懸命だったんだよ・・・。みんなのために頑張るんだ!って、いつも言ってるよ。最初の頃なんかは、まだ慣れてなくて悪い人達を処理する時も吐きながらだったなぁ。今じゃ表情ひとつ変えないけどね」

ヴィータの脳裏に浮かぶのは、八神はやての憔悴した姿。
自分達に行き場所も言わずに、こっそりと出かける度に酷く疲れきった表情で帰宅していた。本人に問い質しても「ヴィータは心配しなくて良い事だから、大丈夫」の一点張りで口を割らない。 日を増す毎に増える八神はやてのため息の回数をずっと憂慮していた。

「はやてちゃんは、家族を守るために一生懸命なの。そのお手伝いをして欲しいって、私に相談してくれてね・・・。私もフェイトちゃんとの事もあるから、お互いにみんなが幸せになれるように協力しあう事になったんだけど、実際やってる事はあんまり大きな声では言えないの。はやてちゃんは、ヴィータちゃん達には秘密にして活動してたみたいだけどね・・・。
夏に・・・アリシアちゃんが生きていて、フェイトちゃんを襲った事件、知ってる?公表はされてない、無かった事にされてるような事件・・・」

知っていた。
極一部の人間しか知らない事件だったが、ヴィータは知っている。管理局内では普段から何かと濡れ衣を着せられたり、妙な案件に巻き込まれるような嫌がらせを散々受けてきた経緯から、そういったキナ臭い事件の話はなるべく耳に入れるように心がけている。何よりその際、見舞いに行った先でフェイト本人からも話を聞いていた。フェイトの辛そうな表情は、今でもはっきりと思い出すことが出来る。しかし、根暗で閉鎖的だったフェイトが、自分を仲間だと信じて話をしてくれた事は、ヴィータにとっては嬉しかった。

「あれ、はやてちゃんと私がやったの」

高町なのはが口端を薄く裂いて、ねっとりとした声で続ける。
「アリシアちゃんが仮死状態になっているのを見つけた、管理局の変態さん達が居てね・・・その上、あんな自爆兵器の実験をしたいって言い出してたんだ。それを聞きつけた私が、アリシアちゃんごと引き受けてフェイトちゃんを襲わせてあげたの。はやてちゃんはアリシアちゃんの調整と事前事後の処理係。
フェイトちゃん、可愛かったなぁ・・・目の前でアリシアちゃんが灰になった時の泣き顔・・・思い出しただけでも、いっちゃいそう。あの事件でね、浮気気味だったフェイトちゃんの気持ちを私に向かせる事が出来たの。はやてちゃんは、家族みんなの武装維持整備、開発なんかに関わる有力なコネクションを得られたんだよ」

信じたくなかった。
しかし、目の前の狂人の言葉は真っ直ぐで淀みが無い。
「嘘だ・・・。はやてがあんな酷い事、するわけない」
か細い声がヴィータの乾いた唇から零れる。それに答えるべく、高町なのはがヴィータ小さな耳に頬を寄せてはっきりと告げる。
「本当だよ。あの日、はやてちゃんはみんなと一緒に居なかったよね?研修があるから、って言ってたでしょ?本当はね、はやてちゃんはあの時アリシアちゃんの肉体に埋め込んでおいた発信機から戦闘データを採取してまとめてたんだよ。おかげで兵器開発局の人達は大喜びだったね」

嘘、嘘・・・はやては、そんな酷い事しない。
隠し事はしても、あんな・・・人の命を弄ぶような事・・・しない。

「信じられない?じゃあ、もう一つ教えてあげようか?はやてちゃんが、こんなに頑張るようになったであろう原因」
高町なのはがヴィータと頬を合わせながら、うっとりとした瞳で告げる。これから伝える言葉で、ヴィータがどんな反応をするのか、それを想像しただけで高町なのはは痺れるような快感に背筋を震わせた。
「はやてちゃんが初めて単独での任務をした時の事、覚えてるよね?その時、助けようとした四人の女の子達・・・ヴィータちゃんは直接会ってるから私よりも知ってるんじゃないかな」

ヴィータは胸の痛みを感じながら呟く。
「スミレ、ユリ、カエデ、サクラ・・・」
八神はやてに名付けてもらった少女達。帰る場所も家族も失った彼女達は巻き込まれた事件から救われた後、更なる煉獄に落とされた。はやては決死の思いで四人を助けようとした、家族総出の戦い。
しかし、結果は敗北だった。
あらゆる戦闘において無敗を誇っていた八神家だが、管理局の腐敗に負けた。悲劇に蹂躙された少女達を我が家の玄関に迎える事は出来ず・・・。
皆、絶望した。
しかし、はやてはそれでも奮起して管理局を根本的に変えてやろうと思って、今も一生懸命頑張っている。「いつか管理局で高い地位について、みんなが幸せになれるように変えるんだ」といつも言っている。

「あの刑務所に関わっていた偉い人達が片っ端から行方不明になってるよね。今じゃ一人も管理局には居なくなってる。それと、刑務所そのものも廃止されてるよね。地盤沈下があって危険なので移設したって事になってるけど。
そんなの嘘。みんな・・・はやてちゃんが・・・復讐したの」

嘘だ・・・と、ヴィータは声に出して言えなかった。
薄々感づいてはいたから。
それでも、放っておいたのは・・・自分の罪だ。

「ヴィータちゃんだって本当は気付いてたんでしょ?それでも知らないフリをしてた?でもね、真実は真実として受け止めてあげないとね。あの事件を境にして、きっとはやてちゃんは変わった。私に協力を申し出てきたりね。上手く私を焚き付けたつもりだったのかもしれないけど、残念・・・私ははやてちゃんなんかに縛り付けて置けるほど甘くは無いの。こうしてヴィータちゃんに意地悪して楽しんじゃうよ」

高町なのはは、嘘を言っていない。
ヴィータの直感でもそう感じられる。はやてが、高町なのはを誘ったというのも、真実だろう。高町なのはという人間は何か重要な事を成すときには本来単独行動を好む悪癖があり、それは今も直っていない。任務中にも独断で突入、孤立することもしばしばあり、ヴィータはその援護に回っては助けていた。
おそらくは、はやてが目の前の白い魔物を誘ったのだ。人を扱う事には長けている、無茶な事をするのには高町なのはという駒はうってつけだったのだろう。フェイトの事を餌にすれば簡単に動かせるというのも利点の一つ・・・だったはず。
唯一の誤算は、高町なのはの嗜虐性、狂性が思っていたより高かったことだろう。自分の主人は高町なのはを飼いならしたつもりかもしれないが、今その獣はこちらに牙をちらつかせている。

ヴィータは眼前で嫌らしく嘲笑う高町なのはを見つめながら、苦々しく言う。
「もう・・・はやてに、変なことさせるのは・・・やめろ」
苦々しい声を俯いたままに吐き出すヴィータの姿を見て、高町なのはは待ち望んでいた贈り物を受け取ったかのように、喜びで表情を崩しながら言葉を返す。
「私に言われてもねぇ、はやてちゃんが始めた事だし。私は別に良いんだよ、一人でだってフェイトちゃんともっともっと仲良くなれるように幾らでも頑張れるから。ただ、はやてちゃんはまだまだ私の事必要にしてるかもね」
高町なのはが粘ついた視線でヴィータの足元から髪の先までを撫で回す。まるで罠に捕らえた獲物に近付く蜘蛛の様相。
いつの間にか、互いの距離は限りなくゼロに近くなっており、夕日が映し出す影は重なって一つになっていた。

高町なのはがヴィータの鼻先に唇を寄せて、甘い呼気を漂わせながら告げる。
「でも、ヴィータちゃんがどうしてもって言うなら協力してあげる。簡単だよ、はやてちゃんからのお誘いを私が断れば良いの、そうすればいくらはやてちゃんでも一人じゃ行動を起こせないからね。特に今回の件ははやてちゃん一人じゃちょっと難しいから・・・。
その代わり、ヴィータちゃんには私のお願い、聞いて欲しいなぁ」

想定していた通りの展開。
ヴィータは悔しげな表情を見せながら、言う。
「お前の言う事だったら、何でも聞いてやる。だから、もう、はやてには絶対に手を出さないでくれ・・・お願いだから」
喉を震わせながらヴィータは願いを言う。
家族のために今まで、口では言えないような汚い事をしてきたであろう主人の努力を全て否定することなどできない。きっと自分たち家族に何も言わずに、影では血反吐を吐きながらあらゆる手段を講じたのだろう、全ては自分の家族を守りたいがために。
それを思うとヴィータは胸が詰まる。
八神はやての努力を無下にはしたくない、けれでもこれ以上自分の愛してやまない主人が手を汚し続ける様など見ていたくはない。
できる限り穏便に、静かに主人の秘め事を止めさせたかった。
自分が飢えた野獣の玩具になることも厭わない。

家族を守るために・・・。
思いは同じだが、すれ違う。
―――いつか、交わる時が来るのを願おう。

真っ直ぐな瞳を向けるヴィータを見て、その覚悟を感じ取った高町なのはが満面の奇笑を浮かべる。
「ああ、ヴィータちゃんは賢くて良い子だね。それが正しい選択。今ここで私を倒して、はやてちゃんの前に連れて行く・・・。そんな選択肢もあったはずだけど、それじゃあはやてちゃんが頑張って作ってきた平和な日常は維持できないしね。そうそう・・・今はとりあえず、私の言う通りにした方が良いの。
あぁ、とっても、とっても可愛いヴィータちゃん。約束するよ、ヴィータちゃんが私の言う事を聞いてくれている間は、絶対にはやてちゃんの誘いは断るって。何より、こんなに可愛いヴィータちゃんが私の相手をしてくれるんだもん、毎日忙しくてそんなことしてる時間なんて無くなっちゃう!心配しなくても、たまにははやてちゃんの所に帰してあげるからね・・・ふふ、その頃にはきっと、私の事しか考えられなくなってるけどね!」

高町なのはがギラギラと輝く瞳でヴィータを視界におさめる。
罠に嵌まった獲物を捕食する蜘蛛の如き禍々しさを孕んだ手が、ヴィータの細い顎を少しだけ持ち上げる。

「それじゃあ、まずは誓いのキスだね。いらっしゃい、ヴィータちゃん」

高町なのはが、ヴィータを迎え入れる。
満たされる事の無い、乾いた荒野が広がる世界に一人の少女を幽閉する。

言われるがまま、唇を差し出すヴィータと繋がる。
温かく小さな舌を絡ませ、ヴィータの背中に手を回して決して離れないように密着する。その様はまさしく蜘蛛の捕食そのものだった。

鋭い痛みが一瞬走った。
ヴィータの柔らかい舌に高町なのはの犬歯が尽きたてられ、血液の匂いが互いの鼻腔をくすぐる。
一端、ヴィータから離れる高町なのはが口端から赤い雫を垂らしながら心から嬉しそうに口を開く。
「これでヴィータちゃんは私のものだよ。ずっとずっと、一緒に居てね。私はヴィータちゃんの事を全力で愛してあげる。だから、ヴィータちゃんも私の事、沢山沢山好きになって・・・」
言い切ると、再びヴィータの唇を貪るようにして喰らいつく。
唇だけではなく、頬も耳も首筋も肌の見える部分に次々と高町なのはの印が刻印されていく。刻まれた部分からは食い破られたかのように喪失感が広がった。

次第に広がる虚無感に身をゆだねたまま、ヴィータは瞼を閉じた。
一筋、瞼の隙間からずっと我慢していた涙が零れた。
だが、その涙さえも高町なのはの舌に掬い取られる。

ヴィータはおぞましい愛撫をただ只管に耐える。
家族の幸せな姿を思い描くことで、今にも叫びだしたくなる悲鳴を抑えたまま、なすがままに汚辱を受け入れた。

日も落ちて、闇に同化した二人の影はいつの間にか、音もなく消えていた。



その晩、ヴィータは皆の待つ夕飯の席に現れなかった。

翌日も、翌々日も・・・家族だけでなく職場にも姿を見せず、誰一人として所在を知る者は居なかった。
全ての通信回線を切断したまま、連絡も不能な状態が続く。


―――ヴィータは行方不明となった。


***


夕飯の席に今日もヴィータの茶碗は用意されている。
しかし、本人が現れることは無かった。

ヴィータの姿が消えてから三日が経過した。
その足取りはまったく掴めない。

鬱々とした表情のまま八神はやては自らの食卓に並べられた夕飯を前にして箸も持たないままに頭を抱えて居た。
捜索の手掛かりになるものはまったく見つからない。
管理局の仕事も学校も休んで、ヴィータが立ち寄りそうな場所は毎日気を失うまで駆けずり回って探した。それでもヴィータの行方はようとして知れず、八神はやての心身は日を追うごとに衰弱していった。
ただ、はやてと命を共にするヴィータの魔力が世界のどこかで鼓動している事だけは、微弱ながらも感じられた。

「はやてちゃん、御飯食べて・・・。もう、三日間まともに食べてないのよ」
その日も、夜遅くにふら付く足取りで戻ってきた八神はやてを家族の一員であり、守護騎士でもあるシャマルが顔を曇らせたまま出迎えた。
「我々も全力で捜索しています。必ずや探し出して見せます・・・ですから、主はその身をご自愛して頂きたいのです」
リビングで直立不動のまま、八神はやての帰宅を待ち続けていたシグナムがいつもの清冽な声で言った。
シグナムの傍らで、ザフィーラは沈黙を保ったまま佇む。
皆一様に、己が一日中走り回った疲れを見せる事は決して無い。
「はやてちゃん・・・私とシャマルさんで、ヴィータちゃんの魔力追跡調査もしていますから・・・そうすればきっと・・・」
リインフォースⅡ、八神はやてが生み出した人格型ユニゾンデバイス。
融合能力により、契約者の能力を増強させる事も出来る独立した人格と姿を持つデバイス・・・となる予定だが、現在調整中であり完全な完成には至っていない。ただ、人格面に関してはいち早く醸成されている=ヴィータの協力による賜物。
「今までに分かった事は、ヴィータちゃんの魔力反応は何者かによって遮断されているという事。はやてちゃんと直接繫がっている通信回線すらも通じなくなっているという状況から見ても明らかです。ヴィータちゃんは何者かに捕らわれている・・・」
シャマルは声を曇らせる。

八神はやては用意してもらった夕飯に手をつける事も無く、虚ろな表情のまま呆然とソファに沈み込んだ。
何者かに連れ去られた・・・間違いないだろう。今まで表でも裏でも数限りない恨みを買ってきた。思い当たる節など数え切れない。
柔らかいソファに包まれたまま八神はやては瞳を閉じて、徐々に意識を闇に預けていった。

遠い場所からヴィータの助けを求める声が届く。幻聴だと分かっていても、身を捩じらせてしまう程に胸が痛む。
これは、罰なのだろうか。
どんな時も「誰かが見ている」と言うなら、その「誰か」が自分に罰を与えているのだろうか。だとしたら理不尽ではないか、私は「誰か」になど期待もしなければ何かを求めたこともない。勝手に罰だけを与えてくる「誰か」が居るのだとしたら、その正体が何者だろうと許さない。必ずこの手で後悔させてやる、家族以上に大切なものはこの世には存在しないのだ、そこに手を出したらどうなるのか生きる事も死ぬ事も諦めるまで嬲り殺しにしてやろう。
ヴィータを奪った「誰か」を私が見てやる。その正体は暴いてやる。
そして「誰か」なんていう、神だか仏だか運命だか言う存在を打ち破ってみせよう。
私には家族が居れば良い。他には何も要らない。

・・・突然、フェイトとアリシアの顔が随想される。
フェイトは、アリシアを改造して引き裂いて、道具にしたのが自分だと知ったらどうするだろうか。今の自分の様に、噴怨に塗れて仇を討とうとするだろうか。
その時、私はどうするのだろうか・・・分からない。
ただ、訳も分からない「誰か」に裁かれるなら、フェイトに断罪して欲しかった。彼女の家族を私利私欲のために奪った罪なら、甘んじて受けよう。

ヴィータの声が再び聞こえ始めた。助けを求める声が耳朶を揺らす。
八神はやては苦悶の表情を浮かべたまま、何時の間にか眠りに落ちていった。


*****


淫らな臭いが漂っていた。
網膜から臭気が体内に侵入し、全身に広がる甘さで思考が麻痺させられる。鼻孔から入ってくる呼気にもたっぷりと含まれている濡れた香りは、肺腑から腸までにも届く。
廃墟と化した礼拝堂。誰一人として訪れる事の無い、崇拝するべき彫像すらも無くなった寂れた場所。揺らめく明かりの中で蠢く白い影が、波打つように交合していた。
臭気の発生源―――交わる二人の少女。

「はは!ヴィータちゃん、どう?どう?気持ち良い?こんな所に突っ込まれて気持ち良いの!?」
蝋燭の頼りない明かりの中で一糸纏わぬ二人の少女が絡み合う姿は、どこか幻想的だった。しかし、赤い三つ編みを激しく振り乱す少女の声は余りにも生々しく、悲痛な叫びが拡散する。
礼拝堂に備えられていた長椅子は全て剥ぎ取られ、代わりに設置されているのは大きな円形のベッド。

高町なのはが組み敷いたヴィータの腹部、正確に言えば臍部分に男性器を模した張型を無理やり押し込みながら、口端から零れる涎を垂れ落として、何度も出し入れする。肉壁を抉じ開けて腹の奥まで強制的に挿入される異物―――ヴィータの背筋が張型の動きに合わせて上下する様は、産まれた時に繫がっていた肉穴を犯されるという背徳感を感じさせる。
ヴィータの臍穴から蜜のように溢れ出すのは唾液と愛液が混じったローション―――高町なのはの腕が上下する度に、泡を立ててヴィータの下腹を伝い股間へ滴り落ちる。
「ヴィータちゃんのお臍、可愛いね。小さくて、プルプルしてるんだよ。こんな大きいのでも咥え込んで、きゅぅって放さないんだもん。可愛いね、エッチだね♪」
高町なのははヴィータの臍に突き刺した張型をそのままにして、ベッドに転がっていたアナルパールを手に取る。シリコンゴムで作られた玉の数を数えると、高町なのはは犬歯を突き立てて球体三つ分を噛み千切る―――口内に残ったパールを吐き出すと、呼吸の整わないヴィータの眼前に長さを調節した異物を突きつける。
「ヴィータちゃんのお臍に根元まで入るようにしてあげたよ・・・。今、入れてあげるね・・・」
嬉々とした表情を浮かべた高町なのはに、抗う気力も湧かないヴィータ―――その腹に突き刺さった張型の横から新たな異物が捻じ込まれる。球体を一つずつゆっくりと丁寧に挿入する一方、同時に肉壁を擦って削るかのように激しく張型が動き続ける。
「あっ!ぎ・・ひぃ、ああぁ!!」
背中を弓なりに曲げて、絶叫と共にヴィータが腰を浮かせて跳ね回る。
張型とパールの隙間から潮吹きのようにローションが弧線を描いて飛び出し、手を緩めず、着々と作業を進める高町なのはの顔面に張り付く―――頬に着いた粘液を舌で舐めとりながら、最後の球体を挿入。
「ヴィータちゃん頑張ったね、全部入ったよ・・・。お臍に二本も咥えちゃうなんて、本当に、可愛いんだから・・・」
激痛と恥辱によって呆然としたままのヴィータ―――高町なのはは、その唇に御褒美とばかりにキスをする。ヴィータの荒い呼吸が焦熱を伴って流入すると、高町なのはは頭の中で快楽物質が音を立てて放出されるのを感じた。力の入らないヴィータの舌を好きなだけ舐め回し、何度も甘噛みする―――もはや抵抗する力はどこにも残っていないヴィータは、高町なのはの暴虐に従うだけの人形と化していた。

「ふぅ・・・ヴィータちゃん、目が虚ろになっちゃったなぁ・・・。言う事聞いてされるまんまのヴィータちゃんも可愛いけど・・・。最初の頃は沢山鳴いてくれたのに、やっぱり三日目になると慣れてきちゃった?でも安心してね。まだ、たっくさん玩具を用意してあるんだから♪」
そう言うと、高町なのはが軽快な足取りでベッドから飛び降り、礼拝堂の裏手に回ると、すぐさま戻ってくる―――薄暗がりの向こうから、軽い滑車音を響かせながらテーブルを転がしてきた。
ベッドの真横にテーブルを設置、高町なのはがベッドに上がり先程からヴィータの臍に刺し込まれたままになっている張型を踏みつけながら言う。
「ヴィータちゃんが、飽きないように・・・私が楽しめるように、沢山用意したんだよ。本当はフェイトちゃんに使おうかと思ってた物なんだけど、特別にヴィータちゃんにあげるよ!折角だから色々試させて欲しいの!良さそうなのはフェイトちゃんにも使ってあげるんだよ!」
ヴィータが視界に入ったテーブルの上を見る―――用意された、得体の知れない器具が鈍い光を帯びて、肉を抉る喜びを求めているのが感じられた。三日間、嬲られ続けてきた肉体ですら、思い出したかのように恐怖で拒絶反応を示し、震えだした。
ヴィータの臍に刺さった張型を足裏で踏みつけながら、高町なのはの顔色がより深い好色に染まる。
「あはぁ、ヴィータちゃんのお臍がきゅ~って締まったよ。期待しちゃった?どれからいってみようか?」
高町なのはがテーブルに手を伸ばして、いくつかの器具を手に取る。
先程まで半ば心を閉ざす事で苦痛を堪えていたヴィータの瞳に、恐怖の光彩が灯る。
「こっちのハサミとペンチは分かるよね?ぶちんぶちんって切ったり、剥いだりする時に使うの♪それでね、こっちは―――『苦悶の梨』って言うんだよ。これをね、女の子の大事な所に入れるんだぁ、私の手ぐらいの大きさもあるから挿入するだけでも凄く痛いんだけどね、入れた後に・・・ほら、ここのネジがあるでしょ?これを回すと―――ね?花が咲いたみたいに羽が広がるの、お腹の中でね。これで掻き回されちゃったら、もう赤ちゃんとか出来なくなっちゃうかもね。でも、ヴィータちゃんは魔力さえあれば幾らでも傷は治せるし、再生させられるんだもん。本当に可愛いよねぇ、何回も何回も死んじゃうぐらい気持ち良い事してあげるよ」
高町なのはが苦悶の梨をぺろりと舐める―――鉄の味―――これが血液と愛液の味に染まるのを想像しただけで腹の中が熱くなるのを感じた。

「ヴィータちゃん、怖い?あのね、逃げ出したかったら、いつでも良いんだよ。ヴィータちゃんの事を鎖で縛り付けてるわけでもないし、出入り口に鍵を閉めてもいない。ヴィータちゃんの洋服とデバイスだって全部あそこに締まってるし、自由に取り出せるよね?」
高町なのはが目配せして、ベッドの隣に置かれたクローゼットを指す。

三日前、高町なのはがこの隠れ家に連れ込んでから直ぐに言った。
「逃げたかったら、逃げても良いよ。入ってきた時に使った転移魔法が祭壇の前に玄関として用意してあって海鳴市と繫がってるから、そこに立つだけであっという間にはやてちゃんの所に戻れるからね。私は普段通りの生活をするから、何時だってその気になれば逃げられるよ。まぁ、そうなったらヴィータちゃんとの約束も無しって事になっちゃうけど・・・」
ヴィータは自発的に自らを軟禁状態に置く事にした。服従の証として、その場で衣服を脱ぎ捨て、デバイスも差し出した。その反応に気を良くした高町なのはに初日から意識を何度も失う程に犯された。

そして、今もう一度高町なのはは逃げても良いと言う。
そんな事が出来るのだったら、とっくにしている。それどころか今すぐに武器を取り出して高町なのはを殴り倒してしまいたいぐらいだった。しかし、それでは日常を取り戻す事は出来ないだろう。ヴィータは何とか上手く立ち回り全てを穏便に済ませようと考えていた、高町なのはとはやての二人に妙な事から手を引かせるために。

「逃げない・・・。お前の好きなようにしろよ」
恐怖を押し殺した声。ヴィータは高町なのはの毒々しい瞳を睨み返す。

「本当に良いの?きっとここから先は、これまでみたいに甘くて優しいのは出来ないよ。すっごく痛いし、きっとそれが気持ち良くなる頃にはヴィータちゃんは正気じゃいられなくなってるよ。それでも良いの?」
静かな声。
高町なのはが急に表情を戻していた―――歳相応の穏やかな表情、しかしそこに感情は映っていない。
「ヴィータちゃんは本当に良い子だね。どんな事があっても変わらない―――私は、それが羨ましい。私もそうなりたい・・・」
高町なのはの声は、酷く落ち込んだものへ変わっていく。先ほどまでの邪悪さがなりを潜めて、儚く脆い少女の姿に変わった。
ヴィータが臍に刺さった異物を引き抜いて、高町なのはに問いかける。
「なのは、お前・・・?誰かに言われてこんな事してるのか?だったら、助けてやるから・・・安心しろ」

そう言うとヴィータが高町なのはの頭を優しく抱き締める。

高町なのはが求めていた愛情をヴィータは提示してくれていた―――どこまでも盲目的に、決して裏切ることのない家族への愛情。その上、これ程までに浅ましく、穢れに満ちた自分の事ですらヴィータはまだ信じてくれているのだ。高町なのははフェイトを愛している、この上ない程に―――しかし、信じきれていないのかもしれない。いつか彼女はどこかへ飛んでいってしまう、美しい夢の記憶だけが金色の鱗粉となって手元に残り、自分は再び孤独に苛まれるのではないかと不安に陥る・・・。
ヴィータが羨ましかった。家族という関係を持っていれば、どんな事があってもいつまでも一緒に居られる。恋人よりも遥かに深い繋がり、無償の愛に溢れる関係性。

「ヴィータちゃん、私は・・・寂しいよ。みんなが変わってしまうのが怖い。成長して、それぞれの夢を叶えるために先へ進んで行ってしまうのを見るのが恐ろしいの!私はいつまでもみんなと一緒に居たいのに!!フェイトちゃんが、いつか私の事を必要としない時が来るんじゃないかって!そう思うだけで、胸が張り裂けるように不安な気持ちになるんだよ!どうすれば良いの!どうすれば私の所に居てくれるの!?・・・私は、もうどうすれば良いのか分からないよ」
高町なのはがヴィータの両肩に爪を食い込ませながら悲鳴を上げるかのように叫ぶ。
深く、暗い洞窟の奥から聞こえてくるような絶叫。
ヴィータは、高町なのはに正気がまだ残っている事に安堵した。
「誰もお前の事を置いていったりしない。それに、お前だって成長するはずだ。みんなで一緒に大きくなれば良いだろ。あたしみたいな魔法生命体には出来ない、人間だから出来るんだ。どんなに成長したってお前の事を忘れる奴なんて居ない・・・ましてやフェイトがあんなに大好きなお前の事を置いてどこかに行く訳ないだろう。立場や住む場所が変わっても絆は絶対に無くならない。私だって、お・・・お前の事、好きだし・・・」
最後の一言は余分だったかもしれない。言ってからヴィータは頬を赤く染める。
先程の高町なのはの声は本物だ、今ならまだ助けてあげられる。何とか引き続き説得を続ければ、正気に戻ってくれるかもしれない。

ヴィータがそっと肩に手をおいてやると、高町なのはが俯いたままだった顔を上げた。そして、喜びに満ちた笑顔で言う。
「本当に!?じゃあ、私の事を愛してるって言って!!はやてちゃんより大好きって言って!そうしたら、私は救われるよ!だってヴィータちゃんが誰よりも私の事を愛してくれてるって思えばどんな事でも耐えられると思うの!」
混沌とした輝きを宿した瞳―――ヴィータを双眸に映したまま捕らえて逃がさない。
「ほら、言ってよ!私の事を誰よりも愛してるって言ってよ!はやてちゃんより好きって言ってよ!!」
高町なのはがヴィータの細い肩を揺らす。今にも噛み付きそうな勢いで返事を求める姿には、先程までの正気はどこにも残っていない。
ヴィータはその異様な迫力に腰を引く。しかし、自分の最愛の人であり家族である八神はやてと比べて愛している等とは口が裂けても言えない。それに・・・高町なのはは、あんな要求をされれば、自分がこのように困り果てて黙ってしまうのは分かっていたはずだ。気がついた時には、高町なのはが嗜虐心を滲ませ、怪しく口元を歪めていた。

「やっぱり・・・嘘だったんだ・・・。ヴィータちゃんの嘘つき。でも、それでこそヴィータちゃんだよ、家族の事を誰よりも何よりも愛してる、はやてちゃんのためならどんな事も厭わない献身的な愛情。私は、そんなヴィータちゃんだからこそ愛してるの・・・はやてちゃんから奪い取りたいぐらいに!」

高町なのはがヴィータを押し倒す。ヴィータの肉体を裂いて、中身が見たくて仕方がなかった。きっと、どこかに温かい優しさの源があるのだろう、それを確かめたい。破壊衝動に突き動かされたまま、ヴィータの細い首筋に舌を這わせた。
馬乗りになって、テーブルに置いてあった苦悶の梨をヴィータの幼い胸に押し当てて弄りまわす。
高町なのはがどうやって、入れてやろうかと思っているとヴィータが何かを握っている事に気付いた。右手に何かをきつく握り締めている。

妙に気になったので、ヴィータの右手を掴み、拳を開かせようとした。その途端、
「止めて!止めて!!それだけは駄目!!」
ヴィータが慌てて必死の抵抗をする―――その様子を見て、高町なのはの歪んだ欲望がますます燃え上がる。高町なのはは右手を守るために暴れだしたヴィータの全身にバインド魔法を掛けて縛り上げた。
「やめて!それだけは嫌!!お願いだから、他の事は何でもするから、それだけはやめて!!」
身動き取れなくなったヴィータが必死で懇願―――高町なのはを益々喜ばせる。
拘束魔法で力を失った指が解け、右手が開かれる。小さな掌中には、一枚の紙片が折畳まれた状態で入っていた。
家族写真。
八神家の全員が仲良く写っている写真。そこには今はもう居ない四人の少女も映っていた。それはとても微笑ましい、優しい温もりを感じさせる一葉。
ヴィータは高町なのはから陵辱される前に、財布の中からいつも大事に持ち歩いていたこの写真だけを握り締めて、あらゆる汚辱にも苦痛にも耐えていた。
広げた写真を片手に、高町なのはが底冷えのする声を絞り出す。

「こんなの持ってたんだ・・・私が一生懸命、ヴィータちゃんの事を愛していたのに・・・。ヴィータちゃんも私の事を見ていなかったんだね・・・ずっとずっと私に犯されている間も、写真の向こうにいるはやてちゃんを見ていたんだよね・・・ふふ、あはは!!」

身動き出来ないヴィータの鼻先に写真を突きつける。
「こんなの、もう要らないよね。だってヴィータちゃんは、私の物なんだから!こんなのがあるから、ヴィータちゃんはいつまでも私の事を好きになってくれないんでしょ。だったら、ねぇ?」
ぴりぴり―――写真が少しずつ破れていく―――家族の絆が破かれていく。
「やめて!やめて!!」
縛られた手足をばたつかせるヴィータを見て、高町なのはは全身の血液が沸騰したような興奮を覚える。ヴィータの悲鳴が上げられる度に膨れ上がる絶頂の波が意識を深く飲み込んだ。

「さっき嘘を吐いた罰だよ、ヴィータちゃん」
写真が真っ二つに引き裂かれる―――その後も何度も何度も千切られ、見る間に細切れにされていく家族の肖像。舞い落ちる紙片の一つがヴィータの胸に落ちてきた。必死で腕を伸ばすと、拘束が解ける。小指の先ほどしか無い欠片がベッドの上、床の上に散らばり落ちていた。ヴィータは必死で紙片を拾い集める、ばらばらになってしまった家族を繋ぎ合わせるために・・・。
わざと拘束を解いて、ヴィータが這い蹲って写真を拾う様子を見下ろす高町なのはが非情な笑みが浮かべる。
ようやく最後の一欠片を拾おうと伸ばしたヴィータの手を、高町なのはが踏みつけた。
床に縫い付けられたように動けなくなるヴィータに声を掛ける。
「バラバラになってもそんなに大切なんだね・・・。ヴィータちゃんは本当に良い子だよ・・・本当に欲しくなっちゃう。そうだ、予定より少し早いけどやっちゃおうかな・・・」
高町なのはが足を上げる―――ヴィータは素早く最後の欠片を掴む―――同時に、ベッドに吹き飛ばされる。一瞬の間に両手足を桜色の鎖で拘束され、五体を開いた状態でベッドに固定された。

「ヴィータちゃん、その写真しっかり握ってた方が良いよ。今から、ヴィータちゃんが私の言う事しか聞こえないように・・・印を付けてあげる。私だけのヴィータちゃんですっていう綺麗な印だよ」
ヴィータの顔に高町なのはの唇が近づき頬に軽く触れる。
「いつまで正気で居られるかな?印を刻むとそこは熱くて痛くて・・・凄く気持ち良いんだよ。何もかも忘れちゃうぐらいにね」
ヴィータの腹を押さえつける様にして跨った高町なのは―――左手の人差し指先端部には魔力刃が輝き、手術用のメスを想起させた。

「ヴィータちゃん、綺麗にしてあげるね。可愛くしてあげるね。一杯鳴いて良いよ、その囀りを聞くたびに私は一層深く刻んであげるから!」
魔力刃がヴィータの胸部中心に押し当てられる。ぷつっという音と共に皮膚が裂け血が滲む。傷口からは熱と痛みと、気が狂いそうな程に強烈な快楽が広がった。
高町なのはが指を少しずつ腹の方へと引き摺ると、刃の軌跡にそって熱が広がる―――気を失いかねない、強烈な快感が全身に広がり駆け巡る。少しずつ少しずつ引いた線は赤い色。臍の穴まで到達して一旦刃が止まる。
「ヴィータちゃん、この印が付け終わったらヴィータちゃんは私の物だよ。それが嫌だったら一生懸命に写真を握って大好きな家族の事を忘れないように頑張ってね」
刃が臍の上で肉を抉りながら軌道を変える―――臍を一周する円の模様。
「ヴィータちゃん、大好きだよ」
高町なのはの刃がヴィータを刻む。二度と消えないように、深く抉る。
その度に耳朶を揺さぶる絶叫がとても心地良かった。

誰も止める事の無い悲鳴は、いつ終わるともしれない行為と共に響き続けた。



******

どれほど家族の無事を願おうとも毎朝、起きるたびに願いが砕かれた。
一緒に寝ていたベッドにも、みんなで食べるはずの朝食にも、ヴィータの笑顔が無いのだ。

堅苦しい、全身を締め付けるような服が今はとても苦しく感じられた。
午前中は管理局からの出頭命令を受けて散々に説教を受けた。
三日間も無断欠勤した上に連絡一つしなかったのだから、訓告処分程度で済むのなら運が良かったのか・・・。恐らく今回の件で相当なペナルティを課されるだろう。またその分だけ『努力』しなくてはならない・・・。
管理局でもヴィータの話は持ち上がっていた。「しょせんは犯罪者の集まり」だとか「特殊な性癖を持った男と逃げたんだ」とか「主人の躾がなってないからだ」とか・・・。八神はやては戯言を吐いていた全員の名前をしっかりと頭に刻み込んでから、管理局を後にする。
ここまで、どうにかあらゆる手段を用いて築いてきた地位や権力、私欲を餌にした利害関係が、音を立てて崩れていくのが感じられた。そんなものなのだ、自分がここ数年で得られたモノの価値は・・・。

昼過ぎに、海鳴市の中学へ訪れた。
こちらも三日ぶりだった。高町なのはやフェイトともまったく連絡を取っていなかった。もしかしたら、二人なら何か知っているか、捜索に協力してくれるかもしれない。この際、頼れる者は何でも頼ろうと言う気になっていた。

その日は、テスト期間最終日だったために午前中だけで終業―――八神はやての追試が確定。
教師も居なくなり、クラスの皆が帰り支度をしている教室に現れた八神はやてはフェイトを見つける。高町なのはは既に帰宅したのか、姿が見えなかった。普段は必ずフェイトとべったりくっついているはずなのに・・・珍しい。

周囲の注目を集めながら、八神はやてがフェイトの下へ静かに赴く。
「フェイトちゃん、久しぶり・・・」
疲労困憊な表情を何とか整えて微笑みながら挨拶すると、フェイトは椅子から立ち上がって八神はやての両肩を掴んで、口を開く。
「はやて!良かった!ヴィータの事、聞いてたから・・・はやて、三日も学校に来ないし、連絡も付かないし、心配でしょうがなかったんだよ!!」
フェイトは真摯な瞳でまっすぐに八神はやてを見つめながら言う。
いつもどおりの優しさ―――八神はやては胸に鉄杭を打ち込まれるような苦しみを覚える。アリシアの最後が何度も何度も頭の中で蘇る。フェイトの家族を殺したのは自分なのだ。そして、今そんな事をしてしまった親友に秘密を抱えたまま、相談を持ちかけようとするとは・・・自身の浅ましさに嘔吐感すら覚える。
「はやて、私も時間を空けて一緒に探すよ。だから、無理しないで私にも言ってね」
フェイトの言葉が、八神はやてに突き刺さる。
自分は、なぜフェイトに協力してもらおうなどと、むしのいいことを考えていたのだろうか。既に自分はそんな事を言えるような人間ではない、もっと醜悪で歪な・・・天使のようなフェイトとは並び立つ事等できない化け物なのだ。
何も言えないまま、俯く八神はやてを一層心配そうに見つめるフェイトが、オロオロしながら何とか安心させられるような事を言おうと努力する。
「あ、あ・・・そう、なのはもね、一緒に探してくれるって言ってるし―――あ!なのは!」
教室の掃除当番でゴミ出しをしてきた高町なのはが教室に戻ってきた。
高町なのはとも、あの計画の件を話して以来一切連絡を取っていなかった。正直、今はそんな所まで考えている余裕は一切無かった。
フェイトの声に反応し、視界に八神はやてを収めた高町なのはがやって来る。
「はやてちゃん、久しぶりだね!私も心配してたんだよ!!ヴィータちゃん・・・私も一緒に探すから!!ね、フェイトちゃん」
高町なのはがフェイトと腕を絡めながら幸せそうな表情で言った。
恐らくは、裏の事情にも通じているだろう高町なのはは何かしらヴィータの情報を得ているかもしれない。フェイトに頼むのは気が引けるが、高町なのは相手ならば気兼ね無い、無機質な利害関係のみなのでそういった意味では気分的には楽だった。
「二人とも、ありがとう・・・。何か分かったら、教えてな。何時でも、何処でも連絡して貰えれば、必ず行くから。絶対に、私のヴィータを取り戻す。私の家族を・・・奪った奴は、ただでは済まさない・・・きっちり落とし前つけさせたる」
怒気をたっぷりと染み込ませた言葉に息を飲むフェイト。そんな事には一切動じずフェイトの細く括れた腰に腕を回す高町なのは―――その表情は嘲笑を浮かべていた。

その後、フェイトは管理局の仕事で学校から直接、現場に向かう事になり教室で別れた。高町なのはも実家の喫茶店で使う食材の買出しを頼まれていると言って、海鳴駅方面へ出掛けていった。八神はやては久しぶりに訪れた教室に配置されている自分の席に着いて、黙考する。
不自然だった。
この三日間、管理局特別捜査官である自分の力を全て使ったにも関わらず、決定的なヴィータの手掛かりはまるで見つからない。そして、何よりもヴィータを奪ったであろう相手から何のアプローチも無いのだ。身代金やら何やらを要求してくるような事があればそこから糸を手繰り寄せて犯人を特定する事も出来るが、その機会も与えられなかった。無言の圧力で玩ばれているかのような気分―――犯人は自分のこの様子をどこかで観察して、悦に入っているのではないかと思うだけで怖気が走った。
高町なのはの先程の憎たらしい表情を思い浮かべる。「罰が当たったんだよ、はやてちゃん。今まで悪い事をして、裏でこそこそと隠れていた罰がね」と言外に伝えてくるのが、悔しいぐらいに伝わってきていた。だからこそ、何も言えなかった。けれども、このぐらいでは負けない。この苦難を乗り越えなくては、自分に未来は無い。きっとこれからも、こんな事件は起こる―――その全てを乗り越えてやる。そのための力を自分は得たのだ。

八神はやての携帯端末が軽やかなメロディーを奏でる―――発信元は、自宅の電話。
すかさず耳元に押し当て、回線を開く。
「はやてちゃん、大丈夫だった?管理局も学校も大変だったでしょ?」
シャマルからだった。自分の体調を心配して連絡をくれたのだろうか・・・そんな些細な気遣いがとても嬉しかった。家族が居ることを実感できる。
「うん、大丈夫。なんてこと無い、怒られるのだって慣れてるしな。学校の方はフェイトちゃんとなのはちゃんにも協力してもらうように頼んでみたよ」
暗い感情を届かせないように、出来る限り明るい声で伝える。
家族にも秘密の仕事をしている、その事が原因かもしれない・・・と、それだけは言えなかったが・・・。

「良かった・・・。二人に協力してもらえば、ヴィータちゃんもきっとすぐに見つかるわね。私も、今日はヴィータちゃんの魔力の痕跡を追跡してみたんだけど、やっぱり何回やってもあの日までしか遡れないし、最後に使った魔法のログはノイズが酷くて何なのか分からなかったの。でもね、なんとかヴィータちゃんが最後に使った魔法が何時使われたのかだけは分かったよ!丁度、児童保護施設で一悶着あった三十分後・・・何の魔法を使ったのかは分からないけど・・・。
うん・・・またお家に帰ってからお話しましょう。じゃあ、はやてちゃん今日は無理しないで気をつけて帰ってきて、美味しい晩御飯用意しておくからね」

シャマルの声は後半から聞こえなかった。
『うん、分かった』と短く返事をして通話を切る。

ぐちゃぐちゃになっていた糸が解けたような気分。

あの日、児童保護施設でいけ好かない奴らの相手をして、それからフェイトを残してヴィータと二人で公園に行った。その後、自分はどうした?高町なのはと二人で出掛けたのだ。ヴィータを置いて・・・。そして高町なのはと秘密の打ち合わせをした。それが、丁度シャマルの教えてくれたヴィータが最後に使った魔法の時間と一致するんじゃないのか?

あの時、高町なのはは探査魔法を行使して周囲に誰も居ないと言った・・・。
ヴィータの魔法は使用履歴を手繰っても、ノイズに塗れて何を使ったのか分からないと言う、それは・・・探査魔法をジャミングするか回避するための魔法を使うと良く起こる現象だった。
ヴィータは高町なのはの探査魔法を回避しようとした?―――自分と高町なのはを追ってきていた?
全部、聞かれていた?家族にも秘密の努力を・・・絶対に、知られてはいけないヴィータに、家族に!

『―――うーん、大丈夫みたいだね。周りには誰も居ないよ』

高町なのはの索敵魔法はあらゆる偽装を看破すると言われている。いくらヴィータでも、避けられる代物ではないだろう。
―――高町なのはは、嘘を吐いたのでは無いか?
あいつは、ヴィータに気付いていた。
だとしたら、自分があの場所を離れれば残ったのは高町なのはとヴィータだけだ。
そうだ、あの時探査魔法を受けていたのは自分もだ。全身を包む嫌悪感の波―――あれは、探査魔法でもありヴィータの存在を自分に気付かせないような偽装も兼ねていたのではないのか?

次々に思考が形を整えていく。
そして、先程見せた高町なのはの薄汚い哂い。
あれは、困り果てる獲物を甚振っている喜びからなのだ。

高町なのは・・・!!
禁忌としていたはずの、「家族にだけは手をだすな」というルールを奴は破った!!

八神はやてが机を吹き飛ばして立ち上がる。
教室の窓から、校門へと眼を向けると・・・居た。
高町なのはが、謔笑を浮かべてしっかりこちらと視線を合わせて、立っていた。
その口が動く―――声は聞こえない―――しかし、伝わる。

『今頃気付いたの?はやてちゃん、本当に無能だね』

高町なのはの桃色の唇から零れる嘲笑混じりの侮蔑。
それだけを告げると、高町なのはが背を向けて歩き出す。

八神はやての心臓が爆裂した。
全身に必要以上の血液が供給される―――視界が真っ赤に焼けた―――張り裂けた胸から、凄まじい衝動が噴出。

「高町なのはぁ!!!」

教室の、二階の窓から飛び降りる。
サッシに足をかけ、飛ぶ―――グラウンドに激震を走らせて着地―――近くに居た陸上部の面々が驚きの声を上げるが、八神はやてには一切聞こえていない。

走った。
高町なのはを捕まえる!許さない!!殺してやる!!

高町なのはの魔力を辿る―――距離がどんどん離されていく、タクシーか何か、乗り物に乗ったのか。
しかし、進行方向から考えて、目的地は予測できた。海鳴駅だ、先程ちらりと言っていた通り高町なのはは駅に向かっている。その目的は家族に頼まれた買い物だとか言っていたが、この段になってはそれも嘘だろう。魔力の痕跡をわざと割り砕いたビスケットの如く落として、誘き寄せている―――これ見よがしの挑発。

走る走る―――奔る。
街中で魔法を使う訳には行かず、追いつくためには走るしかなかった。
呼吸が滅茶苦茶に乱れ、手足もバラバラに動いてるような感覚。それでも走る。

ヴィータが助けを求める声が聞こえる。
高町なのはの高笑いが聞こえる。
走っている最中に何度も何度も交互に繰り返された。

赤信号を無視して、車道を突っ切る―――クラクションがけたたましく響く―――それを超えるヴィータの悲鳴が八神はやての全身を突き動かす。
歩道に居る人間と何度もぶつかる―――柄の悪い男達にぶつかる―――『てめぇ!』と叫ぶ男の顔面に裏拳をめり込ませて黙らせる―――疾駆。

駅前通りに入り、煉瓦作りの高架型駅舎が見えた。
内部から、高町なのはの魔力が誘惑するかのように漏れ出していた。

階段を駆け上がり、乗車券売り場まで急ぐ―――高町なのはの姿は見えない。
適当な値段で切符を買い、改札を全速力で駆け抜ける。高町なのはの駅全体に立ち込める、霧のような魔力―――何番のホームに居るのかまでは分からない。勘を頼りに、三番線のホームへと階段を落下するような速度で駆け下りた。

首が捻じ切れそうな速度で周囲を見渡す―――どこに!!
「出てこい!!高町なのは!!」
長距離走で乱れた呼吸のまま、あらん限りの声を振り絞って叫んだ。

ホームに居た全ての人間が八神はやての存在に眼を向ける―――そこには手負いの獣が居た。同じホームに居た人間が次々に逃げるようにして階段を駆け上がり離れていく。
その様を別のホームの人間も凝視していたが、八神はやての視線を感じた人間は次々と脱出する―――誰も理性の吹き飛んだ獣と同じ檻の中にぶち込まれたいとは思わないのだ。そんな、八神はやての魔眼に晒されても、ただ一人微動だにしない人間が反対側のホームに姿を見せた。
栗色の髪を揺らす壊れた友人、壊した友人。白い悪魔、高町なのは。

「はやてちゃん、本当に面白いね・・・。そんなに一生懸命なはやてちゃん、初めて見るよ。凄く、おかしいの♪」
高町なのはが嗤う、その声が不協和音となって耳に届くだけで殺意を覚える。
「全部・・・全部お前がやったんか!!ヴィータを・・・ヴィータを!!!」
逆巻く激情を声に出し切れない八神はやてを見て、高町なのはが益々声を大きくして笑う。
「はやてちゃん!!遅いよ!遅い!!どうして気付けなかったの?油断してたら、管理局じゃ直ぐに寝首をかかれるっていつも言ってたのにね!―――ねぇ、ヴィータちゃんどう思う?あんなご主人様より、私の方が良いよね?」
高町なのはが背後に手を伸ばす―――繋いだ手が見えた。
厚手のコートに、フードを被っているが、俯いているため顔は見えない。しかしフードの隙間から垂れ落ちる三つ編みにした赤髪が捜し求めていたヴィータである事を示していた。
「ヴィータ!!」
八神はやてが感喜を滲ませる声で叫んだ。しかし、その声にヴィータはまるで反応しない。
その様子を見て、高町なのはが大口を開けて笑いだす。
「あっははは!!!はやてちゃん、可哀想。ヴィータちゃんには、もう私の声しか聞こえないみたいだよ♪ねぇ、ヴィータちゃん」
高町なのはが目深に被せられていたフードを外して、ヴィータの容顔を見せつける。その瞳は虚ろな闇に飲まれて、到底まともに意識があるとは思えなかった。高町なのははそのままヴィータの顎を掴んで自身の唇に近づける。
「もうね、ヴィータちゃんは・・・私のモノなの・・・」
高町なのはがヴィータの小さな唇に舌を入れる―――ヴィータもそれに条件反射するかのように舌を突き出し、絡ませる。二人の白い呼気が口内で混じり、淫らな音を立てて唾液が絡まりあう。ポタポタと零れる粘液がコンクリートの床に落ち、蒸気を放ちながら艶色に輝いた。

「ヴィータに・・・ヴィータに触るなぁ!!!」
八神はやてが溜まらず、ホームを飛んだ―――レールの枕木に一度着地、もう一度飛べば手の届く距離にヴィータが居る。
しかし、凄まじい鋼鉄の擦過音と警笛の甲高い音が左耳に叩きつけられる―――鋼鉄の車両が眼前に迫っていた。凄まじい騒音と周囲の悲鳴が掻き混ぜられるが、そんな中でも高町なのはの声だけが明瞭に八神はやてに届いた。
「ヴィータちゃんを返して欲しかったら・・・来なよ。あの場所にいるよ、私達だけの秘密基地にね」
それだけを言うと、高町なのはが背を向けてホームから消える。ヴィータも付き従うように、見えない首輪で繫がれたかのようについて行ってしまう。
「ヴィータ!!行っちゃ駄目!!」
八神はやてが手を伸ばす―――届かない、遥か遠くに感じるヴィータの背中―――届かない!
立ちすくむ・・・無力感で全身から力が抜け落ちた。

柔らかな衝音。

長大な鋼鉄が八神はやての影を轢断した。
少女の居た位置から車両一つ分移動した所でようやく停車・・・。

誰もが凄惨な光景を思い浮かべて、先頭車両に視線を向ける。
しかし、そこには何の痕跡も無く、先程までの異常な空気は嘘のように消えていた。
冬の寒風に幻が掻き消されてしまったのか。

ただ、二人の少女が立っていた場所には怨念めいた気配が重々しく残っていた。

海鳴駅の遥か上空。
八神はやては浮遊魔術で浮びつつ、眼下に広がる街並みに憎々しげな眼光を落としたまましばらく固まっていた。もはや高町なのはとヴィータの魔力は消えてしまっていた。
空は、地上よりも冷たい空気に満たされていたが、体内から発される冷気がそれを上回っていた。
「ヴィータ、すぐに行くからな・・・」
短く、それだけを呟くと、八神はやての姿が闇色に包まれ消えた。

空は灰色に染まり、綿雪が静かに揺落を始める。


****

>続き
「魔法少女リリカルなのは」二次創作小説 『胡蝶の夢は是非曲直に沈む』 ②

2010年1月17日 公開
自作小説 | 09:12:37 | Comments(0)
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